なし崩しにされてきた整備新幹線と並行在来線を巡る政治決着(後編)

katamachi2008-12-10

 前回、「2008年末、政治に翻弄される整備新幹線を取り巻く状況をまとめてみる(前編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」の続き。整備新幹線を巡る2008年末の動きをまとめてみました。
 今日は北陸新幹線の金沢から敦賀への延伸について語るつもりでした。地元の福井県は原発と絡めながら新幹線誘致を要求してくるんだろうなあ......と。
 そしたら、

 北陸新幹線の早期福井県内整備について、県会の中央要請団と自民党の県選出国会議員5人は8日、国会内で意見交換。県会側は「敦賀までの一括認可が実現しない場合には高速増殖炉もんじゅの運転再開を認めない」との内容の決議をする用意があると伝えた。(中略)
 県議側は「本県はエネルギー供給で国に貢献している。首相も約束した敦賀延伸が実現されないのはおかしい」などと訴え、決議案について説明した。国会議員らも「財源が足りない状況では政治的な決着しかない」との立場から、決議を背景にして与党内の議論や政府に対してアピールしていくと応じた。
 県会は、南越までの一括認可が焦点になった2003年12月にも「今後の原子力政策推進に反対も辞さない覚悟」を示した決議をした前例がある。敦賀までの認可は譲れないという強い決意を示した形だが、もんじゅを新幹線整備との〝取引材料〟にすることへの批判や、決議の効果を疑問視する声もある。
認可なしならもんじゅ再開認めず 新幹線「敦賀まで」求め県会(福井新聞12月9æ—¥)

と予想通りの反応が。原発絡みの話には細かく踏み込めないはずの地元紙からも「もんじゅを新幹線整備との〝取引材料〟にすることへの批判や、決議の効果を疑問視する声もある」とされている。ブクマで「どこぞの北の国ばりの寝業」とコメントされていた方もいたけれど、福井県民以外にとっては、かなり醜い発言ですよね。
 敦賀を含めた嶺南・若狭地方というのは関西電力の原子力発電所が林立しているエリアで、潤沢な電源立地地域対策交付金を使って様々な事業を展開している。その額が半端じゃない。
 と、共に、国がやるような大規模事業に対する要求もかなり強引なんですよね。
「オレたちは原発という厄介施設を引き受けている」
→「ゆえにオレたちが望むような公共事業をやって当然」
→「やらないなら原発に関するアレやコレの事業を認めてやらないゾ」
というノリでここ三十年ほどやってきた。鉄道系だと、小浜線の電化とか、北陸本線の敦賀直流化とか。琵琶湖若狭湾リゾートラインなんてのもあったなあ。ある程度は費用の地元負担も求められるのだけど、そんな時には、県や地元市町へ数十億円単位の寄付金が振り込まれる。匿名なんだけど、それが関●電△とその関係企業からというのは丸わかりなんですね。

 東京〜高崎〜金沢と来た北陸新幹線を福井、そして敦賀まで延ばすというのはかなり分かりづらいことです。でも、福井県&原発という繋がりを知っていれば、そこらのカラクリも理解しやすい。
 そもそも敦賀から先、大阪まで延伸することになっているのだけど、そのルートがまだ未決定。米原で東海道新幹線に繋げるのが一番安上がりだけど、東海道本線米原〜新大阪間の輸送力、両新幹線の車両やシステムの違いなどを考慮すると、それはリニア新幹線ができない限り、不可能に近い。もちろん原発抱えている若狭地域としては、小浜市か域内のどこかに新幹線の駅を造るというのは当然....という感じなんでしょう。敦賀〜大阪間のルートという大事な問題について「政治決着」がなされていないのに、それを無視して敦賀まで延伸するという「政治決着」を先にするというのは無謀な話です。
 北陸新幹線については福井駅周辺で整備することはすでに決まっていますが、これも、北陸本線、えちぜん鉄道なんかの路線をどうするのかで迷走し続けている。名鉄は福井から撤退してしまったけど、その後始末については本決まりにならないまま新会社が運営することだけ先に決まった。福井市内のLRT構想もみんな勝手なことを繰り返すばかりで収拾が付かなくなっている。福井というのは、国に対して「政治決着」を繰り返し要求しているけれど、自分たちのことを自分たちで「政治決着」することはできないんだろうか。


