2024.03.22
授業中にお腹の音が鳴って困る!音の鳴るメカニズムや「付き合い方」を専門医に聞いてみた
- Kindai Picks編集部
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静かな授業中やテスト中に「グゥ〜〜〜」とお腹が鳴る――そんな経験をした人は少なくないはず。でも、どうしてお腹の音が鳴るのでしょうか。鳴ってしまうのは仕方ないとしても、お腹の音とうまく付き合う方法ってあるのでしょうか。「お腹が鳴る=恥ずかしいこと」ととらえる人も多いでしょうが、そもそも本当に恥ずかしいことなの? 消化器系に詳しい専門医に話を聞きました。
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こんにちは!美味しいものが大好きな、近畿大学 総合社会学部総合社会学科 社会・マスメディア専攻1年の濵田 乃(はまだ のの)です。
突然ですが、みなさんはお腹の音が原因で恥ずかしい思いをしたことがありますか? 授業中、試験中、会議中など、静かな場所で「グゥ〜〜〜」という音が鳴った経験を持つ人は少なくないはず。私も幼い頃からお腹の音に悩まされています。
大学生になるまでは、7時前には朝ごはんを食べ、11時にはお腹が空き始める。12時過ぎにはお腹ぺこぺこで「グゥ〜」と鳴るのが常。鳴らさないようにすることばかり考えていたので、お昼どきの授業に身が入らないことがほとんどでした。
定期試験や入試のような緊張感が高まる場面では、普段の授業以上にお腹の音との戦いが激しくなる気がします。知り合いのいない教室で高校入試に臨んでいるときに盛大にお腹を鳴らし、恥ずかしさを共有する相手もおらず寂しかったことは、今も鮮明に覚えています。
大学生になった今は、中高時代に比べると朝に余裕があります。朝食も少し遅めに食べるので、お腹の音に悩まされることも減ってきました。とはいえ、シーンとした授業に限ってお腹が鳴ることも。
対策として合間にチョコや飴を食べるのですが、それでもすぐ「グゥ〜」と鳴ることもあれば、全くお腹が空かない日もあります。試験中や授業中に他の席からお腹の音が聞こえることもあるので、きっと同じような悩みを抱えている人も多いと思っています。
いったい、どのようなメカニズムでお腹の音が鳴るのか。簡単にできる「防音対策」はあるのか。消化器系に詳しい、医学部 医学研究科の辻 直子先生に話を聞きました。
辻 直子(つじ・なおこ)
近畿大学 医学部 医学科・医学研究科 臨床教授
専門:消化器内科
消化器系の疾患やがん治療が専門。早期胃がんの診断と治療、ヘリコバクターピロリ、バレット腺がんなどの臨床研究に従事してきた。近年は胃たこいぼびらん、胃底腺ポリープ、食育にも関心を寄せる。
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そもそもどうしてお腹が鳴るの?
濵田:先生、今日はよろしくお願いします。まずは医学的な観点から見た「お腹の音が鳴る原理」を教えてください。
辻先生:実は、お腹の音に関する研究は限られていて、詳しい部分までは解明されていないんです。ただ、お腹の音が鳴るということは、基本的に胃が健康に機能しているサインなんですよ。
濵田:本当ですか!?
辻先生:胃の中には胃液と食べたものが入っています。それらが胃の収縮で攪拌(かくはん)されることを消化といいます。このときに胃の内容物と口から取り入れた空気とが混じり合い、音が鳴るといわれています。つまり、お腹の音は消化作用の証拠といえます。
濵田:では、空腹時にお腹が鳴るのはなぜなのでしょう?
辻先生:空腹時の胃には90〜120分周期で「空腹時収縮」と呼ばれる強い収縮が起こります。この動きが原因で音が鳴るのです。収縮が強いほど、より大きな音が鳴ります。
濵田:胃の動きが深く関わっているんですね。
辻先生:そうですね。お腹の音の構成要素は「胃の内容物・空気・速度」です。例えば、川の水もゆったり流れていれば大きな音は鳴らないですよね。消化器も同じで、食べ物が通過する速度や消化管内の障害物の有無で、音の大きさや種類が変わるんです。
濵田:なるほど。
辻先生:空腹時収縮のような胃の運動はもちろん、胃の形、胃液量、食べ物の消化速度といった要因も関係し、個人差もあります。ただ「お腹が鳴る=胃袋がきちんと空になっている」ということなので、消化の側面からは健康な反応といえますね。
濵田:お腹の音が健康のサインだったとは(笑)
辻先生:さらに言うと、90〜120分の空腹時サイクルを2回繰り返して胃と小腸を空っぽにしてから食事をするくらいが、ちょうどよいともいわれているんです。
濵田:というと?
