暴言や徘徊がなくなる!?認知症患者を救う奇跡の対話法「バリデーション」
最後まで失われない機能「感情」に働きかけるコミュニケーション
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
認知症が進んだ人とでも、心の通ったコミュニケーションができる「バリデーション」という対話法が、今、注目を集めている。相手に共感することで、認知症の人の自尊心を回復させ、不安を軽減させるという。関西福祉科学大学社会福祉学科教授の都村尚子さんへの取材を基に、バリデーションとは何か、2回にわたり解説する。
バリデーションの基本は「正す」ではなく「認める」

認知症が進んで、自宅にいるのに「おうちに帰りたい」と言い出す母親。これに対し、家族や介護者がしてしまいがちな返答は「何言っているの? ここがお母さんのおうちでしょう」とか「帰るところなんてないでしょう」といった、正しいことを認めさせようとするもの。
「見当識(けんとうしき)といって日時や場所、周囲の人と自分との関係など現実を認識する力が衰えた母親に対し、『ここがお母さんの家で、帰るところなんてないでしょう』と正しいことを言って認めさせようしても、お母さんは混乱するだけで理解できません」と話すのは関西福祉科学大学社会福祉学科教授の都村尚子さん。日本では数少ないバリデーションティーチャーの資格を持つ。
認知症の中核症状(※1)である見当識障害は、認知症の進行とともに誰にでも徐々に起こることだが、家族としては、認めたくない部分もあり、つい正しいことを押し付けてしまいがちになる。しかし、いくら母親に「帰るところはない」と言っても、それは、見当識が低下した母にとっての現実ではないため、水掛け論になり、自分のことを否定されたと感じた母親は「そんなことはない、帰る、帰る」と、さらに強固な態度になってしまう。また、こうしたあつれきが、認知症患者の徘徊や暴言などの問題行動、いわゆる周辺症状(※2)につながる可能性もある。
「こういう場合、バリデーションでは、『おうちに帰りたい』という認知症のお母さんに対して、『おちに帰りたいんですね』と言葉をそのまま返し、相手を認める姿勢を示します。さらに、どうして帰りたいのか、ゆっくり話を聞いていきます」と都村さん。
そうすれば、お母さんは自分のことが認められたと感じ、気持ちが落ち着くのだという。
※2 周辺症状…もともとの性格や置かれた環境などが大きく影響して起こる症状。徘徊、弄便、物盗られ妄想、うつ、暴力、暴言、失禁、帰宅願望など。