仏スリーストライク法、著作権侵害を激減させるも売上は上がらず

以下の文章は、TorrentFreakの「French 'Three Strikes' Law Slashes Piracy, But Fails to Boost Sales」という記事を翻訳したものである。

原典:TorrentFreak
原題:French 'Three Strikes' Law Slashes Piracy, But Fails to Boost Sales
著者:Ernesto
日付:May 30, 2012
ライセンス: CC BY

仏スリーストライク法の影響に関する新たな報告書によると、昨年、フランスのインターネット海賊行為は半分に減少したのだという。世界中のロビイストたちがこの結果をネタに政治家にアピールしようと準備を進めているところだろう。しかし、この報告書には触れられていない事柄がある。確かに海賊行為は減少した、しかし、合法的な購入チャネルからの収益も減少したのだ。これまで海賊行為こそ収益減少の主因であると主張されてきたというのに、不思議なこともあるものだ。

著作権産業にとって、実に素晴らしい1日だろう。フランスの「段階的レスポンス」法(Hadopi)が、違法ファイル共有を吹き飛ばしたのだ。

独立機関Hadopiは新たな報告書を公表した。ご丁寧にも、世界中のロビイストたちが使えるように英語で書かれている。

「あらゆる関係方面をカバーしたベンチマーク調査の結果、違法P2Pダウンロードの明確な減少傾向が示された。ストリーミング技術やダイレクト・ダウンロードといった使用形態への大規模な移行は確認できない」

報告書では各種統計を引用し、2011年中の「海賊版」サイトへの訪問が29%減少、違法ファイル共有トラフィックも66%減少したという。実に印象的な数字を並べ、Hadopiはスリーストライク法の直接的な影響であると指摘する。

報告書で示された統計の妥当性についてここで異議を唱えるつもりはないが、同報告書において語られなかったことについて指摘する価値はあるだろう。重要な何か。

10年以上も前から、エンターテイメント産業は、デジタル・パイラシーこそ収益を徐々に減らしている主因であると主張してきた。では、フランスの海賊行為が大幅に減少したとなれば、収益が急上昇したと考えてもよいはずである。しかし、そうはならなかった。

フランス音楽産業を見ると、2011年は収益全体で3.9%減少している

同様に、フランス映画産業は、2011年に収益を2.7%減らし、依然として厳しい状況にある。皮肉にも、産業関係者はこの減少をオンライン・パイラシーのせいにしさえした。

まとめると、Hadopi報告書によれば、2011年のオンライン・パイラシーは半分に減少した、こうした先例のない減少にもかかわらず、音楽産業・映画い産業は2010年よりも収益を落とすことになった。この10年間、アンチパイラシー・ロビーが用いてきたロジックに従うならば、海賊行為が実はセールスを押し上げていたことになる。

もちろん、馬鹿げた理屈であることは承知している。

これまで我々が述べてきたように、エンターテイメント産業は極めて重大な第三の要因、つまり、テクノロジーを見落としてきたのだ。たとえば音楽産業では、高い利益を生み出すCDは、それより利益を生まないMP3やサブスクリプション・サービス、YouTubeなどの無料ストリーミングサービスに置き換わっている。

インターネットが音楽産業に革命をもたらしたと言っても過言ではない。

明らかに、ファイル共有はこのデジタル革命の副産物である。しかし、その収益に対する影響は大げさに誇張された。たとえ海賊版と競合するデジタルセールスが上昇を続けても、音楽産業は問題の原因を海賊行為に押し付け続けてきた。

フィジカルからデジタルへのフォーマットシフト、そしてそれに伴う購入習慣の変化ではなかったのか。そして、それは海賊行為以上に収益の減少を説明しうるものではないのか。Hadopi報告書はその可能性を示唆している。

もちろん、アンチパイラシー・ロビーは、この報告書をそのようには使わないだろう。それは自分のビジネスを殺すことになるからだ。そのかわり、彼らは非常に有効なアンチパイラシー戦略はどのようなものかを示すためにこの報告書を用いる。そして、フランスと同様の厳しい法律の導入を求めて、世界中でロビー活動を続ける。

記事内でリンクされたTelecomPaperの記事がなかなか面白い。2011年の仏デジタル音楽市場は、前年より25%伸びて1億1000万ユーロ、うちダウンロード配信は5600万ユーロ(+18.4%)、ストリーミング・サブスクリプションサービスは3900万ユーロ(+73%)、着信メロディは1400万ユーロ(-7%)。サブスクリプションサービスではSpotifyとDeezerが強く、合わせて2600万ユーロ(+89%)。2011年の合法ダウンロード配信サイトへのアクセスは、前年より19%上昇(3970万→4740万)。

一方、フィジカル音楽市場は減少を続け、4億1200万ユーロ(-11.5%)。デジタル、フィジカルを合わせた全体では3.9%の減少、と。

スリーストライク法の影響とデジタルシフトの影響とを切り分けることは難しいが、少なくともデジタルへの移行が進む中では、規制を強化してもフィジカルに戻ることは期待できない、と言えるのかもしれない。

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