この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
「箱根駅伝」には、知られざるエピソードがある。
毎年正月に開催される「箱根駅伝」を見て、胸を熱くするのは筆者だけではないと思う。
「伝統」「継続」そして「絆」…
懸命にタスキをつなぎ抜く選手たちから、そんな汗臭く、また泥臭くもある刺激を受け、還暦を過ぎてなお「こっちも頑張らなくっちゃ!」と張り切るわけだが、ここではそういう話をしようと思っていない(笑)。
この記事は「大人が箱根を楽しむために、知っておきたい4つのキーワード」という特集の一環で書いているのだが、その結果行き着いたテーマが、『なぜ「箱根」は駅伝コースに選ばれたのか?』だった。
もちろん、箱根が「天下の嶮」であるからというのは間違いではない。
なぜ「箱根」は駅伝コースに選ばれたのか?【目次】
1.箱根駅伝とは
通称「箱根駅伝」こと「東京箱根間往復大学駅伝競走」は、毎年1月2・3日に行われる、大学スポーツファンにとってはラグビーと並ぶ「お正月の風物詩」。
2021年の大会が97回目にあたる長い歴史を持ち、テレビ視聴率が毎回28%前後を記録するという、まさにドル箱のコンテンツだ。
1-1.箱根駅伝のコース
コースは東京の読売新聞東京本社ビル前から、鶴見・戸塚・平塚・小田原の中継所を経て、箱根町の芦ノ湖までを往復。
往路107.5 キロ、復路は109.6 キロ、あわせて217.1 キロで競われる。
2.箱根駅伝の歴史
日本で初めて行われた駅伝競争は、1917年(大正6年)の「東京奠都五十年奉祝・東海道駅伝徒歩競走」。
京都三条大橋と東京・上野不忍池間の516キロを23の区間に分け、三日間、昼夜を問わず走り継ぐという壮大な「たすきリレー」だったという。
この「東海道駅伝」の成功をきっかけに、大学や師範学校、専門学校に「箱根駅伝創設の意義」を説いてまわり、参加を呼びかけたのが金栗四三だ。
それに早大・慶大・明大・東京高師(現筑波大)の4校が応じ、1920年2月14日午後1時に、第1回大会が「四大校駅伝競走」の名でスタートした。
2-1.発起人「金栗四三」
金栗四三(かなくりしそう)をご承知の人は多いと思う。
2019年に放送された、NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」の前編に主役として登場し、中村勘九郎が演じた金栗四三は、日本が世界に誇るアスリートだ。
金栗は東京高師(現・筑波大)の学生時代に、翌年に開催されるストックホルム・オリンピックに向けたマラソンの予選会に出場し、足袋で当時の世界記録を27分も縮める大記録を樹立し、短距離の三島弥彦と共に日本人初のオリンピック選手となった。
だがオリンピック本番では、レース途中の26.7キロ地点で日射病により意識を失い、近くの農家で介抱される。そしてそのまま途中棄権となり、失意のまま帰国した。
3.なぜ、「箱根」が駅伝コースに選ばれたのか?
海外でマラソンレースの過酷さとともに、サポート体制の重要性を学んだ金栗四三は、「世界に通用するランナーを育成したい」という強い想いとともに再起し、「箱根駅伝」を企画する。
実は「箱根駅伝」は選手強化策の一環として、「アメリカ大陸横断駅伝」の予選会だったという逸話がある。
アメリカ横断ではロッキー山脈を越える必要があり、予選でも山岳コースを取り入れようと、箱根がルートに選ばれたという。
「箱根駅伝」の5区(山上り)と6区(山下り)は、標高差800メートル以上を一気に駆け上がる(下りる)ため、平地でのスピードプラスアルファの適性が求められる。
それゆえ、この区間で活躍した選手には、「山の神」の称号が与えられる。
「アメリカ横断駅伝」は、結局立ち消えとなったが、山登り、山下りの過酷なコースは、後年「箱根駅伝」の人気を不動のものにする立役者となった。
そうして誕生した「箱根駅伝」は、太平洋戦争によって1941年、1942年、1944~1946年と中断を余儀なくされた年が5回あるものの、1947年から2021年まで毎年続き、まもなく1世紀の歴史的瞬間を迎える。
古くは瀬古利彦(早稲田大学)、谷口浩美(日本体育大学)、近年では2020東京オリンピックに出場する中村匠吾(駒澤大学)と服部勇馬(東洋大学)、さらについ先日びわ湖毎日マラソンで、2時間4分56秒という驚異的な日本新記録を叩き出した鈴木健吾(神奈川大学)も箱根駅伝の経験者たちだ。
このように数多のオリンピアンを輩出し、日本の長距離界のレベルアップに大きく寄与した、「箱根駅伝」の記録と記憶を保管・展示しているのが、芦ノ湖のゴールに建つ「箱根駅伝ミュージアム」。箱根に行くなら、ぜひ足を運んでみていただきたい。
箱根駅伝ミュージアム オフィシャルサイト