2013年 01月 27日
ナイの「中国封じ込めはやめておけ」論 |
今日の横浜北部はまたもや快晴でした。しかし寒さは相変わらず。
さて、久々に記事の要約を。
原著者はあのジョセフ・“ソフトパワー”・ナイです。
===
中国を「封じ込め」するのはやめておけ
by ジョセフ・ナイ
●最近の英エコノミストの記事では、東シナ海の領土紛争に触れつつ、東アジアの情勢は日中戦争が起こる方向に向かいつつあると書かれていた。
●これはかなり大げさな分析だが、これを受けてアメリカの専門家の中にも「中国を封じ込めるべきだ」と言う人があらわれてきた。
●私は最近中国を訪れたが、その時に驚かされたのは、多くの中国の政府高官が「アメリカはすでに中国にたいする封じ込めを行っている」と信じ込んでいたことだ。
●その根拠はオバマ大統領のアジアへの「軸足」(ピボット)の移動という宣言にあるという。
●中国のある大学教授は「アジアへの軸足移動というのはアホな選択だ。そもそもアメリカは中国を怒らせるだけで、実際に中国を封じ込めることなどできない」と公式に発言している。
●たしかに「封じ込め」というのは過去のものであり、アメリカはこれを採用すべきではない。これは冷戦時代の初期にソ連の拡大に対抗して行われたものであり、その時には政治的だけでなく、経済的な関係も断絶することが含まれていた。
●それを一番始めに主張したジョージ・ケナンの思惑とは裏腹に、これは拡大解釈されて「ドミノ効果」のような形でベトナム戦争の拡大へとつながっていってしまったのはご存知の通り。
●ところが中国はソ連の時のように世界覇権を狙ってはいないし、現在の米中関係はソ連の時とは違って、経済的結びつきや人的交流が盛んだ。
●私がクリントン政権で東アジア戦略を作成していた1994年に、われわれは「封じ込め」を二つの理由から採用しなかった。
●一つ目は、中国を敵として扱ってしまったら、将来本当に敵になってしまうからだ。
●二つ目は、友人として扱えば、より友好的な将来が築けるからだ。
●それを受けて、われわれは「統合してヘッジする」という戦略をつくった。これはレーガン大統領の有名な「信頼せよ、しかし確認せよ」という言葉に似ている。
●そしてアメリカは、中国を世界貿易機関(WTO)の加盟を支援したし、製品を輸入して人も受け入れた。
●ところが1996年の日米安保改定で再確認されたのは、これが戦後の東アジアの安定した秩序の基盤であるということだ。
●さらにクリントン大統領は、中国の台頭に対抗するためにインドとの関係改善を推進した。
●この戦略はアメリカの両党にも支持されているものだ。ブッシュ大統領は引き続きインドとの関係改善を行ったし、同時に中国とも経済的な関係を深めている。
●オバマ政権のアジアにたいする「リバランシング」には、海軍力を太平洋に移動させる意味もあるが、同時に貿易関係、人権、そして外交面での働きかけをしていくことも含まれている。
●オバマ政権の安全保障アドバイザーであるドニロン氏は、去年の11月に「米中関係には協力と競争の両方の要素がある」と述べている。
●アジアは一枚岩ではないし、その内部の力関係がわれわれの戦略のカギを握るべきである。日本、インド、ベトナムなどは中国に支配されたいとは思っていないために、この地域におけるアメリカのプレゼンスを歓迎している。
●中国がうまく「ソフトパワー」を発展させて仲間を増やせないかぎり、彼らの軍事や経済の「ハードパワー」は近隣諸国を恐れさせ、まとまってバランシングを行おうとさせてしまうだけだ。
●アメリカの軍事・経済面でのプレゼンスは、アジアのバランス・オブ・パワーを維持するのに役立つし、これは中国に協力へと向かわさせるものになる。
●2008年のリーマンショックは、中国のリーダーの中に「アメリカはこれから没落していくのだ」と勘違いさせ、これによって彼らはチャンスが来たと思ってしまい、これが日本や韓国、それにベトナムやフィリピンとの関係悪化につながったのだ。
●この判断は「中国を封じ込めることができるのは中国だけ」という勘違いを生み出してしまう。
●ところがアメリカのアジアにたいする「リバランシング」は攻撃的なものとしてはいけない。われわれはケナンの警告に耳をかたむけ、過剰な軍事化をやめて、中国に「包囲された!」と勘違いさせないようにすべきなのだ。
●それに世界の二大経済国は、気候変動や病気の世界的な流行の阻止、それにサイバーテロや核不拡散などの分野で協力して得る事が多いのだ。
●中国が中東のエネルギーにますます依存することは確実なので、われわれは船の自由な航行を保障する海洋規則などについても議論しなければならないし、彼らを太平洋における軍事演習に参加させることも検討すべきだ。
●また、アメリカは中国の国内のエネルギー事情の改善のためにシェールガスの開発などでも協力できるし、日中に2008年に締結された共同海底油田開発計画を復活させるよう促すべきだ。
●他にも、もし中国が条件を満たせば、彼らにTPPに参加することを認めると明言すべきであろう。
●「封じ込め」というのは中国の台頭に対処するツールとしては間違っている。
●パワーというのは一方が望む結果を手に入れるための能力のことだが、アメリカのパワーは相手に何かを押し付けようとする場合よりも、むしろその相手と協力した時に大きく発揮されることを忘れてはならない。
===
TPPに参加させてもいいと発言しているのは注目ですね。
この辺の経緯については私の翻訳であるレイン本の中に詳しく書いてあることは言うまでもありません。
そういえば彼の古典的名著であるコヘインとの共著が日本でようやく発売されましたね。
以上
さて、久々に記事の要約を。
