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ニューヨーク出身のブライアン・セッツアー氏(1959~)は、金髪のリーゼントと両腕のタトゥー、そしてグレッチのギターをトレードマークに活動を続けているギタリストです。「ストレイ・キャッツ」、「ブライアン・セッツアー・オーケストラ」という二つの活動で世界的に有名ですが、日本のアーティストとも付き合いが深く、布袋寅泰氏のアルバムに参加したり、Char氏を交えた3人で共演したりしています。また野球選手イチロー氏のファンで、氏の出演するペプシコーラのCMに楽曲提供しています。さらにはメインで使用するギターやエフェクターが日本製ですから、日本とのかかわりが非常に深いアーティストだと言えるでしょう。今回は、このブライアン・セッツアー氏に注目しましょう。
The Brian Setzer Orchestra Celebrate 25 years!!
活動期間25年を迎えたブライアン・セッツアー・オーケストラ。大所帯だと言うこともあって、バンドを軌道に乗せるまでに、セッツアー氏は身体を張ってかなり頑張ったと伝えられます。
ブライアン・セッツアー氏は1959年、アメリカ合衆国 ニューヨークに生まれます。幼いころからジャズに触れており、小学生のころにはバリトンホルンを演奏、ニューヨークシティのジャズクラブに行くことも何度かありました。これと並行し、ジョージ・ハリスン氏(ザ・ビートルズ在籍)をきっかけにギターに興味を持ち、8歳からギターのレッスンを受講します。
1976年頃にジュークボックスでジーン・ヴィンセント氏の名曲「ビー・バップ・ア・ルーラ」を聴き、ギタリストクリフ・ギャラップ氏の演奏に胸を打たれてロカビリーにハマっていきます。
“Let’s Shake” – Brian Setzer’s Rockabilly Riot: Osaka Rocka! – Live in Japan
「ロカビリー(rockabilly)」というジャンルは1950年代はじめ、アメリカ南部でブルース(黒人音楽)と、ヒルビリー、カントリー、ブルーグラス(白人音楽)が融合して生まれました。スカっとする軽快なノリは、特にウッドベースの弦をバチバチやる「スラッピング奏法」が肝(きも)です。50年代に大流行しましたが、エレキベースの登場、シーンを引っ張ってきたエルヴィス・プレスリー氏の徴兵、ザ・ビートルズの台頭などが重なり、60年代には下火になっていきました。
1979年に結成されたバンド「ストレイ・キャッツ」は、セッツアー氏のやたらウマいギタープレイと「古き良きアメリカンミュージック」の様々な要素によって、デビューアルバムから大ヒットします。新しい音楽性も柔軟に取り入れたロカビリーは「ネオロカビリー」と呼ばれ、その火付け役となってロカビリーの復権をはたしたストレイ・キャッツは「ロカビリーの救世主」と呼ばれました。セッツアー氏は「ロカビリーにおいては見た目のカッコよさも重要な要素だ」と考の考えでファッションにも気合を入れており、ロカビリーのファッションリーダーとしても知られていました。
しかし当時は若気の至りでマネージャーをぶん殴ったり、歌詞の盗用疑惑で提訴されたりといろいろあって、人気絶頂のままわずか4年で解散してしまいます。
Rock This Town
短命のバンドでしたが、ストレイ・キャッツは何度か再結成しています。この「Rock This Town」は、セッツアー氏の別バンドでも演奏している名曲中の名曲。ドラマーが超シンプルなセットで立って演奏する、ギタリストがバスドラムの上に乗る、ベーシストが楽器の上に乗る、といった演出は、このジャンルでは一つの様式美です。しかしライブでこのテンポで、かつここまでのライブパフォーマンスを繰り出しながら、なお強烈なノリを放つというバンドの演奏力は圧巻です。セッツアー氏の演奏もバリバリで、初めて見た人は「歌いながらこのギターを弾くのかよ!」と全力で突っ込みたくなることでしょう。
バンド解散から地味な活動を強いられたセッツアー氏でしたが、それを見かねた管楽器プレイヤーに誘われたジャムセッションがきっかけで、1992年にビッグバンド「ブライアン・セッツァー・オーケストラ(BSO)」を結成します。15人ものメンバーを引き連れての活動には金銭的な制約が付きまとい、セッツアー氏みずから15人分の譜面を描くなどかなり苦労したようです。セッツアー氏が思い描く「スウィングロック」への模索を重ねていた段階だったこともありますが、当時のロックシーンは「ニルヴァーナ(カート・コバーン氏在籍)」を筆頭としたグランジ一色で、その対極ともいうべきジャジーなビッグバンドのサウンドはなかなかヒットしませんでした。
3枚目のアルバム「ダーティー・ブギ(1998年)」で、ついにセッツアー氏は求めるサウンドを結実しました。完成されたゴージャスなサウンドは、セッツアー氏15年ぶりの全米チャートトップ10入り、16年ぶりのプラチナディスク獲得という結果で迎えられます。グラミー賞を2部門獲得し、アメリカではスウィングのリバイバルブームが起こったほどです。この作品で完成された新しいサウンドは、「ネオスウィング」と呼ばれます。セッツアー氏は自分の活動の中で、ネオロカビリー、ネオスウィングという二つのジャンルを創出したわけです。
