ざっくり雑記

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10の奇妙な話

10の奇妙な物語を集めた短編集。

 

短い作品は10ページほどで、全体でも200ページ足らずなのでさくさく読める。

 

奇妙な、という看板に偽りなしの内容。

 

「想像の翼を広げる」という慣用句的表現があるが、本書を読むと、わざわざ想像の翼を広げてクリエイティビティの大空に飛び立たなくても、十分に常識から逸脱した創作が可能なことがわかる。

 

むしろ、本書に収められた話の奇妙さは、想像の翼ではなく、想像の足とでもいうべき地に足の着いた地道な歩みで辿り着く、常識や常軌と地続きでシームレスに連続しているのに、なぜか常識や常軌を逸している世界が醸し出す意表を突く独特の雰囲気であり、単なる突飛な発想や異常な妄想の類から感じる違和感や非日常感とは一線を画す。

 

 さらに奇妙なのは、その奇妙な境地に到達する過程が全くと言っていいほど認識できない物語の運びにある。

 

読み始めと読み終わりで、物語の出発地点と到着地点が大きく違っているのははっきりわかるのだが、順を追って物語を読んでいると、どの時点からその違いが生じているのか、境界がはっきりしない。

 

奇をてらった小説などでは、物語の奇妙性を象徴する場面や、意表を突くどんでん返しの瞬間を印象付けようと、その役割を担う特定のセンテンスやチャプターを特別に演出するのが一般的であるし、そういった作為がなくても、物語のテーマをひときわ色濃く反映したり、話の流れの潮目が変わったりする部分は何となく他から浮き立って感じ取れるものだ。

 

 だが本書の短編にはそういった明確な場面や境界がない。

 

認識できないほど小さく希薄な変化が積み重なって、その堆積はいつの間にかとんでもない異変となって不注意な読者を囲繞し、わけもわからず戸惑わせる。

 

これほどデリケートで大胆な結果に結びつく巧妙な叙述を、長編のような、ミスリードや冗長な文言が詰め込み放題で読者を油断させ罠に陥れる時間稼ぎがしやすい小説形式ではなく、ほんの十数ページしかない短編で成し遂げ、しかも似たような高い水準の作品を10個もものした筆者の筆力には驚嘆する。

 

奇妙という感覚は、明確で判別しやすい驚きや恐怖といった特定の感覚の断定を拒む中途半端でもやもやとした気持ち悪さを表しており、その捉えづらさこそが真骨頂という表現者にとって手ごわいことこの上ない概念が、本書では手ごろで読みやすい短編に落とし込まれ気軽に味わえるようになっている。

 

さらに本書は、そんな珠玉の作品が10作も収められボリューム面も申し分なく、質・量ともに至れり尽くせりの作りとなっており、読後には題名通り、奇妙な感覚にどっぷりと浸れること請け合いである。

 

 

 

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