70年代の旧統一教会(現・世界平和統一教会)の米国での活動に関する調査では、米国下院のフレイザー委員会が1978年10月31日に連邦議会に提出した『韓国の対米関係に関する調査』(フレイザー報告書)が、旧統一教会調査の原点と言っていいものです。
このとき、ドナルド・フレイザー委員長の下で、韓国の影響力行使に関する議会調査のスタッフ・ディレクターを務めたロバート・B・ベッチャーが、このときの経験をもとに1980年に著した本が、『Gifts of deceit: Sun Myung Moon, Tongsun Park, and the Korean scandal(欺瞞の贈り物:文鮮明、朴東宣、コリアン・スキャンダル)』です。
この2つのテクストが、米国における旧統一教会調査の嚆矢と言えます。
ちなみに、ロバート・B・ベッチャーは、1984年に、自宅のあるセントラルパーク・ウエストのアパートの屋上から転落して死亡しています。44歳でした。
その後、90年代、2000年年代以降、AP通信やニューズウィーク誌に勤務し、George Polk AwardやI.F. Stone Medalを受賞した米国の著名な調査報道ジャーナリスト、ロバート・パリーが、世界的な視点から、自らのメディア、Consortium Newsを中心に、旧統一教会に関する調査報道活動を展開していきました。
ロバート・パリーは、2018年に69歳で亡くなっています。
IWJは、ロバート・パリーの残した旧統一教会の最暗部に関する膨大な調査報道を、シリーズで、全文仮訳して、ご紹介していきます。
最初に、Consortium Newsのアーカイブの中にある、「文鮮明師のダーク・サイド」シリーズの中から「麻薬同盟」を2回に分けてご紹介します。
- 「文鮮明師のダーク・サイド」シリーズ(Consortium News、2022年8月9日閲覧)
以下から、「麻薬同盟」の前編になります。
「115年前に制定されたペンドルトン法(※)と、それがホワイトハウスからの資金調達の電話をカバーするかどうかについての議論の中で、これより邪悪な政治と金の問題が気づかれないまま続いている。
つまり、文鮮明師の広大な影響力を持った買収工作のことである。クリントン政権は、文の気前の良さの恩恵を受けていたレーガン、ブッシュ両政権と同様、文のこの謎の数百万ドルの資金の出所には全く関心を示さない」
※ペンドルトン法とは、それまで選挙で勝った側が連邦公務員の官職を独占し、それに伴って猟官運動が横行していたが、ペンドルトン法によって、試験制による資格任用制度を確立したことで、連邦公務員任用制度が近代化された。
「我々の最近のシリーズ『文鮮明師のダーク・サイド』は、文の組織が、ジョージ・ブッシュ前大統領や右派の宗教指導者ジェリー・ファルウェルなどの主要な政治家への秘密の資金提供によって、どのように影響力を買っているかを記録している。
文はまた、ワシントン・タイムズのような費用のかかるメディアにも資金を提供している。文は信者たちに、米国は『サタンの収穫』であり、韓国を基盤とする神権政治の下に米国民を服従させると言いながら、この米国のネットワークを構築してきたのである。
また、このシリーズでは、文の組織がいまだに疑わしい財務活動を行っていることも明らかにされた。裁判記録によると、文の組織は資金洗浄を行い、息子のヒョージン氏(孝進・長男)のコカインなど文の家族のための個人的な贅沢品を購入するために資金を流用していることが判明した。このような金銭的な手口は、1982年に文が脱税で有罪判決を受けたときの犯罪を思い起こさせるものである。
しかし、この連載が始まって以来、文氏の国際的な政治的つながりについて、さらに厄介な事実が明るみに出てきた。もっとも気がかりなのは、文が豊富な資金を使って、アジアの組織犯罪やラテンアメリカの麻薬取引を行う極右勢力と、長年にわたってつながってきたことである。このような関係や、南米でのビジネスの深化は、米国政府が文の米国政治帝国の資金源を正確に把握する必要性があることを浮き彫りにしている。
