木走日記

場末の時事評論

名寄せプログラムの嘘〜文芸春秋今月号の驚くべきスクープ記事

●「指導力なし」福田首相(産経記事)〜内閣支持31%に急落(朝日記事)

 本日(21日)の産経新聞記事から。

肝炎…独法… 「指導力なし」福田首相はダブルパンチ
2007.12.20 19:56

 薬害C型肝炎訴訟の和解交渉の決裂と独立行政法人改革の後退−。福田康夫首相は20日、「政治決断」を求められた2つの局面で、目に見える形で指導力を示すことはなかった。「官僚寄り」「民に冷たい」との印象が強まり、政府の対応には与党内からも不満が出始めている。年金統合問題などを受けて内閣支持率が急落する中、福田政権は一層の逆風にさらされようとしている。

 「公務員いじめをしているような世の中ではいけない」

 首相は20日、地元・群馬県の上毛新聞の新春用インタビューでこう述べ、官僚擁護の立場を強くにじませた。

 首相はもともと、父の故赳夫元首相が旧大蔵官僚出身とあって「官僚寄り」と指摘されてきたが、この日決断を迫られていた「肝炎」と「独法」への対応が「官僚に徹頭徹尾、踊らされてきた首相の姿を露呈させた」(自民党中堅)といえる。

 首相は20日夜、肝炎訴訟の和解協議で原告側が政府の修正案を拒否したことを受け「再び薬害が発生したことに被害者に申し訳ない。これで私どもは終わるとは思っていない。大阪高裁の判断であれば柔軟に対応する。原告にも応じてほしい」と記者団に語った。

 和解協議への対応について首相は、「原理原則」に固執する厚生労働省の言い分に耳を貸し、最後は舛添要一厚労相にゲタを預けた。原告団が求めている「司法の判断」を超える政治決断には至らず、首相の口からは「私の判断」という言葉は一度も聞かれなかった。

 町村信孝官房長官は20日の記者会見で「(政府案は)三権分立の観点から司法の判断を尊重し、骨子案と矛盾しないギリギリの案だ」と強調したが、「決断できぬ首相」の姿勢は自民、公明両党にきしみも生んだ。

 自民党の伊吹文明幹事長は記者団に「国が被告として和解案に(金額を)プラスした方がいいと政治決断をした。司法のルールにのっとってやらないといけない」と述べたが、公明党の北側一雄幹事長は「長年苦しんできた感染者の気持ちに十分応えられていないのは事実だ」と政府の対応を暗に批判した。複数の公明党幹部からは「官僚の言いなりになって原告に冷たい」「首相は支持率を上げる絶好機を逃した」などとの強い反発が噴出した。

 一方、独法改革でも首相は渡辺喜美行政改革担当相に対応を任せ続けてきた。一部の独法は廃止・統合されるが、独法改革に突っ走る渡辺氏と、独法維持を譲らない関係閣僚との対立ばかりが注目された。結局、独法見直しに抵抗する官僚の意をくんで、都市再生機構など2法人の扱いが先送りされる見通しが強まっている。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/071220/plc0712201957013-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/071220/plc0712201957013-n2.htm

 うーん、「公務員いじめをしているような世の中ではいけない」ですか。

 ・・・

 守谷事務次官問題や年金問題で官僚批判の高まっているこの最悪の時期に、官僚擁護の立場を強くにじませた福田首相の庶民感覚の無さは致命的ですね。

 このような責任能力のない指導力不在の政治を露呈しては内閣支持率急落もやむをえますまい。

 本日(21日)の朝日新聞記事から。

内閣支持31%に急落、不支持48% 本社世論調査
2007年12月20日22時39分

 朝日新聞社が19、20の両日実施した全国世論調査(電話)によると、福田内閣の支持率は31%と今月1、2日の前回調査の44%から急落し、不支持率は48%(前回36%)と半数近くに増えた。福田内閣で不支持が支持を上回るのは初めて。「いま総選挙の投票をするとしたら」として聞いた比例区の投票先は民主が38%(同32%)で、自民の23%(同32%)に大差をつけた。これほどの差は安倍内閣当時もない。年金記録問題への対応などで政府や自民党への逆風が強まっている。臨時国会の焦点である補給支援特措法案についても衆院での再議決で成立をめざすことに否定的な見方が増えた。

 福田内閣の支持率は発足当初は53%で、歴代内閣でも比較的高い水準だった。その後も4割台を維持していたが、発足3カ月で安倍内閣末期の水準にまで落ちた。不支持の理由では「政策の面」が57%と際立って高い。

