はてなブログからWordpressに移転します

はてなブロガーとして心機一転奮闘してきた、私、@heatwave_p2pですが、一身上の都合により、はてなブログからWordpressに移転することにいたしました。

新しいブログはこちらです。

◆ P2Pとかその辺のお話R

はてなブログにてご愛顧くださったみなさま、今までありがとうございました。新天地でもどうぞよろしくお願いいたします!

冗談はさておき

このブログは過去記事のアーカイブとなります。新規記事は上記ブログにて更新されます。

たくさんのコメントやはてブをいただいていたのに、しばらく凍結されたままにしてしまい本当に申し訳ない。

凍結されていたはてなダイアリーをはてなブログに移転しました

ご無沙汰しております。2014年よりはてなダイアリーをサスペンドされていた@heatwave_p2pであります。

未だはてなダイアリーに籠城を決め込む同志たちには申し訳ないのですが、過去のエントリを復旧するため、はてなダイアリーからはてなブログに移転することにしました。

はてなダイアリーを凍結されたのは、Winnyウィルスに関して書いた記事について、2008年に有罪判決を受けたウィルス作成者当人からプライバシー侵害、名誉毀損等にあたる記述(氏名、年齢、所属の表示、「事実とは異なる報道記事」の引用)があるとの申立がはてな経由であり、7日間の期限内に返答し損ねたためであります。

年齢と職業については、過去の事件を知る上で必要な情報であり、どう反論しようかと考えているうちに期限が過ぎてしまった、という按配です。結果サービスを凍結されてしまったわけですが、ひとえに対応を怠ったこちらに落ち度があり、はてなの対応も、当人からの申立も、別段不当なものとは考えていません。

当時はすでに3年ほど更新を停止しており、もはやはてなで記事を書くモチベーションも薄れていたため、復旧の手続きもせず放置した結果、今日に至った次第です。

ある時、何の気なしに「はてなダイアリーからはてなブログに移転すれば何事もなかったかのように復旧できんじゃね?」と試してみたら案外いけそうなので、該当箇所を修正の上、復旧してみました。ちょろい。

心機一転、はてなブロガーとして頑張っていく心意気でおります。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

違法DL刑事罰化:韓国レコード市場は規制強化のお陰で回復したのか

前回のエントリからの続き。違法DL刑事罰化の根拠として、韓国における規制強化がレコード市場の回復につながったと主張されているけれども、それは本当だろうか、他にも考えるべき事情はないのだろうか、というお話。

かつて“違法DL大国”と呼ばれた韓国でも、09年7月の法改正で罰金刑を敷いて以来、2年間で音楽売り上げ(配信中心)が39%増加。音楽ビジネスが持ち直した。

音楽違法DLに刑事罰 6月法案化へ - 社会ニュース : nikkansports.com

この記事では、違法ダウンロード刑事罰化がコンテンツ産業にとっての銀の弾丸であるかのように描かれている。実際、違法DL刑事罰化を要望する人たちは、これで解決すると明示的に主張することはないが、甚大な被害から縮小するコンテンツ産業を救うものであるかのように訴えている。

その流れで、著作権保護の強化に踏み切った韓国の事例を成功したストーリーとして語り、違法DL刑事罰化すべき理由のリストに連ねている。規制を強化すれば、違法ダウンロードは減り、産業は回復する、大雑把に言えばこのような筋書きなのだが、実際に規制を強化する理由として語られる言葉は、この程度の説得力しかない。

規制を強化してうまくいくのであれば、日本だってこれまで規制を強化し続けてきた。送信可能化権を導入し、著作権侵害の罰則を強化し、映画盗撮防止法*1、ダウンロード違法化をゴリ押しで通した。違法アップローダーの摘発も世界的に見てかなり頻繁に行われている。また、前回のエントリで紹介したドイツでも、世界に先駆けて違法DL刑事罰化を導入したが、混乱こそすれレコード市場の回復にはつながっていない。

それでも、対策は不十分だ、さらなる規制が必要だと叫ばれる。「この規制こそ必要だ、これがあれば…」と叫び、それが手に入れば、「次の規制こそ必要だ、これがあれば…」。これが繰り返されてきただけだった。おそらく、違法DLを刑事罰化してもこのループからは抜けられないだろう。

少し前置きが長くなってしまったが、韓国の規制強化を成功事例として扱うならば、漠然とした関連付けから推測するのではなく、どのような規制が行われ、どのような効果が得られ、どのようなネガティブな事態を引き起こし、それがどのような環境で起こったのか、を十分に理解し、その上で、自分たちにも望めるサクセス・ストーリーであるかを見極めるべきだろう。これは規制という一側面を見るだけではわかりようはなく、多面的、俯瞰的に見なければ見えてこない。

韓国の違法ファイル共有事情

ハングルが読めないため、限定的、伝聞での情報収集しかできていないのだが、韓国の違法ファイル共有レートは、世界的に見ても高い水準にあると言われている。

その背景の1つに、ICT産業振興を国策として進めてきたことがある。急激にインターネット環境が整備され、法整備や教育、啓蒙が追いつかないうちに、海賊文化に覆いつくされてしまったように思う。国内P2Pファイル共有サービスやウェブハード(サイバーロッカー)が登場、成長し、現在に至るまで、海賊版流通を生み出し続けている。特に近年ではウェブハードが違法コピー流通の中心となっており、こうしたサービスの中には、報酬プログラムによりファイルのアップロードにインセンティブを与え、海賊版流通を促進してきたところもある。

しかし、政府や権利者サイドも手をこまねいて見ていたわけではなく、コンテンツ産業衰退の原因を海賊版流通に求め、対策を講じてきた。

韓国の違法ファイル共有対策

2009年10月30日に開催された「第6回 コンテンツ流通促進シンポジウム第6回 コンテンツ流通促進シンポジウム」にて、東京都市大学専任講師の張睿暎さん(@chang_tcu)が韓国における違法ファイル流通とその状況について、以下のように話している。

現状としては、2点ほど大きな悩みがあります。まず第1に、みなさんご存じだと思いますが、音楽・映画・ゲームなど著作物の不法共有問題です。インターネットインフラがすでに定着している韓国では大容量の動画ファイルのダウンロードも瞬時にでき、公開して間もない映画がインターネット共有サイトで入手できるという問題が起きています。多くの著作権者を悩ませてきましたが、ここ2〜3年、著作権侵害に対する国レベルの取り締まりがかなり強くなっていますので、不法共有問題は、だんだん減っているということです。

第6回 コンテンツ流通促進シンポジウム

最近、この2〜3年は国として著作権侵害を非常に強く取り締まっているので、表にでているファイル共用サイトがほとんど消えている。まだ残っているものは、非常に隠れていて使いづらくなる。一般の視聴者がただでダウンロードするために、不法なサイトにアクセスするのが非常に面倒になったというのが、一つの要因だと思います。

