法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season23』第10話 雨やどり

 雨の日、美術館で赤い傘の女性を待ちつづけている青年がいた。それを見かけた杉下は、直後にスナックのママが殺された事件の血痕に、青年のもっていた傘のチャームが刻印されていたことに気づく。
 青年は傘職人の家に育ち、雨の美術館で出会った若い女性に赤い傘を贈っていた。しかし半年前に女性は失踪。家にあった高価なタペストリーが消えたことを理由に青年は勘当されていた……


 光益義幸脚本らしい、細部まで無駄なく関係性や伏線がおりこまれた緊密なクライムサスペンス回だった。
 ただしスナックのママに結婚詐欺の容疑がかかった過去があったといっても、青年が傘を贈った女性とは年齢からして明らかに別人で、登場人物も多いからこそ善玉悪玉の区別がはっきりしすぎていて逆に事件の全体像が見えすいていた感はある。
 スナックのママを殺した犯人も、印象づけつつ意外性を出すために物語の主軸から外す工夫はしてあるが、関連する半年前の事件にむすびつく手がかりがあまりに露骨で、当時の捜査で注目されなかったのが不思議だし、それでいて映像で明確に見えないので後づけ感がある。
 しかし消えた女性の居場所もふくめて全体像に意外性がないなかで、事件が終わった後に明かされた全体の構図は良かった。おひとよしな青年が子供のころから傘職人として育てられながら困っていた人に傘をわたしていたこと。スナックのママがひきとった子供にも募金詐欺などの犯罪をさせていたこと。そうしたキャラクターを強調するためだけに語られたと思われた設定が組みあわさり、抒情的な過去が描かれる。凄惨な犯罪でむすびついたはずの男女に清廉な思慕が隠されていたことに納得感と意外性があった。


 ……しかし結末で一気に好印象の回になったわけだが、そこから次回予告の「亀山薫」にインパクトを持っていかれてしまった。
 トンデモギャグ回になりそうであり、しかし特殊設定を活用した本格ミステリ回になりそうな期待も少しある。

『SELECTION PROJECT』雑多な感想

 KADOKAWAと動画工房が組んだメディアミックス企画の一環として2021年に放送されたTVアニメ。全国から集められた少女たちがオーディションを勝ちあがるリアリティーショーが描かれる。

 拡大作画を多用しているためか、やや背景に対して人物が平面的に見えるカットが散見されるが、作画は無理なく整っているし、3DCGを併用しつつライブ映像も見ごたえある。
 今さらながらキービジュアルすら知らないくらい先入観のない状態で視聴したので、第1話から第2話の前半までオーディションテーマの物語で選ばれなかった側のドラマを描くのかと驚かされた。情報をもっていれば第2話の後半が茶番に感じてしまったかもしれないが、ちゃんと第1話のED主題歌から視点主人公が除外されているので、少なくとも第1話の時点では選ばれなかった立場ということを徹底している。
 最終選考を前に全員が誰かを切り捨てないことを選んでプロジェクトから降り、自分たちだけで再起をはかる展開*1において第1話で通過できなかったキャラクターを再登場させたことも良かった。主人公と遜色のないキャラクターデザインのおかげで存在感があり、それがアイドル描写で活躍しないことに視聴者としても惜しさを感じる。


 ただ、伝説的なアイドルが交通事故死して妹がつづいて業界に入ろうとする導入や、そうして集められたアイドルが同居する設定など、同年に放映された『IDOLY PRIDE』と異様に設定が似通っている。

 実際に当時はかなり話題になった記憶がばくぜんとあったが、時間をおいて視聴しても既視感がつきまとった。現代のTVアニメの企画から制作にかける時間を考えると、一方が盗作したとは考えにくいが……

