木走日記

場末の時事評論

安藤百福さんを称えるNYT社説と愚かで見苦しい朝日天声人語

●即席麺は安藤さんに「人類の進歩の殿堂」の不朽の地位を与えたと絶賛するNYT社説

 昨日(現地日付9日)付けのNYT(ニューヨークタイムズ)で日清食品の創業者で5日に死去した安藤百福(あんどうももふく)さんを称える署名入り社説が掲載されました。

Mr. Noodle
Published: January 9, 2007
http://www.nytimes.com/2007/01/09/opinion/09tue3.html?n=Top%2fOpinion%2fEditorials%20and%20Op%2dEd%2fEditorials

 興味深い社説ですね。

It was easy to assume that instant noodle soup was a team invention, one of those depersonalized corporate miracles, like the Honda Civic, the Sony Walkman and Hello Kitty, that sprang from that ingenious consumer-product collective known as postwar Japan.

But no. Momofuku Ando, who died in Ikeda, near Osaka, at 96, was looking for cheap, decent food for the working class when he invented ramen noodles all by himself in 1958. His product ? fried, dried and sold in little plastic-wrapped bricks or foam cups ? turned the company he founded, Nissin Foods, into a global giant.

 戦後日本の奇跡と呼ばれる代表的商品であるホンダ・シビック、ソニー・ウオークマン、ハローキティーなど没個性的チームによる商品と即席麺を比べるのは簡単だが、"But no"、でも即席麺は違うんだ、モモフク・アンドーは"all by himself"、全て彼一人だけで即席麺を開発して日清食品を世界的巨大企業に発展させたんだと賞賛しています。

According to the company’s Web site, instant ramen satisfies more than 100 million people a day. Aggregate servings of the company’s signature brand, Cup Noodles, reached 25 billion worldwide in 2006.

 続けて社説は、会社サイトによれば即席麺は一日に一億人以上の人が食していて、代表的ブランドであるカップヌードルにいたっては2006年には世界中で250億食に達したと紹介していきます。

 その後お湯を掛けて3分待つだけで食べることができる即席麺のすばらしさをマカロニ缶詰などと比較しながら解説していき、ユーモアたっぷりに欠点もなくはないと続きます。

The aggressively kinked noodles form an aesthetically pleasing nest in cup or bowl, but when slurped, their sharp bends spray droplets of broth that settle uncomfortably about the lips and leave dots on your computer screen.

 カップの中のかわいらしく微笑ましいそのねじれ麺だが勢い良くすすっちゃうと、汁が跳ねて"leave dots on your computer screen."、あなたのコンピュータのスクリーンにドットを残す(笑)という不愉快な結果が待っていると警告しています。

 この社説の結語は安藤さんへの最大級の賛辞で結ばれています。

But those are minor quibbles. Ramen noodles have earned Mr. Ando an eternal place in the pantheon of human progress. Teach a man to fish, and you feed him for a lifetime. Give him ramen noodles, and you don’t have to teach him anything.

 そんな些末なこと(コンピュータのスクリーンにドットを残す(笑)など)は問題じゃないんだ、即席麺は安藤さんに"an eternal place in the pantheon of human progress"、「人類の進歩の殿堂」の不朽の地位を与えたのだと絶賛いたします。

 最後の一文の創作格言がいい味を出していますね。

Teach a man to fish, and you feed him for a lifetime. Give him ramen noodles, and you don’t have to teach him anything.

 魚の取り方を教えよ、さすれば彼を一生を食わせられる。ラーメン・ヌードルを与えよ、さすれば彼に何も教える必要はない。

 ・・・

 さっそく日本のメディアがこの社説を速報で伝えていますが、読売速報記事から・・・

米紙、「即席めん」の故安藤百福さんをたたえる社説

 【ニューヨーク=白川義和】9日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、即席めんを発明した日清食品の創業者で5日に死去した安藤百福さんをたたえる署名入り社説を掲載した。

 「ミスター・ヌードル」と題した社説は、「感謝」の文字を囲んだ月けい冠のイラスト付きで業績を称賛。「ホンダのシビックやソニーのウォークマン、(サンリオの)ハローキティ」のようなチームによる開発と異なり、安藤さんは独力で「労働者階級のための安くて、きちんとした食べ物」を追求したとした。

 「魚を取ることを教えよ、その人を一生食わせられる。即席めんを与えよ、何も教えなくてすむ」。そうつづった社説は、即席めんは安藤さんに「人類の進歩の殿堂における永久の座をもたらした」と総括した。

