石川温の「スマホ業界 Watch」

アップルとソニー、12年目のラブラブアピール

 アップルのティム・クックCEOが3年ぶりに来日した。

 アプリ開発者やiPadで学ぶ小学生、さらには岸田首相と面会するなか、スマホ業界的に注目だったのが、ティム・クックCEOが熊本県にあるソニーセミコンダクタソリューションズを訪れたことだ。

 今回の訪問では、ティム・クックCEOとソニーの吉田憲一郎会長兼社長CEOが熊本テクノロジーセンター内を回り、iPhone 14 Proに搭載された4800 万画素のクアッドピクセルセンサーのデモを視察したという。

 iPhoneがソニーのイメージセンサーを採用し続けているというのは業界内では「公然の秘密」と言えるものだ。これまでアップル並びにソニーからそういった発表は一切ないが、iPhoneを分解した記事などからソニー製のイメージセンサーが採用され続けているのは誰もが知るところだ。

メーカーの幹部が、部品を供給してくれる企業を訪れるというのは良くあることだ。とはいえ、打ち合わせや表敬訪問などが中心であり、世間に公表されることはない。

 だが、今回のティム・クックCEOの訪問は、同氏のツイッターで明らかにされただけでなく、ソニーからもメディアに向けて情報の開示があった。しかも、ティム・クックCEO、ソニーの吉田憲一郎会長兼社長CEOのコメント付きだ。

アップル社 CEO ティム・クックのコメント

「iPhone 14 のラインアップには、世の中を今までにないほど鮮明にとらえるカメラシステムを含め、強力な新機能 が詰め込まれています。本日、吉田 憲一郎CEO、そして彼のチームと共に熊本にあるソニーの最先端の施設を訪れ、世界最高水準のカメラセンサーと、絶え間ないイノベーションの推進に向けたお互いのチームの協力を目 にすることができました」

ソニーグループ株式会社 会長 兼 社長 CEO 吉田 憲一郎のコメント

「ソニーは創業以来、クリエイティビティとテクノロジーにより、社会にイノベーションと新しい体験価値を提供してきました。アップル社はソニーのイメージセンサー事業にとって、大変重要な顧客であり、同時にイメージセンサー の技術革新を発展させるための重要なパートナーです。今回ソニーの熊本テクノロジーセンターにアップル社の ティム・クック CEO とそのメンバーをお迎えし、我々の最先端のイメージセンサーの製造現場を見ていただくととも に、技術開発や活用の方向性について意見交換できたことは大変有意義でした。

イメージング&センシング技術は、ソニーグループが『感動』を創り続けるための中核を担う重要な技術であり、 今後もこの進化を追求してまいります」

 これまで、ソニーの決算会見では「大口の顧客」というような、奥歯に物が挟まったような言い方で、アップルのことが語られてきた。まさか、ここにきて大っぴらに両社がアップルのiPhoneにソニーのイメージセンサーが載っているということを公表するとは驚きだ。

 しかも、ソニーはアップルにとって、日本における最大のサプライヤーであり、2011 年以降 iPhone 用のイメージセンサーを製造供給してきたとも語られた。まさにアップルとソニーによる「12年目のラブラブアピール」だ。

 また、ソニーセミコンダクタソリューションズは、2030年に向けて、直接排出と電力関連の排出を含む、アップル関連の製造を完全に脱炭素化するとした。これにより、ソニーは、アップルが近年推進しているグローバルサプライチェーンの脱炭素化に賛同する最初の日本企業になるなど、環境面でのアピールにも余念がなかった。

アップルとソニーが今、「蜜月の仲」を示す理由

 このタイミングでのアップルとソニーのよる突然の告白。まさしく両社の利害関係が一致したからだと言えるだろう。

 アップルは、日本において「GAFA」としてGoogleやAmazonとひとくくりにされてしまい、正当に評価されていない。ユーザーをプライバシーを保護するため、セキュリティ面を重視してiPhoneではAppStoreのみからのアプリダウンロードを頑なに守ってきた。しかし、欧州や韓国などで採用されつつある、AppStore以外からのダウンロードを認める「サイドローディング」を日本でも導入するような動きが政府内から出始めている。

 iPhoneの販売においても、1円やゼロ円での割引販売を規制する動きがまたも出ている。

 アップルはソニーへの訪問に合わせて、この5年間で日本企業に対して、13兆円規模の支出をし、100万人規模の雇用を支えてきたと発表した。日本経済への貢献を評価して欲しいという表れだ。

 一方、ソニーはこれまでスマートフォンの黒子的な存在であったイメージセンサー事業をブランド化しようという動きが出ている。

 スマートフォン向けイメージセンサーに対して「LYTIA(ライティア)」というプロダクトブランド名を付けると発表しているのだ。

 これまでも、OPPOやXiaomi(シャオミ)などの中国メーカーが新製品発表のたびにソニー製のイメージセンサーを採用していることを訴求しているが「IMX989」など製品型番のみでしかアピールできていないため、ユーザーにはわかりにくかった。

 これが「LYTIAが載っている」と言えるだけで、ソニーの高性能なイメージセンサーなんだとユーザーの理解が深まる。

 今後、クアルコムのSnapdragonのように、スマートフォンの性能を表す目印として「LYTIA」という名前を頻繁に聞くことになるだろう。

 また、11月に開催されたクアルコムのイベントでは、Snapdragonとソニーが共同でラボを作り、協力しあってイメージセンサーを開発しつつあるという発表が行われたのであった。

11月のクアルコムのイベントでの一幕

 アップルとしても、すでに2011年からソニーからイメージセンサーの供給を受けているわけで、長年、共同でiPhone向けのイメージセンサーを開発している間柄だ。

 アップルとしてはクアルコムだけに「ソニーと仲がいい」とアピールされるのは癪(しゃく)に触るのではないか。だからこそ、今回の熊本訪問、さらには両社の関係性の公開し「うちの方が先に仲がいいですけど」という発表に繋がったはずだ。

 スマホ業界において、ソニーのイメージセンサーがモテモテで、取り合いになるほどの人気になっているのがよくわかるし、今後、アップルのプレゼンにおいても、ソニーの名前やブランドが語られることになりそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。