青柳瑞穂
表示
青柳 瑞穂(あおやぎ みずほ、1899年5月29日 - 1971年12月15日、男性)は、日本の仏文学者、詩人、美術評論家、翻訳家。 骨董品収集・随筆でも著名であった。
人物
[編集]山梨県西八代郡高田村印沢(現・市川三郷町)にて、四男五女の末子として生まれる。生家はかつて質屋を営んだことがある富裕な地主の旧家だった。幼い頃から書画骨董の詰まった質倉で遊び、骨董に対する鑑賞眼を培った。
1917年に山梨県立甲府中学校(旧制)を卒業後、詩作やフランス語独習に熱中。永井荷風と堀口大學に憧れ、1919年に慶應義塾大学仏文予科に入学。このとき蔵原伸二郎と知り合い、無二の親友となる。1920年、出席時間不足のために留年し、新入生と奥野信太郎と終生の親交を結ぶ。1922年、慶應義塾大学仏文科に入学。在学中にアンリ・ド・レニエの小説を日本語に翻訳し、永井荷風の個人指導を受ける。留年を経て1926年に大学を卒業後、堀口大學の門人として、『パンテオン』『オルフェオン』『セルパン』などに創作詩を発表。やがて詩作から遠ざかり翻訳業に専念。
1937年、杉並区の古道具屋にて、尾形光琳筆の肖像画『中村内蔵之助像』を7円50銭で発掘、大きな話題を呼ぶ。1949年、ジャン=ジャック・ルソーの『孤独な散歩者の夢想』の翻訳により戸川秋骨賞を受賞。1950年、慶應義塾大学仏文科ならびに同予科の非常勤講師となる。1961年に『ささやかな日本発掘』により第12回読売文学賞受賞。
1971年12月15日、急性肺炎で死去。中央線沿線に住む文士たちの集い「阿佐ヶ谷会」のまとめ役でもあった。
家族
[編集]- 父・青柳直道 (1857-)‐ 山梨県高田村(現・市川大門町)の裕福な地主で質屋・青柳幸右衛門の長男で、村会議員、村長、郡書記、県会議員、県職員を務める傍ら高等文官試験にも合格、甲府電力取締役を経て1902年に大日本重石鉱業設立し社長を務めた[1][2]。
- 兄・青柳幹一 ‐ 大洋織物取締役。直道の長男、東京外国語学校卒、元大阪商品陳列所、大阪瓦斯勤務[3]。妻のヨウ(要)の異母弟に三谷隆正、三谷隆信
- 兄・中沢謙之介‐高岳製作所取締役[4]。直道の二男で、ホテル談露館の中澤三鶴平の婿養子、東京高等商業学校卒業後、第十五銀行入社[5]、1918年より東電[6]。娘婿に通産省大臣官房審議官の池永光弥、その娘婿に高橋温[7]。
- 姉・春枝 ‐ 文部省督学官・小尾範治の妻[8]
- 妻・とよ ‐ 青柳の浪費癖に苦しめられ、「もう疲れてしまった」という書葉を遺して自殺[9]。
- 後妻・壽美 ‐ 飲み屋「ちどり」の女将。連れ子に銀座のバーに勤めるまちこ。[10]
- 孫・青柳いづみこ ‐ 長男の娘。ピアニスト、大阪音楽大学教授。『青柳瑞穂の生涯: 真贋のあわいに』を上梓。
著書
[編集]- 『睡眠 詩集』(第一書房、今日の詩人叢書) 1931
- 『ささやかな日本発掘』(新潮社) 1960、のち講談社文芸文庫 1990、のち電子書籍 2014
- 『壷のある風景』(日本経済新聞社) 1970
- 『古い物、遠い夢』(新潮社) 1976
- 『青柳瑞穂 骨董のある風景』(青柳いづみこ編、みすず書房、大人の本棚) 2004
共著
[編集]翻訳
[編集]- 『仇ごころ』(ヴァルリー・ラルボオ、堀口大學共訳、第一書房) 1932
- 『仏蘭西新作家集』(第一書房) 1933
- 「うららかな日」(ジャック・ド・ラックルテエル)
- 「眠る彼女を眺めて」(マルセル・プルウスト)
- 「ミスタア虞」(ポオル・モオラン)
- 「地上の糧より」(アンドレ・ジイド)
- 「コンゴ紀行より」(アンドレ・ジイド)
- 「一夜」(ピエール・マッコラン)
- 「キャプテン・ソグープのお茶」(ジ・ケッセル)
- 「ドリイ」(ヴァルリイ・ラルボオ)
- 「戀の酒場」(フィリップス・ウポオ)
- 『女の学校 / ロベエル』(ジイド、金星堂、ジイド全集) 1934
