ばらいろのウェブログ(その3)

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OUT: ホモフォビアを叩きのめす!プロジェクト

OUT: ホモフォビアを叩きのめす!プロジェクト
OUT: Smashing Homophobia Project
韓国/2007/韓国語/カラー/ビデオ/110分
監督:ウム・フェミニスト・ビデオ・アクティヴィズム Feminist Video Activism WOM
ソウル在住、恋に悩むレズビアン高校生3人が自分に、恋人に、家族に、世の中に何か言わせて!と自らカメラを手にして語り、歌いだす、痛快プロジェクト。
http://www.yidff.jp/2007/program/07p2.html#t16

 作品タイトルはとても元気そうな感じですが、実際は若いクィア女子(作品中では「レズビアン」と描写)の心の動きや内面を丁寧に追った(言い換えると、「あぁでもない・こうでもない」といろいろと思い悩む姿を追った)ドキュメンタリーでした。その意味で、作品名の「外向きで元気のいい感じ」と作品の内容にはズレがあると思いました。
 最初に登場する出演者が、以前(中学時代?)にレズビアンとして映像でカムアウトしたけど、今は男の恋人ができた、その男の恋人が「レズビアンであること」をあんまり肯定的には受け入れようとはしない事と、それに呼応する形で「レズビアン」として出演者がカレシに対して自己主張する姿、でもその出演者がレズビアンだと言っていながら、はた目に見ても明らかにその男子にホントに恋している様子が手に取るように分かったりと、そんな青春の姿でした。
 わたしから見ると、若い頃にいろんな人に恋したり性的指向が揺れたりすることはよくあることだし、バイセクシュアルな人もいくらでもいることなので、そういう自己探求(敢えて言うなら「クエスチョニング」というラベルを使うこともできるけど)をする姿を正直に捉えていて面白いな、という感じなんです。映画の監督も、少なくとも映画の中ではその出演者の話をひたすら丁寧に聞くというスタイルで徹底していて、男子を好きになったことを否定したりしないし、「本当はあなたはレズビアンなんでしょ」というような誘導もしていません。理想的/模範的な聞き役として登場していました。同性愛者がバイセクシュアルのあり方や存在を否定や非難することは珍しくないのですが、レズビアンである監督の態度にはそういった「バイフォビア」が見られなかったということも、よかったです。
 でも、でも、にもかかわらず、最終的にはこの映画は「レズビアンのお話」としてまとめられていたのが、わたしにはよくわからなくて、その辺の所を二晩にわたってWOMの人達につっこんで聞いてみました。
 お互いが下手な英語だったので、今ひとつ話が通じていない可能性もあるのですが、面白かったです。
 少なくとも、監督たち自身のアイデンティティーは「レズビアン」だし、「レズビアンとして」表現をしていきたい、という路線が、本人たちには明確で確固としたものとしてあるようでした。まぁなんというか、とてもはっきりとした「アイデンティティーの政治(アイデンティティー・ポリティクス)」でした。でも、日本でこれまでわたしが出会ったことのある「アイデンティティーの政治」の人と全く異なるのは、卑怯なところが全然感じられなかったことです。
 「私たちは、レズビアン以外の人を全く否定しないし、レズビアンになれとも言わない」とWOMの人達は言っていたし、実際そのようでした。また「東京レズビアン&ゲイ・パレード」の名称問題の話をしたら、「名称を『レズビアン&ゲイ』にするのは間違っている。それは間違った権力だ」とはっきりと即座に返答してきたし、それはリップサービスや形だけのPCではなく、本当にそう思っているようでした。つまり、同性愛者のコミュニティーの中でも女性は男性に比べて権力を持たない側の「少数派の中の少数派」であり、レズビアンであるということが(異性愛中心の)フェミニズム運動の中でないがしろに扱われてきたという歴史と現実があるということ、それは「私たち」の内部にある不適切な権力関係であること、そういう不当な権力関係にはちゃんと明確に反対しないといけないこと、そういう認識を踏まえた上で、そういった不当な権力には反対する必要があるという話の延長線にある同じ問題として、明確に、即座に、「レズビアン&ゲイ・パレード」という名称は間違っている、と返すことができる人達だったんです。日本で「アイデンティティーの政治」の路線でモノを言う人達からはこんなにはっきりと適切な返事をもらったことが極めて少なかったので、とても新鮮でした。それと共に、こういう「質の良い」アイデンティティーの政治路線の人が出てくると、「アイデンティティーの政治」それ自体を批判しにくいなという事を発見する、面白い体験でもありました。
 もちろん「なんでわざわざ『レズビアン』という看板を掲げるのか、それ自体が排他的ではないのか」などと(私だけではなくFAVの人も交えて)何度も聞いては見ましたが、なかなか話自体がかみ合わない感じを含めて、面白かったです。WOMの人達にとっては外向けに分かりやすく主張するということがまず必要で、そのために「レズビアン」と言っているという感じでした。そういった特定の・分かり易い・一貫した普遍のアイデンティティーを持たされるという社会の仕組みにこそわたしは反対だ、と言っても、なかなか分かってもらえませんでした(>_<)。
 以前アジアクィア学会でタイに行った時にも、あまりに極端なまでに「バイセクシュアルが見えない/いない」という状況があったのでちょっとびっくりしていたんですが、もしかしたら韓国もそれに近いのかも、と思いました。自分をどう認識するか、どういうアイデンティティーを持つか、対外的にどう名乗るかということは、その地域の文化的背景に深く関わっているので、どうも日本とは状況が違う面があるのかも、という予感もしましたが、いかんせんよその国の話なのでよく分かりません。
 WOMの人達からは、広報宣伝用に朝鮮語+英語字幕付きの「OUT」のDVDを頂きましたので、試写したい方にはお見せできると思います(「レズビアン検閲」という作品のDVDも併せて頂きました)。ご希望の方はお声をおかけ下さいませ。