インタビュー
Pokémon GOの新機能、Ingress 2.0はどうなる?――ナイアンティック川島氏と須賀氏に聞く
ウェアラブルへの考え、世界初の「2.0」情報も
2017年4月11日 17:43
2016年最大のヒットゲーム「Pokémon GO」を提供する米ナイアンティック。4月7日には、月間アクティブユーザー数は6500万人であることが明らかにされたほか、2月~3月にかけて、スペインのMobile World Congress 2017、あるいは米国でのGDC(ゲーム開発者会議)といったイベントに、CEOのジョン・ハンケ氏や、同社でデザインをリードするデニス・ホワン氏が次々と登壇し、2017年中にローンチ予定と見られる新機能の一端がわずかに公開された。
「Pokémon GO」のほか、そのコンセプトの前身となった「Ingress」と、いわゆるAR(拡張現実)で人々が外へ出かけたくなるように仕向ける“リアルワールドゲーム”の先駆者であるナイアンティックは、今、何を考えているのか。来日した米ナイアンティックのキーパーソン、アジア統括本部長の川島優志氏とアジア統括マーケティングマネージャーの須賀健人氏を直撃したところ、いつものようにかなり盛り沢山のエピソードや今後の展開について語っていただいた。
ナイアンティック川島氏インタビュー、今回のトピック
- Ingressのスポット情報をユーザーが審査する機能「Portal Recon」が12日から日本で拡大
- 5月~6月にIngressで新イベントを実施
- Ingress 2.0(仮称)について
- Pokémon GO、今後は巨大イベント
- 被災地への取り組み
余すところなく収録するので、いつものように長文になってしまったが、プレイヤーならずとも非常に興味深い情報がちりばめられている。
ちなみに取材に応じていただいたのは、ナイアンティック日本法人が引っ越したばかりの新オフィス。入口には、Ingressなどのイベントの生配信などで協力するドワンゴが贈った、ナイアンティック社のロゴを模した花や、ポケモンのモンスターボールをモチーフにした花などが飾られていた。
Ingressの世界規模のイベント「グローバルシャード」
――前回(2016年11月、※関連記事)の取材から5カ月ほど経ちました。この間にナイアンティックとして取り組んだこと、提供しようとした体験を振り返るといかがですか。
川島氏
いろいろありますけれども、大きかったのはシャードゲームです。グローバル規模のものはひさしくやっていませんでしたので良いタイミングでしたが、非常に意外な結果でした。まさかこんな結果になるとは……。メインストーリーとして、エンライテンドは、ストーリー上のキャラクターの去就を決められることになります。
(※筆者注:Ingressにおけるシャードゲームとは、ゲーム中、シャードと呼ばれる仮想の物体が複数出現、2つの陣営に分かれているユーザーはシャードを奪い合い、自陣営のゴールとして設定されたスポットを目指す。国内外が舞台のため、ロシアや中国、東南アジアなどで発生したシャードを日本に設置されたゴールへ移動させる、あるいはその逆をすることになり、国境を越えてユーザー同士が連携することになる。ユーザーの間では“玉転がし/たまころ”などとも。2017年春のイベントでは、2つの陣営のうち、緑のエンライテンドが大幅にリードする結果となった)
91個のシャードが出現し、あわせて64万kmも移動しました。これは地球16周分に値する距離です。エンライテンド陣営は37万km、レジスタンス陣営は27万km移動させました。
日本では新潟や東京の日比谷公園、福岡にゴールとなるターゲットポータルが現われました。日比谷公園の目前までシャードが迫ったのも本当に凄かったです。エンライテンド陣営が新潟のターゲットへロシアからゴールさせたとき、ほぼリアルタイムで観戦していたのですが感動しました。ここをこう使ってシャードを持ってくるのかと。一方、レジスタンスは別の局面で、奈良にあったシャードを福岡にまで一直線で通した。よくあれも通したなと……かなりドラマチックでしたね。
――ゲームとしては、5時間ごとにシャードが移動するとのことで、参加者はかなり疲労困憊したそうですね。
川島氏
終わった直後は(シャードに対して)二度と来ないでくれ! と仰る方もいるのですが、そうは言いつつ別の場所で行われているシャード戦に参加される方もいて、魅力があると感じていただいているのだと思います。
5月~6月のどこかで新イベント
――昨年12月に行われたイベント(ヒントをもとに特定の場所を探してパズルを解くイベントが実施された)もそうでしたが、運営サイドにとっては参加者を集める広い会場を確保するといった手間がないような遊び方ですし、これまでにない新しい形のイベントを仕掛けてきているような印象もあります。
川島氏
新しいことをやりたい、という議論はいつも社内でしています。「Ingress」はどんどん変わっていくゲームです。ひとつのフォーマットだけではなくいろいろ試みたい。そのひとつとして……(同席する須賀氏に)健人、どうなの、これって。
須賀氏
ど、どうしましょう。
川島氏
言っちゃっていいの?
