世論の両極化と中道政治

 私が宇野常寛氏に関する『解散・総選挙が急浮上!宇野常寛氏「"左翼じゃない野党を作ります"、これが国民に刺さると思う」と民進党議員に直言』と言うネット記事を引用し以下のように意見したところ


早速ご本人から反応が来ました

その後Twitterの方は言い合いになってしまい話が噛み合っていないのですが、twitterでは書き切れなかった意見をここにまとめたいと思います。
 **世論は両極化しているのか?
 かつて民主主義には中位投票者定理が働き、二大政党は共に中道化し近似化すると言われていました。確かに10年前まではその傾向があり、中道と言うボリュームゾーンを制することが政治のセオリーでした。
 私は近年では世論の両極化が進み、そのセオリーは通用しなくなっていると考えているのですが、宇野氏は世論の両極化に否定的です。


 ネット世論は左右両極の意見を拡張させる性質があります。ただ世論が両極化しているのはネットの世界だけで現実世論は違うと果たして言えるでしょうか?
 欧米では極右的な民意が現実に興隆し、既存政党も中道から左右両極寄りに軌道修正した政党が比較的健闘し、中道寄りの政党は苦戦する傾向にある。フランスのマクロンは例外的に中道路線で旋風を巻き起こしたが、当選後蜜月期も満了しないうちに支持率が急落し、直近の選挙も苦戦しています。彼に中道の再興を期すのはなかなか難しい状況だと思います。
 日本はどうでしょうか?日本では極右政党は興隆していませんが、安倍政権一強体制と、最近の選挙で日本共産党が着実に議席を増やしていることを以って、世界的な「世論の両極化」の類型に含める見解が少なくありません。もちろん「安倍政権を支持しているのは極右ばかりでなく中道も支持している」と言った反論もありますが、アメリカのトランプ大統領も極右ばかりに支持されている訳ではないのに世界的な世論の両極化の象徴とされていることから見ても、有力な否定材料とは言えないでしょう。
 世論の両極化現象のもう一つの側面である「中道の没落」現象は日本で見られるでしょうか?宇野氏は都議選で都民ファーストが票を集めたことを以って「日本では中道のニーズが多い」と根拠にしているようです。
 私はこの現象を以て「中道のニーズが多い」とは見ていません。小池都知事の戦術は支持の最大化です。民主党ですら賛成した豊洲移転問題を蒸し返し、民進党に飽き足らない左派的な民意を刺激すると同時に、韓国人学校問題や関東大震災朝鮮人虐殺問題で右派層のニーズに呼応。更に国政選挙では自民党の右側に居た人たちと組もうとしています。私には彼女は中道政治家でなく、「民意が両極化した現状において特殊な戦い方を模索している人」にしか映りません。もちろんその中で中道的な民意も捕捉はしているでしょうが、右や左の民意をかなり広く取ろうとしているのは、中道のボリューム不足を認識しているから他ならないでしょう。
 もちろん「中道の没落」とまでは言えないかも知れませんが、ボリュームソーンであると言う認識は多くの政治家にはもはやないでしょう。私も、旧民社党のような小政党ならともかく、二大政党の一翼を担おうとする政党が、このゾーンだけで飯を食うのはもはや難しいと思います。

世論の賛否が二分する問題で、二大政党が両党とも賛に回っていいのか?


 宇野氏がどの問題を指して「反対するだけの野党」と言っているのか解りません。最近では集団的自衛権行使について国論が二分(世論調査により賛否に幅があるが…)、カジノ法案等はどの調査も反対が上回っていたが、このようなケースで野党第1党は反対の立場を取ってことを批判していたのであれば危険です。
 私は「ファシズム」と言う言葉でこの危険性を表現しましたが、宇野氏に噛みつかれました。一党独裁で民意の半分が無視される状況と、二大政党によって民意の半分が無視されるのとでは状況が異なりますから、ファシズムと言うのは確かに不正確な表現でした。ただ、多くの民意が無視されるという危険性と共に、極端な主張をする政党が興隆するチャンスを与えると言う2つの意味で危険なことです、
 勿論例外もあるでしょう。二大政党が共に意見を一つにすることが尊いと思われるケースも確かにあります。ドイツでは移民の抑制を求める世論が高まってもメルケル首相のCDUが比較的リベラルな政策を取り、二大政党のもう一翼のSPDと共に移民に寛容な政策を続けたことは国際的に高く評価されています。しかし今回の選挙において、ドイツ連邦議会で初めて極右に議席を与える結果になり、民主主義を不安定化させるリスクを招いてしまいました。
 「二大政党両党が賛成に回るなら、国論は二分しない」と言う意見もありました。
 ただ、民進党集団的自衛権行使反対の立場を明確にしたから、反対の民意が増えた可能性はあるでしょうか?少なくとも今の民進党に世論をオルガナイズする力があるとも思えません。そんな力があったらもっと選挙で議席を増やしているでしょう。

中道に可能性はないのか?

 私は国民の半数が反対する法案に賛成することが「中道」等とはさらさら思いませんが、極論を言う政党よりは中道政党の方がいいと思っています。
都市の無党派層が中道であるかついては若干議論の余地はありますが、宇野氏は「『都市の無党派層は組織化できない』と言う思い込み」


と言っていますが、思い込みを捨てれば中道政治が成功する訳でもなく、ここ20年多くの政党が出来ていないのですから、難しいのです。
公明党のような宗教政党は別として、中道政党にはそれを熱心に支持するモチベーションが湧きにくく、熱心な支持者がいない政党は、追い風が止むと途端に議席維持が難しくなるからです。
中道政党に対して熱心に支持するモチベーションが湧きにくいのは、左右両極の政治勢力のように目指すべきベクトルがはっきりしないからです。「どちらかに偏らないようにバランスを取る」みたいな方針では、なかなか積極的に支持される理由にはなりません。
私は政治を線でなく面で捉えることで、中道にも活路があると考えています。つまり右から左に至る直線上の真ん中に中道を置くのでなく、下の図のように馬蹄形の図の頂点に中道を描くのです。

詳しくは5年前の『「中道」は左右とは別の一つの極である』というエントリーをご覧いただければ幸いです。
http://d.hatena.ne.jp/kechack/20121120/p1