辻先生:食事と食事の間が短いと、胃で消化した食べ物が小腸に溜まり、体によくない腸内細菌が増えてしまう可能性があります。空腹時収縮によるお腹の音は「次の食べ物を食べていいよ」というサインですが、その音が2回鳴ったくらいのタイミングのほうが、胃腸がよりきれいな状態で食べ物を受け入れられるので消化・吸収にいいんです。
濵田:なるほど。むしろ、何度かお腹を鳴らしたほうが体に優しいとも解釈できますね。
辻先生:そうですね。ただ、あまりに高頻度で音が鳴ったり、変な音がしたりするときは受診をおすすめします。
濵田:空腹時以外、例えば食後すぐにお腹が鳴るのも原理は同じですか?
辻先生:音が鳴る仕組み自体は同じです。胃は食事中も動いていて、食べ物を撹拌し細かくして十二指腸に送ります。胃の出口は幽門(ゆうもん)といって狭く、さらに開閉する構造で、固形物が2ミリ以下になるまで通過させない仕組みになっています。食べ物のサイズが大きいと、もう1回細かく消化する必要が出てくるんですね。そうして消化を終えた時点で胃が大きく収縮し、幽門が開いて胃内容物が通過する際に大きな音が鳴ると考えられています。
濵田:なるほど。お腹の音にもいろいろな要因があるのはわかりましたが、「こういう胃の形の人は音が鳴りやすい」といった傾向はありますか?
辻先生:胃の形がどう影響するかは、まだはっきりわかっていません。ただ、姿勢をよくすると音が鳴りやむことがあるといわれています。反対に前屈みになると、胃や腸が圧迫され変形したりねじれたりするので、音が鳴りやすくなるかもしれません。また、やせていると胃下垂になりがちで、胃の内容物が溜まりやすいですが、逆に肥満だとおなかの中の脂肪で胃が上に押し上げられ、胃が平べったくなるので内容物は溜まりにくくなります。体型も胃の形に影響を与え、音の鳴りやすさに関係します。
濵田:よい姿勢を保つのも大切なんですね!
辻先生:そうですね。胃の形以外にも、胃の収縮を制御するモチリンと呼ばれるホルモンの放出量が多いほど、収縮運動が強くなるといわれています。その差もお腹の音の鳴りやすさに関係していると思われます。
食事内容や食べ方もお腹の音と関連が
辻先生:あとは、食事の内容も影響しますよ。濵田:食べたものがどのように関係するのでしょうか。
辻先生:脂っこいものや、タンパク質の多い肉など動物性の食べ物は消化に3〜6時間かかります。対して、野菜や豆腐のようにあっさりしたものは2〜3時間もあれば消化されます。要はこってりしたもののほうが腹持ちがよく、お腹が鳴る頻度も減るわけです。
濵田:なんとなくわかります。
辻先生:さらに早食いや炭酸飲料の多量摂取は、胃に空気がたくさん入るのでお腹が鳴る原因になります。ちなみにげっぷや腹部膨満感を引き起こす呑気症(どんきしょう)は、早食いや歯の噛み締め癖と関連があるといわれています。ストレスを避けてゆっくり食べれば、体内に空気が取り込まれにくく、お腹も鳴りにくくなります。理想は一口あたり30回かむことですが、なかなか難しいですよね。とにかくゆっくり、ゆったり食べるよう意識することが大切だと思います。
濵田:余計な空気を取り込まない食べ方も大切なんですね。
辻先生:そうです。お腹の音は必ずしも胃から鳴るわけではないですが、基礎疾患のない人なら筋肉量の多い胃から一番大きい音が鳴るケースが大半でしょう。なので、胃に入る食事量や食べ方を工夫するとお腹が鳴りにくくなるといえます。でもお腹の音は、よっぽど変な症状を伴わない限りネガティブに受け取る必要はありませんよ。
濵田:つまり、お腹の音が鳴ることを恥ずかしく思うのではなく、ポジティブに捉えたほうがいいということでしょうか!?
辻先生:そう考えていいと思います。
濵田:恥ずかしさはなかなか解消できないですが、少し認識が変わりました。
辻先生:2時間に1回くらいお腹が鳴っているなら「私の胃は今日も元気に働いてくれている」と考えていいと思いますよ。
濵田:とても面白い考え方ですね! ちなみに先生はよくお腹が鳴りますか?