第6回 コンテンツ流通促進シンポジウム

韓国では国をあげて著作権侵害対策に取り組んでおり、2009年の時点で一定の抑止効果が見られているのではないか、という。もちろん、法規制・エンフォースメントとウェブハード事業者・ユーザとのイタチごっこが未だ続いており、問題は解決されたという段階にはないのだが、以前に比べると緩和されてきているのかもしれない。

対策の強化が、違法ファイル共有問題の緩和、そして冒頭にあるようなレコード市場の回復に直接つながっているのかは定かではないが、この問題に対する法規制・エンフォースメントが強化されてきたことは確かだ。まずはその歴史を見てみることにしよう。

国を挙げて取り締まりを強化したという2007年頃からの施策を中心に紹介したいのだが、それ以前にも法規制では、伝送権の導入、罰則の強化、登録著作物侵害への過失責任(2000年)、技術的保護手段の保護、権利管理情報の保護、オンラインサービスプロバイダの免責要件を規定(2003年)、音楽著作隣接権者への伝送権の付与(2004年)、著作権管理事業者の著作権侵害に対応する際の信託対象証明義務を削除*2(2005年)などが行われてきた(参考.pdf)。

国をあげてのオンライン著作権侵害の取り締まり強化

はじめに断っておくと、韓国ではダウンロード違法化はなされておらず、したがって罰則についても付与されてはいない。基本的には、違法アップローダーへの対処と場を提供するポータル、ウェブハード、P2P共有サービスへの対策が中心となっている。

2007年6月、著作権法の全面改訂に際して、特殊な類型のオンラインサービスプロバイダ*3(P2Pファイル共有、ウェブハードなど)への義務を強化。こうしたサービス事業者は、権利者の正当な要請に応じ、当該著作物等の不法な伝送を遮断する技術的措置等の措置を取る義務が課せられるようになった。この技術的遮断措置には、検索制限や違法コンテンツ追跡管理システム(ICOP:参考)などが含まれる。後者の詳細は不明だが電子指紋フィルターのようなものだろうか。

2008年9月には、著作権侵害へのエンフォースメントを強化するため、著作権特別司法警察が発足された。この機関は文化体育観光部*4に所属しつつも、特別視法警察権を持ち、著作権侵害、不正流通の取り締まりに特化している。全国4箇所に事務所を設置し、オンライン・パイラシーの常時監視や営利目的又は常習的なヘビーアップローダーの捜査・摘発のみならず、違法流通の停止措置なども行う。また、音楽、映像、ソフトウェア、出版、ゲームの5分野でウェブハードやP2P共有サービスが技術的遮断措置を講じているかをチェックし、違反している場合には摘発、過料を賦課する。

2008年12月には、犯罪収益規制法の改正により、著作権侵害によって得た収益を全額没収または追徴できるようになった(これは米韓FTAにも含まれていた項目)。また、懲役刑が科された場合でも罰金刑が併科できるようにもなり、事実上の罰則強化とも言える。

2009年3月、文化体育観光部は、違法著作物流通への取締りの更なる強化を表明。「ネイバー」「ダウム」などのポータルサイト、ウェブハード、P2P共有サービスでの違法コピー流通を24時間自動監視・警告システムの整備し、違法流通の早期遮断を目指すとした。監視の強化については、障害者を雇用し在宅での監視業務などの施策を打ち出した。他にも、常習的なヘビーアップローダーへの集中取締りの成果公表し、今後は常時摘発を目指すとした。

2009年5月、20年ぶりに米国通商代表(USTR)の知財監視対象国から外れる。一時は優先監視対象国とまでなっていたが、著作権保護政策が評価されたものと思われる。ただし、監視対象国リストは米国が外圧をかけるための常套手段であり、韓米FTAにおいてかなりの要求を飲まされたことも、その背景にあるのだろう。

2009年7月、いわゆる韓国版スリーストライク法が施行された。文化体育観光部長官は著作権委員会の審議を経て、違法コピーを提供したアップローダーやウェブサイト・掲示板に警告を与え、3度の警告後も改善しない場合には、6ヶ月以内のアカウント停止、サービス停止を命じることができる(参考.pdf)。この措置は裁判所が判断するのではなく、著作権委員会という行政機関が審議を行う。

2010年11月、スリーストライク法施行後、初のアカウント停止命令が下された。対象となったユーザはヘビーアップローダーと見られており、3度の警告後も違法アップロードを継続していたという。この時点で469のアカウントが3度目の警告を受け取っているという。

2011年10月、文化体育観光部は、トレントサイト(63件)、マジコン販売サイト(25件)、映画・音楽のストリーミングサイト(15件)など計113サイトについて、情報通信網法に基づき、通信委員会に接続遮断などの措置を求めた。この内、33%(38件)は海外にサーバを置くサイトであった。同法では、不法情報の流通を禁止でき、政府・通信委員会に強い権限を与え、ISPにブロッキングを命じることができる。

2011年11月には、ウェブハード登録制を導入した。要件を満たしていないウェブハード事業者やP2Pファイル共有サービスを排除することを目的としている。InternetWatchによれば、以下の要件が設けられているという。

  • 悪意のあるプログラムをコンテンツで判別できる技術的な措置
  • 著作物等の不法な伝送を遮断する技術的措置(著作物の認識技術、検索、および送信の制限、警告文発送)
  • 違法行為を追跡するための利用者情報(ID、メールアドレスなど)の表示、および2年以上のログファイル情報の保存
  • 青少年有害媒体物(広告を含む)流通防止と表示のための措置
  • 個人、法人を含めて、資本金3億ウォン以上
  • 事業計画及び利用者保護計画書
【海の向こうの“セキュリティ”】 第63回:韓国、オンラインストレージ事業者を登録制に ほか -INTERNET Watch

ウェブハード事業者やP2Pファイル共有サービスへの摘発を強化しても、刑事告訴による摘発には時間がかかり、行政命令でも売却・閉鎖後に新たに立ち上げという抜け道があった。また、過料賦課を続けても利益の方が上回っており効果が薄く、モニタリングの限界、ウェブハード閉鎖に伴う正規利用者の弊害もあった。そこで、一定の基準を設け、抜け道を悪用する業者を締め出す施策を打ち出したと言える。

また、2011年中に2度の著作権法改正が行われ、以下の項目が加えられた。

  • 著作権及び著作隣接権(放送を除く)の保護期間延長(50年→70年)
  • DRM回避規制の導入(アクセスコントロール回避規制も含む。例外あり)
  • 法定損害賠償制度の導入
  • ISPの責任制限条項の修正(欧米との間のFTAに合わせた形への修正)
  • 権利管理情報の除去・改変規制
  • フェアユースの導入
  • 一時的複製の例外の導入
第267回:去年の韓国の著作権法改正とフェアユース: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言

