木走日記

場末の時事評論

「鉄砲玉」なのか「無鉄砲」なのか増田美智子氏

 7日付け毎日新聞紙面記事から。

山口・光の母子殺害:「実名本、差し止めを」 元少年側が申請

 99年に起きた山口県光市の母子殺害事件を巡り、被告の元少年(28)を実名表記したルポルタージュ本について、元少年側が5日、広島地裁に出版差し止めなどを求める仮処分を申し立てたことが分かった。出版社・インシデンツ(東京都日野市)や著者の増田美智子さん(28)は実名表記について、元少年の承諾を得たと主張しているが、元少年の意向を受け申し立てをした弁護士は6日、「少年は許可していないと話している」と反論した。

 元少年の弁護団長を務める本田兆司弁護士(広島弁護士会)は「少年法に基づき、実名報道は許されるものではない。本人は出版前に原稿を見せてもらって実名掲載の可否を決めるつもりだったが、原稿は見せてもらえなかった。本人は承諾してはいない」と話した。【寺岡俊】

 ◇「承諾を得た」著者は主張
 増田さんは6日、東京都内で会見し、出版差し止めの仮処分申請について「(実名について元少年の)了承は得ている。事前検閲しようとの意図があるのだと思う。報道の自由に対する重大な侵害行為だ」と批判した。

 増田さんは一橋大職員。08年8月〜09年8月、元少年との25回の面会で「実名(報道)でも構わない」と了解を得たという。

 少年事件の実名報道が少年法で禁止されていることについては「週刊誌報道で既に実名が出ている。少年法の意義は否定しないが、世間のイメージとは違う(元少年の)実像を知ってもらうため、実名で報じるべきだ」と説明した。本は初版4000部が発売される予定で、早ければ7日から店頭に並ぶ。【伊藤一郎】

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20091007ddm041040102000c.html

 この山口県光市の母子殺害事件を巡り、被告の元少年(28)を実名表記したルポルタージュ本ですが、著者の増田美智子さん(28)は「(本人の)承諾を得た」と主張しているようですが、この人の会見の様子を見るに付け、純粋に真摯に信念を持っていることは理解しますが、どうにも危ういなあ、またどこかのおじさんにそそのかされたのではないかなあ、と穿って見てしまいました、率直に私はジャーナリストとしての彼女の今後が心配であります。

 本件の是非はここでは論じませんが、本エントリーでは著者の増田美智子さんについて取り上げたいです。

 もちろん、不肖・木走オヤジは増田美智子さんとは何の面識もありませんが、しいて言えば、インターネット新聞JanJanの元市民記者同士であったという淡いつながり(苦笑)を持っています。

 もっとも編集部とぶつかってばかりいた問題児記者であった私とは違い、彼女はJanJan編集部職員つまり正規のお抱え記者であったのですが、2年半前、ある事件をきっかけに彼女はJanJan編集部に辞職届けをたたきつけ辞めたのであります。

 先に私が「どうにも危ういなあ」と感想を述べたのは、彼女がJanJanを辞めたときの当時のいきさつと今回の会見がシンクロしてしまったこともあるかも知れません。

 ・・・

 当時、オーマイニュース編集長だったジャーナリストの鳥越俊太郎氏がその職を辞するという情報が、JanJan編集部に垂れ込みがあり、そのスクープ記事をインターネット新聞JanJanが掲載したのは、2007年01月11日のことでした。

鳥越編集長、辞任へ 後任決まらず〜迷走続くオーマイニュース
http://www.news.janjan.jp/media/0701/0701110911/1.php

 JanJan編集部は垂れ込み情報の裏を取るためにお抱え市民記者を動かし、鳥越俊太郎氏に電話取材、辞任の確証を得たとしてスクープしたものでした。

 この記事の担当記者こそ増田美智子さんなのであります。

 ところが、この記事はオーマイニュースから事実無根と抗議され、また鳥越俊太郎氏自身もその後の取材に対し辞任を否定、逆に増田美智子さんに対して「訴えるぞ」と恫喝まがいの発言をします。

 ことは、オーマイニュースVSJanJanという、ネットメディア同士の泥仕合となりました。

 そのあたりの経緯は当時の当ブログで詳細をまとめておりますので、興味のある読者はどうぞご一読を。

■「オーマイニュース」VS「JANJAN」〜大嘘つきはどっちだ?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070112/1168569774
■「オーマイニュース」VS「JANJAN」(2)〜よもや鳥越編集長が大嘘つきだったのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070114/1168747310
■「オーマイニュース」VS「JANJAN」(3)〜君たちに「正義」など誰も期待していない
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070119

 で、話がややこしくなってくるのは、事件が時間経過とともに、鳥越氏は一市民記者である増田美智子さん個人の責任問題として、またJanJan編集部も大人の対応なのかわかりませんが、事態の収束を計ったのでしょう、本件に関して沈黙をするようになります。

 で、当時鳥越氏はJanJanというメディアではなく一市民記者である増田美智子さんを個人的に「訴えるぞ」と脅かしたのに対し、私はそれは筋がちがわないかと、JanJan編集部の無責任な沈黙とともに鳥越氏の態度を批判しました。

(前略)

●笑止千万なJANJAN編集部のチキン振り

 しかしなあ、鳥越氏も「記事を書いたのはあなただから、あなた個人を訴える。すでに弁護士にも相談している。訂正するなら今のうちだ」などと、JANJAN・増田美智子記者の電話再取材で恫喝まがいの発言をされたらしいですが、これね、増田美智子記者を個人攻撃するのは筋違いでしょ。

 確かに記事書いたのは彼女でしょうけど、間違いなく彼女はJANJAN編集部の意向を受けて取材しただけで本件でJANJAN編集部が深く関与しむしろ主体的に動いていたことを知らないのでしょうか?

