2023.12.05
民間企業にも参画のチャンスあり。実業家・堀江貴文氏が語る宇宙ビジネスの魅力とは?
- Kindai Picks編集部
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2003年に創設され、日本の民間ロケットとして初めて宇宙空間への到達を達成するなど、現在、日本における宇宙事業の中で大きな飛躍を見せるインターステラテクノロジズ株式会社。そのファウンダーである実業家・堀江貴文氏が11月9日、近畿大学を訪れ、液体燃料ロケットの開発や、今後、宇宙関連の事業において重要になると予想される「宇宙の民主化」について講演を行いました。堀江氏が構想する宇宙事業の今後についても語られた、当日の様子をお伝えします。
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1972年10月29日、福岡県生まれ。
現在はロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、また予防医療普及協会の理事として、予防医療を啓蒙するなど さまざまな分野で活動する。
会員制オンラインサロン『堀江貴文イノベーション大学校(HIU)』では、約1,300名の会員とともに多彩なプロジェクトを展開している。
著書
『2035 10年後のニッポン ホリエモンの未来予測大全』『ChatGPT vs. 未来のない仕事をする人たち』『不老不死の研究』など
2023年11月9日、近畿大学は実業家・堀江貴文氏を迎え、「ホリエモンの新常識:宇宙✕研究✕ビジネス」と題した講演会を開催しました。
堀江氏がファウンダーを務めるインターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)で、現在、進められている宇宙事業の魅力やビジネスとしての有益性が詳細に語られ、来場者を釘付けに。司会は、宇宙キャスター®としてさまざまなメディアで宇宙の魅力を発信する榎本麗美氏が務め、学生たちに宇宙への関心を質問した後、堀江氏を紹介。後半では、ISTでインターンシップ研修を受けていた近畿大学の学生2人も登壇。学びについてのプレゼンテーションを行い、堀江氏のフィードバックを受けました。
スペースXが開拓。宇宙は今、100兆円規模の巨大マーケットに
登壇する堀江貴文氏
世界のロケットの打ち上げをはじめとする宇宙開発は、従来、NASAやJAXAといった政府主導の機関、もしくは航空・重工業関連の大企業が限定的に行っており、これらの組織はエスタブリッシュドスペース、もしくはオールドスペースと呼ばれています。
近年ではベンチャー企業やIT企業の進出も盛んになり、中でもイーロン・マスク氏率いるスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(以下、スペースX)は、民間企業で初めて有人宇宙船を国際宇宙ステーションに到達させるなど、ニュースペース(民間企業が展開する宇宙ビジネス)と呼ばれる勢力のトップランナーとなりました。
「スペースXが、宇宙ビジネスが盛り上がるきっかけを作ったことは言うまでもありません。日本円にして何千億円ものお金を集め、これまで研究者の間で理論的に実現できるといわれていた通信衛星コンステレーションを実用化したことは大きな功績です。
昔は高額だった人工衛星の部品が、スマートフォンに用いるMEMS(微小な電気機械システム)技術で安価かつコンパクトになりました。これによりスペースXでは、すでに大量生産できるようになった通信衛星を高頻度で打ち上げ、トンガ沖の海底火山噴火やロシアのウクライナ軍事侵攻でインターネット回線が寸断された際には、スターリンクという高精度の通信サービスを提供。着実に実績を上げています。
スターリンクは現在、約1,000万人のユーザーがいますが、まだまだ伸びしろがあり、来年度には2.4兆円の売り上げを見込んでいます。宇宙ビジネスというのは、もうそれぐらいの規模で運営する段階にきているんです」
司会を務めるのは、宇宙キャスター®の榎本麗美氏
数少ない枠を狙って日本企業ができることとは?