(2007年1月10日10時24分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070110i103.htm

 そうか電子版記事では確認できませんでしたが、「「ミスター・ヌードル」と題した社説は、「感謝」の文字を囲んだ月けい冠のイラスト付き」だったのですね。

 まあ統計(資料は後述)によれば即席麺はアメリカでも年間39億食も消費されているわけですから、これはもう即席麺を食べることは立派な人類文明的発明商品として認知されているわけですね。

 ・・・

 しかしなあ海の向こうのメディアでは賞賛する社説が掲げられているというのに、日本のマスメディアでは社説で取り上げることなくこのような速報記事やコラムなどでしか取り上げないと言うのは不甲斐ないですね。

 NYT社説が賞賛するとおり安藤さんが発明した即席麺は「人類の進歩の殿堂」入りにふさわしい、世界に誇れる人類文明にとり画期的な発明であったのであります。

 ・・・



●世界ラーメン協会に光あれ!!(IRMA(International Ramen Manufacturers Association))

 安藤さんは世界ラーメン協会(IRMA(International Ramen Manufacturers Association))の会長も務められていました。

IRMA(International Ramen Manufacturers Association)
http://www.instantramen.or.jp/IRMA/

The purpose of the Association shall be to seek improvement in the quality of instant ramen products, to secure their continued supply, and to contribute to a healthy and varied diet for the people all over the world.

 世界ラーメン協会の目的は、即席麺の品質改良を追及し、かつ継続的な供給を保証して、人々のために世界中で健康で様々な食事に貢献することであります。

 うむ素晴らしい。

 日本語版サイトによれば、1997年3月、「第1回 世界ラーメンサミット/世界ラーメン協会設立総会」において設立されたそうです。

世界ラーメン協会(IRMA=International Ramen Manufacturers Association、本部:東京、会長:安藤百福 (社)日本即席食品工業協会会長)は、インスタントラーメンの品質の改善と向上および消費拡大を図るため、世界の各社が情報を相互に提供することにより、環境問題や技術的問題などについて討議し、また、親睦を深め、もって世界の食生活に貢献し、業界の発展に寄与することを目的に、1997年3月、「第1回 世界ラーメンサミット/世界ラーメン協会設立総会」において設立しました。


「世界ラーメン協会」( IRMA=International Ramen Manufacturers Association )について
http://www.instantramen.or.jp/event/summit/about.html

 世界ラーメン協会【IRMA】によれば2005年には世界中で857億食の即席麺が消費されたそうです。

第2章 世界インスタントラーメン事情
平成17年(2005年)データ

857億食・・・・ 一年間に全世界で消費されたインスタントラーメンの数
44ヵ国・地域・・・・ 日本がインスタントラーメンを輸出している国・地域の数。
アジア諸国が全体の半数。
8700万食・・・・ 日本の年間輸出量

http://www.instantramen.or.jp/data/data02.html

 すごいですねえ。

 過去5回開かれている「世界ラーメンサミット」でありますが、昨年はお隣の国、韓国ソウルで開催されたのであります。

 「世界ラーメンサミット」ソウル宣言から。

第5回「世界ラーメンサミット」ソウル宣言(2006年開催)

インスタント・ラーメン。今や世界中の人々広くに愛され、親しまれている食べ物。これは1958年にIRMA会長の安藤百福氏が初めて世に送り出したものである。2005年には世界で約860億食が消費された。これは65億人の人々が、 1人当たり一年間に13食を食べたこととなる。

これほどインスタント・ラーメンの売れ行きが伸びた重要な要因は、簡単に調理でき、美味しくしかも割安という点である。2000年以降、毎年の消費量の伸びは平均13%にも達しており、2009年には、1,000億食の消費に届くものとみられる。

世界ラーメン協会(IRMA)は1997年の設立以来、インスタント・ラーメン製造業の最前線にあり、技術の進歩とメンバー国間の円滑な交流を視野に置いてきた。IRMAはインスタント・ラーメン産業の持続的な発展が相互の研鑽と協力によって達成されるものであると確信している。

IRMAはインスタント・ラーメンのCODEX国際規格策定を支持しその実現に努力してきた。この国際規格は今年7月のCODEX総会で採択されることとなる。このことはインスタント・ラーメンが改めて世界食として認知されるということであり、 今後、相当の貿易拡大の可能性が広がることでもある。まさに「グローバル・スタンダード・ラーメン元年」である。

