kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

Peter Turchinのクリオダイナミクスは一読の価値あり

こんにちは。

 

Peter Turchinはロシア生まれでアメリカに亡命した生態学者。だったが、この20年ほどは人間の生態学、つまり文明と帝国の発達・興亡などをシミュレーションで予測し、それを現実と比べるという「クリオダイナミクス‘(歴史動学)」を展開している。これは今世紀に入ってから急速に発展しつつある分野。

 

その中でも、ターチンの研究には目を見張る論文がいくつもある。例えば、2013年のProNASの「War, space, and the evolution of Old World complex societies」では、「超社会性」というヒトの行動形質=遺伝子群が、歴史時代を通じて度重なる戦争に有利になって、次第に人々が「遺伝的に」集団的・好戦的になっていくという。その様子が以下のように世界地図に表されているというものだが、確かに現実と酷似している。

 

 

同じ性質の拡散とついでに戦車(chariots)と重装歩兵・騎兵(cavalry)という武器・戦術の発達によって、帝国の巨大化もシミュレートされるが、これがまた現実にそっくりだという驚き。

 

 

これらを踏まえた著作が『国家興亡の方程式 歴史に対する数学的アプローチ』。これは、政治学・歴史学に真剣に取り組む学者にとって必読の素晴らしい本なので、ぜひとも読んでみて下さい。

 

さて彼は近著『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』人間が(現代においても)殺し合うことを前提にして、現代アメリカの社会階層の分断によって2020年代から「大混乱」の時代に突入すると予測している。例えば、トランプなんかの民主主義のあからさまな否定のことね。でも、ホントにそうなるんだろうか??

 

 

確かに彼の研究から得られる指標から予測するとそうなるのだが、現代社会というのは殺人や混乱・内乱が起こりにくい。人命のコストはかつてなく高まっているからだ。そうした時代背景を考えると、大規模な動乱などが先進国で起こるとは、容易には想像できない。かなりの不満の高まりは起こるのかもしれないが、それが大衆暴動という暴力的レベルにまで発展するのだろうか? 

 

こうしたビッグ・ヒストリー系の研究はこれまでの普通の研究者のものよりも、はるかに説得力があるとは思う。がしかし、「100年程度の短期の歴史展開」については、実際の観察=歴史の展開を待つしかないように感じられる。

 

_

Â