*1:どうしてもメタな視聴者の視点では、この再起もふくめてスタッフがつくりあげたフィクションと思ってしまうわけだが……

戦時中の信楽焼を題材にしたジャンプ+新連載『陽光ヲ待ツ』に期待したい

 今後どのように話がころがるかはわからないが、第1話だけでも太平洋戦争開戦前夜の庶民を描いた読切漫画として完成している。

shonenjumpplus.com

 作者のななせ悠は、ジャンプ+読切画像ジェネレータで私選した3作品のひとつでも見事な歴史漫画を読ませてくれた。
歴代ジャンプラ史劇読切3選 - 法華狼の日記

『続く道 花の跡』は、技術の発展史をささえた名前の残らぬ女性たちを描き、史実短編漫画として完璧。映画『ドリーム』を連想させるが、完全に独立した中編として完成されている。技術の発展だけでは社会問題を解決できないことにも留意する視野の広さ。家父長制のなかで抑圧されていた女性たちが葛藤し、それでも残そうとしたもの。それが現在につながる構成の美しさ。
続く道 花の跡 - ななせ悠 | 少年ジャンプ+

 新連載は現在の滋賀の平和祈念展示会にはじまり、1941年の少女に視点をうつす。大多数の人々が軍国主義に飲みこまれていった時代であり、第1話もきちんと読めば多くの人間は戦争に反対していない。はっきり日本の政策を批判するのは役場勤めで周囲よりはインテリと思われる伯父*1だけで、直前に伯父の妻は制裁した米国を批判している。
 だからこそ、けして非道を肯定しないメッセージをどのように描くのか、当時でも存在した現在に通じる考えをどこから抽出するのか、現代の読者でも理解できる人物をどこに配置するのかが問われる。
 この主人公は絵が得意な文化的な少女で、信楽焼でも楽しいものを作ろうとする。ここで興味深いのが、日米開戦前でも戦争のため日用品に鉄をつかえず、コンロなどで代用品として陶器がつかわれはじめ、工芸品はつくれなくなっていること。
 絵を評価されるために戦争を賛美していた時代は、戦争を賛美すれば絵を描けた時代ではあった。小説や映画もそうだった。そこで戦争を賛美しても工芸をつくれなかった信楽焼を主題にしたことで、日米開戦以前から戦争がつづいていたことと、いちはやく戦争が文化をうばうことに直面する物語として独自性が生まれている。


 ちなみに2024年のジャンプ+は、数年前に連載開始した作品のアニメ化が多かっただけに、新連載の方向性に首をかしげることが多かったし、編集部への不信感もよく見かけた。
話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選 - 法華狼の日記

今年のジャンププラスの新連載は表層の過激化で耳目をひくことを急ぐばかりで、人間関係や世界観の蓄積を後回しにする作品が目立ち、媒体を愛する読者からの不評も少なくないように感じている。

 それだけに、もともとの作者の趣向にたよりきるのではなく、陶器監修や時代描写協力*2も入れて地味な作品をささえる体制をつくろうとしていることに感心した。

*1:父親とかんちがいして反発する感想が散見されるが、主人公の母は死に、父も「満州でアレしてしもて」不在なため、身をよせている設定。

*2:実は信楽焼の歴史描写でひとつ大きな誤りが第1話の時点で存在するようだが、あえて信楽焼らしさを視覚化するためのフィクションという可能性も感じている。

『わんだふるぷりきゅあ!』第47話 あけましてガオウ

 いろはたちは海岸で初日の出をむかえ、初詣に向かった。人ごみのなか、猫屋敷母や父に出会ったり、クラスメイトを見かけたり。そしていつものようにガオガオーンがあらわれるが……


 赤尾でこ脚本。作画監督は多めで、かなり絵柄の乱れがはげしい。アバンタイトルは通常より美麗なくらいだが、アクションの多い後半になるとキャラクター作画の情報量が少なくなっている。
 本編はこのままクライマックスに向かう雰囲気だが、あまり説得力がない。いろはのドラマがほとんど完結したのでユキが物語の前面に出てくるのは良いとして、人間と戦うことにためらうザクロはそういうキャラクターではなかっただろうという違和感が強い。ここ数話で敵対することをザクロにためらわせようとする描写は何度があったが、何よりもガオウへの思慕が優先されるキャラクターとして一貫してきて、前回まで目に見える変化がほとんどなかった。一貫したキャラクターの結末として満足して浄化されたトラメとは異なる。
 やはりザクロとトラメの登場はもっと前倒しにして、もっと絶滅動物をめぐる議論を反映したストーリーをつみかさねるべきだった。せめて絵が良ければ表情などで説得力が足されただろうが、先述したように今回は後半ほど絵づくりが甘い……

