『タイムホロウ』

kodamatsukimi2008-04-16


 公式(音注意)http://www.konami.jp/time_hollow/ ASIN:B000W7QW7G

・コナミ(http://www.konami.co.jp/)は何の会社だったっけ、
 とサイトを見て思ったわけですが
 発売されているゲームを見れば(http://www.konami.jp/gs/)
 なんだかんだいって『メタルギア』だけでもなく
 皆それなりに子供だましでなく作ろうという気概が窺えないこともない様子。
 出来の良し悪しはもちろんあるとしても
 真面目にゲーム会社として頑張っているではないか。うむうむほめてとらす。

・今回の『タイムホロウ』も、手堅い作りの一作。
 売るべき客がしっかり見えている良い商品、つまりいわゆる良作。
 けれどゲームとしては普通。
 同じコナミのAVGなら『サバイバルキッズ』の方が上ということになるでしょう。



・『Time Hollow』の「ホロウ」はHoleと同じく「穴」ですが
 なぜ「タイムホール」にしなかったのは
 ドラえもんの秘密道具に被って商標としてまずいからかしら。
 時間改変ものでして、過去に干渉できる能力を持った主人公が
 同じ能力を持つ敵対者によって変えられた過去を修正しようとするお話です。

・タイムパラドックスは、そもそも過去に過去が変えられたという記録がないからこそ
 パラドックスなのであり
 ゆえにこういうお話で矛盾がないことは
 定義できないゆえに完全はなく、またつっこみようもないのですが
 おおむねお話上の処理として、つまりざっと読んでの印象としては
 かなりわりと、良く出来ていると思います。

・ゲームというジャンルでも、このような時間改変ものは良くみられます。
 ゲーム外の存在、つまり遊び手自身の操作自体をパラドックスに取り込むとか
 そういう風な話に見えて実はそうでなかったのが話の種、とか
 AVGで、推理もの以外において名作と呼ばれているものは
 みなこの手のゲーム外ゲーム、ゲーム内ゲーム、代替現実とかいうような手法を
 使用しているのではと思われるほど。
 後から思い返すと皆、無理があるだろそれはというものではあるものの
 遊んでいるときに面白ければ、ゲームとして文句はないんでございます。

・この『タイムホロウ』も先達踏まえて全体のまとまり、良くしております。
 最期の落ちで、しっかりとパラレルワールド、ゲームでいうところの
 「ゲームは何度でもリセットしてセーブポイントから遊びなおせる」、
 操作しているこちら側の記憶は残したまま、という特性も処理しております。
 SFと猫。分量としては文庫本2冊ぶんくらいですが、充分小説にして読める筋。


・ゲームとしては、AVGとしてまっとうに良く出来ているけれど普通。
 進行につまらせるところはまったくない展開で、ヒントもさりげなく充実、
 タッチペンを使っての操作箇所も相当に親切。穴もずらせます。
 詰りもバッドエンドにもいかずにさっくり読めるテンポのよさ。程々の分量。
 お話のまとまり良さと合わせて、この時点で既に及第点以上と言えましょう。
 目新しいところとかはまったくないけれど、普通に良作でございます。



・私としては、面倒なのでこれで良いのです。
 けれどAVGとしては『サバイバルキッズ』の方が上なのではないか。
 というのは、『タイムホロウ』はゲームである意味がより小さいから。
 小説として世に出ていてもそれなりに楽しめそうな程度のものであるから。
 ただ映画や小説でも良い、その方が良いとは言えません。
 ゲームだからこそ良いというところがあるのは間違いない。


・『逆転裁判』は演出次第で劇や小説や映画に充分できると思います。
 けれどゲームとして遊んだほうがたぶん面白い。
 逆にこれはゲームでなく、映像作品としてあったほうが楽しめるのではないか、
 というようなRPGも沢山あります。
 何十時間の一瞬だけのために使われるムービーシーンとか
 もったいないではないかと思うわけです。
 小説における珠玉の一文のように、前後相関連していつでも想起確認できない不便。

・ゲームというのは、そういう表現作品を味わう場所として幅の広いものです。
 例えばその1。
 映画が再生ボタンと停止ボタンと早送り巻き戻しボタンで操作できるなら
 それはゲームであると言うこともできます。
 例えばその2。音ゲーはゲームではなくて製作者の思い通り展開する映画である。
 『スペースチャンネル5』を銀河一モードで眺めているのは映画かもしれない。
 オンライン対戦麻雀のリプレイ画面は
 当人たちにとってすら、見返すとき映画かもしれない。
 そしてもちろんゲームでもある。
 ゲーム機を使わなくたってゲームだから、おおよそ何でもゲームであり
 また、そうでないと言えないこともない。

