2023.12.04
来場者が急増したその後は?「周央サンゴ×志摩スペイン村」炎上なしで成功したコラボの裏側
- Kindai Picks編集部
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人気Vtuber周央サンゴさんとのコラボで大きな話題を呼んだ「志摩スペイン村」。期間中は若年層を中心に前年比1.9倍もの人が訪れ、イベント終了から7カ月以上たった現在でも、その反響は続いています。どのようにして来る人の心を掴んだのか、観光や推し活に興味を持つ近畿大学 総合社会学部の学生が調査。取り組みのウラガワから、私たちが学ぶべき「姿勢」が見えてきました。
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所属しているのは岡本健先生のゼミで、先生の指導のもと自由なテーマで社会学を研究する手法を学んでいます。ゼミには、サウナ、プロデュースコスメ、eスポーツなど個性的なテーマで研究している人たちがいて、日々ともに切磋琢磨しています。また、産学連携プロジェクトへの参加や学外で行うアニメ聖地巡礼、ワークキャンプへの参加などを通してさらに学びを広げています。
福島県で農作業系のワークキャンプに参加。産学連携プロジェクトではボードゲーム制作に挑戦!
アニメの聖地に行き、キャラクターと同じ場所で撮影。4年間で50カ所以上巡っています。
観光業が盛んな三重県で生まれ育った私は、趣味など、観光以外を主要の目的として訪れる人々がどのように三重を巡るのかについて興味があり、伊勢志摩地域を中心に研究をしています。
伊勢のクラフトビール、伊勢神宮内宮、ツーリングなどで人気な志摩市の横山展望台。
三重県といえば、最近注目を浴びている「志摩スペイン村」。すいていることをPRするなど、“人がいない”テーマパークとも言われていたにも関わらず、2023年2月11日から2023年4月2日に開催されたVtuberの周央サンゴさんのコラボイベントをきっかけに多くの人が詰めかけ、話題となりました。
私にとってなじみ深いスポットではありますが、全国から来場者が訪れている印象はなかったです……。しかし、周央サンゴさんやそのファンの方を中心に多くの人が動き、スペイン村の魅力を発掘し、SNS上で拡散していったことでイメージが変わりました。
Vtuberという比較的新しい文化に対して、地方テーマパークである志摩スペイン村がどのように向き合ったのかを深掘りすることで、スペイン村の変化に何が必要だったと言えるのか、そしてそこから私たちは何を学ぶことができるのかを、調査していきます。
そもそもVtuberとは? コラボ実現までの経緯
そもそもVtuberとは、2Dや3Dアバターを使ってゲーム配信、ライブ、トークなどを行い、Youtubeなどで配信活動している人々のことで、バーチャルユーチューバー(Virtual Youtuber)を略してVtuberと呼ばれています。若年層を中心に人気で、その影響力から一部のVtuberはインフルエンサーとしても注目されています。
総合社会学部の授業「社会学概論」内で、Vtuberに関するアンケートをとったところ、Vtuberについて「知っていた」「特定のVtuberのファンである」「聞いたことはあった」と答えた方は全体の8割ほど。若年層からの認知度の高さがわかります。
そして今回、志摩スペイン村とコラボしたのがVtuberの周央サンゴさん。
ANYCOLOR株式会社が運営するバーチャルライバーグループ「にじさんじ」に所属するVtuberで、中学生キャラクターとは思えないインターネットの知識や語彙力、豊富なエピソードトークが魅力。チャンネル登録者数は、2023年10月25日の時点で49.8万という人気ぶりです。
「人と交通の便だけが全く足りていないテーマパーク」など、感性豊かな周央サンゴさんによって自由に語られた内容がファンに刺さり、話題になりました。そこからコラボ実現までも早く、コラボイベントは準備に年単位で時間がかかるものも多い中、そのスピード感に驚かされます。また、バーチャル空間上に存在するVtuberが、志摩スペイン村のような現実空間とコラボしたことも珍しく、話題になりました。
コラボプリクラや等身大パネルなどの撮影スポットが登場。パーク内上映作品「空とぶドンキホーテ」副音声や、近鉄特急内と鵜方駅構内でのアナウンスなども周央サンゴさんが担当しました。
志摩スペイン村の営業企画部長の田島さんにコラボの裏側を聞いてみた
