エレクトリックギターのメーカーと聞いて真っ先に名前の挙がる存在。これはフェンダーとギブソンであることに異論の余地はないでしょう。両社はエレクトリックギター以外にも偉大な製品を送り出していることで共通しています。ギブソンがレスポールを筆頭としたエレクトリックギターに加えて、優れたアコースティックギターを数多く送り出している一方、フェンダーはアコースティックギターのイメージこそほぼ皆無ではあるものの、フェンダーローズや豊富なアンプ群など、電子楽器の礎ともなる製品で歴史にその名を刻んでいます。今回はフェンダーの送り出した歴史的なギターアンプの銘機たちに迫ってみましょう。
ストラトキャスターやテレキャスターを世に送り出したレオ・フェンダーがこの世に生を受けたのは1909年のこと。彼は高校時代から趣味でラジオの製作や修理を行っており、短大入学後は会計学を専攻し、一時期は会計を仕事とするものの、1938年には自身の店を持ち独立。カリフォルニア州フラートンにおいて「Fender’s Radio Service」なる店を開き、ラジオ受信機や音響機器の修理などを中心とした業務を行い始めます。1945年、レオは友人のクレイトン・カウフマンと共に、電子楽器を専門とする「K&F Manufacturing」を設立。スティールギターとアンプの製造を始めます。この時期に開発されたものはフェンダー社のラインナップに載るよりもさらに前のものですが、レオ・フェンダーの関わった最初のアンプだということができるでしょう。やがて1947年にはカウフマンとも袂を分かち、社名を「Fender Electric Instrument Company」へと変更。さらなる新モデルの開発へと舵を切っていきます。
Fender Music Backstageにて撮影
当時の旅行カバンなどによく使われたツイード(スコットランドの毛織物)が外装に使われたアンプ。フェンダーの最初期のアンプ群を指す言葉としてツイードアンプという名称が定着しています。これらのアンプが活躍したのは主に50年代。シンプルでストレートな音が特徴で、現在ではロカビリーやオールディーズと呼ばれるものに代表される、ロックンロール黎明期のサウンドにその音を多く聴くことが出来ます。
10年超続くツイード期には、最初期の「TVフロント」(見た目がテレビのように見えることからこう呼ばれる)、その後、中期の「ナローパネル」、後期の「ワイドパネル」と主に三つ区切りで分けられます。時代を追うごとにエレクトリックギターに特化した大出力が得やすい仕様に変わっていき、現在、ツイード期のアンプとして一口に語られる場合、57年~59年頃のモデルを指すことが多いようです。
これらのアンプ群はパワー管とスピーカーに様々な組み合わせの違いがあり、最終的には10種類以上のラインナップが開発されています。その中でも、特に現在においてなお愛される数種のモデルをチェックしてみましょう。
ツイードアンプを現代に甦らせた
「’57 Custom Champ」
パワー管に1x6V6、8インチスピーカーを1発搭載した、ツイードアンプの中でも最も小さく、低出力のモデルです。BassmanやTwinなどの定番に比べると後列に語られがちですが、低出力ゆえに大音量を出さずとも歪んだ音が得やすいのは長所でもあり、ライブで使うには不足するほどの音量ながら、ロックギタリストにはファンが多いアンプでもあります。エリック・クラプトンが「Layla」のレコーディングに使用したという話は有名で、得られる音質や歪みの傾向など、同曲を参考にするとわかりやすいでしょう。
59年製Bassman復刻モデル「’59 Bassman」
パワー管に6L6を2本、10インチスピーカーを4発搭載(最初期型は15インチが1発)。ツイードアンプの中でも最も大出力とされるモデルです。もともと誕生したばかりのプレシジョン・ベースのために製作されたアンプでしたが、いざ発売するとギタリストに好評を博し、現在ではすっかりギターアンプの銘機として歴史に名を刻まれています。Bassmanという名でありながら、ギターアンプとして語られているのはそのためです。
