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神経内分泌腫瘍

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

神経内分泌腫瘍(しんけいないぶんぴつしゅよう、英語: Neuroendocrine tumor:NET)とは、一般的には神経内分泌細胞(ホルモン産生細胞)から発生する腫瘍を指す。

旧来「カルチノイド腫瘍」と呼ばれていた腫瘍もを含む。

歴史

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1907年にドイツのミュンヘン大学のSiegfried Oberndorferにて「carcinoma-like:癌に類似する」の「ドイツ語、karzinoide(Carcinoid:カルチノイド)」として報告された。その後、病理学的な解析の進歩によって、分類が変更された経緯を有する。

臨床検査

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以下の検査が行われる場合もある。

  • 腫瘍マーカー - クロモグラニンAが特に有用。
  • CT
  • MRI
  • PET-CT
  • ソマトスタチン受容体シンチグラフィー
  • 生検

病理診断

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膵神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor of pancreas.)のH-E染色像。
膵神経内分泌腫瘍シナプトフィジン(IHC) Neuroendocrine tumor of pancreas.(synaptophysin)

まず、顕微鏡で観察した際の細胞の形態で、形態異常が無いかを調べる。他に、適切な抗体を用意して、抗原抗体反応を利用して調べる場合もある[1]。抗原抗体反応を利用した方法は、厳密には染色ではないものの、目的は顕微鏡で見た際に、見易くするための行為なので「免疫染色」などと呼ばれたりもする[2]。以下は、神経内分泌腫瘍の病理診断に際して用いる場合のある、免疫染色の例である。

  • 免疫染色
    • Ki-67 index[3]
    • chromogranin A[4]
    • synaptophysin[4]
    • CD56[4]
    • Somatostatin receptor type 2

発生部位

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神経内分泌腫瘍は全身で発生し得る。ただし、食道十二指腸小腸虫垂直腸等の消化管・膵臓と、等に好発する。なお、脳下垂体子宮胆嚢等での報告もある。

分類

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比較的好発する以下の2つの分野においては、以下の通り分類されている。

消化管・膵臓

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胃や腸の「消化管」と「膵臓」については「カルチノイド」という名称は廃止され「神経内分泌腫瘍」として表記される。WHO(世界保健機関)附属の「IARC:International Agency for Research on Cancer (国際がん研究機関)」発行の分類に則り表記されている。

  • 1980 WHO Classification
  • 2000 WHO Classification(消化管)
  • 2004 WHO Classification(膵臓)
  • 2010 WHO Classification
1980 WHO Classification 2000/2004 WHO Classification 2010 WHO Classification
Carcinoid Well-differentiated endocrine tumor


Well-differentiated endocrine carcinoma


Poorly differentiated endocrine carinoma/small-cell carcinoma

Neuroendocrine tumor Grade 1
mitotic count <2/ 10HPF
Ki67 index ≤2%
Neuroendocrine tumor Grade 2
mitotic count 2-20/ 10HPF
Ki67 index 3-20%
Neuroendocrine carcinoma
mitotic count >20/ 10HPF
Ki67 index >20%
Mucocarcinoid
Mixed forms carcinoid-adenocarcinoma
Mixed exocrine-endocrine carcinoma Mixed adenoneuroendocrine carcinoma
Pseudotumour lesions Tumour-like lesions Hyperplastic and preneoplastic lesions

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肺については「肺癌」の分類の1つとして記載されている。2004年分類と2015年分類の大きな違いは、「肺小細胞癌」と「カルチノイド腫瘍」は別の独立した分類であった物が、「神経内分泌腫瘍」として統合された点にある。

  • 1967 WHO Classification
  • 1981 WHO Classification
  • 1999 WHO Classification
  • 2004 WHO Classification
  • 2015 WHO Classification
2004 WHO Classification 2015 WHO Classification
Adenocarcinoma
Squamous cell carcinoma
Small cell carcinoma
Carcinoid tumors
 *Typical carcinoid tumor
 *Atypical carcinoid tumor
Large cell carcinoma
Adenosquamous carcinoma
Sarcomatoid carcinomas
etc.
Adenocarcinoma
Squamous cell carcinoma
Neuroendocrine tumors
 *Small cell carcinoma
   Combined small cell carcinoma
 *Large cell neuroendocrine carcinoma
   Combined large cell neuroendocrine carcinoma
 *Carcinoid tumors
  **Typical carcinoid tumor
  **Atypical carcinoid tumor
 *Preinvasive lesion
   Diffuse idiopathic pulmonary neuroendocrine cell hyperplasia
Large cell carcinoma
Adenosquamous carcinoma
Sarcomatoid carcinomas
etc.