ニュースペースによる通信事業は、「総務省への免許の届け出が必要で差別化されにくいことから3〜5社で均衡している」と言う堀江氏。ITSや日本企業がスペースXに追随するには、「スマートフォンで宇宙経由のブロードバンド通信ができるようなソリューションを提供することが鍵となる。数少ない枠に入ることで100兆円規模の市場に参入することも夢ではない」と語ります。「宇宙には今、インターネット黎明期のような、ものすごいビジネスチャンスが転がっていると思います。宇宙ビジネスで日本が存在感を発揮するには、日本人、あるいは日本企業がアドバンテージを取れる業界で楽に勝負することが大事です。AIやライフサイエンスなど、欧米や中国に勝てないジャンルでわざわざ厳しい勝負をする意味はありません。
宇宙ビジネスは現在、競争相手が少ないのが魅力。人工衛星の打ち上げに使うロケットはミサイルに分類され、国家安全保障に関わってくるので製造にあたって輸出・輸入ができません。そのため国内でサプライチェーンを完結させなければいけないんです。現在、ロケットの部材を完全に国内で調達でき、打ち上げられる国は数えられるほどしかありません。
日本は製造技術においてアドバンテージがある上に、太平洋に面しているので打ち上げに対する自由度も高い。これだけの競争力を持っているからこそ、私は日本が宇宙ビジネスに参入する意義があると強くお勧めしています」
国をあげてビッグマーケットを開拓。宇宙ビジネスの未来とは?
堀江氏をはじめとした識者が政財界へのロビー活動を行い、日本でも政府による宇宙ビジネスへの支援が活性化。前年度には経済産業省と文部科学省から1,000億円を超える予算がつくなど、今後のさらなる展開が期待されます。「SBIR制度(中小企業技術革新制度)の枠組みで、ロケットの開発会社などに対して総額500億超えの補助金の支給が決定され、我々もファーストステップとして20億円をいただきました。今後、5年間で総額140億円の支援が保証されています。さらにいうと今年度の臨時国会で決議予定の補正予算17兆円のうち、1兆円を宇宙に使うことが明言され、そのうちの1,500億円でJAXAが基金を設立することが決まっています。
政府が投資するということは、将来的に100兆円にも達するようなビッグマーケットが宇宙の分野に生まれることを意味しており、ひいては民間のマーケットも活気づくことになります。だからこそ私は、今を置いて宇宙に出るタイミングはないと思っています。かつては宇宙に物資を運ぶ輸送ルートを確保するハードルが高かったため、民間企業では宇宙ビジネスに手が出せませんでした。ところが、スペースXが道を切り拓いたことで宇宙は身近な存在となり、これまで夢物語と思われていた事業が可能になりました。
工学、物理学をやっている人は、今後は頭の片隅にこういった情報を絶対に入れておいたほうがいいと思います。それぐらい今、宇宙は熱い分野になっています。ぜひ、興味を持って参画してください」
ISTでのインターンシップを終えた学生たちのプレゼンテーション
講演に続いては、ISTでのインターンシップに参加した学生の中から代表2人が登壇。インターンで得た学びと気づきについてプレゼンテーションを行い、堀江氏からのフィードバックを受けました。
最初にプレゼンテーションを行ったのは、近畿大学理工学部理学科物理学コース3年の松井怜生さん。かねてから宇宙業界に興味を持ち、所属コースの物理学講師の勧めでインターンに参加しました。
インターンでは、ニュースペースの宇宙進出目的には、宇宙外交、宇宙ビジネス、宇宙探査の3項目があること、そして、その目的に向かうために多様な手段を選んで自走することの重要性を学びました。効率よく働き、興味がないことには触れないと考えていた松井さんにとって、ISTでの日々は「自分の興味外のことにも学ぶべきことがあるので、さまざまな分野にチャレンジすべき」という気づきを得る機会であったと語ります。
堀江氏からは「宇宙は目指すものではなく、今すぐやるべきビジネス。もし宇宙に興味があるのなら関連企業に押しかけ、入り浸るぐらいの熱量で臨むべき。後先考えないで動けるのは今しかないので、頑張ってください」とアドバイスを受けました。