(後略)

http://www.instantramen.or.jp/event/summit/5th.html

 うん「グローバル・スタンダード・ラーメン元年」ですか(笑

 すばらしい。

 ・・・

 世界ラーメン協会に光あれ!!(爆)



●世界で一番即席麺が好きな韓国人

 で世界ラーメン協会【IRMA】によれば、世界の即席麺消費大国ベスト10は以下のとおり。

順位 Country 消費量(億食)
1 中国・香港 442.0
2 インドネシア 124.0
3 日本 54.3
4 アメリカ 39.0
5 韓国 34.0
6 ベトナム 26.0
7 フィリピン 24.8
8 タイ 19.2
9 ロシア 16.0
10 ブラジル 12.6

2006年4月11日現在
International Ramen Manufacturers Association
世界ラーメン協会【IRMA】

 国別消費国ではやはり中国がダントツなのでありますね。

 中国一国で442億食と世界全体の消費量の半分以上を占めています。

 ・・・

 ところで意外ですが一人当たり年間消費量となると、実は韓国が世界一なのでありますね。

 日本の40食の倍にあたる80食を韓国人は毎年即席麺を食しておるのであります。

 8日付けの韓国・中央日報コラムから・・・

 【噴水台】ラーメン考

(前略)

ラーメンが世界の人々を魅了したきっかけは58年のインスタント化だった。 日清食品の創業者、安藤百福会長が一度ゆでたラーメンを油で揚げて水分を除去する原理を開発し、長期保存と簡便な調理が可能になったのである。 71年には発泡スチロール容器に入ったカップラーメンを開発した。 いまや全世界で毎年850億個が売れるほどで、米・パンに次ぐ人類の食糧として定着した。

このうち37億個は韓国人が食べている。 1人当たりの消費量は80個と、世界1位だ。 韓国では日本と違い‘ラーメン=インスタント’。 このため時々、有害論が提起される。 しかし空前のウェルビーイングブームもラーメンに対しては寛大だ。 そういえば「ラーメンだけを食べて走った」という陸上選手も、肉を食べて走った外国人選手を抑えて難なく金メダルを獲得したではないか。

(後略)

イェ栄俊(イェ・ヨンジュン)東京特派員

2007.01.08 18:23:49
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=83460&servcode=100&sectcode=100

 なるほど第5回「世界ラーメンサミット」がソウルで開かれるのも頷けるのであります。

 ・・・



●そうか将軍様も日清「ラ王」が好物なのか(苦笑

 まあ記事にもあるとおり、韓国では日本と違い‘ラーメン=インスタント’でありますから、即席麺だけでなく生麺も大好きな日本人と単純比較はできませんが、北の将軍様も即席麺が大好きだそうですからまあ民族的嗜好として即席麺がお好きなのでしょうね。

 昨年11月8日の朝鮮日報記事から。

金正日総書記の「お気に入り」リスト

(前略)

 また、名古屋の特産鶏肉「名古屋コーチン」、キッコーマンのしょうゆ、文明堂のカステラ、サントリーのウイスキー「インペリアル」、日清食品のカップラーメン「ラ王」なども金総書記のお気に入りだ。しかしカップラーメンは禁止リストに入れてしまうと、北朝鮮住民の生活にかかわるため除外するという。

 日本政府関係者は「カップラーメンも好物のようだが、一般国民の生活にかかわるから対象外」「マグロといってもトロだけなのか全部なのか、難しい」と、苦慮している。

(後略)

チョソン・ドットコム/朝鮮日報JNS
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/08/20061108000030.html

 北朝鮮への輸出を禁止する「ぜいたく品」リストを作成するのに苦慮している日本政府の苦悩を報じている記事なのですが、そうか将軍様も日清「ラ王」が好物なのか(苦笑

 ・・・



●朝日新聞【天声人語】のトンチンカン

 このように世界中で愛されている即席麺でありますが、どうにも日本のマスメディアは安藤さんの死を社説ではなくコラムでしか扱わないのは不満なのであります。

 主要紙で安藤さんの死去に触れたのは以下のコラムであります。

朝日新聞【天声人語】9日付け
http://www.asahi.com/paper/column20070109.html
読売新聞【編集手帳】7日付け
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070106ig15.htm
毎日新聞【余禄】10日付け
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/yoroku/news/20070110ddm001070020000c.html
産経新聞【産経抄】7日付け
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/sankeisho/070107/sks070107000.htm
日経新聞【春秋】7日付け
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20070106MS3M0600F06012007.html

