男たちはなぜ線路を逃走するのか
「痴漢の疑いで線路を逃走」――最近このような報道を頻繁に耳にする。中には、電車にはねられて死亡してしまったケースもあれば、ラッシュ時に電車の大幅な遅延を招いて大勢の乗客が迷惑を被ったようなケースもある。
男たちはなぜ線路を逃走するのか。
最も多いのは、実際に痴漢をして逮捕を免れようとして逃げるケースだろう。捕まると困るので逃げる。これが一番単純かつ現実的な想定である。
第2は、冤罪を恐れて逃げるケース。これまで何度となく痴漢冤罪のニュースが報道されているし、映画にもなっている。やましいところはなくても、逮捕されたり、裁判になったりすると面倒なことは間違いなく、何より家庭や仕事がめちゃくちゃになってしまうかもしれない。
ごく普通の日常生活を送っている人にとって、朝の満員電車でいきなり「あなた触ったでしょ!」などと言われたら、それだけで頭の中はパニックとなり、一時的に正常な判断力を失ってしまうだろう。
ネット上には「逃げるが一番」などという情報が氾濫していることもあって、それを真に受けて後先のことを考えず、ホームに飛び降りて逃走してしまうのかもしれない。
とはいえ、これは賢明な選択とは言い難い。
線路内に立ち入ること自体が犯罪であるし、死亡事故に至ったケースがあるように危険この上ない行為であるからだ。さらに、電車の遅延を招くようなことになれば、多額の賠償金を請求される事態に陥ってしまう。
それに、センセーショナルに報道されるほど痴漢冤罪は多くない。実際の痴漢事件のほうがはるかに多い。つい先日も、女子高生の「痴漢冤罪詐欺」グループの事件が報道されていたが、めずらしいから報道されるのであって、「女子高生が痴漢に遭った」というだけならニュースにはならないだろう。
同様に、線路内を逃走したというケースも、頻発しているとはいえめずらしいから報道されるのであって、「線路内を走らないケース」、つまり加害者が何のお咎めもなく痴漢行為に至り、被害者が泣き寝入りしているケースは、比べものにならないくらい頻発しているのに、まったく報道されることはない。
しかし、それでよいはずがない。ここで改めて考えるべきことは、痴漢という犯罪があまりにも多いという事実である。ニュースにもならないくらい毎日女性が痴漢被害に遭っているという日常に、世間はあまりにも無関心である。
したがって、ここで痴漢という犯罪とその対策について、改めてじっくりと考える必要があるだろう。