 おっと、北陸新幹線の敦賀延伸の是非については言及しないつもりでした。
 今日は、前回の続きで、2009年の整備新幹線について並行在来線問題を中心にまとめるつもりです。

並行在来線の第三セクター化という厄介なスキーム

 今後、一番厄介な問題となるのは並行在来線問題。
 東北・北陸に関しては、「新幹線と並行することによって経営悪化が予測される在来線区間のJRからの分離→地元出資の第三セクター鉄道への移管」が既定路線となっている。
 これは、北陸新幹線高崎〜長野間が本格着工される前の90年代前半に「政治決着」でそのような方式がとられることになった。

と1988年の「政治決着」で固まっていた方針を、長野オリンピック輸送という名目で長野県庁とその関係者が全線フル規格での新幹線建設をごり押しで決めた。その際、赤字必至の並行在来線の経営を不安視するJRを納得させる目的で、「並行在来線→JRから分離して第三セクター鉄道化」という枠組みが編み出され、関係者全てが"納得"した上で新幹線の工事が始まった。1992年頃にこの方針が固まり、1996年に新会社しなの鉄道が設立されている。
 以降、他地区でも、1988年に「政治決着」した区間のうち、ミニ新幹線やスーパー特急でやることになっていた区間をフル規格の新幹線へと格上げさせるための手法として、この並行在来線の第三セクター化という「政治決着」が図られた。すでに

の4社が誕生している。

 現在、工事が進められてる区間でも、

となるはずだった。
 ところが、前回のエントリーでも書いたように、2007年末、九州新幹線長崎ルートの肥前鹿島〜諫早間では地元自治体を納得させるという名目で第三セクター鉄道化は中止され、新線開業後も、引き続きJRが運営を担当することになった。
 この佐賀県の「政治決着」で、ここ15年ほど続けてきた整備新幹線と並行在来線を巡るスキームが脆くも崩れ去った。あとは、不採算確実の第三セクター鉄道会社に対して、政府やJR、そしてJR貨物にどれだけのカネをださせるのかという方向に話が動いている。
 そりゃあ、赤字覚悟の第三セクター鉄道を抱えるのって大変だとは思うよ。でも、そんなの最初から分かっていて「政治決着」でフル規格にしてきたはず。今さらそのスキームに文句を言うなよ......とは地元以外の人間なら誰でも不信感を抱くはず。

東北新幹線と北陸新幹線の並行在来線問題

 とりあえずの焦点は、2年後に開業の迫る東北本線八戸〜青森間。これについては青森県系の青い森鉄道が引き継ぐことはほぼ決定。青森県も、2009年度予算で青森市内区間の新駅2つの設置のための予算を組んでいる(「青森の野内、筒井に新駅設置へ 新幹線開業後の青い森鉄道」陸奥新報11/14)。
 北陸新幹線の並行区間でも「4市、5新駅を検討意向 北陸新幹線並行在来線 需要など試算へ(中日新聞11/28)」のように北陸線に設置する新駅についての検討が始まっている。
 ただ、現行のJR線から売上高の多い特急の運行が取りやめられた状態で路線を引き継ぐことになる運営会社。第三セクター鉄道の大口出資である自治体にとっては頭の痛いところ。
 そこで、自治体が引き受けることになった並行在来線について国やJRも応分の負担をすべきだという声もおおっぴらに出ている。
 支援処置については、今年の夏ぐらいから

 要請は二〇〇九年度概算要求に向けた行動で、(1)運営の在り方や支援策について新たな仕組みを早急に構築(2)JRからの鉄道資産取得の初期投資に対する助成措置(3)JR貨物の線路使用料の増額−など八項目を求めた。
本県など11道県が並行在来線支援を要請(東奥日報7/16)

というようなことが行われている。
 特に、今年になって動きを見せ始めたのが北陸新幹線沿線。

 石井知事と石川県の谷本正憲知事が25日、金沢市内で会談し、2014年度の北陸新幹線の金沢延伸に伴い、JRから経営分離される並行在来線について、沿線自治体の負担を軽減するよう国の支援やJRの負担を求めることで合意した。
「並行在来線負担「JRも」(読売新聞11/25)」