『BLUE SEED』雑多な感想

 高田裕三の漫画を原作とした和風SF伝奇アクションのTVアニメで、1994年から2クールにわたって放送された。昨年後半の無料配信を機会にDVD-BOXで全話をとおして初視聴した。

 TVアニメとしては初めてProductionI.Gが元請けした作品だが、単独で連続アニメをつくりつづける体力はなかったので、葦プロダクションと共同制作。
 映像ソフトがVHSテープが主流だった当時も各巻まばらに購入して、各話をつまむように視聴しており、導入や最終回などのだいたいの内容は記憶している。全2巻の原作漫画も既読だが、どちらかというと原案者によるコミカライズという印象で、きちんと完結していなかった。


 OPEDは記憶どおり当時なりに良い。特に自衛隊が殺到するカット割りと音ハメは心地よい。ただしOP冒頭の3DCGは意味もなく長くつかってみたという感じで、当時なりに技術的な挑戦をしているのだとは思うが、低いクオリティをなじませる演出的な工夫がなくてきびしい。
 本編は記憶以上に良くも悪くもB級アクション。しかし映像は現在から見ても悪くなく、特に序盤はキャラクターデザイナーの黄瀬和哉が第1話と第2話の作画監督を単独でおこなっているくらい少数精鋭で、出入り口に殺到するモブや胎動する荒神など要所をよく動かしてアクションアニメとして見ごたえある。
 主人公が死ぬことにより敵を全滅させる能力を発揮する設定だが、主人公の能力を発揮させずに殺す技術を敵が入手したことにより、どのように目的の状況で殺すかという駆け引きが序盤の戦闘の面白味を生んでいる。その技術の発現状況がそこそこ情景として派手かつ儀式的なところも良い。
 中盤からさまざまな因縁をかかえる荒神を倒す妖怪退治物の文脈になっていくが、そのなかでは第16話の演出がおもしろい。憂国的な立場からさまざまな歴史的な像を美術的な絵に起こして静止画スライドし、独白をかぶせる。写真をモノクロ化したとおぼしき背景も一瞬ある。深夜アニメ的な省力でありつつ直前にProductionI.Gが制作したアニメ映画『劇場版パトレイバー2』を思い出させる独特の緊張感があった。

 ただ、最終的な結末は群集による祝祭につながるが、どうしてもTVアニメなので止め絵ですまされているのが残念。漫画『ヤマタイカ』や特撮ドラマ『ウルトラマンティガ』それぞれの最終回ほどの高揚感にはいたらない。こここそProductionI.Gの総力をあげてモブを動かしてほしかった。

 あと、主人公の少女が攻撃により第1話の後半から下半身の下着丸出しで敵にふりまわされたりして、直前まで流行していたエロティックな伝奇OVAのよう。以降の各話も当時としては破格に作画は良好だが、パンチラが記憶以上に多い。さすがに主人公の姉が復活してシリアスな連続ストーリーになる後半からはシリアスな半裸姿になったりするくらいで性犯罪的な描写は減っていくが……


 おまけショートアニメは毎回さまざまなアニメーターが遊んでいて、ギャグの古さに目をつぶれば楽しい。
 特に好感触だったのは第10話で、あまり監督作品に良い印象のない浜名孝行だが、アニメーターとしてはすごく魅力的な作画を見せてくれた。DVDブックレットにあるように『まんが日本昔ばなし』のようなテイストで、亜細亜堂のスタイルに近いが、動きがさらにこぎみよい。