コンテンツにスキップ

マシテンタン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マシテンタン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Opsumit
胎児危険度分類
  • US: X
法的規制
薬物動態データ
代謝Hydrolysis, oxidation (CYP3A4)
排泄2/3 urine, 1/3 faeces
データベースID
CAS番号
441798-33-0
ATCコード C02KX04 (WHO)
PubChem CID: 16004692
ChemSpider 13134960
KEGG D10135
ChEBI CHEBI:76607
別名 ACT-064992
化学的データ
化学式C19H20Br2N6O4S
分子量588.273 g/mol
テンプレートを表示

マシテンタン(Macitentan)はエンドセリン受容体拮抗薬英語版(ERA)の一つであり、肺高血圧(PAH)の治療に使用される[1]。デュアルエンドセリン受容体拮抗薬であり、2種類のエンドセリン(ET)受容体(ETA英語版およびETB英語版)に結合する[1]が、ETBへの結合力に比べてETAへの結合力は50倍強い[2]。米国では2013年10月に承認された[3]。商品名オプスミット。日本では2015年2月に薬事・食品衛生審議会が審議、承認了承し[4]、2015年3月に厚生労働省に承認された[5]。開発コードACT-064992。

作用機序

[編集]

エンドセリンおよびエンドセリン受容体

[編集]

エンドセリン(ET)は内皮細胞によって分泌される非常に強力な血管収縮物質である[6]。肺においては、分泌されるのは主にET-1である。ET-1を分泌する経路には、構成的経路および非構成的経路の2つがある。分泌されると、ET-1は肺の動脈平滑筋細胞と線維芽細胞上に発現しているET受容体に結合する。ET受容体はG蛋白質共役受容体であり、活性化される事によりGαq経路で細胞内カルシウム濃度を上昇させる。細胞内カルシウム濃度の増加は肺動脈の平滑筋収縮を惹起し、細胞増殖に基づく血管のリモデリング[7]が発生する。血管収縮の持続と線維化は、PAHの要因である[1]

マシテンタンの働き

[編集]

マシテンタンはET受容体に結合し、ET-1依存性細胞内カルシウム増加を阻害する。肺動脈の平滑筋細胞ではETA受容体の方がETB受容体より遙かに多く、PAHの病態においてはETA受容体の方が重要であると考えられる[6]

実験的薬物動態

[編集]

マシテンタンの作用は遅い[6]。肺動脈平滑筋細胞にマシテンタンを120分間接触させると、10分間接触させた場合の6.3倍の効果を発揮する。またマシテンタンの受容体占有率の半減期は約17分で、ボセンタンの約70秒やアンブリセンタンの約40秒よりも長い。半減期が長いという事は、マシテンタンが非競合的にET受容体を阻害することを意味する[6]。片やボセンタンやアンブリセンタンは競合的拮抗薬である。

薬物動態

[編集]

マシテンタンは1日1回10mg服用する[1]。ヒトでの血中半減期は約16時間で、服用を始めて3日目に平衡に達する[8]。吸収後の血中濃度はゆっくりと上昇する[9]。マシテンタンの活性代謝物ACT-132577は、投与後30時間後に最高血中濃度に到達し、半減期は約48時間である[9]。ACT-132577のET受容体親和性はマシテンタンよりも低い[2]が、血中濃度はマシテンタンよりも高い[9]。両化合物は共に腎臓および肝臓から排泄される[8]

シクロスポリンを併用すると、マシテンタンと活性代謝物の濃度が若干上昇する。ケトコナゾールを併用すると薬物血中濃度の曲線下面積(AUC)が約2倍に増加する。一方、リファンピシンを併用するとAUCが79%減少する。これはマシテンタンが主に肝酵素CYP3A4で代謝されることを示している[10]

マシテンタンの活性代謝物
ACT-132577の構造式

出典

[編集]
  1. ^ a b c d Hong, I.S., Coe, H.V., & Catanzaro, L.M. (2014). Macitentan for the treatment of pulmonary arterial hypertension. The Annals of Pharmacotherapy, 48, 1-10.
  2. ^ a b Iglarz, M., Qiu, C., Fischli, W., Morrison, K., Binkert, C., Clozel, M., Hess, P., Capeleto, B., Buchmann, S., Boss, C., Bolli, M.H., Weller, T., Treiber, A., & Gatfield, J. (2008). Pharmacology of macitentan, an orally active tissue-targeting dual endothelin receptor antagonist. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 327(3), 736-745.
  3. ^ Actelion receives us fda approval of Opsumit (macitentan) for the treatment of pulmonary arterial hypertension Archived 2013年10月23日, at the Wayback Machine.. Actelion. Retrieved 22 October 2013.
  4. ^ 薬食審・第一部会 新薬等6製品審議、承認了承は5製品 イグザレルトの適応追加は継続審議に”. ミクス (2015年2月23日). 2015年2月23日閲覧。
  5. ^ 肺動脈性高血圧症治療剤「オプスミット錠10mg」の製造販売承認取得のお知らせ”. 日本新薬 (2015年3月26日). 2015年5月3日閲覧。
  6. ^ a b c d Gatfield, J., Grandjean, C. M., Sasse, T., Clozel, M., & Nayler, O. (2012). Slow receptor dissociation kinetics differentiate macitentan from other endothelin receptor antagonists in pulmonary arterial smooth muscle cells. PLoS ONE, 7(10), e47662.
  7. ^ 組織の平衡状態が病理学的慢性的に偏移する事。
  8. ^ a b Bruderer, S., Hopfgartner, G., Seiberling, M., Wank, J., Sidharta, P.N., Treiber, A., & Dingemanse, J. (2012). Absorption, distribution, metabolism, and excretion of macitentan, a dual endothelin receptor antagonist, in humans. Xenobiotica, 42(9), 901-910.
  9. ^ a b c Sidharta, P.N., van Giersbergen, P.L., Halabi, A., & Dingemanse, J. (2011). Macitentan: entry-into-humans study with a new endothelin receptor antagonist. Eur J Clin Pharmacol, 67, 977–984.
  10. ^ Bruderer, S.; Äänismaa, P. I.; Homery, M. C.; Häusler, S.; Landskroner, K.; Sidharta, P. N.; Treiber, A.; Dingemanse, J. (2011). “Effect of Cyclosporine and Rifampin on the Pharmacokinetics of Macitentan, a Tissue-Targeting Dual Endothelin Receptor Antagonist”. The AAPS Journal 14 (1): 68–78. doi:10.1208/s12248-011-9316-3. PMC 3282010. PMID 22189899. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3282010/. 

外部リンク

[編集]