 さすがに各紙コラムも安藤さんの偉大な足跡を賞賛する文章でコラムをまとめてはいますね。

 各紙結語を抜粋。

読売新聞【編集手帳】7日付け
◆ソニーの盛田昭夫、井深大(まさる)両氏はすでに故人となり、ダイエーの中内いさお氏も一昨年、鬼籍に入った。暮らしの風景を一変させた起業家は、安藤さんが最後かも知れない。「戦後」という時代の訃報(ふほう)を聞く思いがする。

毎日新聞【余禄】10日付け
「お湯をかけて即食べられる」という点に安藤氏の創意がある。世界の食文化を変えたといってもおかしくはない。即席めんを食べて高度成長を支えた団塊の世代が今年、定年年齢に達した。その年のはじめ、安藤氏は96歳でこの世を去った。

産経新聞【産経抄】7日付け
 ▼その団塊の世代が定年を迎えだす年の初めに、安藤さんが突然逝った。亡くなる前日まで、お昼には必ずチキンラーメンを食べていたのだという。これほどまでに、日本と自らの戦後史を映し出す訃報(ふほう)は、ちょっと見あたらない。

日経新聞【春秋】7日付け
 正月も休まぬコンビニ店に、今は何十種類ものカップ麺(めん)が居並ぶ。濃厚さを追い本物志向を競う商品群の中で、チキンラーメンはしたたかに生き残っている。安藤さんが残していった「軽さ」の意味を、消費者は体で知っている。カップ麺は常用食ではない。時おり食する爽(さわ)やかな「ペンペン草」であってほしい。

 各コラムとも日本の戦後史と絡めながら安藤さんの死を惜しんでいますね。

 ・・・

 ん?

 なんなんだこの朝日【天声人語】の強引なこじつけ結論は????

【天声人語】2007年01月09日(火曜日)付

 松飾りを外した家と、まだ飾っている家が混在する通りを歩きながら考えた。平成の時代も、来年は20年になる。昭和という時代が一歩遠のいてゆく気がした。

 昨年末から昭和を象徴するような人たちの訃報(ふほう)が相次いだ。財界のご意見番と言われた諸井虔さんに続き、年明けには、昭和の国民的食品となった即席ラーメンを発明した安藤百福さんが亡くなった。

 大阪の闇市のラーメン屋台の前で、人々が行列して辛抱強く待っている。安藤さんの脳裏に焼き付いた終戦直後の風景が、後に食の風景を変えるような発明につながったという。昭和の時代が、安藤さんを通してもたらした発明とも言えるだろう。

 〈降る雪や明治は遠くなりにけり〉。この中村草田男の句は昭和6年、1931年1月の句会に出されたという。師の高浜虚子は句会では選び採らなかった。しかし、帰りのエレベーターでたまたま同乗した草田男を見て「あの句は矢張り採って置こう」と言い、虚子選に追加された(宮脇白夜『新編・草田男俳句365日』本阿弥書店)。

 句は大雪の日、かつて学んだ東京の小学校の前で生まれた。降りしきる雪の中に居ると、時と場所の意識が空白となり、現在がそのままで明治時代であるかのような錯覚と、明治時代が永久に消えてしまったとの思いが同時に強まったという。

 今日、防衛庁が防衛省になる。長く「庁」だったことには、軍が暴走した昭和の一時代への深い反省が込められていたはずだ。年ごとに昭和が遠くなっても、その反省だけは、遠いものにしたくない。

http://www.asahi.com/paper/column20070109.html

 どうして「昭和の国民的食品となった即席ラーメンを発明した安藤百福さんが亡くなった」ことから、「今日、防衛庁が防衛省になる。長く「庁」だったことには、軍が暴走した昭和の一時代への深い反省が込められていたはずだ。年ごとに昭和が遠くなっても、その反省だけは、遠いものにしたくない。 」という結びの言葉に繋がるんだ???

 強引すぎませんか?

 「人類の進歩の殿堂」の不朽の地位を与えたと絶賛するNYT社説に比し、この朝日天声人語の「年ごとに昭和が遠くなっても、その反省だけは、遠いものにしたくない。 」との結論は、かたや社説でかたやコラムではありましょうが、あまりといえばあまりな論理の飛躍なのであります。

 偉人の死去をどうすれば「軍が暴走した昭和の一時代への深い反省」へとこじつけられるのでしょう。

 ・・・

 ふう。

 なんかとっても愚かで見苦しい朝日新聞コラム「天声人語」なのでありました。



(木走まさみず)