 つまりね、喩えれば出前で頼んだカツ丼に虫が入ってた、ケシカランと、「出前持ち(増田美智子記者)」を怒鳴りつけても仕方ないのであって、怒るならカツ丼を調理した「お店(JANJAN編集部)」を相手にしないとラチがあかないのと同じなのです。

 私は市民記者としてJANJAN編集部と何度も記事掲載に関わるやり取りをしてきましたから、今回のスクープ記事におけるJANJAN編集部の意気込みみたいなものがよく理解できるのです。

 まずジャーナリスト寺澤有氏が本件の情報提供した相手は、間違いなくJANJAN編集部に対してであり、一市民記者増田美智子氏ではないはずです。

 増田美智子氏には失礼ながら寺澤有氏の明かした内容や鳥越氏の携帯電話番号まで入手していることから、これは容易に推測できることです。

 そしてJANJAN編集部は通常の市民記者ではなくお抱え専属記者の増田美智子氏を指名して、JANJAN編集部のシナリオ通りの取材をさせ、記事内容もJANJAN編集部の徹底した推敲のもとで掲載されたのは、ほぼ間違いありません。

 なぜ私が言い切れるかと言えば、実は私も市民記者としてJANJAN編集部から依頼を受け頼まれて特定の記事(ある著名な書評記事)を書いた経験があり、また編集部が興味を持った記事が徹底的にJANJAN編集部により推敲されてしまった経験があるからです。

 今回の取材は用意周到に録音までさせていることから、JANJAN編集部により準備万端の体制で行われたのでありましょう。

 ・・・

 しかし、JANJAN編集部が情けないのは、オーマイニュースからの抗議を無視し当該記事を2日に渡ってトップーページにさらし続け、さらには増田美智子氏に反論記事も書かしておきながら、自分たちはじっと穴の奥に隠れて安全な場所に避難しているんですよね。

 鳥越氏は興奮して勘違い(苦笑)していますが、これは明らかに一市民記者の問題ではないのですから、JANJAN編集部は堂々と見解を示すべきなのです。

 まさに笑止千万なJANJAN編集部のチキン振りなのであります。

 ふう。

 やれやれでございます。

(後略)

「オーマイニュース」VS「JANJAN」(3)〜君たちに「正義」など誰も期待していない より抜粋

 この後、増田美智子氏は再度の反論記事を起こしますが、その掲載をJanJan編集部に却下されるに及び、JanJanを辞職するに至るのです。

 その当たりを当時のエントリーから抜粋。

 オーマイニュース編集長・鳥越俊太郎氏およびJANJAN編集部は、責任を全て一市民記者にかぶせるつもりなのでしょうか?

●23日付けで『JANJAN』編集部に辞表を提出した増田美智子記者と『JANJAN』編集部が没にした増田美智子記者のマボロシ記事の驚くべき内容

 今回の騒動の発端となった11日付けの増田美智子記者によるインターネット新聞JANJANに掲載されたスクープ記事の情報提供者であるジャーナリストの寺澤有氏が、昨日(23日)自身のブログで、「増田氏は本日(2007年1月23日)付で『JANJAN』へ辞表を提出した。」ことを明らかにいたしました。

(後略)

■[メディア]一市民記者を辞任に追いやった「恫喝」と「沈黙」〜鳥越俊太郎氏とJANJAN編集部は責任を全て市民記者にかぶせるつもりか! より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070124/1169608510

 結局この事件は、鳥越氏も訴えることなく、一人の市民記者が矢面となり辞職しただけで、うやむやな結末となったわけです。

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 実は、2年前このJANJANに掲載されたスクープ記事の情報提供者であるジャーナリストの寺澤有氏こそ、今回の山口県光市母子殺害事件実名表記ルポルタージュ本の出版社・インシデンツ(東京都日野市)の代表なのであります。

 寺澤有氏は知る人ぞ知る実名主義者であります。

 ・・・

 もちろん、著者の増田美智子さんは信念を持って主体的に取材し、覚悟を持って実名をタイトルに入れたのでありましょう。

 しかし2年前の件も結果的にはJanJanの矢面にたたされたし、今回の件も裏に寺澤有氏というジャーナリストの存在が見え隠れすることはどうにもこうにもです。

 もちろんご本人は主体的に活動しているのでしょうが、捨て身の彼女の会見を見ていると、なんか「鉄砲玉」という言葉が浮かんでくるのです。

 それとも「無鉄砲」かな・・・



(木走まさみず)