2006年 12月 29日
"Fine Company"のコーポレートガバナンス |
今週は仕事は「年内に片付けておきたかったしもろもろの雑用・雑仕事を片付ける」週間。一回出張に行く度、完成させるのに小一時間はかかる出張精算(オンラインベース)と格闘していたら午前中がつぶれました。何かのコードを間違えてつけてしまったためエラーをもらい続けて10月分から完成できずにいた出張精算などを地道に片付ける暇がこの2ヶ月まるでなかったので。。。Peple Softのオンライン出張精算をわが社では導入していますが、記入事項を全部クリアしていないと絶対プロセスされないんですが、たかだか10ドルのランチでもいちいちどこでご飯食べたとかDetail書いて、ロケーション入れて(州税の関係でTax Codeをすべての出費につけなくてはいけない)のがほんっとーに面倒。。。とは、監査人にあるまじき発言でしたね。失礼いたしました。。。
今朝のニュースで、Apple Board Did Not Approve CEO Options Grantという記事がちょっと目を引き、同時に、数年前に読んだある本に関して思い出しました。
(登録が必要かも知れませんが無料なはず。Apple Board Did Not Approve CEO Options Grant)
記事の概要は、アップル社がスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)に750万株のストックオプションを、正式な取締役会の承認なしで与えていたと言うものです。実際のところ、承認が「後日付で偽造された」ものであったということであります。
スティーブ・ジョブズの復帰以降大躍進を続けているAppleではありますが、実は今年の前半、アメリカで企業不正として耳目を集めた「ストックオプション・バックデート」が問題になっている、160社のうちの一社でもあります。2006年6月の時点で、アップルは、SECの調査ではない自主的な内部調査の結果、スティーブ・ジョブズ氏に付与したものも含め1997-2001年のストックオプションに関連する違反が見つかったと明らかにしています。(ジョブズ氏に付与したストックオプションは2003年3月に取り消したため、ジョブズ氏はこのストックオプションで利益を得ていないということですが)。アップル社がSECに提出した書類によると、同社は少なくとも1回、同氏に有利な付与の仕方をしていたということで、1000万株のストックオプションが1月、同月で最も株価の低かった日に付与されたことになっており、この後20日以内に、株価は30%上昇した、と。。。典型的なバックデーティングですね。
で、これを読んで、本棚から久々に出してきたのが、アーサー・レビット元米証券取引委員会(SEC)の委員長氏の書いた、Take on the street (邦題:ウォール街の大罪)2002年に出版されております。
この中の第8章"Corporate Governance and the culture of Seduction"にこのようなくだりがあります。
2001年、SEC委員長を辞したアーサー・レビット氏は、アップル社CEOのスティーブ・ジョブズ氏から、ボードメンバーに加わらないかとの誘いを受け、自らも「マッキントッシュおたく」であるがゆえ、大興奮。わくわくとサンノゼに向かい、アップルのマネジメントに挨拶し、Macworldいゲストとして参加して感動し、去り際に彼の講演のレジュメを渡して帰ります。その講演とは、コーポレートガバナンスに関する最近の話題を議論したものでした。
翌日、ジョブズ氏からレビット氏は電話を受け、「君の講演のレジュメを読ませてもらった。たしかに君のいっていることは『他の会社』には正しいかもしれない。ただ、アップルの文化には合わないと思われる。悪いが、今回の話はなかったことにしてくれ。。。」
2001年当時、アップル社のコーポレートガバナンスはお世辞にも優れたものではありませんでした。ボードメンバーの人数はレビット氏が「適切」と考えるより少なく、また、Board Of Directorの一人、ラリー・エリソンOracle CEOはジョブズ氏の親しい友人で、かつ、ほとんどのボードミーティングに出席できませんでした。(自分が巨大データベース企業のCEOですから多忙にきまっており、さもありなん)また、監査委員会もアップル社に縁の深い人が大半を占めており、まともに監視機能が働くとは思えない状況にありました。
そして、バックデートはその、2001年に発生しているのですね。
さて、どう思いますか?