殆どの項目が韓欧FTA、韓米FTAに対応するためのものだが、フェアユースに関しては強すぎる規制を緩和するために導入されたと言える。ただし、フェアユースは後述する韓国国内の混乱に対処するためのものでもあった。

またエンフォースメントに関して、著作権特別司法警察の2009年・2010年の成果が公表されている。

特司警司法処理はユーザまたは事業者の送検、過料処分は事業者に対する罰金。摘発や是正命令、是正勧告もかなりの数に上り、また削除件数も3,500万件近く。

  • 不法複製物の合法市場侵害規模:(2008å¹´)2å…†4千億ウォン→ (2010å¹´)2å…†1千億ウォン
  • 不法複製物の合法市場侵害率:(2008å¹´)22.3% →(2010å¹´)19.2%
文化部、「著作権特別司法警察大邱(テグ)事務所」 15日に開設 - JETRO Seoul

侵害規模や侵害率については、どのように算出されているのかがわからないので評価できないが、パターンとしては減少傾向にあるといえるのだろう。

規制強化の弊害

上記のような規制強化を推し進めていった結果、韓国内で大きな混乱が生じている。前回紹介したドイツの事例よろしく、大量の告訴、和解金ビジネスである。

 この頃、著作権保持者と法律事務所が手を結び、ブログやカフェ(同好会サイト)などに音楽ファイルを掲載したネットユーザーを手当たりしだい告訴している。有料で購入した音楽ファイルであっても、ブログのBGM用に販売されているファイル以外の音楽ファイルを添付したり、リンクしたりしていると告訴の対象になる。ちょっとしたことでもすぐ告訴されてしまうので、社会問題にまでなっている。

 作品を批評するため漫画の半ページ分を掲載したのに、ある法律事務所から著作権違反で告訴されたユーザーは、100万ウォンの謝罪金を払わないと告訴は取り下げられといわれ、漫画の作者に事情を説明して告訴を取り下げてもらったという。

 権利を委任されているとはいえ、このケースのように、作者ですらあっさり取り下げに合意するような著作権法違反告訴を法律事務所が実行しているのは、著作権法を守らせるためというより「謝罪金ビジネス」に過ぎないとの批判の声が上がっている。謝罪金をたくさん集めるほど法律事務所がもらえる手数料も増えるからだ。

著作権法違反をネタにした「謝罪金請求」が多発、告訴爆弾に歯止めをかけろ!:PC Online

こうしたケースは2007年頃から急増し、2008年には2万3470人の青少年が著作権侵害容疑で立件され、高額な謝罪金を要求された高校生が飛び降り自殺するという事件まで起こった。法律事務所はアルバイトを雇い、著作権侵害の発見にインセンティブを与えたため、上記のような正当な利用ですら、他人の著作物だということで告訴するということが起こった。

また、告訴されたユーザの多くが未成年者で、子供の将来を考えれば親が謝罪金を支払うだろうという算段があったものと思われる。

 「警察から電話があり、ある法律事務所がうちの子供を著作権法違反で告訴したので、和解した方がいいのではないか言われた。告訴を取り下げてもらわないと子供が学校にも行けず警察で調査を受け、裁判所にも出席しないといけないという。警察は小学生なので謝罪金はないだろうと話していたが、法律事務所はうちの謝罪金は小学生であっても70万ウォンだと繰り返すばかり。子供が警察に裁判所に連れまわされ、一生忘れられない恐怖を感じるより謝罪金を払った方がマシだと思った。子供のためには何でもしてしまう親の立場を利用して謝罪金をかき集めている」と憤慨していた。

 警察のサイバー捜査隊の説明によると、著作権法違反で告訴されるネットユーザーのほとんどが未成年者だという。未成年者なので保護者に出頭要求書が届けられるが、子供を守るためほとんどのケースで親が30万〜80万ウォンの謝罪金を払って和解する。

著作権法違反をネタにした「謝罪金請求」が多発、告訴爆弾に歯止めをかけろ!:PC Online

さらに、国外の権利者からの法的措置も行われ、2009年8月には日米のポルノ会社が、韓国のユーザ数千名を告訴した。もちろん、その背後には国内の法律事務所が介在したのだろうが。

文化体育観光部では、こうした無差別な告訴を問題視し、時限的に「教育条件付起訴猶予制度」を導入し、青少年の初犯については捜査を行わず不起訴とし、教育的措置を講じるとした。この制度は2009年3月から全国で適用され、成人にも適用されることになった。当初は1年間限りの時限的制度であったが、2010年2月に延長が決まり、2011年にも再延長が決定された。また、軽微かつ公正な利用に対する告訴も相次いだことから、フェアユースの必要性も検討されることとなった。

このような対策が講じられたものの、スリーストライク法導入以後も、ブログやSNSなどのサービスも規制対象とされたことで、サービス提供者が過剰に反応したり、ユーザの中にも閉鎖、更新停止などの萎縮が広がったという(参考)。

韓国レコード産業の今

著作権侵害対策の強化を続け、一定の効果が得られた大混乱が生じた韓国であるが、冒頭の引用部分にあるように、強化した結果産業が回復したのかを知るためには、韓国レコード産業の推移、状況をしる必要があるだろう。

今年1月に韓国大手マネジメント/レコード会社のSMエンタテイメントが提出した証券申告書に、韓国レコード産業の現状が示されている。(以下はテキストをGoogle翻訳にかけたもの)

2000年代に入ると超高速インターネットサービスの活性化に音源の無料のストリーミングと、違法ダウンロードサービスが開始され、CD市場で代表されたオフラインの音楽市場が急激に崩壊しました。文化体育観光部と韓国コンテンツ振興院が共同制作した韓国の音楽産業白書によると、2001年度3,733億ウォンにのぼったレコード産業の規模は、2009年末には802億ウォンで78.5%も減少しました。