・AVGで、良いと評価されるものは、意外なお話で感動できたかどうかが第一で
 その次に評価されるのが、お話を楽しむ状態の興を削がないテンポの良さです。
 ゲームとしての特性、選択肢を選んでお話を自由に操作できる、というのは
 こと、AVGにおいてはどうでも良い。
 どころかむしろ邪魔なのではないか、とすら言えると思うわけであります。


・RPGというのは、その世界で冒険できる楽しさを楽しむゲームと言えましょう。
 『モンスターハンター』はオンラインRPGだからこそ面白いのであって
 1人用アクションゲームとして遊ぶとき
 その楽しさの規模は比較にならないほど小さい。
 RPGというのは、お話の筋を追っていく楽しさというよりは
 遊び場所として、そこにいて心地良い場所であること、
 その世界になんらかの役割を負って在る要ること自体が楽しいことを楽しむもの。
 オンラインの場合だと顕著です。
 ゲームセンターで友達と一緒にオンラインゲームを協力して遊ぶのも
 現実世界のRPG、いやそれをゲームの中でできるようにしたのがオンラインRPGである、
 というべきでありましょう。

・小説からの想像を共有することや、会話によるごっこ遊びを
 ゲーム機上ですることができるようになったのがRPGである。
 しかしオンラインRPGでなければ、実はゲームになっても
 共有する基ネタ世界を提供する小説や映画と変わらない。
 そこでひとりでも楽しめるゲーム、つまり画面に文章を表示させるだけではなくて
 ゲームとして楽しめるようにした小説が、AVGであるわけです。1人用です。


・セーブポイント、あるいは最初から、何度でも繰返し遊び返せる。
 その先に何が起こるか知っている状態で。ここまでは小説でも同じですが
 何が起こるかを知っていることでその後の展開を変えること、操作が出来る、
 それがゲームだけの特性です。

・ある関係式に様々な条件値を入力することで多様な答えが得られる。
 計算機は決められた通り計算するだけなのに、入力したひとも含めて
 誰もその結果を知ることができないブラックボックス。それがゲームの面白さ。
 しかしその結果がどんなものでも楽しめるのは、SLGのような限定条件下だけであって
 前後の整合性を無視して楽しむことが難しいその他殆どの分野、
 小説とか映画とかゲーム、AVGとかでは、そのゲーム特異の特徴を楽しめない。
 AVGというのは製作者が用意した答えしか選べないのです。


・なので結局、1人用RPGであるところのAVGは、小説と変わらない。
 あらかじめ用意された分だけ幅広い展開を楽しめるが
 それというのは完成度の低い小説を無理に読まされるだけなのではないか。
 一番出来の良い筋だけ見せてくれればよいのではないか。
 ゲームである必要はないのではないか。

・小説からでも想像で多様な世界を読者は生み出すことができ
 決まりきった単純なお話で作られているはずの1人用RPGから
 遊ぶひとの数だけ物語が生成され得るなら、AVGはなんのためにあるのか。



・それが現在のAVGだと思います。
 採りえる手段が多様に用意されていて、目標達成すること自体でなく
 その過程を楽しむ。
 形式としてはAVGですが、『サバイバルキッズ』はそういう意味ではRPGです。
 しかし『タイムホロウ』はAVGである。
 入力される数値は、決められた答えを導くためのものでなければならず
 その関係式が明確であるほど、ゲームとして評価が高い。

・ならばゲームでなくとも良いというわけではなく、『逆転裁判』のように
 入力される数値がどれでなければならないかがわかっても
 その答えがどうなるか予測できないこと、
 これ自体は小説にもあるけれど
 自分で推理して、入力した過程に、正しいとされる結果が得られること、
 目標達成すること自体が、ゲームの面白さであるものはゲームとして存在し得るのです。


・AVGはゲーム風なもの、つまりRPGのようなものと
 テンポ重視の小説や映画のようなものと、その中間や組み合わせやそれ以外と、
 色々あるわけです。
 そしてそれらはみな全てゲームだからこその面白さを持っている。
 そう言えましょう。

・良く出来ているAVGとはどういうのか。
 『タイムホロウ』は良く出来ていると言えるのか。だとしたらどういう点がそうか。
 その答えは通り一遍唯一つではありえない。
 答えは見つけてみるまでわからない。
 それがゲームというものであるのです。