2015.08.04

クルーグマン「最低賃金を引き上げよ!」
労働市場は他の市場と違う。常識を覆した経済学の”知的革命”

The NewYork Timesより

最低賃金を引き上げても失業者は増えない
―労働市場が他の市場と同じではない証拠―

(文・ポール・クルーグマン)

〔PHOTO〕gettyimages

労働賃金の引き上げに副作用はない?

7月13日、ヒラリー・クリントンは経済に関する初の大規模なスピーチを行った。
進歩主義者は、その内容におおむね満足したようだ。スピーチの核となるメッセージが、連邦政府は賃金引上げに向けてさらに強く働きかけることができるし、またそうすべきだというものだからだ。

しかし、保守派はこれに困惑したようだ。もっとも、それは「ベンガジ!ベンガジ!ベンガジ!」というリピートをやめ、スピーチに注意を払うことができた人たちに限ってだが。(※1)

(※1)ベンガジ米領事館襲撃事件:リビア東部ベンガジの米領事館で2012年9月11日に発生。駐リビア米国大使と職員3人の計4人が死亡した。オバマ政権は当初、群衆による自然発生的な抗議行動が過激化したとの見方を示していたが、同月末に国際テロ組織アルカーイダと関連のある「テロ攻撃」とする見解 を発表。大統領選の2ヵ月前に起きたこともあり、クリントン国務長官(当時)を含む政権が意図的にテロとの関連を否定しようとしたとの疑惑が取り沙汰されてきた。

彼らはロナルド・レーガンにより政府はソリューション(※2)ではなく、問題であることが明らかになったと確信している(※3)。したがって、クリントンも単に、すでに消滅した「オールドリベラリズム」を復活しようとしているのではないか、さらに、政府が市場に介入すれば、とんでもない副作用がもたらされことを私たちが知らないだけなのだろうか?というわけだ。

(※2)ヒラリー・クリントンの「包摂的資本主義」という考え方は、政府の市場への適切な介入、規制こそが、資本主義をうまく機能させていく。つまり政府は問題でなくソリューションという立場を取っている。
(※3)市場こそが合理的で万能と考える新自由主義の考え方

しかし、そうではない。クリントンはそんなことをしようとしているのではないし、政府の介入による副作用など、私たちは知らないのだ。実際にクリントンが演説した内容は、根拠に根差した賃金決定要因に対する私たちの理解の大きな変化を反映している。この新しい理解とは、見えざる手が報酬をもたらすことなく、公共政策がさまざまな形で労働者を助けられるということだ。

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