国内音楽市場推移

しかし、2000年代半ば以降、音楽業界はデジタル音楽市場の熾烈な論争と法的攻防を経て、大衆と産業界が互いに納得できるレベルまで制度が整備されました。このような制度の整備を通じ、音楽産業のバリューチェーンは、これまで以上に高精度になりました。また、2000年代半ばの移動通信会社が音源のサービスを本格的に開始し、政府の著作権法改正などで有料化市場が形成され、デジタル音源市場が本格的に成長し始めました。以降、デジタル音楽を流通することができるサービスプラットフォームと音楽鑑賞が可能な携帯型プレーヤーが急速に増加し、音源の流通サイクルが早くなりしてこれは音源の生産サイクルに影響を与えるとしながら、デジタル音源の売上高が急速に増加することになりました。音楽市場がデジタル化され、他産業との融合を通じた多様な新規収益モデルが創出されており、今後デジタル音楽市場の成長はさらに増加すると予想されています。

kind.krx.co.kr/external/2012/01/18/000297/20120118000647/10001.htm

上記のグラフは、単位:億ウォンで、紫がCDの売上、青がデジタル配信の売上。2001年から2009年までなので、スリーストライク法施行以後の推移については不明だが、韓国では早いうちにCDから配信への移行が進み、2004年に底を打った後は回復傾向が続いていたことがわかる。少なくとも日刊スポーツの記事にあるような「2009年の法改正で音楽ビジネスが持ち直した」わけではなく、それ以前から回復基調にあったといえるのではないだろうか。つまり、2009年の法改正による影響なのか、それともデジタル配信が順調に成長した結果であるのかはわからない、ということだ。

CDの売上は2006年にはほぼ底を打ち、微増・微減を繰り返す一方で、デジタル配信は成長を続けている。興味深いのは、2009年時点で2001年の売上を超えており、10年スパンで見ると、低迷ではなく成長したといえる。ただ、日本などと簡単には比較できない理由として、規模が大きく異なることがあげられる。たとえばIFPI の統計などを見ても、日本と韓国のレコード市場では20倍超の開きがあり、人口の差異を考えても韓国のほうが変化が起こりやすかったといえる。

韓国のデジタル配信はここ10年間で大きく成長しているのだが、少なくともレコード市場の大きな国、特に日本から見て、非常に特異な面がある。価格が極めて安いのだ。

アルバムCDでも11,000ウォンから13,000ウォン(約800〜1000円)程度なのだが、ダウンロード配信は平均的な価格で1曲500ウォン(約36円)と更に安くなっている。だが、韓国音楽配信の主流となっているストリーミング・サービスと定額クレジット制サービスではさらに安価に音楽を楽しむことができる。ハンギョレ紙英語ウェブ版によれば、ストリーミングと定額クレジットが韓国レコード市場の7割超を占めるという。

ストリーミング・サービスは、月額3,000〜5,000ウォン(約220〜366円)で聞き放題だったり、定額クレジット制サービスは月額7,000ウォン(約512円)で40曲、9,000ウォン(約660円)で150曲のMP3がダウンロードできるクレジットを購入できる。後者はストリーミング・サービスとパッケージされていたり、1ヶ月ではなく3ヶ月間のプラン(たとえば20,000ウォン:約1465円)もあり、このプランでは3ヶ月間ストリーミング・サービスを楽しむことができる。

もちろん、こうした安価な音楽の提供を誰もが歓迎するわけではなかった。レコード会社やミュージシャンは、廉売され、かつ取り分が少ないことに不満の声をあげ、ミュージシャン・フレンドリーを謳うサービスまで登場することになった。個人的には、さすがに安すぎるだろうと思う。

海賊版対策として、厳格な法規制、エンフォースメントの実施を行っただけではなく、安価に利用可能な選択肢があったことを考慮すると、全くペイしない海賊ユーザが有料サービスの利用者に変わったとも考えられる。法改正の影響があったにせよ、海賊行為のリスクを高め、海賊版へのアクセスの機会を減らすと同時に、手を伸ばしやすいサービスが存在していたことがレコード市場の成長につながったように思える。もちろん、海賊ユーザに魅力的なサービスならば、一般のユーザにも魅力的にうつるだろう。

韓国レコード市場はなぜ回復しているのか

かつて“違法DL大国”と呼ばれた韓国でも、09年7月の法改正で罰金刑を敷いて以来、2年間で音楽売り上げ(配信中心)が39%増加。音楽ビジネスが持ち直した。

音楽違法DLに刑事罰 6月法案化へ - 社会ニュース : nikkansports.com

もう一度、これが正しいのかどうか考えてみよう。たしかに2009年7月以降、2年間で売上が39%増加したのかもしれない。しかし、そこに大きな見落としはないだろうか。規制のお陰で改善したように見えても、その現象を引き起こした様々な背景、そしてそれが引き起こす弊害について考えなければならない。

同じようなサクセス・ストーリーを日本でも期待できるのだろうか。そもそも市場規模が大きく異なり、1人あたりが購入している額が大きく異なっている。また、韓国やドイツの事例のように大量の告訴や民事事件が生じての結果であり、同様の効果を狙うために日本でも同じことができるのかも考えなければならない。また、仏スリーストライク法施行以後、違法ファイル共有は大きく減ったものの、売上が上昇することはなかった。たとえその効果があったのだとしても、海賊ユーザのお金はCDではなく、デジタル配信に向かったのだといえだろう。携帯向け以外の配信がほとんど進んでおらず、CD中心の日本のレコード市場ではどうなるだろうか。さらに、韓国のレコードの相場が、日本のみならず、欧米から見ても極めて安価であり、非常に手を伸ばしやすいものであることも無視できない。

1つの原因と1つの結果とを強引に結びつけるのではなく、多面的、多角的に考察し、その過程を精査し、自分の国においてもその結果を期待できるか、何かしらの弊害が生じうるか、生じるとしたらどうすれば最小限に抑えられるのかを考えなければならない。

*1:余談だが、映画盗撮防止法に基づく逮捕事例は、私が知るかぎり2件しかない。いずれも、私的に楽しむ目的で録音・録画されたもので、1つは携帯電話で録音していたら見つかって通報されたという事件、もう1つはストーカー事件の捜査過程で映画を盗撮していたビデオが発見され、逮捕されたという事件。

*2:一度に大量の侵害に対して対応するため

*3:他者相互間でコンピュータ等を用いて著作物等を伝送するようにすることを主な目的とするオンラインサービスプロバイダ

*4:日本で言うところの文科省だろうか

違法ダウンロード刑事罰化:日刊スポーツが音事協のプロパガンダを垂れ流してる件

なんだか狐につままれたような記事を見た。

■ 音楽違法DLに刑事罰 6月法案化へ - 社会ニュース : nikkansports.com

タイトルだけ見ると、ついに違法ダウンロード刑事罰化法案が6月に提出されるのか!?って思うじゃないですか。でも、中身を読んでみると…

諸外国では、すでに定められている違法DLに対する刑事罰則の法案が、6月までの今国会で成立するのか。音楽業界は、祈る思いで見守っている。

音楽違法DLに刑事罰 6月法案化へ - 社会ニュース : nikkansports.com

これだけ。「6月法案化へ」の根拠は全くない。要は音楽業界というか、議員立法による違法ダウンロード刑事罰化に向けてロビー活動を行なっている音楽事業者協会の尾木徹会長が、今国会中(会期は6月21日まで)の成立を期待している、という話でしかない。

