脳卒中や心筋梗塞といった血管関連の病気は主に、動脈の老化である「動脈硬化」が元凶となって引き起こされます。しかし、運動を習慣化することによって、血管の老化を予防したり、若返らせたりすることは可能です。そこで、過去の人気記事より、血管の老化予防や若返りに最も有効な有酸素運動と組み合わせて行いたい筋力トレーニングの具体的なメニューをPDFで紹介します。パソコンやスマートフォンの画面で見ながら、あるいはプリントアウトしたものを壁に貼って見ながら、気になるエクササイズをより快適に実践してください。
【今回のエクササイズ】
血管若返りに効果的な「ハード過ぎない」3つの筋トレ
今回取り上げるのは、「今日から始める! 血管若返りエクササイズ」特集で紹介した、血管を若返らせる「ハード過ぎない」筋トレだ。
だが、誤解のないよう最初に言っておくと、筋トレには血管そのものを柔らかくする効果はない。しかし、適度な筋トレには動脈硬化を加速させる高血糖などを改善する効果がある。
身体活動(運動や日常生活での活動)と動脈硬化の関係について、さまざまな研究を手掛けてきた、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授の宮地元彦氏もこう話す。
「実は、筋力トレーニングを習慣にしている人は、血管が硬くなっていることが分かっています。私は2003年に、長期にわたって筋トレをしている中年男性は動脈硬化度が高いという主旨の研究論文を発表していますが(*1)、当時はまだ『そんなはずはない』という否定的な意見が多く聞かれました。それならばと、若者を対象に、高強度の筋トレが動脈に及ぼす影響を検証する初めての介入研究を行ったのです。すると、さらに驚くべき結果が示され、発表を行った海外の学会会場は聴講者で一杯になりました」(宮地氏)
この介入研究では、20~38歳の若者28人を2群に分け、介入群には1日に合計45分間の高強度の筋トレを週に3回、4カ月間続けてもらった。その結果、筋トレを行わなかった対照群に比べ、高強度の筋トレを行った介入群では、頸動脈の硬さを示す指標が有意に増加していた(図1)。トレーニングを中止すると、3~4カ月後には元の状態に回復した。

この介入研究の発表以降、筋トレと動脈硬化の関連についてさまざまな研究が行われ、複数の研究のデータを統合したメタ解析も実施された。すると、「バーベルを使って疲労困憊になるような高強度の筋トレを、1週間あたり2時間以上続けると、動脈硬化が進んでいくことが分かりました」(宮地氏)
さらに最近は、筋トレと死亡の関係を検証するメタ解析も行われ、筋トレは1週間に1時間程度なら循環器疾患やがんの死亡リスクが減少するが、3時間を超えると逆に死亡リスクが上昇することが示されている(*2)。
「この20年の間に、筋トレには、有酸素運動やストレッチのように血管を柔らかくする効果はなく、やりすぎればむしろ動脈硬化を進めてしまうことが証明されました。ただし、筋トレが体に悪いと言っているわけではありません。運動習慣があまりない中高年がほどほどの筋トレを行う分には、血管の老化を進める悪影響はないことも分かっています。適度な筋トレには、高血圧や脂質異常、高血糖などの動脈硬化の危険因子を改善するメリットがあり、それが間接的に循環器疾患やがんの死亡リスクの減少をもたらす可能性があります」(宮地氏)
今述べたように、適度な筋トレには動脈硬化の危険因子を改善したり、サルコペニア(筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態)などを強力に予防したりする効果がある。「筋トレは、ぜひ有酸素運動やストレッチと組み合わせて行ってください」と、宮地氏はアドバイスする。今回のエクササイズPDFで紹介する「ハード過ぎない」筋トレを、ぜひ有酸素運動や前回の「自律神経に働きかけ、血管を若返らせる4大ストレッチ」と併せて行おう。
*2 Momma H, et al. Br J Sports Med. 2022 Jul;56(13):755-763.
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