もともと金融は、決済や資金仲介などを通じて、空間や時間を超えた経済主体の「つながり」を生み出すことで付加価値を創り出す情報処理のプロセスとみることができます。このようなつながりは、常に「信頼」によって支えられます。この、信頼の重要性は、FinTechにおいても変わりません。したが って、FinTechの発展のためには、人々のニーズに応える新しいサービスに積極的に取り組む姿勢とともに、金融サービスへの信頼をしっかりと維持し ていくことも求められます。
仮にFinTechに関して情報セキュリティの問題が頻発するようなことが起これば、たとえそれが一部の業者に限られるものであったとしても、FinTech全体への人々の警戒感につながり、その発展が阻害されることになりかねません。
また、FinTechの基盤となる情報技術を磨くことによって、情報セキュリティや金融取引の安全性向上にも貢献できるはずです。例えば、金融取引の伝統的な認証手段である印鑑や暗証番号には、盗難や忘失といったリスクも伴います。
この点、例えば新しい技術を用いた生体認証は、これらのリスクに対処し、セキュリティの強化に寄与し得ると考えられます。このように、技術革新をセキュリティ向上に結び付けていく関係者の取り組みを通じて、利用者が「FinTechは金融を便利にするだけでなく、金融取引の安全や安心にも役立つもの」と捉えるようになれば、その発展は大きく後押しされることになるでしょう。
日本銀行の取り組み
FinTechは、中央銀行との関連でも幅広いインプリケーションを持ちます。決済や金融サービスへの広範な影響は言うまでもありませんが、FinTechがEコマースやシェアリングエコノミーなど各種の経済活動を刺激するといった実体経済への影響も注目すべきポイントです。また、FinTechと、暗号技術など先端技術が相互に影響を及ぼし合うことも考えられます。さらに、FinTechの健全な発展を促す上では、金融リテラシーや金融教育も重要な意味を持ちます。加えて、日本銀行としては、将来的に自らの業務にFinTech技術を活用する可能性も含め、調査研究を進めて行く必要があると考えています。
このような FinTech の幅広いインプリケーションを踏まえ、日本銀行はこの4月、決済機構局内に「FinTechセンター」を設立しました。さらに、同センターを事務局とし、行内の関係部署が幅広く参加する「FinTech ネットワーク」を形成し、FinTechに関する情報や知見の共有を図ることとしました。日本銀行としては、FinTechの健全な発展を支援するとともに、これが金融サービスの利便性向上や経済活動の活性化に結び付いていくよう、中央銀行の立場からなし得る最大限の貢献をしていく考えです。
本日のフォーラムには、実に多様な主体にお集まりいただいていますが、歴史を振り返っても、金融業や複式簿記などの発達には、ルネサンス期の国境を越えた交易など、多様な文化間の交流が大きなきっかけとなりました。同様に、FinTechという新しい金融サービスが発展を遂げていく上では、IT産業や流通業、スタートアップ企業など、従来の金融業の枠を超えた幅広い主体間での前向きかつインタラクティブなコミュニケーションがきわめて重要 と考えられます。本日のフォーラムが、皆様にとって新たな知見や視点を得る場となりますことを期待して、私からのごあいさつとさせていただきます。