文氏の代理人は、遠く離れた場所でどのように資金調達しているのか、公には明らかにしていない。しかし、武器や麻薬の違法取引で利益を得ているという度重なる疑惑には、怒りに満ちて反論している。
アルゼンチンの新聞『クラリン』による銃の売買に関する質問に対する典型的な回答として、文の代理人、リカルド・デセナはこう答えた。『私は麻薬や洗脳について言われている非難も野蛮さも断固として否定する。私たちの運動は、人種、国家、宗教の調和に応え、家庭が愛の学校であることを宣言している』[クラリン、1996年7月7日〕。]
しかし、麻薬に汚染されたギャングたちや、腐敗した右翼政治家たちとの文の関係の起源は、アジアにおける彼の統一教会の初期にさかのぼる。文の韓国を拠点とする教会は、イタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニを『完璧なファシスト』と賞賛した日本のヤクザ犯罪組織のリーダー、笹川良一の支持を得て、1960年代初頭に日本へ重要な進出を果たしたのである。日本と韓国では、影のヤクザが麻薬の密輸、ギャンブル、売春で儲けを得ていた。
笹川は、日本の与党である自民党の裏のリーダーであったため、笹川のコネクションは文に転向と影響力をもたらした。国際的な場面では、笹川はアジア人民反共連合の設立に協力し、ヘロインにまみれた国民政府(中華民国)の指導部と韓国・日本・その他のアジアの右翼を結びつけていた。[詳しくは、デイビッド・E・カプランとアレック・デュブロの『ヤクザ』を参照]
1966年、アジア連合は、欧州の元ナチス、米国のあからさまな人種差別主義者、ラテンアメリカの『死の部隊』工作員、伝統的な保守派を加えて世界反共産主義連合に発展した。この2つの組織では、文の信者たちが重要な役割を果たし、CIAとも密接な関係を保っていた。
南米の麻薬
一方、第二次世界大戦後、南米はナチスの逃亡者と麻薬密輸業者の交差点になりつつあった。
リヨンの屠殺者と呼ばれたナチスの戦犯クラウス・バルビーは、ボリビアで諜報技術を売って生計を立て、他の元ナチスたちは麻薬の密売を行った。しばしば、一線を越えることもあった。
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後編では、文とコカイン・クーデターの関係など、さらにつっこんだ麻薬との関係が暴かれていきます。
IWJは、ロバート・パリーが残した旧統一教会に関する貴重な調査報道をシリーズでご紹介していきます。
<ここから特別公開中>
その頃、ゲシュタポに協力したフランスの戦犯、オーギュスト・リコールがパラグアイに進出した。
リコールは、フレンチ・コネクションのヘロインルートを、米国へのヘロイン輸送の大部分を支配していた米国マフィアの麻薬王サント・トラフィカンテ・ジュニアにつないだ。ジャック・アンダーソンのコラムでは、リコールの共犯者がパラグアイの最高幹部であることが明らかにされている。
フレンチ・コネクションのもう一人のマフィア、クリスチャン・ダヴィッドは、アルゼンチン当局の保護を頼りにしていた。
ダヴィッドはヘロインの密売を行う一方で、『アルゼンチンのテロ組織であるアルゼンチン反共産主義同盟の仕事を引き受けた』とヘンリック・クルーガーは『大ヘロイン・クーデター(The Great Heroin Coup)』の中で書いている。
ニクソン大統領の『麻薬戦争』で、米当局はこの有名なフレンチ・コネクションを潰し、1972年にリコールとダヴィッドの身柄引き渡しを勝ち取った。
しかし、それまでには、強力な麻薬王が南米の軍事指導者と強い結びつきを持つようになっていた。マイアミの反カストロ右翼キューバ人など、トラフィカンテとつながりのある他のグループは、麻薬の空白地帯を熱心に埋め尽くした。フレンチ・コネクションのヘロインが中東産であったのに対し、東南アジアのゴールデン・トライアングル産のヘロインが急速に普及した。
