安倍政権は経済優先を決めたとしても、その中での主導権争いと対峙しなければならない

 以前、穏健保守(自由主義者)VS右翼の主導権争いと述べたが、日本維新の会の橋下共同代表の慰安婦発言により安倍総理が右派色を出し難い環境になったことから、安倍政権は当面経済優先を打ち出すだろう。
 アベノミクスは様々な経済政策を標榜する人がとりあえず支持するように巧妙に出来ており、これが高支持率の源泉とも言える。リフレ派はリフレ政策が支持されているから安倍政権の支持率が高いと信じているきらいがある。確かにマイナーであったリフレ政策への関心が高まったのは事実だが、それでいきなり支持される代物ではない。実は第2の矢である財政出動、長らくエコノミストや中央マスコミから目の仇にされ、自民党も財政規律と自由主義を優先し、支持者を裏切ると知りながらも削減を続けてきた公共事業を堂々と謳うことができたことにより、古くからの支持者が回帰した効果が大きい。これが安倍政権の高支持率の土台になっている。それでいながら第3の矢で成長戦略を謳うことで、今までであれば第2の矢を批判しそうな新自由主義者をも満足させている。

 それだけであれば、これまで最も猛威を振るっていた財政規律論者や財務省が批判しそうなものであるが、彼らはアベノミクスを頭から批判するのでなく、アベノミクスを徐々に変質させて財政規律路線に舵を切らせようと虎視眈々とタイミングを計っている。一部の前のめりの識者は「アベノミクスの第4の矢は財政再建だ」等と口走っている。
 現状ではほぼ敵なしで、あらゆる経済政策を期待する人たちから支持を集めている。安倍政権がアベノミクスで成果を出しているから支持率が高いというのは少し前のめりの評価で、実際はまだ部分的な成果しかなく期待選考の中で、ほぼ全方位評価を得られるスキーム作りに成功したことが高評価になっていると考えた方がいい。
 しかし全方位評価というのは曲者で、徐々に利害対立が表面化するリスクを孕んでいる。最大のリスクは、虎視眈々とタイミングを狙っている財政規律派である。彼らが台頭すれば増税により第1の矢の金融政策は効果を失い、第2の矢の財政出動は色褪せ、アベノミクスは完全に反質する。第3の矢もうまく、第1の矢、第2の矢と組み合わせされているようにも思えるが、規制緩和はほどほどにやらないと競争を激化させデフレを加速させるリスクを孕んでいる。
 安倍政権が経済優先を決めたとしても、その中で様々な勢力の綱引きが存在し、それによって安倍政権の命運が左右される。少なくとも全方位評価を得られるのはあと僅か(なんとか参院選までは引っ張りたいのだろうが…)で、間もなく敵を作りそれによって支持率を落とす覚悟で、どの矢を大事にするのか明確にする選択を迫られるであろう。