ストレイ・キャッツとブライアン・セッツアー・オーケストラ。ふたつのバンドはいずれもアメリカン・ミュージックの伝統に基づいたサウンドが特徴的ですが、ギターにとことんこだわり抜き、また新しい要素を加えていくことで、次世代のサウンドを作ることに成功しています。セッツアー氏は、目指す音楽が時代の流行とは異なっていることなど眼中になく、自分の信じる音楽を貫き通し、音楽シーンを引き込んだのです。
This Cat’s On A Hot Tin Roof
ストレイ・キャッツ解散以降の苦労が報われたかのような、活き活きとした楽しそうな演奏です。アップテンポで強烈なグルーヴ感はストレイ・キャッツ以来健在ですが、これをさらに彩るビッグバンドのゴージャス感は甘美ですらあります。セッツアー氏は、アルバム「ダーティー・ブギ」でスウィングとロカビリーの融合をついに果たしました。
使用ギターはご自身仕様のもののようですが、「トーンスイッチ」の外された痕跡が確認できます。操作系がピックアップセレクターとマスターボリュームのみという「ホットロッド仕様」は、回路が少なくなる分だけ音質劣化を防ぐことができます。これはビッグバンドのサウンドの中で、ギターの音が埋もれてしまわないように模索した結果だと考えられます。
ブライアン・セッツアー氏のギタープレイは、ロカビリー、カントリー、ブルースといったアメリカ音楽の伝統的なスタイルに根差しています。しかしただジャンルの引き出しが多いだけでなく、極めて高度な演奏技術によって圧倒的なスピード感やとろけるような甘さなど、さまざまなものを使い分けることができます。このジャンルでは、存命中のギタリストでは右に出る者がいないのではないか、とまで思わされます。
コードを自在にあやつるアレンジャーとしても、たいへん優れています。立ち上げ当時のBSOではメンバーぶんの譜面を作成していた、というとこからわかるように、単に弾けるだけでなく楽典を深く理解し譜面を実用レベルで読み書きできます。コードの知識はギタープレイにも反映されています。セッツアー氏の演奏ではしばしば「コードを絡めたメロディ弾き」が見られますが、メロディとコードの境界線なんか無い、と言わんばかりです。
セッツアー氏の演奏で特に際立っているのは、右手の使い方ではないでしょうか。
こうした高度な演奏を、歌いながらでも構わずガンガン繰り出すわけです。
Gretsch 6120SH Brian Setzer Blonde Hot Rod
リラックスした雰囲気の中でちょっと弾いてみた、って言う感じの演奏がこのレベル。人差し指でピックを抱え、残った指でフィンガーピッキング、スイッチを切り替えながらまたピックが出てくる、そして前後の演奏に全く破綻がありません。
では、ブライアン・セッツアー氏が愛用する機材をチェックしていきましょう。ギターやアンプ、エフェクターなどは40年近いキャリアの中でほぼ一貫してシンプルにまとまっている印象ですが、それだけに氏のこだわりがいっぱい詰まっています。
G6120SSL-OFLM Brian Setzer Nashville
ストレイ・キャッツ時代のトレードマークとして長らく愛用していた1959年製グレッチ「G6120ナッシュビル」は、エディ・コクラン氏の影響で選んだものです。今となってはン百万円はするという超ヴィンテージギターですが、70年代当時はロカビリー人気が低迷の渦中にあり、当時のセッツアー氏は59年製ナッシュビルをわずか100ドル(当時の為替相場で4万円くらい)で手に入れたそうです。ストレイ・キャッツの成功で、グレッチの人気も回復しました。セッツアー氏はロカビリーの救世主と呼ばれましたが、「グレッチの救世主」でもあったのです。
セッツアー氏は機材に対する研究も熱心で、ナッシュビルに対しいろいろな細工を施していました。チューニングの安定度を上げるためビグスビーのスプリングを長いものに交換するほか、求めるサウンドのためナットやフレットにまで追求していたそうです。ストレイ・キャッツとBSOでもギターのセッティングは異なり、
とのことです。
ストレイ・キャッツ時代のメイン機「59年ナッシュビル」をイイ具合に再現したナッシュビルで、品番「SSL」はラッカー塗装、「SSU」はウレタン塗装です。1959年式では「ゼロフレット」が標準でしたが、こちらでは非採用となっています。
ダダリオXLの11~52弦を張れば、これで完全にストレイ・キャッツ仕様です。
G6120SSL / G6120SSU Brian Setzer Nashvilleを…
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「G6136 ブラックフェニックス」は、G6136ホワイトファルコンをアレンジしたシグネイチャーモデルです。近年のセッツアー氏モデルは「操作系はピックアップセレクターとマスターボリュームのみ」という「ホットロッド」仕様が目立ちますが、ブラックフェニックスもその例にもれず、超シンプルな操作系にまとめられています。ブライアン・セッツアー・オーケストラでは、ダダリオXLの10~46弦を使用しています。
Brian Setzer on the Gretsch G6136SLBP Brian Setzer Black Phoenix