この間、CIAは右翼の陸軍士官と積極的に協力し、左翼政権を追放していった。このような反共のうねりの中で、文は南米に積極的に進出したのである。
1965年、文は初めてアルゼンチンを訪れ、ブエノスアイレスの大統領府ピンクハウスの裏の広場で祝福を行った。その後、アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ボリビア、ウルグアイを訪問し、ハイレベルの人脈を築いた。
1976年、極右勢力がアルゼンチンを支配し、何万人ものアルゼンチン人を『消滅』させたダーティ・ウォーが勃発した。麻薬取締局の有名な潜入捜査官であったマイケル・レヴィンは、ブエノスアイレスに赴任し、『アルゼンチンでは死が生活の一部になっている』ことに衝撃を受けた。[レヴィンの『白い大嘘』を参照]
ナチスの再結成
コカを生産する近隣のボリビアでは、ナチスの逃亡者クラウス・バルビーがボリビア情報局員として働き、この地域の右派政権の『安定軸』にその中央国家(ボリビアのこと)を加えるための暴動計画を立案していた。バルビーは、アルゼンチン情報部に連絡を取り、助けを求めた。
最初に到着したアルゼンチン情報部員の一人が、アルフレッド・マリオ・ミンゴラ中尉だった。『出発前に、我々は(バルビーに関する)書類を受け取った』とミンゴラは後にドイツの調査記者カイ・ヘルマンに語っている。『そこには、共産主義との戦いで、ラテンアメリカ全体で重要な役割を果たしたので、彼はアルゼンチンにとって非常に有用であると書かれていた。その書類から、アルトマン(バルビーのこと)がアメリカ人のために働いていたことも明らかだった。[ヘルマンの詳細な記述の英訳は、Covert Action Information Bulletin, Winter 1986を参照]
ボリビアのクーデターが具体化すると、コカイン王ロベルト・スアレスの従兄弟であるボリビアのルイス・アルセ・ゴメス大佐は、アルゼンチンの死の部隊で活動していたイタリア人ステファノ・デラ・キアエなどのネオファシスト・テロリストを採用した [ピーター・デール・スコット、ジョナサン・マーシャル著『コカイン・ポリティクス』参照]。世界反共連盟のボリビア人リーダーであるアルフレド・カンディア博士は、アルゼンチンや欧州からこれらの準軍事的な工作員が到着するのを調整していたとヘルマンは報告した。一方、バルビーは『トゥーレ』と呼ばれる秘密支部を立ち上げた。集会では、ろうそくの明かりで卍の下にいる彼の信奉者に講義をした。
CIAがこのように積極的な反共主義を奨励している一方で、レヴィンと彼のDEA(麻薬取締局)の現場捜査官は、共謀者の何人かを麻薬犯罪の容疑で泳がしていた。1980年5月、マイアミのDEAは、854ポンドのコカインベースを押収し、ロベルト・スアレス組織のボリビア人トップトレーダーを2人逮捕した。しかし、レヴィンはこの逮捕が地政学的な理由による裏切りではないかと疑った。
容疑者の一人、ホセ・ロベルト・ガッサーは『マイアミの米連邦検事局によって、ほとんどすぐに釈放された』とレヴィンは書いている。(ガッサーはボリビアWACL(世界反共連盟)準会員のエルヴィン・ガッサーの息子で、このクーデターの立役者である)。もう一人の被告は、保釈金が引き下げられ、米国から逃亡することになった。レヴィンは、DEAに協力したボリビアの役人の行く末を心配していた。[レヴィンの『ディープ・カバー』参照]
1980年6月17日、クーデターのほぼ公然の計画として、ボリビア最大の密売人6人が軍の陰謀者たちと会い、将来のコカイン取引保護のための金銭取引を打ち出した。ラパスのある実業家は、来るべきクーデターは『コカイン・クーデター』と呼ばれるべきであり、この名前は定着するだろうと言っていた。[コカイン・ポリティクス]。
