石川温の「スマホ業界 Watch」

「神ジューデン」は広まるか、「Xiaomi 12T Pro」をソフトバンクがMNOとして独占販売する意義

 ソフトバンクが国内の通信事業者(MNO)として「Xiaomi 12T Pro」を独占販売する。「独占販売」といっても、MVNOではIIJmioなども取り扱うため、かつてのiPhoneのような独占感は皆無に等しい。たしかにNTTドコモ、KDDI、楽天モバイルが扱わないので「MNOとして独占販売」なのは正しいのだが、オープンマーケットでも売られる製品なので「独占販売」という言葉にありがたみは感じない。

 ただ、シャオミにとってみると、MNOとしてソフトバンクに独占的に扱ってもらうということは大きな意味があるだろう。

「写メール」のように定着なるか「神ジューデン」

 今回、ソフトバンクは「Xiaomi 12T Pro」を「神ジューデン」というフレーズで大々的にアピールしていく。俳優の吉沢亮と杉咲花が出演するCMも流れるようなので「神ジューデン」という言葉は一般に浸透していきそうだ。

 「Xiaomi 12T Pro」は19分でバッテリーを100%にできるのがウリだ。ただ、単にスペックで訴求するよりも「神ジューデン」といった方がわかりやすい。

 記者会見の現場にいた関係者によれば「ソフトバンクのメンバーにはかつて、J-フォン時代にカメラ付きケータイを『写メール』と名付けて一般に広く認知させた人も多い。今回の神ジューデンは写メール的に売り出したいという思いもある」という。

 シャオミは中国などではSNSを中心にプロモーションをかけ、シェアを拡大してきた。日本でもSNSを中心に活動し、テレビCMなどはこれまでほとんど展開していない。

 日本でまだマイナーなシャオミが自社で「19分で100%充電」といっても認知されないだろう。しかし、ソフトバンクというテレビCMが得意なキャリアと組み、「神ジューデンのスマホ」として全国のソフトバンクショップで大々的に扱ってもらうことで、一気に認知度を高めることができる。

 これも「独占販売」という建て付けがあるからこそ、ソフトバンクも売る気になってくれるのだ。スペックが高くコストパフォーマンスに優れたスマホであったとしても、メーカーが独自に売っていくのは難しい。

 総務省は通信と端末の「完全分離」を求めるが、メーカーはキャリアとできるだけ仲良くしたいというのが本音だ。

ソフトバンクが他キャリアをリードする?

 ソフトバンクでは今後、「神ジューデン」をシリーズ化して、第2弾、第3弾のスマホも投入していくようだ。

 ソフトバンクの菅野圭吾氏によれば「神ジューデンの定義は20分以内」というのが目安としてあるようだが「シャオミとはカップヌードル的にならないか、なんて話もしている」という。数分で一気に充電できるなんて世界観を模索しているようだ。

 ソフトバンクが今回、充電にフォーカスしてきたのは実に上手い仕掛けのように思う。これまで各スマートフォンメーカーは「電池が大きい」というアピールをしてきたが、「充電が速い」という訴求はあまりしてこなかった。

 というか、サムスン電子は、2016年に「Galaxy Note 7」で発火や爆発騒動を起こしたこともあり、充電やバッテリー関連では保守的な取り組みしかできなくなってしまった。

 また日本メーカーの場合も、スマホの発熱に関しては低温やけどの心配もあるため、急速充電には慎重なスタンスだ。特にXperiaは「いたわり充電」という電池に優しいアプローチをとっているほどだ。

 一方、「充電が爆速」で技術を進化させ、アピールしまくっているのがシャオミやOPPOといった中国メーカーだ。OPPOは最大150Wでの充電をサポートし、4500mAhのバッテリーを、残量0%から5分で50%まで、15分で100%まで充電できる技術を持つなど、シャオミとの対抗心をむき出しにしている。

 ソフトバンクとすれば、なぜかサムスン電子とはあまり仲が良いとは言えず、Galaxyを扱うことがほとんどない。一方で、シャオミやOPPOとは関係性が強い。今後、「神ジューデン」の第2弾、第3弾が出るとするならば、シャオミだけでなくOPPOもラインアップに加わるのではないか。

 他キャリアをみると、KDDIは「神ジューデン」に追随できても、NTTドコモは中国メーカーの取り扱いがほとんどないので後追いするのは難しそうだ。

 そう考えると、かつての「写メール」のように、当時はJ-フォンであったが、今回はソフトバンクが「神ジューデン」で他キャリアをリードする可能性は十分にありそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。