ばらいろのウェブログ(その3)

ひびのまことの公式サイト→ https://barairo.net/

「ペポはレズビアンの雑誌ではありません」

 「The personal is political(個人的なことは政治的なこと)をテーマにしたインディペンデント・マガジンpe=po」が創刊されました。模索舎などの幾つかの書店、そして通販で購入できます。

 編集者が二人ともオープンなレズビアン。表紙も女子カップル(に見える)写真がでーんと掲載。雑誌の特集記事のテーマは「カムアウト」。でも「ペポはレズビアンの雑誌ではありません」。
 こう聞くと、ホントはレズビアンの雑誌を創りたいんだけどそれが出来ないから言い訳をしているように感じる人もいるかもしれない。でも、それは、誤解だと思うよ(笑)。
 ペポ編集部としての見解(というか、イチカワユウさんによる答え)は雑誌の1ページ目に載っているのでぜひそれを読んで下さい。もう一人の編集者ちづるさんのコメントはこちら→「Lez雑誌じゃないのこと。」


 ペポの「レズビアンの雑誌ではありません」を聞いて思いだしたのは、以前「ニジイロ祭」じゃ物足りなくて「京都★ヘンナニジイロ祭」をやった時のこと。
 その時に私たちが創ったイベントは、もちろん、LGBTの/クィアの運動と表現の積み重ねと歴史の上にあったし、実際に上映した映画も(残念ながら力及ばず)それ系のがほとんどだった。しかし私たちは「LGBTのイベント」がしたい訳ではなかったので、素直にやりたいことを書くと「色々なセクシュアリティーの人たちで集まって楽しい祭にしましょ」ということになる。でも、これだと「ヘンナニジイロ」の意図が特にセクマイ当事者に伝わりにくいなぁ。
 そして結局、パンフレットにはこう書いたの。


「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシュアル」「トランスジェンダー」「Aセクシュアル」「ヘテロ」などの言葉にはとらわれず、色々なセクシュアリティーの人たちで集まって楽しい祭にしましょ。


 せっかくなので、その時の私の思いをいまから改めて整理してみた。


【「セクマイのゲットー」は要らない!】

  • 「少数派としての私たちの存在」を認めてもらったり受け入れてもらう、そのためにイベントをする、なんていうレベルのことは、もう既に、私たちの表現したいことじゃなかった(そういうことを意図して企画することは、ある)。「私たち」は、「あなた」やマジョリティー社会が「私たち」を受け入れようと拒否しようと、そんなことにお構いなしに、あなたの意志とは無関係に、既にここにいるから。そもそも社会や「あなた」には、「私たち」を受け入れるかどうかということを決める権利もないし、実際に決めることも出来ないから。
  • セクマイは、「当たり前のようにどこにでも既にいる」のであって、そこが「セクマイ」「LGBT」「クィア」とかの看板を掲げていてもいなくとも、すべての場所ではセクマイがそこにいることを前提として話が進むべきだから。セクマイにとって居心地の良い場を創るために「ここはセクマイの場だ」と宣言したり看板を掲げたりする必要は(本来は)ないから。


【ミックスの場でも、異性愛中心/男性中心にはしない/させない】

  • 「誰でも参加できる」という看板は、一般的には「誰でも参加できる、けど、異性愛中心」になりがちだし、セクマイ系だと「誰でも参加できる、けど、ゲイ中心」になりがちだ。というより、あえてそうならないような作為的・意図的な仕掛けを作ったりしない限り、ふつうはそうなる。でも、「私たち」はこれまでずっとそうなることに抵抗してきたし、もちろん「京都★ヘンナニジイロ祭」も、「異性愛中心」「ゲイ中心」「男性中心」にはならないし、させない。


【人にはマイノリティーである部分もあるしマジョリティーである部分もある】

  • 「セクマイの場」として打ち出してしまうことで、特にセクマイ当事者が、自分の「少数派」としての部分だけに注目してしまうことを危惧するから。
  • 差別や偏見は、「セクマイ VS マジョリティ社会」にだけあるのではない。クィア・セクマイ・LGBTの内部にも、差別や偏見は実際にある。それは、例えばゲイ男性のもつ女性差別/男性特権や、同性愛者のバイ嫌悪、LGBのトランスへの無関心、といったものだけでなく、日本人中心主義や健全者主義といったものも含めて。にもかかわらず、「セクマイの場」として打ち出してしまうと、「セクマイ VS マジョリティ社会」という構図だけが優先され特権化される危惧があるから。(そうなった時に得するのは、「セクマイ内部のマジョリティー」。)

 そんなことを考えながらイベントをする私だからこそ、ペポが「レズビアンの雑誌ではありません」と明言しているのを知った時、アンテナが反応するんだな、これが(笑)―Ohこれはいい感じ♪


 そして実際、「カムアウト特集」も面白かった。
 まず「普段から原稿や文章を書き慣れてるような人の声だけじゃなくって、そうじゃない人の声も載せたい!と強く思ったのです。『原稿を書く』っていうのはハードルが高くても、アンケートなら気軽に答えられるんじゃないかな?って」という特集の趣旨も、なるほどという感じ。実際、アクティビストや本を書いているような人の方が時代遅れのことを言っていて、ごく普通に生きている人の方が言っていること考えていることがステキだったり良かったりすることも実は多く、そういう意味でも、この趣旨には共感。
 それからアンケートの回答も、まず「何に関してカムアウトしてる?」から始まっているだけあって、単に性別や性指向のことに留まらないカムアウトが可視化されていていいです。実際、私の周りにも、精神疾患関係の人や出来事も多いし、SMやセックスワーク系のこと、思想信条のこと、性的な暴力のこと、それから民族や国籍のこと、なども、いろいろ話題になっているので、それが可視化されていていいです。これくらい在日朝鮮人の話が可視化していると、日本人中心主義が少しだけ相対化されていいですね。あと、対外的に出ているセクマイ系の情報やイメージでは「私たちの現実」と比べてバイセクシュアルがいないことにされる傾向が強いけど、ペポでは現実的な感じでいっぱいバイセクシュアルのことが肯定的に言及されていて居心地がいいです(^^)/
 せっかくなので、気に入った回答を1つだけ抜粋。

知り合ってからの期間が短い人にカムアウトすると、彼らの中での私という人間のイメージが変わるみたいだけど、長く知っている人にカムアウトすると、彼らの中での「同性愛者」というもののイメージが変わるみたいだ

 ということで、お薦めの雑誌です。まだの方は是非!