ナッシュビルよりやや大型のファルコン。いつものセッツアー氏を見慣れている人が初めて見たら、「え?なんだかギターがでかい?」と驚くかもしれませんね。弦長も長く、G6120よりハリのあるサウンドです。
Gretsch「Falcon(ファルコン)」シリーズのギター
G6136SLBP Brian Setzer Black Phoenixを…
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こちらは「G6120 ナッシュビル」をアレンジしたシグネイチャーモデルです。超シンプルだからこその操作性に加え、ギター内部に仕込む回路や配線が少なくて済みますから、サウンドのストレート感が増して音抜けが良くなります。ピックガードは初めから非搭載なので、外す「儀式」を必要としません。
Gretsch G6120SH Brian Setzer Highland Green Hot Rod Demo
これまでのグレッチにはなかった新しいカラーリングも、G6120SHの魅力です。
このほか、1957年製G6129シルバージェット、G6139ホワイトファルコンなど、グレッチを中心にいろいろなギターを使います。
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これまで紹介した動画でも、セッツアー氏の背後には必ず白っぽいアンプと、その上に座っている黒っぽい装置が確認できます。これは
の組み合わせです。セッツアー氏はいつでもこの二つをステージに持っていきます。
“Stiletto Cool” – Brian Setzer’s Rockabilly Riot: Osaka Rocka! – Live in Japan
来日公演の模様。セッツアー氏の背後に、二段積みのフェンダー・ベースマンとRE-301が確認できます。どこでもいっしょ。
フェンダー・ベースマンは本来ベースアンプとして設計されていたものですが、ギターやハープのアンプとして人気が出て、現在ではギターアンプとして認知されています。クランチが絶品で、「最高のギターアンプ」と礼賛するギタリストも多い人気アンプです。セッツアー氏はヴィンテージ・ベースマンのスピーカーを交換しており、使用する真空管も銘柄指定しています。セッティングは「ボリュームは4か5、トレブル10、ミドル5、ベース10」です。「ノーマル」と「ブライト」という二つのインプットのうち、セッツアー氏は「ノーマル」を使用しています。
《今振り返る》Fenderアンプの系譜、種類と選び方
ローランド「RE-301」は定番テープエコーで、特殊な回路を起動してコーラスをかけることもできます。プリアンプとして使用することもでき、歪みもわずかながら追加させることができます。ギターからの信号はまずこの「RE-301」に送られ、ここを通過した信号がベースマンに送られます。
ブライアン・セッツァー・オーケストラではここまでで完了のシンプルな機材ですが、ストレイ・キャッツ時代にはこのほか
といったエフェクターも積極的に使用していました。
トレードマークのリーゼントをビシッとキめるため、セッツアー氏が長らく愛用しているポマードです。柔軟な感触ながらセット力は十分。メインのポマードとして使用するほか、他の整髪料でセットした髪にツヤを付けるための補助的な使用もできます。
ストレイ・キャッツのアルバムは、廃盤になってプレミアムが付いているものもあります。一枚持っておくならベストが現実的でしょう。ギターは多くて2本、あとはドラム、ベース、ボーカルというシンプルなパート編成の楽曲群は、小編成でバンド活動している人にとって大いに参考になることでしょう。
80年代というのはなかなか特殊な風潮があり、洋楽にはたいがい「邦題」が付いています。「ロック・タウンは恋の街(Rock This Town)」「涙のリトル・ガール(I Won’t Stand In Your Way)」「別れてスッキリ(Cryin’ Shame)」など、どうしてそうなった?と邦題に突っ込むのは、日本人にのみ許された遊びです。
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ストレイ・キャッツ以来15年ぶりに全米チャートのトップ10入り、アメリカ国内でダブル・プラチナ・ディスク、全世界で300万セールス、グラミー賞で2部門受賞、全米にスウィング・ブームを起こした大ヒットアルバム。ロックギタリストが企画でオーケストラやビッグバンドとコラボレートする例は数あれど、自身のバンドとして継続しているのはおそらくセッツアー氏だけでしょう。
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クラシックの名曲をビッグバンドのサウンドで料理した、野心的な作品。オリジナルの歌詞を乗せ、タイトルも新たに付けていますが、これも著作権的に問題の無いクラシックの楽曲だからできることです。近年テクニカル系ギタリストが盛んに速さを競っている「熊蜂の飛行」も入っています。
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