とかなんとかで、富山県知事は「並行在来線には補助制度などはない。合理的に経営しても、どうしても赤字になる。新幹線ができていいところをJRが取るのは不合理」と発言したらしい。長野県なんかも、先の田中康夫前県知事の頃から長野〜直江津間の路線の引き受けについては牽制を続けている。
 北陸新幹線の場合、2000年頃に城端線や七尾線などの支線区間も含めて地元が全部引き受けるという話になっていたと記憶している。それが条件で、その年に富山まで、2005年には金沢までのフル規格新幹線の延長が決まったはずなのに、いつしかそこらの「政治決着」もどこかへ行ってしまった。

運営会社の税制優遇処置や譲受価格

 国土交通省は、2008å¹´8月、運営会社に対する固定資産税などの税制優遇措置の適用期限を2008年度末までだったのが、2015年度まで延長する方針を固めている(「新幹線開業で優遇税制7年延長/在来線」)。

    • 線路用地や駅舎などを開業時にJR各社から取得する際の登録免許税と不動産取得税を非課税
    • 固定資産税と都市計画税を開業から20年間半額

がその主な内容。
 現在、しなの鉄道(軽井沢〜篠ノ井 北陸)、IGRいわて銀河鉄道(盛岡〜目時 東北)、肥薩おれんじ鉄道(八代〜川内 九州)の3路線が適用(青い森鉄道の場合、青森県が鉄道施設などを保有)されているが、これに

が付け加わる。
 また、国土交通省は、並行在来線区間を走る貨物列車の貨物調整金制度の拡充も示唆している。
 「平行在来線支援措置 年内に方針/自民チーム陸奥新報11/13」によると、

  • 新幹線貸付料収入の一部→JR貨物に調整金として交付→JR貨物は調整金相当額を並行在来線を経営する第三セクターに支払う

というのがその骨子。旧東北本線や旧鹿児島本線など既開業区間で年間2億円。現在建設中の区間では年間4億円と試算されているらしい。JR貨物がJR旅客各社に支払う線路使用料は政策的に安価に抑えられてきたが、このことに並行在来線を抱える自治体は不満を募らせている。従来から鉄道建設・運輸施設整備支援機構(旧鉄建公団)がその補填を行ってきたが、それをさらに手厚くするということか。 
 一方、JR東日本から青い森鉄道に施設を譲渡する際、その価格を簿価とするのか、あるいは無償に近い値段とするのか。しなの鉄道(北陸新幹線の並行区間)や肥薩オレンジ鉄道でも大いに揉めた問題がここでも浮上している。他の区間においても、早晩、同様の問題は浮上してくるのだろう。

政治が鉄道を造る、というのはいいんですよ。その方針が.....

 さて、長々と整備新幹線に関する話題について紹介してきた。
 個人的には、今造っているのは仕方ないとは思うけど、北海道新幹線新青森〜新函館〜札幌間、北陸新幹線金沢〜敦賀間、九州新幹線長崎ルートは不要だと思う。あれば「それなりに便利」というのは認めるが、札幌方面は安価で早い飛行機で十二分にまかなえる。北陸は大阪延長の目処がつかない時点では在来線の高速化でいいし、長崎ルートは現状維持だとなぜダメなのかよく理解できない。
 ただ、その是非について語るのは今回の日記の本旨ではない。僕が不可思議なのは、過去に「政治決着」したはずの問題がなぜこうも簡単にひっくり返されていくのか。そのことへの不信感である。
 

 北陸新幹線と少なからぬ利害関係にある森喜朗元首相は、最近、こんな発言をしている。

 森喜朗元首相は、同日の県北陸新幹線整備実現決起大会で、敦賀までの一括認可について「今すぐ工事をするというのでなく、ちゃんと工事をやる路線だと認定できるか、他のいい方法があるか、知恵の出しどころ」と指摘。敦賀まで認可した上で、敦賀駅部などから部分的、段階的に着工する方法もあり得ると言及した。
「政治決着で同時着工」 北陸新幹線で町村氏(福井新聞11/28)