須賀氏
あの、アメリカで今度、Ingressのエージェントとキャンプをやるんですね。これまでの(集団戦の)アノマリーや、(自治体とエージェントが開催するスタンプラリーの)ミッションデーだけではなく、いろんなフォーマットのイベントを用意したいと考えているんです。Ingressの良さのひとつは、さまざまなプレイスタイルで楽しめることです。それにあわせていろんな種類のイベントを用意したい。キャンプもひとつの試みです。日本でも、(キャンプとは)違った形の、似たようなことを実施したいと思っていて企画が進行中です。5月~6月に、この新しい企画を実施したいと考えていて、ぜひみなさん、楽しみにしていただきたいです。
――となると、近日、正式に告知されるのですね。今日はダメですか……?
須賀氏
コンセプトは固まってきたのですが、まだ詳細は開示できないのです。
川島氏
過去、Ingressでは、米国の元軍人が作ったタフネスなバッグ「GORUCK(ゴーラック)」とコラボして、重りを身に着けて走ったり、運動したりするイベントを実施してきました。そうした変化のある取り組みには挑戦していきたい。今度米国で実施するキャンプもすごくチャレンジです。日本でも、それとは違った形、そして今までとは違った形のイベントをやりたいなと準備中です。
――ちなみにアノマリーは……?
須賀氏
未定です。
ポータル審査「Portal Recon」12日から拡大
川島氏
このタイミングでのニュースとしては、「Portal Recon(ポータルリコン)」が明日、12日から、日本全国のレベル15、レベル16(Ingressでの最高レベルは現在16)のエージェントが利用できるようになります。招待状が届いた人から順次、できるようになります。
――直訳すると、ポータルの偵察という意味のPortal Reconが明日から、日本全国ですか! ユーザー自身がゲーム中に登場するスポットを審査するというものですよね。もうβ期間は終了ですか?
川島氏
まだまだβ段階で、グローバルでの展開はもう少し先です。いずれはPortal Reconでの審査も、エージェントの実績として何か考えたいと思いますが、それはグローバルで導入するタイミングだと思います。今まで10数カ国で先に展開したものの参加してくれたエージェントの人数は非常に限られたものですが、レビュー件数は100万件(複数のエージェントが複数のスポット情報を審査した件数の合計)にも上っています。レビューの結果、約9000カ所が実際に新しくスポットになり、その一方で約1万1000件が却下されました。
――まだβとのことですが、ここまでの展開は当初の目論見通りですか?
川島氏
そうですね。まだまだテスト中ですが、Portal Reconは、ナイアンティックにとって重要な取り組みで、これがうまく行けば、これからIngressのほか、Pokémon GOに関しても影響を及ぼしていきますし、ナイアンティックのプロダクト全般に影響します。ぜひ協力いただきたいです。ちなみに今日、私が着ているのはPortal ReconのTシャツなんですよ。
――そういえば僕の周囲でも1人、そのTシャツを手にしたと聞いています。
川島氏
それはすごいですよ……! これまでのβテストで、上位の実績を残した方に特製Tシャツを贈りました。世界で20人しかいないんですよ。日本はそのうち半分を占めるのですが(笑)。最も審査件数が多かった人で1人7000件でした。それだけの情熱を持って参加してくださった方には本当に感謝したいです。プロダクトの改善に役立っていますし、日本全国への拡大も、日本のエージェントの質の高さが活きていると思います。まだ参加時のテストはあります(笑)。ちなみに関口さんは?
――まだ未参加です……。明日からの招待状をお待ちします。日本全国のエージェントへ拡大することになりますが、そのTシャツはもうもらえないのでしょうか……?
須賀氏
(上位成績者へのTシャツプレゼント)それいいですね。ぜひやりたいです。
Ingress 2.0のコンセプトアート、見せてもらいました!
――Ingressに限らず、あらゆるサービス、ゲームでいかに継続してユーザーに使い続けてもらうか、というのは重要な課題のひとつだと思います。ここ最近のナイアンティックでの考え方は? 先ほどは新しいイベントを、というお話がありましたが……。
川島氏
Ingressはナイアンティックにとって非常に重要な製品で、引き続きやっていきますし、年内には2.0、次のバージョンを発表できるようにと考えています。少しずつ情報が出てくるでしょうから、楽しみにしていただきたいですね。(須賀氏のほうに向いて)これ、公開はできないけど、見せるくらいならいいかな?
須賀氏
ああ、それなら大丈夫です。
――それはいったい……写真はダメなんですね……目で見たものをテキストで表現するのはいいですか?