それから3週間も経たない7月6日、DEAのレヴィン捜査官はボリビアの密売人、ウゴ・ウルタド‐カンディアと会った。ウルタドは酒を飲みながら、『新政府』の計画について説明した。新政府では、コカインの主要供給者である姪のソニア・アタラが『非常に強い立場になる』。
その後、アルゼンチンの秘密警察官がレヴィンに、CIAはクーデターを知っていると言った。『北米の人々には驚かされる。自国民と話をしないのか』とその警官は不思議に思った。『ボリビア政府、あるいは南米のどの政府も、あなた方の政府や私の政府に知られることなく政府を変えられるとお考えですか』
レヴィンが、なぜそれが計画中のDEAの捜査に影響するのかと尋ねると、アルゼンチン人はこう答えた。『彼(ウルタドのこと)が麻薬の売人として名前を挙げているのと同じ人たちが、我々がボリビアから左翼を排除するために支援している人たちだからです。…我々だ。アルゼンチン人は…あなたのCIAと一緒に働いています』 [大きな白い嘘]
コカイン・クーデターが起こる
7月17日、バルビーと彼のネオ・ファシスト暴力団『死の天使』が率いるコカイン・クーデターが開始された。『覆面をした凶悪犯はボリビア人ではなく、ドイツ語、フランス語、イタリア語のアクセントのあるスペイン語を話していた』とレヴィンは書いている。『彼らの制服には国の識別もマークもなかったが、多くはナチスの鉤十字の腕章と記章をつけていた』。
虐殺は熾烈を極めた。クーデター参加者たちが労働党本部を襲撃したとき、労働党の指導者マルセロ・キローガに傷を負わせた。キローガは、元軍事独裁者ウゴ・バンザーを麻薬と汚職の容疑で起訴する活動を主導していた。キローガは『アルゼンチンの恐ろしい海軍工学校から派遣された拷問専門家たちのゲームの対象になるために警察本部に引きずり出された』とレヴィンは書いている。
これらの専門家は、このようなことに少し遅れているボリビア人への教訓として、キローガに彼らの『科学』を適用した。彼らはキローガを何時間も生かしたまま苦しめた。去勢され拷問された彼の死体は、数日後、ラパス南部の『月の谷』と呼ばれる場所で発見された。 捕虜の女性は拷問の一環でレイプされた。
ブエノスアイレスに戻ったレヴィンには、『革命の最大の目的は、ボリビアのコカイン産業の保護と管理であることがすぐにわかった。刑務所にいた主要な麻薬密売人はすべて釈放され、その後、ネオナチの暴挙に加わった。政府の建物は侵入され、密売人のファイルは持ち去られるか燃やされました。政府職員は拷問され、撃たれ、女性は縛られ、準軍事組織と解放された密売人に繰り返しレイプされた』。
ファシストたちは鍵十字を身に着けて祝い、『ハイル・ヒトラー!』と叫んだ。そうヘルマンは報告している。アルセ・ゴメス大佐は、勲章を付けた太鼓腹のラテンの独裁者イメージの中心人物で、内相として幅広い権限を握った。ボリビアの新大統領には、ルイス・ガルシア・メサ元大統領が就任した」
以上が、「麻薬同盟」の前編になります。
ロバート・パリーの旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)追及の調査報道の中でも、旧統一教会と南米の麻薬国家との関係性に言及し、最も、ダークな記事の一つです。
南米の右翼政権樹立が麻薬国家の樹立とイコールだった、という衝撃的な内容です。
ロバート・パリーは、その樹立に、CIAが関与していたということを暴き出しています。
旧統一教会創設者、文鮮明が作り上げ維持してきた右翼人脈とは、その初期から一貫して、このように、麻薬と切り離せないのです。
文の作り上げた国際勝共連合とは、南米にまで広がった国際麻薬同盟と言っても過言ではありません。
後編では、文とコカイン・クーデターの関係など、さらにつっこんだ麻薬との関係が暴かれていきます。
IWJは、ロバート・パリーが残した旧統一教会に関する貴重な調査報道をシリーズでご紹介していきます。