辻先生:鳴りますね(笑)。私は6時ごろに朝食を食べます。出勤する9時半くらいにはすでに小腹が空いて、10時半〜11時にはお腹が鳴ります。普段から脂っこいものをあまり食べないので収縮サイクルが短いんだと思います。
濵田:先生の胃もちゃんと健康的に動いているということですね!(笑)。ただ、私の友人には朝ごはんを食べなくてもお腹の音が鳴らない人や、お昼になってもお腹が空かない人がいます。こういった人たちは、医学的にどう説明できるのでしょうか。
辻先生:詳しくはわからないですが、朝ごはんを食べないのが習慣化し、胃本来のぜん動運動のリズムが乱れているのかもしれません。また、夜遅くに食事をすると、起床時にはまだ胃に食べ物が残っているので空腹時収縮が起こらず、お腹の音も鳴らないのでしょう。
濵田:むしろお腹が鳴らない、お腹が空かないことは胃の本来のリズムが崩れているサインと読み取れる?
辻先生:一般的にはそうですね。生まれつき収縮が弱い体質で音が鳴らない人もいるので、「お腹が鳴らないこと=不健康」とまではいえませんが、少なくとも朝ごはんを抜くのはよくないでしょうね。
濵田:なるほど。お腹が鳴らない友人を羨ましく思っていましたが、お腹が鳴るほうがいいんだと思えてきました!
辻先生:それくらい前向きでいいと思います。女性に関しては生理周期があるので、ホルモンの影響で生理前後にお腹の調子が変わることもあります。「生理前にはお腹が鳴りやすくなるな」とか、自分の体を観察するのも面白いと思います。
消化管は原始的な臓器!
濵田:ところで、同じ人でも緊張時ほどお腹が鳴りやすい気がするのですが、医学的に立証はできるのでしょうか。
辻先生:ストレスの影響は大きいですね。私たちの体は交感神経と副交感神経で二重に制御されていますが、消化に関係が深いのはリラックス時に優位になる副交感神経です。副交感神経からの司令が伝わると、胃液が分泌されて胃の運動が促進されます。
濵田:なるほど。
辻先生:一方でストレスは「戦う神経」の交感神経を優位にします。その結果、胃の血管を収縮させて血流が低下し、胃液の分泌や胃の運動も低下します。これら対照的な2つの自律神経のバランスが崩れると胃の不調が生じやすくなります。人によっては試験のときに下痢になることもありますよね。ストレスは胃だけでなく腸の動きにも影響するんです。
濵田:するとやはり、ストレスがかかって交感神経が優位になると、お腹が鳴りやすくなると解釈できるのでしょうか。
辻先生:そうした背景からお腹の音が鳴ることもあると思います。特に腸は「第二の脳」とも言われるくらい繊細で、脳や神経とさまざまな情報をやりとりしています。その情報伝達の「個人差」が、お腹の鳴りやすさにも関係しているとも考えられます。このように消化管はとても繊細な臓器ですが、反面で「原始的な臓器」でもあるんですよ。
濵田:「原始的な臓器」ですか。
辻先生:原始的で単純な身体構造を持つ動物(編集部註:ミミズ、ヒドラなど)には、脳や心臓などがなく腸しかありません。つまり最低限、消化管さえあれば動物は生きていけるのです。胃腸を含めた消化管が原始的な臓器といわれるゆえんですね。その中には多くの腸内細菌が暮らし、消化や吸収を担っています。私たちが食事をするのは「お腹を満たすため」「生きるため」と考えられがちですが、実は腸内細菌にエサを与えて消化などを「業務委託」しているとも解釈できます。口を通じて外界から得た栄養を、生きるエネルギーに変えてもらっているともね。
濵田:「鶏が先か、卵が先か」みたいな話になってきました……。
辻先生:お腹が鳴るメカニズムを論じた研究が少ない背景には、胃腸や腸内細菌と脳の複雑な関連がまだよくわかっていないことも理由です。そこは、これからの研究に期待ですね。
お腹の音を鳴らさないためにできる対策は?
濵田:お腹が鳴る仕組みについて、かなり理解が深まりました。そこで、改めて音を小さくするための対処法が知りたいです。辻先生:長期的な戦略としては、あらかじめ自分の空腹時収縮のサイクルを把握して、食事内容を考えることくらいでしょうね。個人差があるので、日頃から自分のサイクルを意識しておくとよいでしょう。
筆者宅にある阪神タイガースファンクラブ特典の時計。正午の合図の「ガオー」という虎の雄叫びを聞いて、昼食の準備をする
濵田:自分を見つめ直すいい機会になりますね! でも、ちょっと大変そう……。もうちょっと気軽にできる方法はありませんか?
