「Ice Station Z」から見る3DSという市場の特殊性とゲームの評価の難しさ(後編)

鯛の尾より鰯の頭となったゲーム

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前編では「Ice Station Z」というひどいゲームの内容と、それにも関わらず売れている事実、そして楽しんでいるであろうプレイヤーたちの様子を紹介した。この記事では少し視点を変え、なぜ本作が発売されたのかといった経緯から人気の理由を探っていく。

前編を読んでない方はこちらから読むことができる。

有名ゲームタイトルの模倣という存在

そもそも「Ice Station Z」のデベロッパーであるWobbly Toothはなぜこのゲームを作ろうとしたのか? これの答えはおそらく、同デベロッパーが過去に3DSで配信した「Battleminer」が売れたということにある。

「Battleminer」は手短に言えば、とても有名なサンドボックスゲーム「Minecraft」を真似た作品、つまりクローンだ。本作はブロックで構成されたオープンワールドを自由に探索するゲームで、収集した素材でさまざまな道具や建物を作ることができる。また、銃を撃ってモンスターと戦えることや、最大8人のオンラインマルチプレイが大きな特徴となっており、発売されてから一年以上経っているのに3DSのダウンロード売上ランキングに顔を見せているほどの人気だ。

別の会社になるが、アークシステムワークスからは「キューブクリエイター3D」というタイトルが発売されている。こちらも「Minecraft」のクローンで販売本数はなんと37万本を超えるほど。2017年4月27日発売予定の続編「キューブクリエイターDX」に至ってはパッケージソフトとしても発売されるくらいには人気が出ているのだから、なるほど確かに3DSでは人気タイトルを真似たゲームが売れると判断されるのも当然であろう。Wobbly Toothもこのあたりの様子を見て、「何かよその人気作品を3DSで出せばあるいは……」と考えたのだと思われる。

当然ではあるが、有名タイトルの模倣品が出るのは何も3DSだけのことではない。Xbox 360では、プロ・アマ問わずさまざまな制作者がゲームを配信できるXbox LIVE Indie Gamesという市場があったのだが、ここでもかなり「Minecraft」のクローンが登場していた。いや、この場所も最初期は誰もがアイデアを活かしたオリジナル作品で勝負しようとしてはいたのだが、次第に“そのハードでまだ出ていない人気作品の模倣の需要が圧倒的に高い”ことが明るみに出てしまったのである。

「Deadburg」ゲームプレイ画面

Xbox LIVE Indie Gamesの「Minecraft」クローンタイトルはかなりの数が出た。先鞭をつけた「Total Miner: Forge」、ゾンビを追加しバトル要素を強めた「CastleMiner Z」、FPSの要素を取り込んだ「Miner Of Duty」、ブルースクリーンが出まくることしか記憶に残っていない「Deadburg」など、もはやデッドコピーと呼んだほうがいい低品質なものを含めれば50近くの作品があったのではないだろうか。

とはいえ結局はXbox 360でも本家本元の「Minecraft」が配信される。これをきっかけにクローン作品は徐々に人気を落としていくわけだが、それまでの盛り上がりはすごいものであった。3DSでは本家「Minecraft」が配信されていないため、この需要は今後も続くものと思われる。なお、「Minecraft」はWii Uだと配信中なのだが、3DSのクローンを駆逐することにはならないようだ。

「ApocZ」ゲームプレイ画面

ちなみに、Xbox LIVE Indie Gamesにも「DayZ」を模倣した「ApocZ」というゲームが存在したのだが、これは残念なことに流行らなかった。要因はいくつかあり、最初期にオンラインマッチングの致命的なバグがあったことや、そもそもXbox 360にはリアルな銃の出るゾンビゲーは山ほど存在した点が挙げられるものの、オンラインマルチプレイが有料であること、ストアの仕様、そしてハードに求められているものの違いというものが大きかった。

子供たちから見たニンテンドー3DS

ところで、読者の方は3DSをどういうものだと捉えているだろうか? おそらくゲーム機かおもちゃという答えが多いと思われるが、このハードは子供たちにとって“最新の技術が詰まった電子機器”なのである。

大人からすればPCやスマートフォンよりスペックが低くできることも少ない3DSだが、それしかない子供にとっては最高のものになる。実際、3DSをネットに接続してもメッセージのやり取りなどはしづらいし、任天堂も子供をトラブルから遠ざけるように努力しているが、それでも子供たちは禁じられた遊びをしてみたいものなのである。

2013年11月には、3DSで日記をやり取りできるソフト「いつの間に交換日記」と「うごくメモ帳 3D」の一部サービスが停止された。任天堂の発表によると、「公序良俗に反する写真が送受信されてしまう事例が発生」したとのことで、詳細は不明だが「未成年のお客様のご利用も多い」と書かれていることから察するに、このソフトにおけるメッセージのやり取りは日常的に行われていたのだろう。当時はこのサービス停止に不満の声を挙げるプレイヤーも多く存在しており、子供たちが3DSのソフトをLINEのように使っていたという証左のひとつとなる。ちなみに3DSには「みんなのおしゃべりチャット」というチャットおよび通話ソフトもあるのだが、これは「いつの間に交換日記」のサービスが終了したあと人気になったようだ。

