とらドラ! 第22話〜24話における櫛枝実乃梨の心象風景

櫛枝実乃梨という子は、実に多くの矛盾を抱えている。

人当たりがいいように見えて、本当の自分は決して見せない。その本質は「逃げ」でありながら、逃げる方向が極端にポジティブ。目に見えないものを恐れながらも、本当は見たいって思ってる。

そんな実乃梨に興味を持って色々と考えているうちに、彼女の明るさの陰にある弱さや、それを乗り越える強さとひたむきさ、そして年相応の女の子な部分が見えてきました。嫌悪感を抱きつつも、愛しくてたまらない。そういう面でも矛盾した存在であるのかもしれません。

前置きはともかく。22話〜24話のお話が急転直下で、ありのまま起こったことを話すと「みのりんは告られたと思ったら振られてた」という不思議なことになってしまうのですが・・・。その辺を、実乃梨の内面を推測しつつ考えていこうと思います。

22話 -- 実乃梨に見えていたもの、見えていなかったもの、見ようとしなかったもの

22話の実乃梨の台詞。

「わたしはもう迷わない!ちゃんと前を向いて、見えるものに突進していく!」

幽霊のメタファーに代表されるように、実乃梨にとって自分に関する愛だの恋だのは「見えないもの」だった。じゃあ「見えるもの」とは何かといえば、部活動であり、バイトであり、大河の竜児への想い。素直に解釈すれば、この台詞は実乃梨の戦線離脱を意味するものになるのですが・・・。だとすれば、肝心な実乃梨の竜児に対する想いはどこに?

実乃梨が向くべき方向は前なんかじゃない。ましてや後ろでもない。まだ、実乃梨は自分の気持ちに決着をつけていない。有り体に言えば、自分の気持ちを見ようとしないで逃げているだけ。実乃梨の言う「見えるもの」とは、見なきゃいけないものから目を逸らした先に映っていた物に過ぎない。

結局のところ、実乃梨の中では何も終わってないし、何も始まっていなかったのです。

23話 -- そして、実乃梨が見ようとしなかった本当のもの

23話。「自分のことは棚上げ?」とか「みのりん唐突に切れる!」とか「三文芝居」とか、みのりん的には各地の感想サイトであまりいい書かれ方をされていなかったラストの修羅場シーン。どうして実乃梨は自分のことを棚に上げてぶち切れたように見えたのか?実は、24話で少しだけ答えを言っています。

「あたしも・・・あたしは高須くんが、高須竜児が好きだよ!」
「好きだった・・・ずっと好きだった」
「でも、あんたに譲らなくちゃとも思ってた。親友のあんたが高須くんを必要としているならって」
「それは傲慢なあたしの勘違いだったんだ!」
「あたしも、あんたを舐めてた」
「さっきも言ったよね、『あたしの幸せはあたしが決める』って」
「同じように、あんたの幸せも、あんたしか決められない!」
「だから・・・だから大河、あんたのやり方も見せてよ!!」

大河と実乃梨は、お互いを思うがゆえに竜児を譲ろうとしていた。その意味で、大河と実乃梨は同じ罪を共有している。大河を糾弾しているように見えて、それは全て自分自身へ向けた言葉でもあったのです。

そして、実乃梨の抱えるもうひとつの罪。それは、自分の内面と向き合うのを恐れるあまり、竜児の告白を「なかったこと」にして逃げ出したこと。

「うそつき・・・!」
「『聞こえてなかった』で済ませる気・・・?」

大河の竜児への想いはみんな知っているのに、それを「なかったこと」にする残酷さ。その上で踊る、大河の愚かさと滑稽さ。それは、実乃梨が目を逸らし続けた、絶対に見たくなかった、自分自身の醜い姿。自分が大河にしようとしたのは、竜児にしようとしたのは、まさしくこういうことだった。

「大河の幸せのため」と実乃梨は言っていたけれど、これが本当に幸せな姿なんだろうか?親友と同じ人を好きになってしまった罪悪感と、それから逃れるための精いっぱいの言い訳。自分をかろうじて繋ぎとめていた最後の大義名分が崩れ落ちる瞬間、実乃梨を支えてきた全てのものが壊れてしまったのでしょう。

「あたしを見て!」
「あたしは何に見える?あたしは実乃梨だよ、あんたの親友、そうでしょう?」
「あたしが好きって言ったよね、ならあたしを信じてよ!」
「あたしは大河を信じるよ、『みのりんが』『みのりんが』『みのりんが』って、欲しいものを欲しがらない弱さを人のせいにする奴じゃないって信じてる!それともあんたはそういう奴だった?」

実乃梨は決して自分のことを棚に上げて大河を糾弾したのではない。逃げ場を失った実乃梨は、自分の思いを、自分自身にすら見せなかった心の底を、大河にぶつけるしかなかった。よく聞いてみると、台詞のほとんどは大河に向けたものではなく、自分自身の感情を吐き出してるだけということが分かります。

・・・八つ当たりの鏡に使われた大河は、ちょっとかわいそう(笑)

余談ですが、この辺りの長台詞は本当に素晴らしかったですね。役者の魂が伝わってくるようでした。

24話 -- 恋愛の成就よりも大切なもの

23話の終わりで、とうとう選択を迫られた竜児。24話の冒頭であっさり大河を選択する竜児くんですが、19話で大河の元へ駆けつけた時から、いや、もしかしたらもっと前から竜児の気持ちは決まっていたのかも知れません。

実乃梨が本当に欲しかったものは竜児じゃない。自分自身の心を見つめることと、自分の内面と向き合う強さ。それこそが実乃梨にとって必要なものだった。だから、お互いがお互いを必要としている竜児と大河が結ばれるのは、いわば必然なのでしょう。

ただ、それと引き換えにするには、失恋の痛みは大きすぎたのかもしれない。突き出した拳に間接キスをする乙女っぽさや、張り詰めたものが一気に解けて泣き出す弱さもまた、実乃梨の魅力なんだと思います。

そしてもちろん、挫折を前に進むための力にできる強さも。実乃梨はきっと、もっといい女になるよ。