原著者はあのジョセフ・“ソフトパワー”・ナイです。
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中国を「封じ込め」するのはやめておけ
by ジョセフ・ナイ
●最近の英エコノミストの記事では、東シナ海の領土紛争に触れつつ、東アジアの情勢は日中戦争が起こる方向に向かいつつあると書かれていた。
●これはかなり大げさな分析だが、これを受けてアメリカの専門家の中にも「中国を封じ込めるべきだ」と言う人があらわれてきた。
●私は最近中国を訪れたが、その時に驚かされたのは、多くの中国の政府高官が「アメリカはすでに中国にたいする封じ込めを行っている」と信じ込んでいたことだ。
●その根拠はオバマ大統領のアジアへの「軸足」(ピボット)の移動という宣言にあるという。
●中国のある大学教授は「アジアへの軸足移動というのはアホな選択だ。そもそもアメリカは中国を怒らせるだけで、実際に中国を封じ込めることなどできない」と公式に発言している。
●たしかに「封じ込め」というのは過去のものであり、アメリカはこれを採用すべきではない。これは冷戦時代の初期にソ連の拡大に対抗して行われたものであり、その時には政治的だけでなく、経済的な関係も断絶することが含まれていた。
●それを一番始めに主張したジョージ・ケナンの思惑とは裏腹に、これは拡大解釈されて「ドミノ効果」のような形でベトナム戦争の拡大へとつながっていってしまったのはご存知の通り。
●ところが中国はソ連の時のように世界覇権を狙ってはいないし、現在の米中関係はソ連の時とは違って、経済的結びつきや人的交流が盛んだ。
●私がクリントン政権で東アジア戦略を作成していた1994年に、われわれは「封じ込め」を二つの理由から採用しなかった。
●一つ目は、中国を敵として扱ってしまったら、将来本当に敵になってしまうからだ。
●二つ目は、友人として扱えば、より友好的な将来が築けるからだ。
●それを受けて、われわれは「統合してヘッジする」という戦略をつくった。これはレーガン大統領の有名な「信頼せよ、しかし確認せよ」という言葉に似ている。
●そしてアメリカは、中国を世界貿易機関(WTO)の加盟を支援したし、製品を輸入して人も受け入れた。
●ところが1996年の日米安保改定で再確認されたのは、これが戦後の東アジアの安定した秩序の基盤であるということだ。
●さらにクリントン大統領は、中国の台頭に対抗するためにインドとの関係改善を推進した。
●この戦略はアメリカの両党にも支持されているものだ。ブッシュ大統領は引き続きインドとの関係改善を行ったし、同時に中国とも経済的な関係を深めている。
●オバマ政権のアジアにたいする「リバランシング」には、海軍力を太平洋に移動させる意味もあるが、同時に貿易関係、人権、そして外交面での働きかけをしていくことも含まれている。
●オバマ政権の安全保障アドバイザーであるドニロン氏は、去年の11月に「米中関係には協力と競争の両方の要素がある」と述べている。
●アジアは一枚岩ではないし、その内部の力関係がわれわれの戦略のカギを握るべきである。日本、インド、ベトナムなどは中国に支配されたいとは思っていないために、この地域におけるアメリカのプレゼンスを歓迎している。
●中国がうまく「ソフトパワー」を発展させて仲間を増やせないかぎり、彼らの軍事や経済の「ハードパワー」は近隣諸国を恐れさせ、まとまってバランシングを行おうとさせてしまうだけだ。
●アメリカの軍事・経済面でのプレゼンスは、アジアのバランス・オブ・パワーを維持するのに役立つし、これは中国に協力へと向かわさせるものになる。
●2008年のリーマンショックは、中国のリーダーの中に「アメリカはこれから没落していくのだ」と勘違いさせ、これによって彼らはチャンスが来たと思ってしまい、これが日本や韓国、それにベトナムやフィリピンとの関係悪化につながったのだ。
●この判断は「中国を封じ込めることができるのは中国だけ」という勘違いを生み出してしまう。
●ところがアメリカのアジアにたいする「リバランシング」は攻撃的なものとしてはいけない。われわれはケナンの警告に耳をかたむけ、過剰な軍事化をやめて、中国に「包囲された!」と勘違いさせないようにすべきなのだ。
●それに世界の二大経済国は、気候変動や病気の世界的な流行の阻止、それにサイバーテロや核不拡散などの分野で協力して得る事が多いのだ。
●中国が中東のエネルギーにますます依存することは確実なので、われわれは船の自由な航行を保障する海洋規則などについても議論しなければならないし、彼らを太平洋における軍事演習に参加させることも検討すべきだ。
●また、アメリカは中国の国内のエネルギー事情の改善のためにシェールガスの開発などでも協力できるし、日中に2008年に締結された共同海底油田開発計画を復活させるよう促すべきだ。
●他にも、もし中国が条件を満たせば、彼らにTPPに参加することを認めると明言すべきであろう。
●「封じ込め」というのは中国の台頭に対処するツールとしては間違っている。
●パワーというのは一方が望む結果を手に入れるための能力のことだが、アメリカのパワーは相手に何かを押し付けようとする場合よりも、むしろその相手と協力した時に大きく発揮されることを忘れてはならない。
===
TPPに参加させてもいいと発言しているのは注目ですね。
この辺の経緯については私の翻訳であるレイン本の中に詳しく書いてあることは言うまでもありません。
そういえば彼の古典的名著であるコヘインとの共著が日本でようやく発売されましたね。
以上
by masa_the_man
| 2013-01-27 19:21
| 日記