 北陸新幹線を金沢から福井、そして敦賀へと延ばしていくのには、整備新幹線の着工区間であるというお墨付き必要。すぐに線路を敷設して.....と先走るんじゃなくて、新幹線用の敦賀駅を造るとかいうアリバイ作りが大切だ。
 というアドバイスなんでね。実際、そうやって石動や糸魚川などの一部区間でトンネルを掘削するという実績を作りつつ、新幹線を北陸まで延ばしてきた。福井駅もいつしか新幹線ホームの工事に取りかかっています。考えてみると、北陸新幹線が完成する目処が立ったのも、森先生という力ある政治家が豪腕を振るってくれたからこそ。「神の国」発言とか、えひめ丸とゴルフとか、売●等取締条例による検挙歴なんか、5年も経つたんだし、みんな忘れていますよ。でも、「新幹線を金沢へ」という偉業を達成したという実績は未来永劫、石川県民は忘れられない(に違いない)。その信念だけでやってきたのだろうな。
 それ、ある意味、(地元の人にとっては)有り難いことなんだろうと思う。田中角栄よりは二回りも小物には見えるけど。大阪府なんかパッとしない国会議員しか輩出しいてないから、あまりお国のカネが回ってこない。その点では羨ましいと思わないでもない。
 大正期に鉄道敷設法が改正されて、全国に149路線(のち200路線)の国鉄線を敷設することになったとき。原敬首相たち与党の政治家たちは、自分の票田となる地域の鉄道建設に予算を付けようと様々な策を弄する。それを「我田引鉄」と揶揄する言葉なんかもあったりする。そこらの建設の過程で中断されたルートが全国に何千キロも存在し、北海道や九州の山中に未完のコンクリート路盤が放置されている(と、拙著「鉄道未成線を歩く (国鉄編) JTBキャンブックス」で紹介しました)。
 いいんですよ。それでも。選挙のために鉄道を敷くというのも、まあ彼らの仕事の一つかもしれない。
 でも、「政治決着」ということで、関係者間で整備新幹線を敷設するための条件として交わされた約束事が、数年後には、コロッと別な話になっている。それは話が違う。どうしても新幹線が欲しいなら、福祉関係や教育関係のカネを削ってでも、三セク会社の穴埋めをすればいい。それを有力政治家の政治力、というか声の大きさで、決着がなかったことにしてしまうというのはどうなんだろう。
 基本的には僕は地方分権論者にシンパシーを感じます。でも、中央省庁の役人がカネと権限を地方に与えることに躊躇するというのも分からないわけではない。市町村合併特例交付金の行く末ななんかを見ても、政治家や自治体たちが何も考えずに浪費してしまうのがなんとなく想像できる。

整備新幹線に必要なのは「夢」と「やる気」と「政治決断」(?)

 上の福井新聞は、北海道新幹線を抱える道内選出の国会議員である町村信孝の言葉として、

 北陸新幹線の金沢―敦賀間など整備新幹線の新規着工について、与党整備新幹線建設促進プロジェクトチーム(PT)メンバーの町村信孝前官房長官は28日、「現状では(未着工区間の建設に必要な)財源のめどは立っていないが、完ぺきに財源がなくてもいいのでないか」と語り、総額2兆5千億円とされる財源が完全に満たされなくても政治決着により、北海道、北陸、九州・長崎の3線同時着工ができるよう前向きに検討していることを明らかにした。

と紹介している。
 「総額2兆5千億円とされる財源が完全に満たされなくても」と言い切る根性は凄い。
 西日本新聞は「整備新幹線 未着工3区間 09年度着工 財源で火花」(12/8)で、

  • 「国土交通省はもっと夢をもってほしい。やる気がない」
  • 「このままでは選挙に勝てない」
  • 「最後は政治の決断だ。後は役所にきちんと押しつけられるかどうかだ」 

という議員の言葉を紹介している。

 与党は、JR各社が開業区間の施設使用料として国に支払う貸付料を担保に資金を調達する方法を探った。国交省の試算によると、この手法では最大6000億円を建設費に充当できるが、3区間の総事業費は2兆円超で、遠く及ばない。

ともあるが、もうそんなのはどうでもいいことなんだろう。
 でも、どうするつもりなんだろう。サブプライムローンによる世界経済の危機に対して整備新幹線にカネを突っ込んで内需拡大.....という平成の20年間で使い古された言い訳をまたするんだろうか。今後、日本経済が未曾有の危機に襲われたとしても、整備新幹線の工事は粛々と進められていくんだろうな。
 建設費がどうのこうのとか、費用対効果とかも、確かに気にはなる。けど、本当に問題なのは、政治家たちが自分たちがとりまとめた「政治決断」に責任をとらないことなんじゃないのだろうか。それは国会議員たちに限らない。上の新聞記事の議員のように、「夢」と「やる気」と「政治決断」さえあれば、何とかなる。日本というのは、そういう国なんです。で、昭和になってから80年間、いろんな所で負け続けてきたんですよね、と思ったりもするのだけど、それはまた別の話。