ちなみに、ジム・マーシャルはマーシャル社の第一号機JTM45を製作する際、Bassmanを全面的に参考にしています。もしもBassmanが存在しなければ後のギターアンプ界は全く違ったものになっていたことは間違いありません。その意味でも、唯一無二の影響力を持った伝説的なアンプと呼べるでしょう。59年製は特に評価が高く、リイシューもこの年のものを元に作られています。
Bassmanを復刻した現行モデル:59 Bassman LTD
Deluxeの復刻モデル「’57 Custom Deluxe」
Champの大型版。パワー管は6V6が2本、12インチスピーカーが2発搭載。小さすぎず大きすぎない適度の出力もあって、非常に人気のある製品であり、現在でもリイシュー、オリジナル問わず愛用者が多いモデルです。55年に設計された回路を搭載する「5e3」と呼ばれるモデルが特に人気があり、一般的にTweed Deluxeと呼んだ際にはこれを指すことが多いです。
復刻モデル「’57 Custom Twin-Amp」
6L6を2本、12インチスピーカーを2発搭載、25ワット出力。フェンダーアンプ群の中でも高い人気を誇るアンプです。この時期のものは通称”ツイード・ツイン”と呼ばれ、エリック・クラプトンやキース・リチャーズなどの愛用で有名であり、オリジナルは非常に稀少です。57年製が特に評価が高く、リイシューもこの時期のモデルが主となっています。後のブラックフェイス期の「Twin Reverb」があまりにも有名なため、今ではBassmanと並んで、フェンダーアンプを代表する名称として定着しました。
ツイードアンプを復刻した現行モデル:Fender 57 Customシリーズ
ツイード期からブラックフェイス期の間に位置する過渡期的なモデル。つまみがアンプ前面に配置されるようになり、外装もツイードから革張り(トーレックス)にチェンジし、後のブラックフェイス期のものと似通ったルックスになっています。薄茶色の「Brown」と、より白っぽい外装に白いつまみを備える「Blonde」という2種が存在し、それぞれ「ブラウントーレックス」「ホワイトトーレックス」等という名で呼ばれることもあります。
ツイードの次世代にあたるモデルチェンジではありますが、ツイード期のラインナップが全てこの移行を経たわけではなく、Brown仕様に刷新されたもの(TwinとVibrasonic以外の全機種)、Blonde仕様に刷新されたもの(Twin、Vibrasonicその他数種)、Brown、Blonde両方に刷新されたもの、あるいは全く刷新されなかったものと、ばらばらの進化を遂げており、フェンダー社も完全なフルモデルチェンジと考えていたわけではなく、実験的な要素を多分に含んでいたことが窺えます。
1963年から開発されたモデル。ツイード時代にはなかったモデルであり、このブラウンフェイス期から新たに加わった製品ですが、回路がTremolux、Vibroluxという他の製品に似ており、差別化を図れず、すぐにリバーブを装備したブラックフェイス仕様に移行します。ブラウンフェイス時代のVibroverbはわずか1年強の製造となり、オリジナルは極めて稀少。6L6を2本、15インチスピーカーを1発内蔵する40ワット出力。他の同時期モデルと同じく、トレモロを装備しています。
Blonde仕様に刷新されたTwin。フェンダー社はVibrasonicと並べてこのTwinをフラッグシップと定め、Blonde仕様モデルを送り出しました。整流管がソリッドステートになっており、パワー管には6L6を4本、12インチスピーカーが2発で80~100ワットの大出力。ツイード時代とは明らかに異なる仕様変更がなされ、結果的には後のTwin Reverbへの布石ともなりました。
Deluxe Reverb復刻モデル:パネルや外装もオールブラック
黒い外装に身を包み、コントロール類の配置されたパネル部が黒いものを通称ブラックフェイス期と呼んでいます。このルックスこそが現在のフェンダーアンプにそのまま受け継がれており、フェンダーアンプと聞いて真っ先に連想する外観でもあります。ルックスのみならず、サウンドの印象もブラックフェイス期のものがもっとも強く、ほとんど歪まない暖かみのあるクリーントーンのイメージは、まさにこの時期のTwin Reverbなどによるものです。この時期からスプリングリバーブを搭載したモデルが相次いで発表され、モデル名+”Reverb”と付いているものが大多数であり、いずれもスプリングリバーブ搭載機です。
