認知症の予備軍といわれるMCI(軽度認知障害)。65歳以上の高齢者の7人に1人に相当する約400万人がMCIだと推計されており、放置すると5年で半数が認知症に進むと考えられている。このMCIを高精度で見つける血液検査が開発され、地域の診療所や病院の物忘れ外来のほか、人間ドックのオプション検査としても受けられるようになっている。
認知症は、脳の神経細胞が壊れることで、記憶力や理解力、判断力などが低下して、日常生活に支障が表れる病気。日本では65歳以上の人の15%、462万人が認知症だと推計されている。また、病的なレベルではないものの、認知機能が通常より低下している「MCI(軽度認知障害)」の人も、約400万人いるとされる。
「認知症の予備軍であるMCIの段階から手を打てば、認知症への進行を予防できます」。こう力強く話すのは、筑波大学医学医療系准教授の内田和彦医師だ。
内田医師は2003年に、筑波大学発のベンチャー企業として、認知症などの早期発見技術を開発するMCBI(茨城県つくば市)を設立。認知症研究の第一人者として知られる筑波大学教授の朝田隆医師(現在、東京医科歯科大学特任教授)との共同研究で、認知機能が正常な人とMCIや認知症の人の血液サンプルを比較し、認知症の発病前に減少し始める3種類のたんぱく質を同定した。この研究成果に基づき、3つのたんぱく質の血中濃度バランスでMCIのリスクを判定する「MCIスクリーニング検査」を2015年4月に実用化。認知症予備軍を見つける血液検査への社会的なニーズの高さから、急速に各地の医療機関に普及し、2016年10月現在、病院・診療所や人間ドックなど全国1500施設で検査を受けられるようになっている。
「脳萎縮」が起こる前に認知症予備軍を見つける
認知機能は誰でも年を取るにつれて下がっていくが、認知症になる人の脳の変化は、発病の20年以上前から始まると考えられている。例えば、認知症の6~7割を占めるアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は、アミロイドβペプチド(Aβ、エーベータ)という老廃物が、20年以上かけて徐々に脳内に溜まることで発症すると考えられている(図1)。「Aβが脳内に蓄積することでグリア細胞の活性化が起き、シナプス、つまり脳の神経細胞のネットワークがどんどん壊れ、最終的に『脳萎縮』になってしまいます。脳が萎縮すると、もう元には戻りません」(内田医師)。
医療機関で認知症と診断されるのは、脳が萎縮して、日常生活に困るほど認知機能が下がってしまった段階。「この段階から治療を行っても、低下した認知機能は戻りません。脳が萎縮する前の、MCIあるいはプレクリニカル期(前臨床期)に見つけて、認知機能が下がらないような治療を始めることが肝心なのです」と内田医師は強調する。