今回、志摩スペイン村の営業企画部長の田島学さんにお越しいただき、総合社会学部授業「社会学概論」内で特別授業をしていただきました。さらに授業後にコラボの裏側についてお話を伺いました。
田島 学(たじま まなぶ)
株式会社志摩スペイン村
営業企画部 部長
1997年に近畿日本鉄道株式会社に入社。駅係員・助役と現場経験を積んだのち、近鉄情報システム株式会社に出向。その後、鉄道に戻り、旅行業・イベント担当と人事部を経て、現在は株式会社志摩スペイン村にて広報宣伝・企画・販売促進などを担当。
スペイン村の経営の難しさと、配信による宣伝効果
授業で、大きなテーマパークや鉄道沿線の施設を例に、テーマパーク経営の難しさについてお話をされていましたが、志摩スペイン村の課題はどういう部分にあったのでしょうか。
もともとキャラクター自体の人気が高い大きなテーマパークに比べると、周知が難しく、ぼんやりしてしまうところですね。遊園地ではなくテーマパークだからこそ、本来はキャラクターとテーマそのものの魅力の浸透が重要です。「キャラクターに会いたい」「世界観に浸りたい」という気持ちが、テーマパークに足を運ぶ理由になると思います。
何度も訪れたことがありながら、私もスペイン村のキャラクターやテーマの設定など、細かい部分についてはあまり知りませんでした。
授業では遊園地とテーマパークの違いや、志摩スペイン村の世界観やキャラクターについてもお話してくれました。
そうですよね。今回、周央サンゴさんが配信の中でたまたま触れてくださったことで、力を入れていたキャラクターや世界観に着目してもらえたのは良かったですね。
キャラクターが登場する、スペインのお祭り(フィエスタ)を表現したパレード。
志摩スペイン村といえば家族で行く場所のイメージが強いのですが、なぜこれまでは、今回反響があった若い世代に対して、あまり認知が広げられていなかったのでしょうか。
近鉄という鉄道会社が運営の主体になっているため、PRも鉄道利用促進の延長となり、特定のターゲットに絞ったPRが難しいのです。そのため、近鉄沿線外でのPRがあまりできなかったこともあり、これまで関東方面など遠方の方々や、若い世代への宣伝は難しい状況がありました。
志摩スペイン村の最寄駅である近鉄志摩線の鵜方駅。大阪難波駅から約2時間半、ここからさらに志摩スペイン村まで直通バスで約13分。
外部とのコラボもそうですが、常に費用対効果を考えながら、イベントを実施します。そのため「自分たちの身の丈」にあった規模のコラボイベントを実施することが重要になります。
ネット上で話題になったことで、これまで宣伝に注力できなかった若者層や、全国の人々に認知が広がったんですね。
周央サンゴさんの配信をきっかけに思わぬところに注目が集まった
配信や今回のコラボイベントをきっかけに「志摩スペイン村に行ってみた」という人のSNSの投稿を見ていると、周央サンゴさんが配信の中でも話していた、ショー、料理、パーク、あらゆる部分のクオリティについて「すごい!」という声が多くあがっていました。
本格的なフラメンコショーと、サンゴさんが「世界一うまいチュロス」と絶賛していたチュロス。
志摩スペイン村としては当たり前にやっていたことだったので、反響には驚きました。リゾート開発を背景にできた施設なので、サービスやおもてなしは磨いてきました。フラメンコショーの出演者は毎年スペインでオーディションしていますし、提供している料理には伊勢志摩の海産物を使っています。そのほか、景観にも相当こだわっています。
パーク内はスペインの街並みが再現されていて、異国情緒が漂う。
地方のテーマパークだからといって妥協せずサービスを磨いていたこと、長年磨いてきた部分でありながらも評価されてこなかった部分に光が当たった点が素敵だと感じました。私自身、普段漫画やアニメに慣れ親しんでいて、設定や景観など細部に注目するのが好きなのですが、そうした細やかさを楽しめる層に気づいてもらえたのも大きいのではないかと思いました。
「志摩スペイン村のそのままの良さは残したい」というサンゴさんの希望もあり、コラボしつつも「周央サンゴ村」にしなかったというのも、志摩スペイン村自体の良さを楽しんでいただけた理由の一つかなと思います。
周央サンゴさんが推しているスポットやフードを巡るスタンプラリー。
周央サンゴさん自身が志摩スペイン村という「推し」を後押しするスタンスだったからこそ、もともと持っていたおもてなし力に光が当たったんですね。
コラボまでの異例のスピードや、商品を売り切れさせなかった背景
周央サンゴさんとのコラボに関して、対応のスピードが早かったことも話題になりました。なぜこのようなスピード感で実施できたのでしょうか?