 年金記録問題では、宙に浮いた5000万件のうち照合困難な記録が約2000万件にのぼることが明らかになった。このことについて「公約違反だと思う」は60%で、「そうは思わない」の30%を大きく上回った。年金記録問題への福田内閣の取り組みを「評価する」は36%にとどまり、「評価しない」は46%。福田内閣のもとで国民の年金への不信が解消に向かうと期待できるか、と聞くと、「期待できない」が72%に達し、「期待できる」は17%にすぎない。

 発足当初の調査では、福田内閣の年金問題への取り組みに「期待する」は67%と高かったが、実際の取り組みや今後への期待について有権者の見方は厳しく、内閣の実行力に疑問符をつけているといえそうだ。

 こうした状況で、総選挙の時期などをめぐる見方にも変化が出ている。「早く実施すべきだ」は39%(前回34%)とやや増え、「急ぐ必要はない」は48%(同55%)だった。民主支持層は「早く実施すべきだ」が69%、自民支持層は「急ぐ必要はない」が71%と対照的だった。望ましい政権の形は「民主中心」が41%(同36%)に増え、「自民中心」は28%(同37%)に減った。福田内閣発足後は両者互角だったのが「民主中心」に振れた形だ。

 政党支持率は自民27%(同31%)に対し、民主25%(同23%)。そのほかの政党は公明3%、共産2%、社民1%など。

http://www.asahi.com/politics/update/1220/TKY200712200359.html

 うむ、やはり宙に浮いた5000万件のうち照合困難な記録が約2000万件にのぼることが明らかになったことが大きく支持率急落の要因になっているのでしょう。

 ・・・



●全件の照合など永遠に困難

 年金問題では、当ブログでは当初から全件の照合など永遠に困難であると再三指摘してまいりました。

 6月1日付けエントリーより抜粋。

■[社会]原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身

(前略)

つまりです。

 自治体関係者から私が収拾した原簿破棄の情報を時系列に整理するとこういうことです。

 60年代後半から全国の「年金台帳」は機械化(←古い言い方ですがお役所は好むんですよ、いわゆる電子化ですね)を計り、まず全ての台帳のマイクロフィルム化をしていきました。

 ついで社保庁、各地社会保険事務所、各自治体は台帳管理のシステム化を順次行い80年代中くらいまでに大体達成していきます。

 この段階で氏名や生年月日の入力ミスが続発するわけですね。

 で、まだ漢字が扱えないシステムではカナ情報で管理したり大変だったようですが、一応は電子化が進んでいきます。

 そして、後々墓穴を掘ってしまうわけですが、85年9月に課長名で都道府県の年金担当者に通知を出して、「入力済みの原簿(手書き年金台帳)は全て破棄せよ」というおバカな指示を出しちゃったんですね。

 この時点で相当多数の自治体が原簿を破棄したでしょう。

 で、時が流れて97年、データ統合により、すべての年金データを自治体から社会保険庁に移管するときに、5000万件を超える名寄せ失敗の「宙に浮いたデータ」を発生させてしまいます。

 この段階で社会保険庁がことの重大さに気付き善後策をとっていたらまだ今日の悲惨な事態は避けることができたでしょう。

 しかし社会保険庁はまったく対策を講じませんでしたので、この時点でまだ原簿を持っていた良心的な多くの自治体も、今となっては大切な原簿なのですが、破棄してしまった可能性が高いのです。

 社会保険庁にもはや移管されたし、社会保険庁からは保管命令どころか85年にいち早く破棄命令が下っていたんだから、これは自治体には何も責任はないですよね。

 そして、我等が社会保険庁は、5000万件を超える名寄せ失敗をその後10年放置してきたのであります。

 ・・・

 5000万件を超える名寄せ失敗ですが、それでも原簿さえあれば時間が解決してくれましょう。

 電算化された記録に不備や欠陥があったら、どんなに面倒であっても原本である手書きの台帳と突き合わせ、照合作業をすればよいのです。

 しかし、読者のみなさん、上記のとおり、この貴重な原簿は、社会保険庁のおバカな原簿を破棄せよという命令もあって、少なからずの原簿がこの世にはもうないのであります。

 ・・・

 これを「人災」といわないでなんと言えばいいのでしょう?