辻先生:先ほども話したように、姿勢や食べ方を工夫してみるとよいかもしれません。胃を下に向けるイメージで、背筋をグッと伸ばすことは効果的といわれます。あとは、空気を飲み込みすぎないようにゆっくり食べること。ただ、一度お腹が鳴り始めると簡単には止まりませんよね。息を止めたり、深呼吸したりすると効果的といわれますが、意図して音を止めるのは難しいようです。
濵田:それでも、どうしても鳴らしたくないときは……?
辻先生:補食にも一定の効果が見込めます。こまめに食べて胃が空っぽになるのを防げば、あまり大きな音は鳴らないと思います。とはいえ、過度な補食は肥満の原因になり、大きな病気につながるリスクもあります。お腹の音を抑える意味で短期的な効果はあるかもしれませんが、長期的に見て体にいいかは別です(笑)
濵田:確かに。ちなみに私は、何も食べることのできないときには水を飲んで、その場を乗り切っています。食べるだけでなく、水を飲むことにも効果はあるのでしょうか。
辻先生:はい。胃に何かを入れると胃が張って消化モードに入ります。ただ、水だけだとすぐに流れていってしまうので、短時間の効果しか見込めないかもしれません。飴などをなめて血糖値を上げると、水だけよりも効果があると思います。
濵田:「胃をヒマにさせない」ということですかね。
辻先生:そうですね。ただし、あくまで「どうしてもお腹を鳴らしたくない場合」の対策として考えるのがよいでしょう。
濵田:基本的にお腹の音は健康的な反応ですもんね。
辻先生:自然な生理現象ですからね。日本人は特に、げっぷやお腹を鳴らすことを恥ずかしく感じる傾向が強いように思います。とはいえ、お腹の音が病気のサインのこともあるので難しいですね。
濵田:ポジティブに捉えて放っていたら、病気だった可能性もあるわけですね。
辻先生:そうですね。消化器は口からお尻までの1本の管なので、腫瘍や炎症でどこか1カ所でもできて狭くなると通過障害が起き、お腹が張ったり吐き気がしたりすることがあります。狭くなったところを無理やり通そうと胃腸が収縮するとキュルキュル、ギュルギュルと音がして、お腹の痛みなどの症状が出現します。このような場合は放置せず受診が必要です。
濵田:あとはストレスをかけないこと?
辻先生:はい。まだ解明されていないことは多いけれど、胃腸と脳や自律神経の間に密接な関係があるのは確かです。それらの仕組みがわかれば、よりしっかりお腹の音をコントロールできる可能性も出てくると思います。
濵田:なるほど。「姿勢をよくする」「適切な補食」「ストレスを遠ざける」。この3つを意識して、お腹の音と上手に付き合おうと思います。ありがとうございました!
お腹の音は健康のサイン!大切なのは上手く付き合うこと!
今回の取材を通して、基本的にお腹の音が鳴ることは健康のサインだと知りました。また、腸が「第二の脳」と言われるだけあって、胃や腸が繊細な臓器であることも学べました。
お腹の音と上手く付き合ううえでのポイントは、
①姿勢をよくする
②適切な補食
③ストレスを遠ざける
の3つ。ただし補食が多くなると肥満につながり、大病を招く可能性もあるので、あくまでほどほどにすることが大切です。
取材以降、3つのポイントやよく噛んで食べることを意識するようになりました。その結果、なんとなくですが、以前よりもお腹が鳴る頻度が減ったように思います。姿勢をよくすることやストレスを避けるといった行動は、お腹の音以外の面でもメリットがあるように感じています。
「お腹の音が鳴る=恥ずかしいこと」という先入観がなくなれば一番なのですが、恥ずかしさはそう簡単に払拭できないもの。お腹の音へのポジティブな理解が広がることを願いつつ、恥ずかしいと思うよりも「今日も私の胃腸は元気やなぁ〜!」と自分が健康である喜びを噛み締めながら、上手に付き合っていきます!
この記事を書いた人
濵田 乃(はまだ・のの)
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻 1年生。美味しい食べ物に目がない。趣味は野球観戦、音楽鑑賞、読書。阪神タイガースの大ファンで、老後は甲子園の近くに住むことが夢。
編集:人間編集部
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