東日本大震災、そして福島第一原発事故発生からきょうで丸7年が過ぎた。しかし原発周辺の自治体への住民の帰還は決して進んでいるとは言えず、また国民の福島に対する偏見も、いまだ根強いものがある。
福島在住のライター・林智裕氏が、いま行うべき「情報のアップデート」を訴える。
「被曝は次世代にも影響する」という危険な誤解
原発事故をめぐって沢山の言説が飛び交ったこの7年でしたが、結局、「放射能」の影響は実際にはどうだったのか──。
結論から言うと、福島では放射線被曝そのものを原因とした健康被害は起こりませんでした。住民が実際に受けた被曝量は内部・外部ともに、世界の一般的な地域と比べても「高くない」と言える程度に留まったことが、様々な実測データで明らかになったのです。
もちろん、これはあくまでも結果論であって不幸中の幸いにすぎません。一方、この事実は2014年からUNSCEAR(国連科学委員会)が複数回出してきた報告書や白書などをはじめ、多数の科学的根拠から裏付けされています。
この国連科学委員会の報告書の中では、日本のさまざまな報道機関が繰り返しほのめかしてきた「原発事故を原因とする甲状腺がんの多発」についても明確に否定されています。あれだけ大きく何度も報道されて「議論」を巻き起こした問題に対して、科学界の結論ともいうべき国際的なエビデンスが示されたのです。
ところが、昨年2017年秋に公表された三菱総合研究所の調査によると、「福島では被曝によって健康被害が起こる」と考えている人の割合は、約50%にもなりました。「被曝は次世代以降の人にまで影響する」と考える人の割合もほぼ変わらなかったという結果が出ています。(http://www.mri.co.jp/opinion/column/trend/trend_20171114.html)
重ねて述べますが、福島では、東電福島第一原発事故を原因とする、健康に影響するような量の被曝をした人は一人もいません。それだけにとどまらず、そもそも「被曝は次世代以降の人に影響を与えない」ということは震災以前どころか、70年以上昔に投下された原爆の影響調査によって、とっくに判明していたはずのことでした。
この調査では同時に、復興状況に関する情報を得る媒体(東京都での調査)として、「テレビやラジオ」が49.0%と圧倒的な1位、新聞や雑誌が2位となっており、その他の媒体に圧倒的な差をつけていることから、それらの影響力の強さを理解することができます。
http://www.mri.co.jp/opinion/column/trend/trend_20171117.html(三菱総合研究所)
「福島は危ない」とほのめかす報道が続出
では、こうした大きな影響力を持つメディアは、これまで福島の状況をどのように伝えてきたのでしょうか。
たとえば、前述の国連科学委員会の2017年報告書を報じたのは、読売新聞福島版と地元紙のみであり、全国紙やテレビでの報道は全くみられませんでした。
それどころかテレビ朝日系『報道ステーション』は、まるで「福島で被曝の影響によって甲状腺ガンが多数発生している」かのような誤った報道を繰り返し、これに対して2014年には環境省から「最近の甲状腺検査をめぐる報道について」とのタイトルで、異例の注意情報が発信されました。
(http://www.env.go.jp/chemi/rhm/hodo_1403-1.html )
テレビ朝日は、昨年夏に全国放送した番組にも当初、『ビキニ事件63年目の真実~フクシマの未来予想図』というタイトルを付け、ビキニ環礁の住民を取材した上で、「除染が済んだというアメリカの指示に従って帰島。しかし、その後甲状腺がんや乳がんなどを患う島民が相次ぎ、女性は流産や死産が続いたそうです。体に異常のある子供が生まれるということも 」などと予告で語りました。
なぜテレビ朝日は、このような番組に『フクシマの未来予想図』というタイトルを付けたのでしょうか。当然ながら、福島県内の避難指定が解除された地域で、健康被害が出るような被曝を受けるリスクはありません。
そうした事実を無視してこのようなタイトルを付けた背景には、避難指示解除に伴って福島への「帰(福)島」が進みつつある事実を無視し、「政府を信じて帰還したらお前たちもこういう運命になる」とほのめかす意図があったことは明らかでしょう。
そうでなければ、この文脈で『フクシマの未来予想図』というタイトルを付ける理由はなかったはずです(詳細は昨年8月10日の記事「大炎上したテレビ朝日『ビキニ事件とフクシマ』番組を冷静に検証する」を参照ください)。
またNHKは昨年10月3日、原発生業訴訟を取り扱った番組『NHKクローズアップ現代+「全国最大の“原発訴訟”責任は誰に?」』内で、震災後福島県に留まった子供が甲状腺検査で3ミリの嚢胞が見つかり「A2」判定と判定されたことを受けて、「(原発事故との)因果関係ははっきりしていない」としながらも、「親としての判断が間違っていたんじゃないかと今でも悔やんでいる」という親のコメントを、何の注釈も無く放送しました。