既に条文案は固まっており、いつ提出されるのかという状況ではあるのだが、あまりに中身がなさ過ぎて脱力した。もちろん、ロビイングを仕掛けている団体の会長に聞いたくらいだから、議員さんとのやり取りの中で大っぴらには言えないお話があって、その辺を濁した結果、こんな中身のない記事なったのかもしれないけれども。

こうした中身のなさもさることながら、違法ダウンロード刑事罰化が必要とされている根拠なども、音事協の言い分だけが掲載され、しかもまるで事実であるかのように扱われている。どういう事情でこの記事が掲載されるに至ったのかはわからないが、違法DL刑事罰化推進派にとって、ずいぶん都合のいい記事になっているように思える。

「諸外国では、すでに定められている違法DLに対する刑事罰則」

日本では、アップロードに対して10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金則があるが、DLに対しては刑事罰則はない。米国やドイツでは、アップロードへの罰則と同等の刑事罰が整備されており、抑止効果が出ている。

音楽違法DLに刑事罰 6月法案化へ - 社会ニュース : nikkansports.com

この主張の疑わしさについて、細々と突っ込んでみよう。

米国

米国において違法DLへの罰則がどのように規定されているのか、不勉強ながらよくわからないのだが(ご存じの方、該当する規定をご指摘いただけると本当に助かります)、日本と比較すると、米国ではユーザ間の著作権侵害に対する刑事摘発は極めて稀である。

日本では、WinnyやShareなどのP2Pファイル共有、サイバーロッカー、動画共有サイトを利用した著作権侵害に対する摘発が頻繁に行われているが、米国では刑事的措置ではなく、民事上の解決が望まれる。営利を目的としていない、ユーザ個人の著作権侵害については、権利者とユーザとの民事上の紛争であり、当事者間で解決しましょうということ。

実際、米著作権法で規定されている犯罪としての著作権侵害罪は、日本の要件よりもかなり狭い。

第506条 刑事犯罪
(a) 著作権侵害罪
 (1) 総則−著作権を故意に侵害する者は、その侵害が以下の態様で行われる場合には、合衆国法典第18編第2319条の規定に従って処罰される。
  (A) 商業的利益または私的な経済的利得*1を目的とする行為、
  (B) 180日間に、1つ以上の著作権のある著作物について1部以上のコピーまたはレコード(その小売価格の総額が1000 ドルを超える場合に限る)を複製もしくは頒布(電子的手段によるものを含む)する行為、または
  (C) 商業的頒布を目的として作成中の著作物を、公衆がアクセス可能なコンピュータ・ネットワーク上に置いて利用可能にする方法によって頒布する行為(当該著作物が商業的頒布のために作成中の著作物であることを当該者が知りもしくは知るべきであった場合に限る)。
 (2) 証拠−本項において、著作権のある著作物の複製または頒布の証拠は、それだけでは、故意侵害を立証するに十分ではないものとする。

外国著作権法令集−アメリカ編

(A)は営利を目的としているか否か、(B)は規模の大きさ、(C)はリリース前のリークについて規定されており、いずれかを満たした場合に刑事事件として扱うことができる。基本的には、営利を目的とした大規模かつ悪質な著作権侵害を摘発するためのもので、立証のハードルも高く設定されている。

ユーザ個人による違法アップロードのほとんどは上記の要件*2を満たすものではなく、民事で解決しなければならないということになる。ただ、刑事的措置が限定的な反面、法定損害賠償や被告への裁判費用の請求権、厳格責任*3など、民事上の救済を手厚くすることでバランスをとっている。P2Pファイル共有での著作権侵害事件の裁判で、高額の賠償命令が下されているのはそうした理由からである。

かつてはRIAAが、最近では映画会社やポルノ企業が、刑事事件としてではなく、P2Pファイル共有ユーザを大量に民事で訴えているのには、こうした背景ある。そして、ユーザを著作権侵害容疑で逮捕させるという選択肢は現実的ではない。

米国がこのような状況にあることを考えると、違法ダウンロードに罰則があったとしても、これ以上に厳しい規定とは思いがたいし、実際に摘発が行われているのを聞いたこともないのに抑止効果があると言われても眉唾に思える。

ドイツ

確かに、ドイツはダウンロード違法化、違法ダウンロードの刑事罰化を世界に先駆けて導入しているのだが、著作権保護を強化した結果、社会的混乱が生じている。これは決して無視できる規模の問題ではなく、再度法改正を必要としたほどの大問題であった。

ドイツは、2007年に、ダウンロード違法化・犯罪化を世界に先駆けて行ったものの、刑事訴訟の乱発を招き、裁判所・警察・検察ともに到底捌ききれない状態に落ち入ったため、2008年に再度法改正を行い、民事的な警告を義務づけ、要求できる警告費用も限定したが、やはり情報開示請求と警告状送付が乱発され、あまり状況は改善せず、消費者団体やユーザーから大反発を招いているという状態にある

第255回:ドイツの消費者団体の著作権法改正に関するポジションペーパー(日独のダウンロード違法化・犯罪化問題): 無名の一知財政策ウォッチャーの独言

ドイツにおける刑事告訴の乱発は、2007年以前から見られていた動きではあるのだが、ダウンロード違法化、刑事罰化を受けて更に加速した。この刑事告訴の乱発の背景には、ユーザに対する民事の著作権侵害訴訟が、非常に儲かるビジネスになってしまったことがある。

ではなぜ、民事訴訟が目当てなのに刑事告訴が乱発されたのか。ドイツは日本と同様に、氏名不詳のまま民事訴訟を起こすことはできず(米国ではJohn Doe訴訟が可能)、まず当該の著作権侵害ユーザについてISPに情報開示請求を行わなければならない。しかし、罰則があれば権利者は告訴でき、著作権侵害ユーザ特定の手間や費用を警察に丸投げできる。そうして警察が個人を特定した暁には、その情報を元に民事訴訟を起こし和解金を要求する、という寸法である。

ターゲットにされたのはP2Pファイル共有ユーザなので、違法ダウンロードだけではなく違法アップロードも含んでいるのだが、彼らを訴えることが出来れば、容易に、しかも大量のユーザから和解金として数千ユーロをぶんどることができた。レコード会社、ゲーム会社、映画スタジオ、ポルノ会社などの権利者と、法律事務所、P2P調査会社が手を組み、年間十数万件の刑事告訴を行ったと言われている。

一方、汚れ役と費用負担を押しつけられたドイツ検察当局は、快く思うわけもなく。こうした告訴の乱発により過度の負担を強いられているとして、被害額が3000ユーロに満たない軽微な著作権侵害の告訴を受理しない方針を打ち出し、「商業的レベル」に達していない著作権侵害を扱わないとのガイドラインを示した。また法廷もユーザ情報取得を目的とした刑事訴訟は重大犯罪を除いて認められない、と判断した。

