さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

『べしゃり暮らし』おもしろい

今週の『べしゃり暮らし』(ヤングジャンプ)がおもしろかったです。読んでてゾクゾクきたので5回ぐらい読み直したよ!

学園の人気者が初めて漫才コンテストに出て、知らない客の前なので全くウケず、なのに若手芸人はあるあるネタやってるだけなのに爆笑を勝ち取ってて「あ、あれおもしろいか…?」とモチベーションがだだ下がりだったのが前回まで。

その後、自宅で「客が悪いんだ、客が…」とモヤモヤし続け、手淫しようとするもののいまいち興が乗り切らないところに、父親(そば屋)から出前の手伝いを頼まれる。部屋から1階のそば屋の店舗に降りてきたところで幼少期の回想。主人公が父親とそば屋の厨房にいるシーン。
「いまは濃い口の味付けの店が多いけど、そばの風味を味わうにはダシは薄口じゃないといけない」
とか言いながら、ダシの取り方を材料の比率まで細かく教える父。それを聞き、(まだ子供なこともあって)
「そんなことめんどくさいことやったって、お客は何も考えずに食うよ!」
と反論するも
「ははは、確かにそうかもしれねえな。だけど心を込めて作れば必ずお客には伝わるんだ。そして美味ければまた来てくれるしマズければもう来ないかもしれない、それだけだ。客にああしろこうしろって求めちゃ駄目なんだ」
「と、父ちゃんカッケェー!」

回想終わり、現実のそば屋のシーンに戻ると
客「ここのそばはいまどき薄味なのがいいんだよな」
父親「ありがとうございます〜」
客「まずつゆにつけずに2・3本だけ口に入れてそばそのものの風味を味わってから食べるんだよ」
客2「うるせー!普通に食わせろ!」
父親「ははは、いいんですよ、自由に、好きなように食べていただいて」

どんな客でもニコニコと対応する父親を見て、主人公がキュピーン!て感じで何かを掴んだとこで次週へ。

僕はかつて御多分にもれず「松本人志の笑いが分かるのがおれだけだな」みたいなスタンスだったのが、年を取るにつれ「客を選ぶ芸なんてかっこ悪い」みたいに変わってきたこともあるので(でもお笑い見るのにごちゃごちゃ言ってしまうのは変わらないのですが)、今週は読んでて気持ちよかったです。僕が「客を選ぶ芸なんて」派になったのは、「客を選ぶのは思い上がり」みたいなことを、とある泥臭くて大衆的な芸人が言ってたのを見てかっこいいと思ったからなんですが、そういう直接的な描写でなく、そば屋に例えてるのがいいですね。なにごとも真理は一緒っていう。


ていうかですね、『べしゃり暮らし』、通常のジャンプからヤングジャンプに移籍してきてから異常におもしろいんですよ。月2回の掲載ですけど、毎回おもしろい。

ジャンプの頃のこの漫画って、主人公・上妻の『学園の爆笑王』時代を描いてたんですが、ノリだけのしゃべりなのに周囲の人間が爆笑してたりするので、そこが寒いとか言われてたんですよね。上妻の喋りの内容自体はそんなに批判されるほどつまらなくないと僕は思ってるんですけど、周囲の笑い声がフキダシで「ぎゃははは」とか書かれてたのが、笑いを強制される感じで気持ち悪かったというか。その辺はジャンプでの1話目の時に書きました。
例えば極端な話、『ピューと吹く!ジャガー』でもピヨ彦が爆笑してたらつまらなく見えるんじゃないの、という話ですね。


で、なんだかんだでジャンプでは打ち切りを食らい、おさまり切らなかった最終回を赤マルジャンプで描いてからヤングジャンプに移籍してきたわけですが、そこで冒頭に書いたとおり、オープン参加の、プロも参加している漫才コンテストに出たわけです。
舞台ではいつも通りのノリで喋るわけですが、客は初めて見る人に対しては特に厳しい。いや、意識的に厳しく見てるわけじゃなくて、誰なのか知らない人を笑うのはなかなか難しいもんです。だからこそ「爆笑レッドカーペット」とかのネタ見せ番組で知らない芸人が大ウケしてるのを見ると痛快だったりもするわけですが、ああいう番組に出てるのはある程度は芸歴がある人達で、自分を知らない客の前でネタをやることなんて日常だろうし、そういう客に対応する技術があるから笑わせることもできるわけで。デビュー一発目の舞台で爆笑を取れる人なんてほとんどいないと思います。
だけど漫画だからデビュー戦でそれなりに結果残すのかな?とか思ってたら、これがもう、惨敗したんですよ。見に来てた学校の友達にまで「うわ、サブっ…」って言われる始末。

そこで上妻の相方・辻本の先輩で、プロの芸人である「デジタルきんぎょ」の金本が言ったのがこれですよ。

「しかしまぁ…今までは楽やったやろな。周りの人間は全員自分の事おもろい奴と刷り込まれとる奴ばっかりで、何を言うても爆笑してもらえる。ホンマはサブい事言うてたとしてもな」
「それはオーラなんてモンとは全く別モンやけどな。言うたらそれはそいつが学校でいつの間にか身にまとった空気っちゅー奴や。若手の芸人が必死でまず顔と名前を覚えてもらおうとすんのは、ちょっとでも早よぉそういう空気をまといたいからや」

どーん。
ここで分かるのは、少年ジャンプでやってたのは前フリに過ぎなかったということです。上妻が「おしりっぴょーん」とか言ってるだけで周りが爆笑してて、読者は「え…?」ってなってたのも、全部この金本発言を際立たせる為のお膳立てだったんですよ!ええー!ジャンプ時代って単行本にして3巻分あるのに!でも全部つながったー!気持ちいいー!みたいな驚きと感動がありました。

さらに、元・芸人である辻本が上妻を相方として選んだキッカケとして、「校長のヅラをネタにするためだけに自らも頭を剃りあげてヅラを被る」っていう、「上妻の体の張りっぷりに惚れた」みたいな事件がジャンプ編であったんですけど、ヤングジャンプになってからはそこさえも前フリでした。

金本「ところで、今までどんなネタで笑ろたん、そいつの」
辻本「いや……え…?(上妻で笑ろたネタ…笑ろた事…………頭剃ったんは笑ろたけど……あ……あれ…?)て…てゆーか誰よりも笑いに貪欲な奴なんです!これは言えます!死んだらおもろい場面やったら、多分あいつ死ねる奴なんです!」
金本「芸人、誰かてそう言うねん。何ムキになってんねん」

頭を剃った箇所は、けっこう山場だったというか、コンビ結成のきっかけでもあり、「この情熱が上妻の一番の武器なんだな」って読者に思わせたくだりだったはずなんですけど、それさえも否定、って。やられたー。

『ろくでなしBLUES 』を描いてたころから構成力っていうか伏線の貼り方が上手かった森田先生ですから、全部考えてたんでしょうね多分。
最初に書いたそばの話も、家がそば屋ってのは初期からの設定なので、「それがここで繋がってくるとは!」というのもありましたし。
それを思うと、連載再開は本当に喜ばしい。ジャンプで終わってたら駄作のままだったことを考えるとおそろし過ぎる…。

べしゃり暮らし 1 (ジャンプコミックス)

べしゃり暮らし 1 (ジャンプコミックス)

べしゃり暮らし 2 (ジャンプコミックス)

べしゃり暮らし 2 (ジャンプコミックス)

べしゃり暮らし 3 (ジャンプコミックス)

べしゃり暮らし 3 (ジャンプコミックス)