決済や投資判断、リスク管理といった金融の根幹をなす活動は、いずれも見方を変えれば情報処理そのものであり、情報技術やAIなどの進歩は、これらの活動全般に影響を及ぼし得ると考えられます。加えて、FinTechの代表的な技術基盤とされる「ブロックチェーン」や「分散型元帳」は、「帳簿は特定の主体が管理するもの」という従来の考え方を大きく変えるものです。
金融の発展自体が帳簿というインフラに支えられてきたことを踏まえれば、帳簿の革新は、金融の形態にも大きな変化をもたらす可能性があります。
情報セキュリティの重要性
このように、情報技術革新やFinTechは、金融サービスのフロンティアを拡げる潜在力を持つものですが、他方で情報セキュリティの重要性を一段と高めるものでもあります。
ネットショッピングで商品の検索や購入をしていると、いろいろな商品が「お勧め」されたり、広告に現れるようになります。利用の頻度が増えるに連れて、勧められたり宣伝される商品も、ますます顧客の好みを捉えたものになっていきます。これらはまさにビッグデータの高速処理により可能とな った訳ですが、情報技術を通じて個々の顧客の属性を詳細に洗い出すことが可能となっていることは、逆に言えば、万が一にもこのような情報が悪用さ れれば、その影響は、利用者の心理面への影響も含め甚大となり得ることを意味します。
また、情報技術の進歩が、ハッキングやサイバー攻撃などの手口をますます巧妙にしている面もあります。とりわけ、ネットワークがグローバルに拡がっている金融の世界では、ひとたびそうした攻撃による侵害がどこかで発生すれば、その影響は国境を越えて拡散し得ることになります。本年初に発 生した、バングラデシュ中央銀行の預金が不正に海外送金された事件は、まさにそうしたリスクが顕在化した事例と言えましょう。
FinTechの発展にとっても、情報セキュリティへの対応は鍵となります。FinTechの特色としては、ビッグデータやAIなどを活用した高度な情報処 理とともに、インターネットやスマートフォンなど、金融サービスにアクセスできる「媒体」の拡大も挙げられます。
このように、金融のネットワークが従来よりも「オープン」な形になっていくことは、顧客利便性に寄与し得る一方で、サイバー攻撃などの潜在的ターゲットも増えることになります。すなわち、「金融ネットワークのオープン化」と情報セキュリティをいかに両立させるかは、FinTechの発展にとって大きなチャレンジです。