普段から、SNS上の反応はなるべくすべてチェックするようにしていたので、話題になっていることにすぐ気づくことができました。これは年間来場者数100万人規模のテーマパークだからこその強みで、キーワードを検索してすぐに情報をキャッチできるんですよね。それから、すぐに社内での連携ができたことが結果的に早さに繋がったのだと思います。
常にSNS上の状況をチェックして、受け取った反応に素早く対応できる体制だったんですね。
注目が集まってからの動きもチェックしていました。例えば、サンゴさんがはじめて志摩スペイン村を紹介した次の日には、SNS上で隣接の宿泊施設である「ホテル志摩スペイン村」の「シングルユースプラン」に関する言及が一気に増えました。SNS上で話題になったことは、即時に影響が出やすいという認識があったため、リアルタイムで情報をキャッチして従来よりも速く動かなければならないという意識が社内でありました。
ほかにも私がすごいと思ったのは、コラボグッズの豊富さと品切れをあまり起こさなかったことです。2カ月間コラボするにあたって、ファン目線で一番怖いのは、ほしいグッズやサンゴさんが激推ししていたチュロスがなくなってしまうことだと思います。初めての大きなコラボでありながら、どのように対応されていたのでしょうか?
正直、イベントがはじまった当初は「SNSで話題にはなったけれど、本当にリアルの場に人が来るのだろうか」と思っていました。しかし、大勢のお客さんが来たときにも対応ができるように、在庫の準備にかかる時間を確認して、注意を払っていました。
品切れ問題でコラボ系のイベントが炎上しているのを目にすることもあるので、やってみないとわからない状況への対応力がすごいと思いました。
イベント期間中の配信で新たに紹介されていたものについては、予想していなかったので一瞬焦りましたが、なんとかうまくいきました。実は、スペイン扇子など海外から輸入している商品もあるので内心ヒヤヒヤしていました。
確認を怠らず、状況によってスピーディーに対応していくことの大切さを痛感しますね。チュロスは例年の25倍売れたと伺いましたが、どう対応されたのでしょうか?
こちらも原料がどれくらいの時間で用意できるか注意していましたね。普段これほど出るものではなかったですし、機械が壊れてしまわないか心配していました。実際にコラボフードのラテを作っていたラテマシンは一度壊れてしまって。でも、サンゴさんのファンの方は「働かせすぎだと思うので休ませてください」と声をかけてくれていましたね。
血の滲むような現場の努力が伝わってきます。それが、イベントの満足度にも繋がったのですね。
イベント後の反応と今後の展望
普段の主要顧客であるファミリー層とはまた違う層が来たことで、驚いたことや気づいたことは何かあるのでしょうか。
楽しみ方に特徴があったことですね。周央サンゴさんやスペイン村のキャラクターのぬいぐるみと一緒に景観を撮影される方や、ほかのVtuberのぬいぐるみを持って来られる方がいたことなど、これまでのお客さんの層とは違う楽しみ方をされていました。また、サンゴさんのアクリルスタンドだけでなく、パークのキャラクターのアクリルスタンドはないのかといったお声をいただくなど、新しい発見もたくさんありました。
7月には、チュロスのぬいぐるみが登場しましたね。どういう経緯で発売に至ったのでしょうか?