フレンドリストで「みんなにひとこと」が表示されている様子(一部加工済み)

また、私の甥は3DSのフレンドリストの「みんなにひとこと」で友達とやり取りをしようと頑張っていたことがある。フレンドリストでは自己紹介用の極めて小さなスペースに自由な一文を入力することができるため、これを頻繁に更新しあってチャットのように使うということをしていたわけだ。傍から見ているととても涙ぐましい努力だが、それでもスマートフォンを持っていない彼にとっては楽しいチャットソフトのように見えていたのだろう。3DSは確かにゲーム機ではあるが、子供たちにとってはそれだけのものではないのだ。

3DSではゲームも遊べればYouTubeやニコニコ動画を見ることもできるし、ブラウザや各種ソフトを駆使すればいろいろなことができる(ペアレンタルコントロールされていなければ、だが)。そんな素晴らしいハードを持っていたら、それ以上にすごいというPCやスマートフォンというハード、そこで体験できるものの情報が入ってくるため、憧れを持つのも不思議ではないのである。

世界的に人気となった「Minecraft」はどこでも話題になっている。子供向け雑誌で特集が組まれることもしばしばあり、ゲームセンターでは海賊版商品がプライズとして登場するほどだし、日本で人気のYouTuberも常に関連動画をあげている。もはや知らない子供はいないと言えるくらいなわけで、憧れて当然だ。

「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」トレーラー。YouTubeで「PUBG」と検索すると実況動画が山ほど出てくる

それに比べると「DayZ」はそこまで有名ではないのだが、それでもYouTubeでは100万再生近い日本向けゲーム実況動画がいくつかあるほどには人気だし、何より動画に向いた内容であるということが重要だ。

昨今PCでは、孤島で生き残りをかけた殺し合いをするサバイバルゲーム「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」が流行しているが、これもかなり動画に向いておりニコニコ動画でも人気を博している。

このようなゲーム実況向けのタイトルは動画サイトへ伝播しやすく、そこからYouTubeなどで暇をつぶす子供たちにも繋がっていくことになるようだ(ジャンルは異なるが、「青鬼」などのホラーゲームも動画サイトから若い層に人気が出て映画化されるほどとなった)。仮に具体的なタイトル名を覚えられないにしても「こういう殺し合いをするゲームはなんだかとても面白いらしいぞ」ということは伝わっていく。しかし、これらの作品はPCでしか遊べないことも多い。子供たちの憧れが膨れ続ける中、3DSにその模倣作品がやってきたら……。「蜘蛛の糸」に登場する罪人たちのように飛びつくのは必然ともいえる。

また、3DSではスマートフォン向けのタイトルが買い切り型になって登場し人気を獲得することもある。3DS版「とびだす!にゃんこ大戦争」は常にランキング上位に居座るほど人気が高いし、2017年4月26日には映画にもなった「ねこあつめ」が3DSで配信される。このあたりのタイトルも、3DSは持っているものの自分用のスマートフォンがないプレイヤーに向けた商品なのだろう。

言うなれば「Ice Station Z」は市場調査も成功しているのである。人気作品の模倣にも大きな需要がある3DSという市場の特徴を掴んでおり、かつ必要十分な品質で販売を行った。CEROのレーティングはB判定(12歳以上対象)で済むようなゲーム内容になっているし、価格はたったの500円。クレジットカードがなくとも、プリペイドカードを使えば子供のお小遣いでも簡単に買えるというところまで読んでいる。ローカル通信にも対応しているため、家にインターネット環境がないプレイヤーも口コミで取り込むつもりなのだろう。

ゲームの評価は一方向からの視点に過ぎない

確かに私からすれば「Ice Station Z」はかなりひどいゲームだし、これを遊ぶくらいなら他の素晴らしいゲームを遊ぶことができる。しかし、まさしく鶏口牛後。3DSという場所では同じジャンルがほとんどなく、かつ市場のニーズにぴったり合っていることにより、ミニゲームだらけの内容であったとしても理想的なゲームと評価されるのである。これこそがまさしく売れる理由だ。

このことは3DSという市場の特殊性を示していると同時に、物事の評価の難しさを教えてくれる。「盲人の国では片目の者が王となる」などという言葉もあるように、同じゲームであっても受け取る人によって評価は変化するのが当たり前なのだ。IGN Japanをはじめとするさまざまなメディアがゲームレビューを行っているが、その意見は肯定でも否定でもあくまで“そのメディアやライターの立ち位置から見たもの”ということを忘れてはならない。

あなたにとってつまらないゲームでも、誰かにとっては神がもたらした奇跡のような一作なのかもしれないのだから。

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Ice Station Z

2017年4月5日
  • Platform / Topic
  • NINTENDO 3DS
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