- 『反逆児』(ジャック・ド・ラクルテル、第一書房) 1936、のち新潮文庫
- 『知性と感性 スタンダールとカザノヴァ』(ステフアン・ツワイク、河出書房) 1938
- 『スエズ運河 スエズの開拓者レセップス』(ジャン・デルベ、第一書房) 1940
- 『ジヤン・バロアの生涯』(マルタン・デュ・ガール、今日の問題社、ノーベル文学賞叢書) 1940
- 『孤独な散歩者の夢想』(ルソー、講談社) 1948、のち改版(新潮文庫)
- 『魔女の恋』(テオフィル・ゴーチェ、新人社) 1948
- 『スタンダール』(ツヴァイク、新潮文庫) 1951
- 『金牛宮』上・下(アンリ・トロワイヤ、新潮文庫) 1952
- 『マルドロオルの歌』(ロートレアモン、木馬社) 1952、のち講談社文芸文庫 1994
- 『ピリュウスとシネアス』(シモーヌ・ド・ボーヴォワール、新潮社)1952
- 『不幸な出発』(ジャン・ロッシイ、六興出版社) 1952
- 『マリ・ドナディユ』(シャルル=ルイ・フィリップ、白水社) 1953
- 『人間について』(ボーヴォワール、新潮文庫) 1955、のち改版 2005
- 『プシケ』(ジュール・ロマン、新潮文庫) 1955
- 『アルゴオルの城』(ジュリアン・グラック、人文書院) 1956、のち新版
- 『クレーヴの奥方』(ラフアイエット夫人、新潮文庫) 1956、のち改版
- 『マノン・レスコー』(アベ・プレヴォー、新潮文庫) 1956、のち改版 2004
- 『種子』(ピエール・ガスカール、講談社) 1957
- 『ある青年の休暇』(アンリ・ド・レニエ、講談社) 1958
- 『列車〇八一』(マルセル・シュオップ、澁澤龍彦共訳、東京創元社、世界恐怖小説全集9) 1959。新編・国書刊行会 2023
- 『シュメール 人類の美術』(アンドレ・パロ、小野山節共訳、新潮社) 1965
- 『友情論』(アベル・ボナール、筑摩叢書) 1966
- 『水都幻談』(アンリ・ド・レニエ、平凡社、世界名詩集16) 1968、のち平凡社ライブラリー 1994
- 『怪奇小説傑作集4 フランス編』(澁澤龍彦共編訳、創元推理文庫) 1969、改版 2006
ギ・ド・モーパッサン
[編集]- 『モーパッサン短編集』(モーパッサン、春陽堂世界名作文庫) 1933、のち新潮文庫(全3巻)、のち改版
- 『目ざめ その他』(モオパッサン、白桃書房) 1946、のち新潮文庫
- 『山の宿 その他』(モオパッサン、白桃書房) 1946、のち新潮文庫
- 『巴里人の日曜日』(モオパッサン、白桃書房) 1947、のち新潮文庫
- 『水の上』(モオパッサン、白桃書房) 1948、のち新潮文庫
- 『脂肪の塊 / テリエ館』(モーパッサン、新潮文庫) 1951、改版 2012ほか
- 『女の一生』(モーパッサン、講談社、世界文学全集) 1968、新版1974、講談社文庫 1971
参考文献
[編集]- 『青柳瑞穂の生涯 真贋のあわいに』(青柳いづみこ、新潮社) 2000、のち平凡社ライブラリー 2006
- 『青柳瑞穂 骨董のある風景』(青柳いづみこ編・解説、みすず書房、大人の本棚) 2004
脚注
[編集]- ^ 青柳直道『山梨人事興信録』甲府興信所、1918
- ^ 青柳直道『人事興信録』第4版 [大正4(1915)年1月]
- ^ 『人事興信録 第12版上』1940年「青柳幹一」
- ^ 『ダイヤモンド會社要覽』昭和32年上期版、p242
- ^ 『人事興信録 第15版 下』1948年「中澤謙之介」
- ^ 素裸にした甲州財閥 萩原為次 山梨民友新聞社東京特置事務所、1932、p268
- ^ 『人事興信録 21巻、第1部』1961年「池永光弥」
- ^ 小尾範治『人事興信録』第8版、昭和3(1928)年
- ^ 【書評】「青柳瑞穂の生涯 真贋のあわいに」すばる 2000年12月 出口裕弘青柳いづみこ公式サイト
- ^ 『青柳瑞穂の生涯: 真贋のあわいに』青柳いづみこ、新潮社、2000年、p29