触り心地を考えて本物のチュロスより少し大きいサイズ感だそう。グッズを持ち歩きたい・飾りたいというファン的には、この存在感が嬉しい。
もともと、シーズンごとに新しいグッズを出すので、グッズ販売担当は常に研究をしています。コラボ期間中からコラボ後にかけてのお客さんの反応を見る中で、店頭の物販担当の人たちから提案として出てきました。
チュロスが注目されたことがきっかけになっているんですね。
話題になっていなかったら、キャラクター以外のグッズでGOが出るのは難しかったでしょうね。9月22日に周央サンゴさんの動画でも紹介していただき、増産するほど売れ行きは好調で、お客さまにも喜んでいただいています。
実際に現場の方が受け取った反応が形になるのが素敵ですね。コラボから半年以上がたちましたが、今はどんな状況ですか?
年間パスポートを買われる方をはじめ、リピーターも増えている印象です。そして、パークのキャラクターのファンも以前と比べると多いですね。
コラボ期間が終わっても「聖地」として訪れる方や、話題になったことをきっかけに志摩スペイン村のファンになってくれる方が増えたんですね。今後の展望について、伺ってもよろしいでしょうか。
周央サンゴさんとのコラボをきっかけに、志摩スペイン村の存在や魅力に気づいていなかった層に来ていただくことができました。サンゴさんとのコミュニケーションをとり続けることはもちろんですが、今後も研究を重ね、新しいファン層やいろいろな方に来ていただけるよう試行錯誤したいと思います。また、来年は開業30周年なので、それに向けての取り組みにも力を入れています。
魅力を見出し、深め、楽しみ方を広げていく力は、Vtuberをはじめとして、アニメ・漫画・ゲームなどのコンテンツに親しむファンが持つ可能性の一つですよね。変化の中でも「お客さんと楽しみを作り出していく」積極的な姿勢がとても勉強になりました。
まとめ
今回のコラボで、コラボ内容の豊富さや対応の丁寧さに注目が集まりましたが、そこには志摩スペイン村の熱量と、コラボ相手にリスペクトを持った舞台裏での取り組みがありました。
また、コンテンツのファンが持つ「推しを大切にしてもらえると嬉しい」「好きなモノを後押ししてもらえると嬉しい」という心情を尊重することが共感を呼び、新たなファン層の獲得にも繋がるということがわかりました。
今回の取材を通して、とくに印象に残っているのは「SNSの世界で話題になると、これまで以上にスピード感を持って対応しなければならない」ということが志摩スペイン村の中で浸透していて、すぐに次の動きに繋がった部分です。
Vtuberという比較的新しい文化に対して、戸惑ったりするのではなく、前向きに連携して取り組むことが、「変わり映えのしないもの」というイメージで見られがちな地方テーマパークの志摩スペイン村が大きく変化するきっかけになったように思えます。新しいモノ・コトに対して、個人だけでなく周りの人も含めて前向きな姿勢でいることが、なかなか変えられないと感じている分野を動かすヒントになるのではないでしょうか。
私は現在4年生で卒業後は就職予定なので、今回の取材を通して学んだことを仕事でも活かせるよう、日々の情報収集や姿勢を変えていきたいと思いました。
この記事を書いた人
西村 伊織(にしむら いおり)
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科( 社会・マスメディア系専攻)4年。三重県出身。アニメツーリズムや大学スポーツなど、学内の様々なテーマのプロジェクトに参加。最近は舞台鑑賞や散歩(?)など“体験”を求め駆け回る日々を送っている。
編集:人間編集部
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