木走日記

場末の時事評論

村上春樹氏「日本は相手国が納得するまで謝罪すべき」発言に見る見事なストラテジー&タクティクス

一週間前に、作家である村上春樹氏のインタビューが「時代と歴史と物語と」と題して共同通信が配信いたします。

 4500字を超える長文インタビューであります。

 提携新聞各紙は、東京新聞(17日)、西日本新聞(19日)、神戸新聞(21日)など紙面掲載日はまちまちでありますが、大きく取り上げています。

(参考記事)

村上春樹さん、時代と歴史と物語を語る<上> 地下鉄サリン20年
http://www.47news.jp/localnews/hyogo/2015/04/post_20150421075128.html
※神戸新聞会員限定記事です。

 さてこのインタビュー、ネットでも賛否両論大きな話題となっておりますが、当該箇所をご紹介。

 まず、「村上さんほど、東アジアと日本の関係を考えて書き続ける作家はいない」との問いに「東アジア文化圏」は「すごく大きくて良質なマーケットになるはず」と答えています。

 −デビュー作「風の歌を聴け」の「僕」たちが集まるバーのバーテンは中国人。最初の短編集の名が「中国行きのスロウ・ボート」。「スプートニクの恋人」では在日韓国人の女性が重要な役割で登場する。村上さんほど、東アジアと日本の関係を考えて書き続ける作家はいない。近年の東アジアの状況をどのように考えていますか?

 村上 東アジア文化圏にはとても大きな可能性があります。マーケットとしても、すごく大きくて良質なマーケットになるはずです。いがみ合っていても何も良いことはありません。

 続けて「今、東アジアには大きな地殻変動が起きてい」ると語ります。

 −歴史認識の問題についてはどう思いますか?

 村上 今、東アジアには大きな地殻変動が起きています。日本が経済大国で、中国も韓国も途上国という時には、その関係の中でいろんな問題が抑え込まれていました。ところが中国、韓国の国力が上がって、その構造が崩れ、封印されていた問題が噴き出してきている。相対的に力が低下してきた日本には自信喪失みたいなものがあって、なかなかそういう展開を率直に受け入れることができない。

 そして「歴史認識の問題はすごく大事なことで、ちゃんと謝ることが大切」と指摘、「相手国が「すっきりしたわけじゃないけれど、それだけ謝ってくれたから、わかりました、もういいでしょう」と言うまで謝るしかないんじゃないか」と続けます。

 −日中韓のバランスの基盤が新しくできるまではいろいろある?

 村上 落ち着くまでにはかなりの波乱があるでしょうね。中国経済がこのまま成長していくかどうかもわかりません。軍事力のバランスがどこで落ち着くかもわかりません。ただ歴史認識の問題はすごく大事なことで、ちゃんと謝ることが大切だと僕は思う。相手国が「すっきりしたわけじゃないけれど、それだけ謝ってくれたから、わかりました、もういいでしょう」と言うまで謝るしかないんじゃないかな。謝ることは恥ずかしいことではありません。細かい事実はともかく、他国に侵略したという大筋は事実なんだから。

 このインタビューを受けて韓国メディアが加熱します。

 朝鮮日報は東京新聞掲載日の翌日には、「ノーベル文学賞候補に毎年挙げられている日本の人気作家、村上春樹氏が17日、東京新聞との単独インタビューで」「日本は相手国が納得するまで謝罪すべき」と述べたと速報します。

(参考記事)

村上春樹氏「日本は相手国が納得するまで謝罪すべき」
「相手国が『もういい』と言うまで謝り続けなければ」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/04/18/2015041800658.html

 共同通信配信記事ですから「東京新聞との単独インタビュー」というのは誤りですが、それはともかくハンギョレ新聞も速報で大きく取り上げています。

(参考記事)

村上春樹「日本は周辺国にきちんと謝るべき」
 敗戦70周年「安倍談話」控え、謝罪・反省を促す
 「侵略したという大筋は事実…
 謝罪は恥ずかしいことではない」
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/20359.html

 中央日報に至ってはこのインタビューの内容を受けて社説にて「安倍首相、村上春樹氏の良心の声に耳を傾けるべき」とのタイトルで取り上げています。

【社説】安倍首相、村上春樹氏の良心の声に耳を傾けるべき
http://japanese.joins.com/article/201/199201.html?servcode=100&sectcode=110