川島氏
それはいいですよ、と(PCを筆者に向けながら)Ingressの次のバージョンのコンセプトアートみたいなものです。これを見る方は、たぶんメディアでは、世界初でしょう。
――開発環境が変わるという噂は目にしましたが……(イラストを目にして)オオオ……これは、確かにグラフィックが変わりますね。ポータルをタップしたところの場面でしょうか。画面中央に光の柱のようなものがある。これがポータルでしょうか。そして画面下部に大きめのボタンでリチャージやデプロイのボタン、その上に小さく鍵マークのボタンが2つと、グリフのようなアイコンがありますね……。確かに大幅に見た目は違いますね。こうしたものは、どれくらい実際の製品へ影響を与えるのでしょうか。
川島氏
確かに変わっていくところはあるでしょう。(言葉を選んでいる様子で)フレッシュな感じになっていくとは思っています。
――2.0のスケジュールは?
川島氏
少なくとも年内には間違いなく届けられるように進めています。もっと早くなるかもしれませんね。テストが始まれば。
――Ingress 2.0に向けて、これからスマホを買い替える方に、どれくらいスペックがいいといったオススメはありますか?
川島氏
基本的に、「2.0」でやろうとしていることのひとつは、Pokémon GOと同じく、開発環境としてUnityを採用します。これまでより3D空間の使い方が面白くなります。たとえば違うデバイスで楽しめるようになるかもしれません。スペックという意味では、Pokémon GOがきちんと動くものでは問題はないでしょうけども、まだ断言はできませんね。
「ウェアラブルはこれからもっと重要になる」
――違うデバイス、という意味では、ハンケ氏がスペインの「MWC2017」でウェアラブルやビーコンといったデバイスへ関心があると話していたそうですね。たとえばウェアラブルについては、以前、米国向けのIngress公式ストアでウェアラブルデバイスのようなものが一時あったように記憶しています。
川島氏
それはサードパーティが開発したもので、ウェアラブルというほどのものではなかったです。ジョン(ハンケ氏)の言うウェアラブルとは、ナイアンティックとしてはAR分野が今後どう進展するかという視点で、たとえば目で楽しむデバイスはすごく進化しつつあります。いわゆるヘッドマウントディスプレイで、AR分野に新しいプレイヤーが少しずつ出てきています。(マイクロソフトの)Hololensはかなり実用的ですし、これからMagic Leapも出てきます。それ以外にも有力なプレイヤーが登場する。おそらくこれから2年くらいで非常に面白い進歩が見られると思います。
ただ、そこに至るまでには、スマートフォンや、視覚以外の感覚を使うデバイスも重要になると考えています。そこでウェアラブルです。たとえばPokémon GO Plusも実はウェアラブルです。振動によってポケモンの存在を感じられて、ネット上では「このデバイスに自分が操られている」と表現する人もいました。ウェアラブルはバーチャルとリアルを繋ぐ、架け橋になるデバイスになっていくと考えています。より人間に寄り添うデバイスとして進歩が期待される分野で、そうですね、非常に面白いです。ナイアンティックでも進めていきたいですね。
――それは、自社で開発するということですか。それとも、他のARプラットフォームにアプリを、というアプローチになるのでしょうか。
川島氏
それはノーコメントです……グッドクエスチョンですね(笑)。
――Pokémon GO Plusを使う人、使わない人で、活動に違いはありますか?
川島氏
Pokémon GO Plusはいろんな変化を産みだしたのではと思っています。子供に持たせて、自分はスマートフォンを使う、Pokémon GOをしながらIngressをするなど、デバイスとしてはシンプルなのですが、コミュニケーションの幅を拡げたのではないかと。
Pokémon GO Plusは、任天堂さんらしいと言いますか、こなれた部品をフルに使いきったデバイスです。ボタンの感触にはとりわけこだわっていらして。ウェアラブルは、感触や感覚が非常に重要です。一度ブームになって、いったん今は落ち着いて、これから良い形で進歩するかもしれませんね。
――Pokémon GOではApple Watch向けのアプリも登場しました。スマートウォッチは、ユーザーの行動として、Pokémon GO Plusのようなデバイスと比べて、違いはあるのでしょうか。
川島氏
僕が思っているのは、ウェアラブルデバイス自体の、今、みんなが考えている可能性がすごく限定されているのではないでしょうか。今は歩数計や健康管理ができて、ちょっとした通知を受けられる……と用途が限られています。そのため、重大なデバイスと思われていないのではないか。でも、これからはウェアラブルデバイスがあるのが当たり前、という時代になるのではないか。これは現実とコンピューターの世界がより近くなる、リアルのなかで繋がりが深まると接点を増やす必要があるからです。本当の意味でのウェアラブルの可能性があります。IngressやPokémon Goはそうしたウェアラブルデバイスとの相性が良いと思っています。
――ウェアラブル関連の取り組みは、いつ、形になりますか? 今のお話ですと、2020年代に……という印象を受けます。
川島氏
わりと中期的な、腰の据わった感じで取り組んでいます。その背景にはPokémon GOがうまくいったということがありますね。
Pokémon GO、次の展開は?
