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アニサチン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アニサチン
識別情報
CAS登録番号 5230-87-5 ×
PubChem 12306850
ChemSpider 103015 チェック
KEGG C09294 ×
MeSH Anisatin
ChEMBL CHEMBL517697 ×
3DMet B05347
特性
化学式 C15H20O8
モル質量 328.31 g mol−1
精密質量 328.115817616 (g/mol)
log POW -1.894
酸解離定数 pKa 12.005
塩基解離定数 pKb 1.992
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

アニサチン(anisatin)は、化学式 C15H20O8 で表される有機化合物である。ヒトが経口摂取すると、γ-アミノ酪酸受容体に作用し、神経毒として作用する。

毒性

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アニサチンはシキミに含まれる殺虫作用を有した化学物質である[1][2]。また、虫に限らず、哺乳類にも有毒であり、マウスに対するアニサチンの致死量は、1 (mg/kg)である[3]

毒性を発揮する量のアニサチンをヒトが経口摂取すると、1時間から6時間程度経過してから中毒症状が現れる。まず、嘔吐や胃痛や下痢のような、消化器の不快症状が現れる[4]。次いで、意識消失や呼吸停止のような、アニサチンが神経毒として作用した結果の症状が現れる[4]。てんかん発作や痙攣や幻覚症状が出現する場合もある[5][6]。最悪の場合には、アニサチンの毒性によって、ヒトも死に至り得る[4]

γ-アミノ酪酸受容体への作用

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カエルの脊髄や、ラットの脳を使用した実験の結果、アニサチンはγ-アミノ酪酸受容体に対して、非競合的ブロックする作用を有する化合物である事が示された[7]。つまり、アニサチンのγ-アミノ酪酸受容体に対するブロックは、この受容体のアゴニストであるγ-アミノ酪酸を加えても解除されなかった[7][注釈 1]。なお、γ-アミノ酪酸受容体において、アニサチンと同じ場所に結合する毒物としてピクロトキシニン(picrotoxinin)が知られている[7]。しかしながら、ピクロトキシニンを高濃度でγ-アミノ酪酸受容体に作用させると、アニサチンによるγ-アミノ酪酸受容体へ対する作用は消失する事が、ラットの神経細胞を用いた実験で判明した[7]

γ-アミノ酪酸受容体をアニサチンがブロックした結果として発生した痙攣については、ジアゼパムを投与すれば、抑える効果が出ると判明した[6]。なお、ジアゼパムはベンゾジアゼピン骨格を持った化合物の1つである。ベンゾジアゼピン骨格を持った化合物は、一般にGABAA受容体に作用して、神経細胞の塩化物イオンチャネルを開口させる確率を高めて、細胞外からの塩化物イオン流入を発生し易くする事によって、神経細胞の活動電位の発生を抑える事で、薬理効果を発揮する[8]。ベンゾジアゼピン骨格を持った化合物の中で、ジアゼパムは抗痙攣作用が強い部類に入る事で知られる[9]

合成

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アニサチンには複数のキラル中心が存在するものの、(-)-アニサチンだけを全合成する手法は、1990年に発表された[10]

規制

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日本において、アニサチンが多く含まれるシキミの果実は、植物としては唯一、毒物及び劇物取締法の規制対象である劇物に指定されている。

脚注

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注釈

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  1. ^ 何らかの受容体に対して、非競合的なブロッカーが作用すると、そこにアゴニストが加えられても、アゴニストが受容体を作動させ難くなる。これに対して、競合的なブロッカーであれば、アゴニストの濃度を高めれば、ブロッカーの効果は減弱する。詳しくは、薬理学を解説した書籍などを参照の事。

出典

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[1] [2] [3] [4] [7] [6] [5] [8] [9] [10]

  1. ^ a b Anisatin”. PubChem, National Library of Medicine, US National Institutes of Health (11 May 2019). 17 May 2019閲覧。
  2. ^ a b Lane, John F.; Koch, Walter T.; Leeds, Norma S.; Gorin, George (1952). “The toxin of Illicium anisatum. I. The isolation and characterization of a convulsant principle: anisatin”. Journal of the American Chemical Society 74 (13): 3211–3215. doi:10.1021/ja01133a002. 
  3. ^ a b Kouno, Isao; Kawano, Nobusuke; Yang, Chun-Shu (1988). “New pseudoanisatin-like sesquiterpene lactones from the bark of Illicium dunnianum”. Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1 (6): 1537. doi:10.1039/P19880001537. 
  4. ^ a b c d シキミ (Naoru.comのsite)
  5. ^ a b “(1)H NMR metabolomics to study the effects of diazepam on anisatin induced convulsive seizures”. Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 117: 184–94. (January 2016). doi:10.1016/j.jpba.2015.08.029. PMID 26361344. 
  6. ^ a b c “Rapid control of Chinese star anise fruits and teas for neurotoxic anisatin by Direct Analysis in Real Time high resolution mass spectrometry”. Journal of Chromatography A 1259: 179–86. (October 2012). doi:10.1016/j.chroma.2012.03.058. PMID 22484123. 
  7. ^ a b c d e “Anisatin modulation of the gamma-aminobutyric acid receptor-channel in rat dorsal root ganglion neurons”. British Journal of Pharmacology 127 (7): 1567–76. (August 1999). doi:10.1038/sj.bjp.0702700. PMC 1566146. PMID 10455311. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1566146/. 
  8. ^ a b 柴崎 正勝・赤池 昭紀・橋田 充(監修)『化学構造と薬理作用 - 医薬品を化学的に読む(第2版)』 p.114、p.115 廣川書店 2015年3月30日発行 ISBN 978-4-567-46241-9
  9. ^ a b 柴崎 正勝・赤池 昭紀・橋田 充(監修)『化学構造と薬理作用 - 医薬品を化学的に読む(第2版)』 p.123 廣川書店 2015年3月30日発行 ISBN 978-4-567-46241-9
  10. ^ a b Niwa, Haruki; Nisiwaki, Masanori; Tsukada, Itaru; Ishigaki, Takeshi; Ito, Shigeki; Wakamatsu, Kazumasa; Mori, Tatsuya; Ikagawa, Megumi et al. (November 1990). “Stereocontrolled total synthesis of (-)-anisatin: a neurotoxic sesquiterpenoid possessing a novel spiro .beta.-lactone” (英語). Journal of the American Chemical Society 112 (24): 9001–9003. doi:10.1021/ja00180a067. ISSN 0002-7863. 

関連項目

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