こうした社会的混乱の解決に向けて、著作権侵害に関わる刑事告訴の乱発ならびに民事訴訟を抑制するため、再度法改正を行わなければならなかった。しかし、一度ビジネスとして起動に乗ってしまったためか、著作権侵害から利益を上げるスキームは法改正後も続けられた。

独著作権警告対策組合がまとめた2010年の動向によれば、こうした事案を扱う法律事務所、そしてそのような法律事務所と契約を結ぶ権利者は2010年も増加し、年間60万弱のユーザに500-1500ユーロ程度を要求する警告文書を送付しているという。請求額を合計すると実に4億ユーロ(約440億円)にものぼる。

さて、このような現状を踏まえてもう一度考えてみよう。ドイツがダウンロード違法化、刑事罰化以降、違法ダウンローダーが減ったとして、「刑事罰が整備されており、抑止効果が出ている」ためなのだろうか?少なくとも、「Yes」とは答えられないだろう。

先日の参議院決算委員会で違法DL刑事罰化を求めた公明党 松あきら議員はこのように述べていた。

これは抑止力に繋がるんです。何もとっ捕まえて、お金をどうのなんて言ってるわけじゃないんです

松議員は本心でそう思っているんだろう。おそらく、そういう説明を受けているのだと思う。でも、ドイツの例を見るに、抑止力が生み出されたのだとしたら、大規模に「とっ捕まえてお金をどうの」したから、大量のユーザに高額な金銭を要求したからだろう。

そして、ありうるその次のシナリオは、P2Pファイル共有ユーザという金の卵を失った法律事務所が、次のターゲットを探してウェブを徘徊する、というところだろうか。動画共有サイト、サイバーロッカーはもちろんのこと、掲示板/フォーラム、ブログ、SNSなど、ユーザのあらゆるオンラインアクティビティに網をかけ、侵害を見つける度に喜び勇んで権利者に売り込むことになるのだろう。

「違法DLは、有料の正規DL数4・4億の約10倍の43・6億」

これについてはツッコミ疲れた。ここで「違法DL」とされている数字は、違法ダウンロードだけの数字ではなく、合法ダウンロードも含んだ数字となっている。詳細は以下の記事をご覧下さい。

違法DL刑事罰化でコンテンツ産業が持ち直す?

尾木会長は「施行されればソフト産業全体がプラスにつながる。このままでは音楽業界が廃れて、レコード会社はなくなってしまう」と危機感を強めている。

音楽違法DLに刑事罰 6月法案化へ - 社会ニュース : nikkansports.com

絵に描いた餅というかなんというか。たとえ違法ダウンロードが減少したとしても、それが購買につながるかどうか、どの程度プラスに繋がるかもわからない。

日刊スポーツの記事では「抑止効果が出ている」とされたドイツでも、産業にとってプラスに働いているとは言いがたい状況にある。

独音楽産業協会が公表する独レコード市場の推移を見ても、フィジカル(CD、レコード等)が減少しデジタル(配信等)が微増、市場全体としては減少。という世界的な傾向をそのまま見ることができる。

日本では「ソフト産業全体がプラスにつながる」と言えるだけの説明は十分になされているとは思えない。

かつて“違法DL大国”と呼ばれた韓国でも、09年7月の法改正で罰金刑を敷いて以来、2年間で音楽売り上げ(配信中心)が39%増加。音楽ビジネスが持ち直した。

音楽違法DLに刑事罰 6月法案化へ - 社会ニュース : nikkansports.com

これについても、韓国レコード市場を取り巻く状況を全く考慮せずして、回復したという事実のみを見て、法改正の影響に結びつけているように思える。Twitterで少し触れたが、もともと正規購入が配信、CDともに日本に比べると破格とも言えるほど安価であり、有料サービスに手を伸ばし安かったことや、海賊版ユーザの割合が非常に高く効果が出やすかったこと、2009年以前からレコード市場は回復傾向にあったこと、著作権侵害ユーザへの告訴、民事訴訟が乱発されたことなど、様々な要因がからみ合っているように思える。

ここまで随分長々と書いてきてしまったので、韓国の動向については次のエントリで改めて書くことにする。

違法ダウンロード刑事罰化は本当に必要?

正直なところ、違法ダウンロード刑事罰化を求める人たちは、それが実現することで、どのようなプロセスで違法ダウンロードが抑止されるのか、また落ち込む売上が回復するのかを具体的にイメージできているのだろうか。ただ厳しくすれば何とかなるはず、という漠然としたイメージで厳格化を望んでいるだけなのだろうか。それとも、その更に先の規制、たとえばブロッキングやフィルタリング、段階的レスポンス(スリーストライク)制度などの足がかりとしたいのか。

今言われている「違法ダウンロード刑事罰化を必要とする理由」についても、信憑性が感じられず、そうに違いないという漠然とした願望で語られているように思える。また、違法ダウンロードへの刑事罰導入によって生じうる混乱についても、それほど考慮されているとも思い難く、ロビー活動を行なっている人たちやそれを受ける国会議員たちですら知らないのではないかとすら思える(知ってたら知ってたでそれも大問題だが)。

何となく必要そうだ、導入すれば好転するかもしれない、ではなく、導入された際のメリット・デメリットについてきちんと議論し尽くした上で、必要か、必要でないかを判断すべきである。

*1:The term “financial gain” includes receipt, or expectation of receipt, of anything of value, including the receipt of other copyrighted works.

*2:手続きも含め

*3:故意・過失を要件としない

公明党議員、決算委員会にて政府に違法ダウンロード刑事罰化を求める

3月9日の参議院決算委員会にて、公明党 松あきら議員が違法ダウンロード刑事罰化を政府に求めた。

おそらく背景にあるのは、自公が議員立法での提出を検討している「音楽等の私的違法ダウンロードの防止に関する法律(案)」。決算委員会での松議員の主張を聞くに、上記法案提出に向けてロビイングを仕掛けている日本レコード協会(RIAJ)や日本音楽事業者協会(音事協)の言い分及びその根拠そのままである。国会議員として、業界団体の主張を精査することなく、鵜呑みにしてしまって良いものかと疑問に思える。

参議院インターネット審議中継より、松あきら議員の違法ダウンロード刑事罰化に関する質疑(28分24秒〜)を以下に書き起しつつ、適宜ツッコミを入れてみる。引用部の強調およびリンク、括弧書きによる補足は、筆者heatwave_p2pによるもの。