――4月7日、ナイアンティックのブログで、Pokémon GOの受賞暦とともに、月間アクティブユーザー数が6500万人であること、「協力しながら遊ぶ新しい体験を開発中」ということが明らかにされました。
須賀氏
2015年9月の発表時に公開したプロモーションビデオに含まれているプレイヤー同士のバトル、多人数でのバトル、ポケモンの交換など、あのビデオが含まれていることは、順番がどうなるかは未定ながら、実装していく予定です。
川島氏
今後の巨大イベントは、非常に楽しみにしてほしいですし、イベントが楽しめるような仕組みを用意していけるかなと思います。
【訂正 2017/4/19 12:01】
記事初出時、「夏の巨大イベント」としていましたが、ナイアンティック側から開催時期は確定していないと訂正が入りました。本文は修正済です。
――2月、3月で、GDCやMWC、SXSWと続けてハンケさんやデニス・ホワンさんが登壇されるとそうした予告済の機能が近いうちに実装されるのかとつい期待してしまいます。
川島氏
ぜひ期待してください。最近は水ポケモンのお祭りがありましたが、そうした小規模なイベントは今後もありますし、そこに加えて大きなイベントもやっていきます。楽しみにしてください。新機能は実装できるよう今、エンジニアが頑張っています。
そのコラボはどうなったの?
――昨年12月、フジテレビでPokémon GO開発の舞台裏を紹介する番組が放送されました。番組中、Pokémon GOの開発が始まる前のタイミングで、川島さんから須賀さんへ送られたであろうメールが紹介されていましたね。そのメール本文にはモザイクなしで、拝読したのですが……。
川島氏
(須賀氏に向かって)ボカシしなかったね(笑) 2014年4月のエイプリルフール企画「ポケモンチャレンジ」がPokémon GOの発想のもとになったわけですが、当時、グーグル社内で4月1日の前に、社内限定で公開されたものを目にして、ジョンとプロモを見ながら「これはやれるよ、やろうよ!」と盛り上がった直後くらいに、ナイアンティックには当時、私しか日本人がいませんでしたし、送ったメールなんじゃないかと思います。
――あのメールの文面には、モノポリーや20世紀フォックスといった名前が載っていましたよね……。
川島氏
なるほど……あの当時はいろんなプロジェクトが進んでいて、そのうちのひとつでしたね。
――過去形ですか。
川島氏
過去形というか、まだ話は続いていますね。そんな一文が出ていましたか……。
――一時停止して拝読したのですが、放送されたものですし、もう終わったプロジェクトなのかとてっきり。
川島氏
ああいった形で(Pokémon GOの)最初のプロジェクトが立ち上がって、そこから半年後に達雄(Pokémon GO開発主担当の野村氏)が加わって……独立後のナイアンティックにぜひ入ってくれと、ご飯を食べながら達雄を口説いていて、本当に加入してくれたときにはこれでPokémon GOはうまくいくんじゃないかと感じましたね。
自治体との連携、被災地でのイベントは
――Pokémon GOはここ数カ月、自治体との提携が積極的に進められています。
川島氏
日本でのコラボレーションは非常に良い形で進んでいますね。
須賀氏
今、県単位で言うと日本の半分くらい。自治体数で言うと100件近くまでお話が来ています。リアルワールドゲームは、現実世界をゲーム盤にするものです。そうやって協力することでトレーナーを受け入れてくれる場ができると思いますし、地域の助けにもなる。皆がWIN-WINになる取り組みだと思っています。
川島氏
海外でももう引き合いはきています。日本から始まった試みがこれからどんどん拡がっていくと思います。
――地域との関わりという意味では、2014年から毎年、東北で何らかのイベントが開催されました。最近では熊本でPokémon GOのイベントもあって、傍から拝見していても、ナイアンティックが被災地を大事に想っているのだろうと感じます。今の段階で、これから実施する取り組みがあれば教えてください。
川島氏
CEOのジョン・ハンケが何度も東北を訪れていますし、今はまだ具体的なアイデアはありませんが、これからも継続的に実施していくだろうと思います。
須賀氏
熊本でのカビゴンが出現するイベントは、県の方にも喜んでいただけました。ただ、対象エリアが県全域と言えるほど広くて、どれくらいの方が訪れたか、まだ計測はしづらいんです。第2弾として、地元の大学生と熊本県内でポケストップが少ないエリアで、候補になりえるスポットを探すという取り組みに向けて進行中です。官民、と言いますか、自治体(官)と企業(民)に加えて市民も協力するという新しい形かなと思っています。
――なるほど。本日はありがとうございました。