痴漢には処罰と治療を
およそ1年前、朝夕の満員電車で痴漢を疑われた男性が線路上を走って逃げるという事件が相次いで起こり、大きな話題となった。
連日のように大きな事件事故、災害などが起こるわが国では、もはやそれは昔話のような感すらある。
このとき、私は「『科学の力』で痴漢をなくす、驚きの方法」という記事を書き、それが私の「現代ビジネス」での「デビュー」となった。
奇しくもその1年後の今月18日、NHKの人気番組「クローズアップ現代+」で痴漢が特集され(「万引き・痴漢という“病”~刑罰だけでなく治療も」)、私もその番組に出演した。
「現代ビジネス」と「クローズアップ現代+」、そのどちらにおいても私が訴えたのは、痴漢に対して「処罰に加えて治療を」という主張であった。
これらの記事や番組に対し、多くの賛同の声が寄せられたことも事実であるが、同時に根強い反対、感情的な反発も多かった。
痴漢という犯罪を取り巻く問題
痴漢は犯罪である。これは疑いようもない事実であり、私もこれに異を唱える気は毛頭ない。
しかし、この際、問題が2点ある。
まずは、再犯率に関する問題である。性犯罪全体の再犯率は、一般に思われているほど高くはなく、約5%にとどまっているが、それに比べると痴漢の場合は再犯率が高い。
法務省のデータによれば、痴漢の性犯罪再犯率は執行猶予者で約20〜30%、刑務所出所者で約50%1。しかもその特徴は、同種犯罪、つまり痴漢ばかりを繰り返している者が多いことである2。
第2の問題点は、痴漢の場合、刑罰といっても、1度や2度での逮捕では、罰金や執行猶予などで済む場合がほとんどで、その場合、すぐに日常生活に戻されることとなる。
すると、しばらくの間は再犯に歯止めがかかっても、長い月日が経過するにしたがって、ふとしたことでまた再犯となってしまうケースが多い。
このように、わが国の刑事司法の枠組みのなかで、痴漢を扱おうとすると、十分な対処ができず、いたずらに再犯が繰り返され、多くの被害者を生んでしまっている現状にある。