治療

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消化管・膵臓

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  • 外科手術 - 基本的に切除可能であれば、手術での根治切除術を試みる。消化管原発の神経内分泌腫瘍においては、定型リンパ節郭清を同時に行う。
  • 肝動脈塞栓術 - 肝転移に対する局所治療として用いられる。
  • 化学療法 - 切除不能例や再発転移例において行われる。例えば、以下が試みられる。
    • 分子標的薬
      • エベロリムス(アフィニトール®):消化管・膵・肺原発NETに対して使用可能。膵原発NETを対象としたRADIANT-3試験[5]、消化管・肺原発NETを対象としたRADIANT-4試験[6]でいずれもプラセボと比較して有意に無増悪生存期間を延長した。
      • スニチニブ(スーテント®):膵原発NETのみに適応。A6181111試験でプラセボと比較して有意に無増悪生存期間を延長した。
    • 細胞障害性薬剤
      • ストレプトゾシン(STZ:ザノサー®):NPC-10試験(第I/II相試験)をもとに保険承認された。
      • 5-FU+STZ
      • ドキソルビシン+STZ
      • カペシタビン+テモゾロミド;保険未承認
      • CDDP+VP-16:肺小細胞癌に準ずる;保険未承認。
    • ソマトスタチンアナログ:内分泌症状(カルチノイド症候群)の改善目的としても用いられる。
      • オクトレオチド(サンドスタチン®):消化管原発NETのみに適応。PROMID試験で無増悪期間を有意に延長した。
      • ランレオチド(ソマチュリン®):消化管・膵原発NETを対象としたCLARINET試験でプラセボと比較して有意に無増悪生存期間を延長した。

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消化管・膵臓原発と同様に外科的切除や薬物療法が行われる。

RADIANT-4試験の結果に基づいて、エベロリムスも適応を有している。

脚注

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  1. ^ 詳細は免疫組織化学を参照の事。
  2. ^ 田村 浩一『図解入門よくわかる病理診断学の基本としくみ』 p.169 秀和システム 2016年5月25日発行 ISBN 978-4-7980-4562-7
  3. ^ 悪性腫瘍なのかどうかを検索するための一般的な方法の1つで、神経内分泌腫瘍に限らず用いられる。細胞が増殖する際に核で見られるKi-67と言うタンパク質に対する抗体に細工をして、顕微鏡で観察できるようにした特殊な抗体を作用させる。抗Ki-67抗体にペルオキシダーゼを結合させておき、この酵素の作用で発色させる酵素抗体法に分類される。なお、Ki-67が多い程、強く発色し、そこは細胞が盛んに増殖しようとしている場所である可能性が高い。なお、悪性腫瘍かどうかの検索には、p53遺伝子の状態も同時に確認する場合がある。
  4. ^ a b c 神経内分泌腫瘍に特異性を持って発現している物に対する抗体を利用した方法の1つ。
  5. ^ Yao, James C.; Shah, Manisha H.; Ito, Tetsuhide; Bohas, Catherine Lombard; Wolin, Edward M.; Van Cutsem, Eric; Hobday, Timothy J.; Okusaka, Takuji et al. (2011-02-10). “Everolimus for advanced pancreatic neuroendocrine tumors”. The New England Journal of Medicine 364 (6): 514–523. doi:10.1056/NEJMoa1009290. ISSN 1533-4406. PMC 4208619. PMID 21306238. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21306238. 
  6. ^ Yao, James C.; Fazio, Nicola; Singh, Simron; Buzzoni, Roberto; Carnaghi, Carlo; Wolin, Edward; Tomasek, Jiri; Raderer, Markus et al. (2016-03-05). “Everolimus for the treatment of advanced, non-functional neuroendocrine tumours of the lung or gastrointestinal tract (RADIANT-4): a randomised, placebo-controlled, phase 3 study”. Lancet (London, England) 387 (10022): 968–977. doi:10.1016/S0140-6736(15)00817-X. ISSN 1474-547X. PMC 6063317. PMID 26703889. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26703889. 

関連項目

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