ツイード期から引き継いだものを含め、10種以上のラインナップがありますが、ここではそのうちの数種をチェックしてみます。
フェンダーを代表するアンプの一つ「’65 Twin Reverb」
Bassmanと並び、最も有名なフェンダーアンプ。モデル名だけを見ると、ツイード時代から存在するTwinにリバーブを備えたものですが、実際にはこれまでのフェンダーアンプには見られなかった「全く歪まないクリーンな音を大音量で出力する」という命題のもと、全く別のアンプに作り替えられています。ブラウンフェイス期Blonde仕様のTwinと同じく、整流管はソリッドステート。美しく暖かいクリーントーンのアンプとして知られ、その音色に今でも非常にファンの多いモデルです。そのサウンド特性ゆえに、当時はジャズやカントリーのミュージシャンなどに人気を博し、ロック系のミュージシャンはより出力の低いDeluxe Reverbや、ツイード期の良く歪むアンプをもっぱら使用していました。
ブラックフェイス期Twin Reverb復刻モデル:’65 Twin Reverb
復刻モデル「’65 Super Reverb」
煌びやかな音色、明るい歪みが得られることで人気を博したモデル。大出力や完全なクリーントーンを必要としなかったジャンルやスタイルのギタリストに、それ以外の選択肢を示した銘機となり、特に当時ブルースマンに人気を博しました。10インチスピーカーが4発の40W仕様で、80Wを越えるTwin Reverbに比べても歪みが得やすいのは明らかです。整流管にも定番のGZ34が使用され、この辺りも良い歪みが得られるのに一役買っていると言えそうです。
Super Reverb復刻モデル:’65 Super Reverb
復刻モデル「’65 Princeton Reverb Reissue」
ツイード期より存在するPrincetonのブラックフェイス時代のリバーブ付きモデル。10インチスピーカー1発搭載の12ワット低出力モデルで、練習用アンプという位置づけでありながら、適度に歪んだクランチサウンドは根強いファンを持ちます。内部回路や仕様が初期からあまり変更されておらず、ツイード期の遺伝子をそのまま色濃く残しているモデルでもありました。
ブラックフェイス期Princeton Reverbの復刻モデル:’65 Princeton Reverb
コントロールパネルが銀色となった「’65 Princeton Reverb Reissue」
レオ・フェンダーの健康問題により、フェンダー社の権利はCBSに買い取られ、ここからフェンダーアンプ受難の日々のはじまりとなります。CBSはそれまでのルックスを改変し、コントロール部のパネルを銀色のアルミ製にして、ロゴのフォントなどもいくつか変えていきました。この時期のモデルをシルバーフェイス期(クロームフェイス期とも)と呼称し、ブラックフェイス期の次のシリーズとして知られています。
特徴的な差と言えるのは、いくつかのモデルにマスターボリュームとブーストスイッチが付加され、出力がさらにアップしているところでしょう。68年製は使いやすさもあって評価が高く、リイシューも積極的に行われています。
シルバーフェイス期Princeton Reverb復刻モデル:’68 Custom Princeton Reverb
シルバーフェイス期Deluxe Reverb復刻モデル:’68 Custom Deluxe Reverb
シルバーフェイス期Twin Reverb復刻モデル:’68 Custom Twin Reverb
Vibrolux Reverb復刻モデル:’68 Custom Vibrolux Reverb
しかし、時が経つに従って、銘機と呼ばれるブラックフェイス期のものとはかけ離れ、内部仕様は激変していきます。CBSには元々ギターアンプ製作のノウハウはなく、オーディオパーツを流用したりするなど、エレクトリックギターに不可欠とも言える”歪み”を取り去ってしまうような改悪を繰り返しました。当時はロックの全盛期だったことも影響し、ハイゲインなマーシャルやメサブギーがヒットする裏でフェンダーアンプは使えないという評価を下されるに至り、一時期は販売数も激減します。