 一方、この発言は中国でも話題になっています。

 「良識がある日本人もいる」など、村上春樹氏の「日本は謝罪すべき」コメントに、称賛する声が多数よせられているようです。

(参考記事)

「良識がある日本人もいる」・・・村上春樹氏の「日本は謝罪すべき」コメントに、中国ネット民から称賛する声多数=中国版ツイッター
http://news.searchina.net/id/1570530?page=1

 記事より中国ネットユーザーのコメントをいくつかご紹介。

 「歴史を尊重し、認めてくれる人よありがとう」

 「最愛の日本人小説家の1人」

 「日本もすべてが愚かなわけではない……村上氏の本を買わねば」

 「彼にノーベル文学賞を与えるべきだ」

 「彼の作品を多く見たがどれも素晴らしい。でも政治にかんする作品はとても少なかった。それが今回中韓などの国に謝罪すべきと語った。確かに良知のある作家だ。すばらしい!」

 「村上春樹はいい『樹』だね」

 「日本に欠けているのは謝罪ではなく懺悔。最も欠けているのは、歴史を教訓として平和を守ること」

 「日本人は中韓が今なお謝罪のみを求めている段階であることを幸いと思うべき」

 このサーチナ記事は日本人スタッフが編集していますが、記事の結びがウィットに富んでいて、私好みなのでご紹介。

 もともと中国国内で人気があり、翻訳された作品の数々がベストセラーとなっている村上氏だけあって、今回発せられたとされるコメントはより多くの中国ネットユーザーの心をつかんだようだ。(編集担当:近間由保)

 ・・・

 ふう。

 ご立派としか言えません。

 次期ノーベル賞候補作家村上春樹氏が展開する見事な国際マーケティング戦略です。

 ノーベル賞を睨んでインターナショナルな支持を獲得しつつ、かつ本の売上にも直結させる。

 うむ、完璧なストラテジー&タクティクス(意味不明?)であります。

 当ブログでは過去に何回か村上春樹氏のこうした「政治的」発言について、「熱く考察」してまいりました。

(参考エントリー)

2015-04-07 深遠なるテーマ「村上春樹が大江健三郎化する理由」を熱く考察する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20150407

2012-09-30 「利(益)は中国に有り」〜尖閣で日本政府批判をする無責任なアウトサイダーたち
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120930

 2012年のエントリーでは、当時、日本政府批判を繰り返す著名な三者、大江氏、村上氏、経団連会長である米倉弘昌氏、の共通項は「中国大陸でたくさんお金を稼いで」いること、ズバリ彼らの心根は「利(益)は中国に有り」だとその本質を分析しています。

 まず最初に申し上げたいのはこの国では中国とは違い「言論の自由」が認められています。

 ですので、どのようなタイミングで誰が何を発言しようと人格中傷などの法を犯さない限りそれは自由です。

 その上でですが、この日本政府を批判する三者についてその行為を批判いたしたいと考えます。

 ノーベル賞作家である大江氏、次期ノーベル賞が期待されている作家である村上氏、経団連会長である米倉弘昌氏、この三者にはふたつの共通項があります。

 まず彼らは領土問題において日本国家に忠誠心など持ち合わせていません。

 大江氏と村上氏は作家であり、反国家・反権力を売りにしているいわば社会のアウトサイダーです。

 彼らは自らの感性には忠実であろうとも、権力や国家などに対する忠誠心は極めて希薄です。

 一方、経団連会長である米倉弘昌氏も、日本国家の利益よりも経団連に代表される大企業の利益をこそ優先されるべきとの信念をお持ちです、やはり一般人とは価値観が異なる社会のアウトサイダーです。

 また彼らは中国大陸でたくさんお金を稼いでいます。

 中国様様の経団連については細かく言う必要もないですが、実は村上氏の本も大江氏の本も中国でたくさん売れています。

 朝日に掲載された村上氏のエッセーでは、中国の書店から日本関係書籍が姿を消す事態にショックを受けています。

 日本政府の尖閣諸島国有化で日中の対立が深刻化する中、北京市出版当局は今月17日、日本人作家の作品など日本関係書籍の出版について口頭で規制を指示。北京市内の大手書店で、日本関係書籍が売り場から姿を消す事態になっていた。
 エッセーはまず、この報道に触れ、ショックを感じていると明かす。 
 大江氏などの作家の先生が反国家・反権力を売りにするのはけっこうです。

