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2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する!?「新技術の実装においてどのように安全性を担保するのか」~11.24セミナー「ムーンショット型研究開発は私たちを幸福にするか」―登壇:原山優子氏(東北大学名誉教授)、千葉紀和氏(毎日新聞記者) 2024.11.24

記事公開日:2024.12.13取材地: テキスト動画
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(取材、文・浜本信貴)

 2024年11月24日午後1時30分より、東京都新宿区の東京ボランティア市民活動センターにて、「ゲノム問題検討会議」の主催により、セミナー「ムーンショット型研究開発は私たちを幸福にするか」が開催された。

 セミナーには、東北大学名誉教授で、前総合科学技術・イノベーション会議常勤議員の原山優子氏と、毎日新聞記者の千葉紀和氏が登壇し、それぞれ、「政策手段としての『ムーンショット型研究開発制度』」、「虚飾の『官製イノベーション』」と題する講演を行なった。

 ゲノム問題検討会議のホームページには、それぞれの講演で使用されたパワーポイント資料も掲載されている。

 また、講演終了後、2人の講師に加え、元防衛医科大学校長の四ノ宮成祥氏と、フリージャーナリストで市民バイオテクノロジー情報室代表の天笠啓祐氏、そして司会の東京大学名誉教授の島薗進氏が加わり、討議が行われた。

 セミナーで配布された資料によると、ムーンショット型研究開発制度とは、我が国発の「破壊的イノベーション(革新、新機軸)(※)」の創出を目指し、従来技術の延長ではない、より大胆な発想にもとづく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究開発制度であり、政府が目標を設定し、官学民が連携し、2050年の社会実用を目指して、2020年から開始されたプロジェクトであるとのこと。

           

 ムーンショット計画では、全部で10の目標が掲げられており、すでに、様々な研究開発プロジェクトが立ち上がっている。現在進行形の研究・開発には、これまで累計で約4200億円の基金が投入されている。

 内閣府のホームページには、次のような文章が掲載されている。

 「ムーンショット目標1:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現(する)」。

 ある種、「非現実的」、もしくは「SF的」な感じのする目標だが、これはどういうことなのだろうか?

 ホームページを読み進めていくと、具体的には、次のような「サイバネティック・アバター」(身代わりとしてのロボットや3D映像等を示すアバターに加えて、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張する情報通信技術やロボット技術を含む概念)社会を実現することが、目指されていることがわかる。

・2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。

・2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1対の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。

 残りの9つの目標も、「疾患の超早期予測・予防」、「自ら学習・行動し人と共生するAIロボット」、「地球環境の再生」、「食と農」、「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」、「健康不安なく100歳まで」、「気象制御による極端風水害の軽減」、「心の安らぎや活力を増大」、そして「フュージョンエネルギーの多面的な活用」となっており、日本社会のほぼ全域に非常に大きな変動をもたらすと予想される目標ばかりである。

 それぞれの目標の詳細については、以下の内閣府のホームページを御覧いただきたい。

 内閣府にて5年間、「総合科学イノベーション会議」で常勤の委員を務めた経験をもつ原山氏は、講演の中で、次のように述べた。

 「(イノベーションの研究開発には)その実装に向けた施策、それから、最終的な製品・サービスを作る、あるいはそれを商業ベースに持っていく、浸透させる、といった様々なフェーズがあるんですが、そのフェーズの特定の部分だけをとって、という形だと不十分であるってことなんです。

 ですので、一言で言うならば、『包括的』なアプローチが必要になってくるのと、政府の施策としても、通常は研究開発・技術にお金をどんとつけて、『研究してください』っていう昔のやり方だけでは不十分で、研究開発への投資、と同時に、制度的なところの改革も必要になってくる。

 新しい技術を導入した時に、たとえば、安全の面でいうと、これまでは、こういう技術であれば、『ここの安全性のためには、これを守ってください』って、結構クリアなスタンダード的なものはあったんですけども、新しい技術となると、どうやって安全を担保するのか、使われ方によっては危ない」。

 毎日新聞記者であり、著書『ルポ「命の選別」~誰が弱者を切り捨てるのか?』(文藝春秋社、2020年11月、毎日新聞記者の上東麻子氏との共著)で、2021年度の医学ジャーナリスト協会賞優秀賞を受賞している千葉氏は、政府主導の研究開発の実情について、「学術会議」を例にとって、以下の通り指摘した。

 「政府主導に異論は許されないわけですね。今、この象徴が『学術会議』というやつで、日本の科学者の代表機関ということになっています。2017年に、(学術会議が)『軍事的安全保障研究に関する声明』というのを決議したんですね。

 これまでも、軍事研究否定の姿勢でやっていたんですが、それを確認するという趣旨だったんですけれども、先ほどの防衛省予算の安全保障技術研究推進制度、これが、研究への政府の介入が著しく、問題が多いというふうに問題視したということがあって、その後、何が起きたかといえば、(学術会議)会員6人の任命拒否があって、今は法人化ということで総称して骨抜きにするということが進んでいっているということです。

 もう一方で、学術会議の権限を弱めるかたわら、この政府主導のCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)の影響力が強化されてきました。

 防衛大臣だとか、装備庁の幹部の意見も科学技術政策に通る仕組みに変わってきました。

 そして、原山さんが辞められた後は、非常勤の委員が大半になって、一部の常勤の委員、今は1人だけなんですけども、政府の意を受けた特定の学者が動かしているという状況なんです」。

 このムーンショット計画は、日本社会の既存の「法律」や「システム」だけでなく、国民の「道徳観」や「倫理観」に対しても、大幅な改変を迫るものである。

 しかし、この計画に対する大手の報道・メディアの反応は、驚くほどに鈍感であるように思われる。

 このたびのセミナーでは、新しい技術の社会実装を安全に行うためのプロセスや、運営の仕方に関するテーマが多く取り上げられた。

 しかし、10個のムーンショット目標を見ればわかる通り、すべてが、いわゆる「破壊的イノベーション」であり、市場や業界構造のみならず、人間の精神や肉体の構造に対しても劇的な改変をもたらすものである。

 その一つ一つに、国民側からの十分な検証が必要なのではないだろうか。

 IWJは、今後もこの「ムーンショット計画」における研究開発の内容、そして、その進展について、注視していきたい。

 セミナーの詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。

■全編動画・前半

■全編動画・後半

  • 日時 2024年11月24日(日)13:30~16:30
  • 場所 東京ボランティア市民活動センター 会議室B(東京都新宿区)
  • 主催 ゲノム問題検討会議(詳細

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