以上のような経緯を辿って瀕死に陥ったフェンダーブランドのアンプが、てこ入れを図るために新たなラインナップとして立ち上げたシリーズです。当時アンプのモディファイで知名度を上げていたポール・リヴェラを迎え、新しく回路を作り直し、ルックスもブラックフェイス期のものとほぼ同じものに戻されています。4機種が発売(Champ II、Princeton Reverb II、Deluxe Reverb II、Twin Reverb II)され、いずれも2チャンネル仕様で、クリーンとリードの切替が可能なのが特徴です。
CBSはこのシリーズでフェンダーアンプの再起を図りましたが、売り上げは伴いませんでした。また、アンプだけでなく、ギター本体の方も品質低下が避けられず、世界的なストラトキャスターの模造品の横行もあり、経営を保つのが困難になっていきます。フェンダーは再びCBSの手を離れ「Fender Music Instruments」に戻りました。
2チャンネル仕様105W。Twin Reverbという名が付くものの、リードチャンネルが付いていたり、既存のイメージとは異なる傾向を持ちます。コントロール類にはマスターボリューム、プレゼンスなどを装備、バックにはエフェクトループやラインアウトも搭載し、ヴィンテージフェンダーとはうって変わった現代的な仕様となっています。スティーヴ・ルカサーの使用でも有名ですが、売り上げはあまり芳しくなかったようです。
CBSの手を離れたフェンダーは、ウイリアム・シュルツ率いるFender Music Instrumentsによって再興され、フジゲンなどの技術支援により、新たな生産拠点としてコロナ工場を建設します。そこで、原点回帰を命題として新しく作り出したシリーズが、この赤いノブを持つ外観が印象的なシリーズ。それまでのものとはまるで一新されたルックスがフェンダーの新たな出発を表しているようです。Super、Concert、The Twinという3機種が展開され、とくにThe Twinは銘機の誉れ高く、完成度の高いアンプとなっています。
通称「赤ノブツイン」。12インチスピーカー2発を搭載した最大100ワットのモデル。2チャンネル仕様で、エフェクトループが装備されているところなど、Twin Reverb IIに通じるところもあり、現代的な使いやすい装備となっています。オリジナルTwin Reverbを彷彿させる美しいクリーントーンから、60年代ブルースロック的な歪みまで、幅広いサウンドが得られ、いずれもエレクトリックギターの美味しいところを出力してくれる名アンプです。電源トランスの関係からか非常に重いアンプですが、その音色の良さからも人気が高く、中古価格も高止まりしており、今でもたまにリハーサルスタジオで見かけることがあります。
赤ノブシリーズの後に登場したリイシューシリーズ。ギターアンプ界全体においてリイシューが流行しだした時期というのもありますが、まさに原点回帰をそのままやってのけた発想です。1990年、フェンダー初のリイシューが計画され、59年製ツイードBassman、65年製ブラックフェイス期Twin Reverb、63年製ブラウンフェイス期Vibroverbの3機種がラインナップされました。うち2機種が2017年現在、現行でもリリースされています(後述)。
93年、原点回帰を合い言葉にしながら、新しい発想でヴィンテージ・フェンダーのサウンドが新しく産み落とされました。カスタムと名付けられたシリーズから登場したVibro-Kingは、昔ながらの単板木材を用いて、配線も全てハンドワイヤリングで製作され、ツイード期とブラックフェイス期の長所をうまく併せ持ったようなサウンドが特徴の一品。フェンダーの監修の元に仕上げられたオリジナルのスピーカーを搭載し、63年頃のアンプに搭載されたオリジナルのリバーブを装備。フェンダー史上でも最高峰のアンプと称され、大絶賛を浴びました。2013年には20周年記念モデルが発表され、再び脚光を浴びました。
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