気鋭のエコノミスト永濱利廣氏は『日本病——なぜ給料と物価は安いままなのか』で、「低所得・低物価・低金利・低成長」の「4低」状況を「日本病」と名付け、その原因と、脱却の道筋を考察する。
デフレ・スパイラルの中にある日本。そもそもデフレとは何なのか。『日本病——なぜ給料と物価は安いままなのか』からあらためて見てみよう。
デフレが日本病の本質だった
「デフレ」という言葉は日本ではもはや連日のように聞いているので、すっかり耳に馴染んでしまったかもしれませんが、うかつに馴染まないほうがよい恐ろしいものです。ここで改めて確認しておきましょう。
IMF(国際通貨基金)の定義によれば、2年以上にわたり物価が下がり続けることを「デフレ(デフレーション deflation)」と言います。
「物価が下がる」ということは、裏を返せば「お金の価値が上がる」ということです。そうなると、デフレ状況における合理的な経済行動は「欲しいモノがあったときはなるべく我慢する」になります。なぜなら、物価が下がっていくので、できるだけ必要ギリギリまで待ったほうが、安く買えるからです。そうやって、人がお金を使わなくなります。
人がお金を使わないので、モノやサービスが売れにくくなります。モノやサービスが売れにくくなると、企業は価格を下げることで競争力を得ようとします。日本でよく聞かれる「価格破壊」が最たる例です。
しかし、値下げによって儲けは減るので、働く人の給料は上がりにくくなります。給料が上がりにくくなれば人々はさらにお金を使わなくなり、モノやサービスが売れなくなります──この悪循環がデフレスパイラルです(図表1-5)。
当然、景気はますます悪くなっていきます。将来への不安からお金を「使う」より「貯める」ようになり、金利も上がりにくくなります。なぜなら、金利はお金の需給で決まるからです。こうなってくると、もちろん経済成長もしにくくなります。こうして、日本の「4低」現象=「日本病」が作られました。