松あきら 参議院議員

それでは最後の質問でございます。

被災地の方々の心を慰めたのは、多くの方が演奏や歌や落語や、もう本当に多くの芸能人の方、芸術家の方々、もちろん一般の方々もですけれど、行って下さいました。

そうした音楽や、あるいはもちろん本や、そうした文化芸術というととても広い感じがしますけれど、心を支えるものなんですね。正直言いまして、私、宝塚出身でございます。私が行って演説をするよりも、「松さん歌ってくださいよ」って。歌いませんよ 私。(議場 笑)

中国で一回だけありました。随分前なんです。敬老院に、当時の神崎代表、浜四津代表代行と伺ったら、お年をとったご婦人が、日本語を強要された世代ですけれど、「北国の春」とか、日本語で歌を歌ってくださったんです。もう本当に、胸がいっぱいになりました。いろんなことが(過去にあったのでしょう)、何も言いませんよ、言葉では。日本語で歌ってくださった。

そしたら、その当時の神崎代表が、グッとこられて「みなさま、この御礼に『宝塚出身の松あきらが一曲歌います』っておっしゃったんですよ、私びっくりしちゃってどうしようかと思ったんですけれども、一応、「桜の花咲く頃」、突然だったので歌いましたけれども、抱き合って泣きました。本当に、大事な、私は、言葉を超えたまさに音楽であり、そういうものであると思っています。

第180回国会(常会)2012年3月9日 参議院 決算委員会(休憩1〜終了):28分24秒〜

以上は心情に訴えかける部分なので、刑事罰導入議論の本質にはそれほど関係はない。

松あきら 参議院議員
そこで今、こうした音楽、あるいは映像、漫画などのコンテンツ産業も非常に、日本の国のこれからを担う、産業を担う、こういうふうに思っておりますが、やはり知的財産ということでは昨今問題になっております、違法ダウンロードのことでございます。

やはりね、何回も言うように、私も芸能界出身なんで、1曲の曲を作る、1つの映像を作るということは、どれほど多くの涙と汗と苦労がそこに入っているかということを、多くの人が関わってできるんですね。

この違法のダウンロードをする人は、未成年者を含む青年が多いと言われているんですけれど、私は日本の青年たちに期待しているし信じています。それは悪いことをしようとか、そんな風には思っていないと思う、本当に軽い気持ちで、「ま、ちょっと」という軽い気持ちでやってしまっているんじゃないかなと思うんです。

けれども、善悪をきちんと教えることは、非常に大事な事なんですね。特に青少年。

第180回国会(常会)2012年3月9日 参議院 決算委員会(休憩1〜終了)

違法ダウンロードは悪である、青少年に善悪を教えるためには刑事罰が必要だ、という主張。

松あきら 参議院議員
一昨年の著作権法改正では、「私的使用目的であっても違法と知りながらダウンロードする行為」は違法とされたんです。けれども、罰則がないんですよこれ、もうすごいですよ。正規(配信)では4.4万件、違法(配信)が43.6、43.6億件ですよ。で、これ、7,000億円ぐらい(の損失)、だそうでございます。

第180回国会(常会)2012年3月9日 参議院 決算委員会(休憩1〜終了)

資料が配布されていただろうから勘違いした議員はいないと思うが、「正規では4.4万件」は「正規では4.4億件」の言い間違い。

なお、この数字は2010年8月に日本レコード協会が実施した「違法配信に関する利用実態調査」の結果である。

【違法ファイル等の推定ダウンロード数】
違法ファイル等の(※1)推定ダウンロード数は43.6億ファイルであり、正規有料音楽配信の2010年ダウンロード数4.4億ファイルのおよそ10倍である。また、これを正規音楽配信の販売価格に換算すると(※2)6,683億円となり、正規音楽配信の2010年間売上860億円のおよそ8倍に相当する。

※1:違法ファイル等の推定ダウンロード数は、「日本の人口」(平成17年国勢調査より)に「ダウンロード利用率」および「平均ファイル数」(いずれも当協会2010年8月調査)を乗じて、年代・形態別に算出した。 なお、この推定ダウンロード数には、違法ファイルのダウンロードのほか、閲覧のみが許可されているレコード会社の公式ストリーミングサイト等からの不正ダウンロードを含む。

※2:正規音楽配信の販売価格は、当協会の有料音楽配信統計(2010年1月〜2010年12月期)平均単価データに基づき算出した。

「違法配信に関する利用実態調査」結果公表 - 日本レコード協会

以前、この調査が様々な問題点を抱えているにもかかわらず、数字だけが独り歩きすることへの懸念を書いたが、それが現実になってしまった。違法ファイル「等」とあるように、YouTubeなどで正規ストリーミング配信されたビデオのダウンロードも含まれているにもかかわらず、そうした事情は無視され、「違法(ダウンロード)が43.6億件」となってしまっている。この辺りの不正確さは、後の調査と比較するとよくわかるだろう。また、その43.6億件の大半が少数のヘビーダウンローダーによって占められており、したがって7,000億円(正確には6,683億円)と主張される損失も机上の計算であって実際の逸失利益とは大きな剥離があることも無視されてしまっている。

確かに調査によって得られた数字ではあるが、使われ方を加味するとでっち上げとも言える数字なのだが、伝言ゲームの要領でもはや既成事実化してしまったのだろう。

追記

この損失(と言われる)額の導出、算出方法について、『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』の著者 山田奨治さん(@yamadashoji)が、その問題点を詳細に指摘している。7,000億円という数字を不審に思われる方は必読。

■ 音楽違法ダウンロード被害額7000億円の怪 - 山田奨治 BLOG

以上、追記終わり。

閑話休題、引き続き松議員の質疑を。

松あきら 参議院議員
もう本当に、えー…、この、なんと申しましょうか、日本は残念ながら、こうした文化芸術に、ほんっとに、きちんと目を向けてはいない。アメリカなどは、たとえば懲役刑あるんですよ!1年、禁固1年、10万ドルの罰金。フランスだってドイツだってみんなありますよ!罰則が!日本でも罰則を作っていただきたい!