2番目は近畿大学総合理工学研究科博士前期課程の岸本拓海さん。現在、研究している人工衛星やISS関連の知識を生かしたいと、インターンへの参加を決意しました。
現地では燃料タンクの圧力試験に使用する足場制作などを経験。雨天後、ブルーシートに溜まった水を取り除こうと内部に潜り込んだことで注意を受け、危険予測の重要性を理解しました。また、日本でも珍しい、自社でロケットの製造・打ち上げを一貫して行うISTの事業方針に着目し、ゼロからものを作ることの意義を学びました。
堀江氏からは「宇宙ビジネスは、まだ民間企業の参画が少なくプレイヤーも少ないので非常にやりがいがある。ただ、ISTのようにロケット開発を自社で行っていないと日本では宇宙への進出が難しい。工学・物理学の知識と柔軟な発想を持って、ぜひ、そういった自社で開発する企業で活躍してほしい」とエールを受けました。
学生たちの起業アイデアを堀江氏がジャッジ! 「学生起業家がホリエモンに挑む! ピッチイベント」
第2部では、2022年10月にオープンした近畿大学発ベンチャーの創出拠点「KINCUBA Basecamp」へと移動。近畿大学在学中からすでに起業している、もしくは起業を希望している学生が堀江氏に事業内容をプレゼンテーションするピッチイベントが行われました。
最初に登壇した経営学部会計学科2年生の細見朋暉さんは、学生アスリートとプロのコーチを仲介するスポーツトレーニングサービスを提供する株式会社TOPASを立ち上げました。学生の能力向上とスポーツ界の発展に寄与することを目標としています。堀江氏からは「達成目標を少し高めに設定しているように感じる。サービス対象者の満足度を上げるのが難しい分野だと思うので、野球が好きなら野球に、それもピッチャーだけに絞るなど、対象を限定してやってみては?」とアドバイスを受けました。
2番目の東徳人さんは、大学院実学社会起業イノベーション学位プログラムの1年生。Boo Boo Factory株式会社で、3Dプリンタによる大型ルアーの受注生産サービスを展開しています。ルアーの精度に感嘆した堀江氏からさまざまな質問が飛び出し、「マニアックでニッチな世界だけど、このまま進めていけばいいと思います」と激励の言葉が寄せられました。
3番目に登壇した総合社会学部総合社会学科4年生の田畑蓮さんは、インバウンドの富裕層を対象にしたゴルフ場マッチングサービスを準備中。経営が傾いたゴルフ場を購入し、インバウンド対応にリニューアルというアイデアに、堀江氏は「課題は多いが目の付け所がいい。日本は自然が多く、ご飯もおいしいのでグルメ付きのゴルフコンペのパッケージツアーをやってみてはどうだろう」と具体的なアドバイスを送っていました。
続いては経営学部経営学科3年生でwakabar株式会社を運営する杉山誠一郎さんが、子どもの自転車のひとり運転をサポートするサービスを紹介。自転車に付けて行動履歴を追うデバイスを開発し、2025年に正式リリースを予定しています。堀江氏は「専用デバイスを買わせるのはハードルが高いかも。スマートウォッチと連動して、危険地域を通ったらマップアプリでアラートするようなシステムも考えてみては?」と通信のプロフェッショナルとして感想を述べていました。
最後に登壇したのは、大学院農学研究科1年生で株式会社POIを起業した清水和輝さん。昆虫食に着目し、コオロギ食や蜂の子の栄養を使ったサプリ開発をプレゼンテーションしました。堀江氏は、交流のある株式会社TOMUSHIの例を挙げ、「コオロギは、まだ抵抗がある人が多い。私は昆虫ビジネスならカブトムシがお勧め。幼虫は魚の食い付きがいいし、油分に精力剤成分もあるので、一度やってみたらいいですよ」と提案していました。
宇宙ビジネスから学生起業まで、未来を担う人材に向けて堀江氏が語ったアドバイスは、金言といえるべき内容が盛りだくさん。多くのヒントを得た学生たちは、移りゆく社会の中で、堀江氏の言葉を思い出しながら夢の実現に向けて邁進することでしょう。
当日の動画はこちら
取材・文:タカ・タカアキ
写真:西島本元
編集:人間編集部
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