 5000万件を国の責任としてゼロにするなんて中川秀直幹事長は啖呵きっちゃってますが、ゼロ件になんて永遠にできませんから(苦笑

 くどいですが、原簿がないんだもの(苦笑

 そして、原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身なのです。

(後略)

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070601/1180687074

 再度申し上げますが、年金問題は社保庁による「人災」であり、一にも二にも歴代の年金官僚達に責任があるのは自明のことです。

 舛添要一厚労大臣らは、このところ「(参議院)選挙の時のスローガン」などと苦しい答弁を強いられていますが、そもそも本来なら、このような修正を行う前に、実現不可能な政策を公表させた年金官僚達の責任が問われるのが筋でしょう。

 なぜ彼らの「背任行為」は問題とされないのでしょうか。

 厚労省の非を問えば、実はブーメランのように自民党に批判として返ってくる、つまり、厚労省の虚偽説明を鵜呑みにした政権の能力が問われることが自明なので、自民党は官僚批判をしたくともできないのです。

 この問題が明るみに出た07年2月「実態を詳しく精査するよう、安倍内閣総理大臣が厚生労働省に対して指示」(政府答弁書07年7月6日付)を出していました、にもかかわらず年金官僚達は、半年近く、総理の指示を無視していたのです。

 ・・・



●文芸春秋今月号の岩瀬達哉氏の驚くべきスクープ記事「年金サボタージュの非道」

 今月号の文芸春秋「総力特集暴走官僚」記事の中で岩瀬達哉氏が「年金サボタージュの非道」として、当時の年金官僚たちの言語道断の非道を痛烈に批判レポートしております。

 当該箇所を文芸春秋記事より抜粋。

 (前略)

「当時、厚労省は名寄せプログラムが開発できなければ、5千万件の中身の精査もできないと繰り返していた。官邸サイドは完璧に解明できなくても、せめて性別だけでも報告するよう、さんざん厚労省をせっついたのですが、できないの一点張りでした」(官邸関係者)
 年金官僚達が、「精査不能」の理由としてあげた名寄せプログラムとは、五千万件の記録とすべての年金加入者や受給者の記録をすり合わせ、持ち主を特定するためのソフトである。しかしこの説明が真っ赤な嘘であったことは、いまや広く知れわたっている。
 第三者機関のひとつである「年金記録問題検証委員会」(座長=松尾邦弘弁護士)は、「5千万件の記録」の一部を独自にサンプル調査した結果、数時間程度で中身の精査ができる、という結論に至っている。同委員会は、十月31日に公表した「年金記録問題検証委員会報告書」で、その詳細な内容分析も行っている。
 実は、コンピュータ上で、記録の不備が確認できる仕組みはすでにできていた。もともと名寄せプログラムは必要なかったのである。当の社保庁自身、07年12月に予定されていた同プログラムの完成を待つことなく、11月から5千万件の中身の精査に着手している。サボタージュであったことを自ら認めたようなものだ。

(中略)

 政権を欺き、現場職員を犠牲にしてまで年金官僚たちは、何を目論んでいるのだろうか。
 自民党関係者は言う。
「五千万件の中身の精査をまじめに行えば、対処のしようがない問題が次々に明らかになる可能性がある。すでに名前や生年月日などのない記録が524万件あり、それ以外にも記録の不備のあることがわかっている。だから、着手をなるべく後回しにしようとしたのです。三月をめどに終了予定の名寄せスケジュールがスタートしたあとなら、不備記録の存在があらたに明らかになってもうやむやに処理できると踏んでいる」
 この人物は、そもそも年金記録には、この5千万件以外にも多数の不備記録が含まれていて、データベースとしての体をなしていないと続けた。つまり、一年や二年で片付く問題ではなく、十年単位のプロジェクトとして位置付けなければならないということになる。

(中略)

 要するに年金官僚たちは、年金制度にとって最も重要な記録に手の施しようのない欠陥があることを早くから認識しながら、何の手も打ってこなかったわけだ。

(後略)

文芸春秋08年1月号 「総力特集暴走官僚」よりP101〜P102抜粋

 「もともと名寄せプログラムは必要なかった」とは、驚くべきスクープ記事です。

 問題を先送りするための政府すら欺く時間稼ぎのサボタージュだったというのです。

 この記事に書かれている年金官僚たちのサボタージュがもし事実だとすれば、これは重大な国家国民に対する背任行為であります。

 ・・・

 国民の官僚よりの福田政権に対する批判の気持ちはよく理解できます。

 しかし、こと年金問題に関しては、年金官僚たちの非道を正さないかぎり、一過性の政府批判だけでは問題は何も解決しないのです。

 

(木走まさみず)



<関連テキスト>
■[社会]不明年金問題は社会保険庁による「人災」〜5000万件というとほうもない数の「名寄せ」の失敗を放置してきた社会保険庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070526/1180137911
■[社会]原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070601/1180687074
■[社会]原簿を完全にきれいに破棄した自治体数は284〜社保庁自体の民間では考えられない杜撰な体質
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070604/1180924449
■[社会]政府に代わって「宙に浮いた年金記録5000万件」不払い金額総額の試算をしてみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070606/1181100250
■[社会]年金不明問題:「自爆」発言で労組も政府もだめだこりゃ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070608/1181276510
■[社会]社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070611/1181541308
■[社会]不明年金問題:問われるシステム開発主幹会社NTTデータの責任
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070615