第180回国会(常会)2012年3月9日 参議院 決算委員会(休憩1〜終了)

日本は世界の先進国から見て遅れている、という主張であるが、これついては無名の一知財政策ウォッチャーの独言さんがその欺瞞を指摘している。(強調部分は原文ママ、文章内リンクは筆者heatwave_p2pが追加)

著作権団体の好きな著作権強権国家の英米独仏などでは、P2P違法ファイル共有ユーザーに対する訴訟が猖獗を極め社会問題化し、ダウンロード合法化の議論すら出てきているというのが現状であり、他国でダウンロード違法化・犯罪化が問題なく運用されているなどという主張はデタラメも良いところである。そして、世界中見渡しても単なるダウンロードを刑事訴追したケースは1件もないことを考えれば、ダウンロードを犯罪化してユーザー一人々々を推定有罪の裁判で追い込みたいなどという主張がいかに気違いじみているか分かるというものだろう。(なお、ついでに書いておくと、アメリカはフェアユースとの関係でダウンロードがどのように取り扱われるかはなお分からず、ストライクポリシー国のフランスをダウンロード犯罪化の文脈で持ち出すのはスジ違いであり、イギリスもストライクポリシーと私的複製の範囲の拡大の間で揺れ、ドイツについては前回書いた通り、デタラメな運用によって反動が出ているくらいである。)

第256回:レコ協・音事協のロビー活動を受け、自民党が作成したダウンロード犯罪化法案: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言

付け加えると、米国の場合、P2Pファイル共有などの個人による、非営利目的での著作権侵害は、基本的には民事で解決するものであって、アップロードを含め刑事摘発はほとんどない。「ほとんどと言うからにはあるんじゃないか」と思われるかもしれないが、私が知る限り、公開前の映画(スターウォーズ エピソード3/シスの復讐)をリリースしたEliteTorrents事件以外にはなく、これもレアケースと言える。また、日本においてはP2Pファイル共有での違法アップローダーを頻繁に刑事摘発し、動画共有サイト、オンライン・ストレージへの違法アップロードも摘発が進んでいるが、米国ではいずれについても(児童ポルノ事件を除き)皆無である。

松あきら 参議院議員
これは抑止力に繋がるんです。何も捕っ捕まえて、お金をどうのなんて言ってるわけじゃないんです。本当にきちんとしたことを教えて、きちんと正しいことをやってもらいたい、いかがでしょうか。

第180回国会(常会)2012年3月9日 参議院 決算委員会(休憩1〜終了)

ダウンロード違法化前にも、権利者側は啓蒙のために違法化は不可欠であるという主張をしていたように思う。違法ダウンローダーに対する権利行使については、言葉を濁していたことも。そして、ダウンロード違法化が盛り込まれた2010年改正著作権法が施行されてから2年の月日が流れたが、違法ダウンローダーが訴えられたとは聞いていない。

違法ダウンロードが刑事罰化したところで、同じ事の繰り返しになるのだろう。もちろん、実際に摘発は行われる。いくら立法者が「私は消極的だが」と前置きをおこうと、多くの未成年者が違法ダウンロードを行なっているというのであれば、未成年者も逮捕されることになる。綺麗事を言って言葉を濁すのではなく、「未成年者も逮捕されうる」という事実をきちんと認めた上で議論していただきたい。

ただ逮捕があるにしても、それは見せしめ以外の何物でもなく、継続して大量の違法ダウンローダーが摘発されることはないように思う。当たり前のことだが、優先度が高いのは違法アップローダーである。現状では、違法アップローダーの摘発ですらリソースが足りていないのだから、そちらを放置してまで違法ダウンローダーを追い回すことはないだろう。

いずれにしても、違法ダウンロード刑事罰化では不十分だった、という声は遅かれ早かれ(遅くなることはないと思うけどね)あがってくるだろう。次は著作権ブロッキングだスリーストライク(段階的レスポンス)制度だと求められるのは間違いない。

平野博文 文部科学大臣

あの…松先生の迫力に、負けておりますが(議場 笑)、あのー、先ほど先生がおっしゃられました違法ダウンロード、これ2つの視点があります。もっと未成年を含めて、しっかりと啓蒙しろと、違法であるということをもっと啓蒙しろと、このことについては、いろんな機会をとらまえてやらしていただいているところであります。セミナー、教職員、学校職員にも、講習会を開いてやっておりますし、文化庁のホームページでも啓蒙をさらに強化をしていきたいと思っています。

もう1点、えー、刑事罰がないと、こういうことについて、私、先生と同じ認識にたっております。そういう中で、いろんな動きがあるということでございますので、そのことを注視しながら対応してまいりたいと考えております。

松あきら 参議院議員

総理、やっていただきたい。やるかやらないか、お答えいただきたい、お願いします。

野田佳彦 総理大臣

あの、平成21年の、まさに法改正からまだ2年ほどでございますので、まぁ、この間のいろんな識者、関わっている皆さんの意見などをよくお聞きしながら検討していきたいというふうに思います。

松あきら 参議院議員

大事な問題であります。7,000億の損失、税収にだって大きく関わってきております。お金だけの問題じゃないんです。ほんとうに正しいことを正しいとする日本の国でありたい、そういう決意で私は申し上げているので、同じ思いであれば必ずやっていただけると信じております。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

第180回国会(常会)2012年3月9日 参議院 決算委員会(休憩1〜終了)

最後に税収に絡めているのだが、これもロジックとしておかしい。先述したように、7,000億の損失自体が机上の計算でしかなく、税収とどれほど直結するかは疑わしいところだ。さらに、実際に逸失利益があったとしても、その金額がユーザの手元から消えてなくなるわけでもなく、貯蓄以外であれば、何かしらのかたちで流通するだろう。つまり、別の何かを消費する。たとえば、音楽配信で購入する代わりにビールを購入した場合には、税収の面ではプラスになっているのではなかろうか*1。つまらない反証ではあるが、問題を大きく見せるために税収と絡めて主張するのはナンセンスである。

政府答弁は平常運転というところだが、「法改正からまだ2年」という認識を持っている点は評価したい。

繰り返しになるが、違法ダウンロード刑事罰化は次のステップのための一手に過ぎない。「不正なダウンロードなのに違法になっていない」の次は「違法ダウンロードなのに罰則がない」であったように、その次は「違法ダウンロードという刑事犯罪なのに摘発が不十分or未だに被害は甚大」と主張されるだろう。「刑事犯罪への対処なのだから、強い措置を講じても良いはずだ」、というふうに、ステップを一段上がるごとに、そのステップが次のステップのための口実にされてしまう。

刑事罰を口実に著作権ブロッキングやスリーストライク(段階的レスポンス)制度、ソーシャルサイトの著作権フィルタリング義務化など、更なる規制への道が舗装されていくのだろう。

私は、違法ダウンロード刑事罰化には断固反対である。

■ 施行から1年9ヶ月、ダウンロード違法化を振り返る―罰則導入議論は時期尚早では - P2Pとかその辺のお話@はてな

終わりに

松議員は、違法ダウンロード刑罰化の質問の前の質疑において、このようなことを言っている。

耳障りの良い政策、あるいは行き過ぎたアジテーションが日本の政治そのものの劣化を招いているということをしっかりと肝に命じていただきたいと、一言申し上げておきます。

この発言には同意したい。

余談

そういえば、今年初めに、1月23日に違法ダウンロード刑事罰化が即日施行されるとかいう超トンデモなデマが流れてたんだけど、何だったのあれ?

*1:だから違法ダウンロードは問題ない、などというつもりはない