「世の中をリードするすばらしい製品を作り出すアップルを生み、再生させたジョブズ氏にとってこのようなことは些細なミス、こんなことで彼の功績に傷をつけるのはあんまりではないか」と言う方も多いのではないでしょうか。私の周りにもアップル信者は多く(笑)、きっとこういう文章読むとしらけさせちゃうんだろうな、と思います。まあ、製品のすばらしさと企業としての成熟度は、ある時点で切ったら、まったく相関しませんから、それは切り離して考えるほうがいいと思います。
「もし、あの時ジョブズ氏が、レビット氏を会社に迎え入れる『変化』を受け止めていたら」と私は思いました。組織とは本来、正しい枠をつくること、それを監視できる人をその職に配すること、それを怠らなければ、大きな問題にならないうちに芽をつむことを可能にするはずで、それを、コーポレートガバナンスと呼ぶ、と。
レビット氏は「あるべきコーポレートガバナンス」をアップルに創り上げるために尽力したことでしょう。さらに、レビット氏はSEC在籍時代、ストック・オプション費用化を悲願として多くのテクノロジー企業と丁々発止をつづけてきた人物であります。バックデートなど許すはずもなく、アップルは、バックデートとは無縁、シリコンバレーを代表するクリーンな会社としての位置を不動のものにしたことでしょう。
それは結局は長い目でみて、アップル社にとって非常に大事なことだったはずなのです。
ちょっと古い本ではありますが、「ウォールストリートの大罪」、会計監査に携わる方、個人の投資家として株式取引をうやっていらっしゃる方、双方にぜひ読んでいただきたい本です。2004年から2005年の企業改革法狂騒曲が過ぎ去りつつあるアメリカ、その時代をまさに迎えようとしている日本の双方において、非常に味わい深い本であると思います。
私がこの本を読んだのはアメリカで仕事を始める前の夏で、一行一行を頭に刻むようにして読みました。SECの行き過ぎを懸念する声も多い昨今ですが、アメリカの証券市場の砦として確固たる信念を貫き倒したレビット氏の熱い思い、「個人投資家をなんとか保護しなくてはいけない」というぶれない軸、お見事です。
今朝のニュースで、Apple Board Did Not Approve CEO Options Grantという記事がちょっと目を引き、同時に、数年前に読んだある本に関して思い出しました。
(登録が必要かも知れませんが無料なはず。Apple Board Did Not Approve CEO Options Grant)
記事の概要は、アップル社がスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)に750万株のストックオプションを、正式な取締役会の承認なしで与えていたと言うものです。実際のところ、承認が「後日付で偽造された」ものであったということであります。
スティーブ・ジョブズの復帰以降大躍進を続けているAppleではありますが、実は今年の前半、アメリカで企業不正として耳目を集めた「ストックオプション・バックデート」が問題になっている、160社のうちの一社でもあります。2006年6月の時点で、アップルは、SECの調査ではない自主的な内部調査の結果、スティーブ・ジョブズ氏に付与したものも含め1997-2001年のストックオプションに関連する違反が見つかったと明らかにしています。(ジョブズ氏に付与したストックオプションは2003年3月に取り消したため、ジョブズ氏はこのストックオプションで利益を得ていないということですが)。アップル社がSECに提出した書類によると、同社は少なくとも1回、同氏に有利な付与の仕方をしていたということで、1000万株のストックオプションが1月、同月で最も株価の低かった日に付与されたことになっており、この後20日以内に、株価は30%上昇した、と。。。典型的なバックデーティングですね。
で、これを読んで、本棚から久々に出してきたのが、アーサー・レビット元米証券取引委員会(SEC)の委員長氏の書いた、Take on the street (邦題:ウォール街の大罪)2002年に出版されております。
この中の第8章"Corporate Governance and the culture of Seduction"にこのようなくだりがあります。
2001年、SEC委員長を辞したアーサー・レビット氏は、アップル社CEOのスティーブ・ジョブズ氏から、ボードメンバーに加わらないかとの誘いを受け、自らも「マッキントッシュおたく」であるがゆえ、大興奮。わくわくとサンノゼに向かい、アップルのマネジメントに挨拶し、Macworldいゲストとして参加して感動し、去り際に彼の講演のレジュメを渡して帰ります。その講演とは、コーポレートガバナンスに関する最近の話題を議論したものでした。
翌日、ジョブズ氏からレビット氏は電話を受け、「君の講演のレジュメを読ませてもらった。たしかに君のいっていることは『他の会社』には正しいかもしれない。ただ、アップルの文化には合わないと思われる。悪いが、今回の話はなかったことにしてくれ。。。」
2001年当時、アップル社のコーポレートガバナンスはお世辞にも優れたものではありませんでした。ボードメンバーの人数はレビット氏が「適切」と考えるより少なく、また、Board Of Directorの一人、ラリー・エリソンOracle CEOはジョブズ氏の親しい友人で、かつ、ほとんどのボードミーティングに出席できませんでした。(自分が巨大データベース企業のCEOですから多忙にきまっており、さもありなん)また、監査委員会もアップル社に縁の深い人が大半を占めており、まともに監視機能が働くとは思えない状況にありました。
そして、バックデートはその、2001年に発生しているのですね。
さて、どう思いますか?
「世の中をリードするすばらしい製品を作り出すアップルを生み、再生させたジョブズ氏にとってこのようなことは些細なミス、こんなことで彼の功績に傷をつけるのはあんまりではないか」と言う方も多いのではないでしょうか。私の周りにもアップル信者は多く(笑)、きっとこういう文章読むとしらけさせちゃうんだろうな、と思います。まあ、製品のすばらしさと企業としての成熟度は、ある時点で切ったら、まったく相関しませんから、それは切り離して考えるほうがいいと思います。
「もし、あの時ジョブズ氏が、レビット氏を会社に迎え入れる『変化』を受け止めていたら」と私は思いました。組織とは本来、正しい枠をつくること、それを監視できる人をその職に配すること、それを怠らなければ、大きな問題にならないうちに芽をつむことを可能にするはずで、それを、コーポレートガバナンスと呼ぶ、と。
レビット氏は「あるべきコーポレートガバナンス」をアップルに創り上げるために尽力したことでしょう。さらに、レビット氏はSEC在籍時代、ストック・オプション費用化を悲願として多くのテクノロジー企業と丁々発止をつづけてきた人物であります。バックデートなど許すはずもなく、アップルは、バックデートとは無縁、シリコンバレーを代表するクリーンな会社としての位置を不動のものにしたことでしょう。
それは結局は長い目でみて、アップル社にとって非常に大事なことだったはずなのです。
ちょっと古い本ではありますが、「ウォールストリートの大罪」、会計監査に携わる方、個人の投資家として株式取引をうやっていらっしゃる方、双方にぜひ読んでいただきたい本です。2004年から2005年の企業改革法狂騒曲が過ぎ去りつつあるアメリカ、その時代をまさに迎えようとしている日本の双方において、非常に味わい深い本であると思います。
私がこの本を読んだのはアメリカで仕事を始める前の夏で、一行一行を頭に刻むようにして読みました。SECの行き過ぎを懸念する声も多い昨今ですが、アメリカの証券市場の砦として確固たる信念を貫き倒したレビット氏の熱い思い、「個人投資家をなんとか保護しなくてはいけない」というぶれない軸、お見事です。
by lat37n
| 2006-12-29 21:41
| 会計監査