 大江氏などの作家の先生が反国家・反権力を売りにするのはけっこうです。

 しかし文学者が畑違いの外交・防衛問題で政府批判をメディアで発表したり記者会見を開くなど公(おおやけ)の場で開陳するのはいかがなものでしょうか。

 それこそ個人の日記にでも想いをしたためていたらどうでしょう。

 米倉氏にもいいたい、そんなに中国で商売したいなら企業ごと中国に移転すればよろしいでしょう。

 この3者に共通しているのは、日本社会の構成員でありながら日本社会を批判することを厭わない無責任なアウトサイダーだということです。

 彼らにとって、利(益)は中国に有り、なのです。

 そして2015年のエントリーでは「村上春樹の大江健三郎化」について熱く考察しております。

 さて、「村上春樹の大江健三郎化」であります。

 明らかに村上氏は「C層リベラル穏健派」から大江健三郎氏が属する「A層リベラル強硬派」への道を歩んでいます。

 上下の移動はこれは心理的ハードルが高いはずなのですが、村上氏はおそらく心理的にはかなり無理して自らの大江健三郎化を企てているように思えます。

 村上春樹はなぜ政治的立ち位置で大江健三郎を目指すのでしょうか。

 なぜか?

 当ブログはその答えを、ズバリ「ノーベル文学賞」獲得にあると邪推しております。

 これは当ブログだけの邪推ではありません。

 評論家で作家の小谷野敦氏は、過去になぜ大江がノーベル賞を受賞できて村上が毎回落選するのか、その理由の一つに作家の「政治的な立ち位置」を挙げています。

 「ノーベル賞委員会は、少し左寄りである」のだそうです。

  さらに政治的な立ち位置も関係している。小谷野に言わせると「ノーベル賞委員会は、少し左寄りである」という。たとえば、アメリカで初めてノーベル文学賞を獲ったシンクレア・ルイスや、授与されたが辞退したサルトルも、社会主義的だった。日本では保守派と見られる川端康成も「その辺はぬかりなく、戦後は平和主義の仮面をかぶり続けた。ノーベル賞をとってしまうと地金が出て、(略)以後日本ペンクラブは右寄りに」なったという。
 当時大江健三郎はペンクラブを一度退会しているのだが、その後またペンクラブが左寄りに戻ると、戻ってきて理事になっている。そして「1984年には反核声明を出すなどしているし、大江は原爆、沖縄などを問題視する平和主義者としてふるまい、ノーベル賞にこぎつけた」

(参考記事)

今年も落選!村上春樹はそもそもノーベル文学賞候補ではないとの説が!?
http://news.livedoor.com/article/detail/9344101/

 ・・・

 大江健三郎化を目論む村上春樹の狙いはズバリ、ノーベル文学賞獲得のためだと、当ブログは考えます。

 今回は 深遠なるテーマ「村上春樹が大江健三郎化する理由」を熱く考察させていただきました。

 え? どうでもいいって?

 長文失礼しました(汗

 ふう。

 これらのエントリーで村上春樹の政治的発言を批判的に考察するたびに、「木走、お前春樹の本ろくに読んでないだろうが」などという核心に迫る村上春樹フアンからの大ブーイングと、一部からの「下世話過ぎてワロタ」などという賞賛(?)を頂いてきたわけです。

 しかしです、読者のみなさん。

 今回の村上氏のインタビュー記事内容と韓国・中国の反応を検証して、私は確信を持ったんでございます。

 村上春樹氏は稀代の商売上手であるのです。

 やはり彼は天才なのであります。

 文才だけでなく商才をも併せ持っている、しかもノーベル賞獲得への最短ステップは何か、しっかりと戦略を立てているのであります。

 高貴なる彼の目標の前では、時の政権と対峙しようがそんなこたあ、些細な小ごとです、小さい小さい。

 日本よ、日本政府よ、日本人民よ。

 中国・韓国に謝り続けるのです。

 永遠に?

 そう、相手国が納得するまでです。

 でも、それでは日本国民もかわいそうですから、当ブログで勝手に期限を設けて差し上げましょう。

 ズバリ今世紀中は謝り続けるのです。

 2100年までです。

 そこまでで十分でしょう。

(著作権の保護期間)

著作権の消滅(終期)
終期の原則
著作権は、著作者が死亡してから50年を経過するまでの間、存続する(51条2項)。ベルヌ条約7条(1)に対応する規定である。

 ・・・

 ふう。



(木走まさみず)