頭部を剣で突かれた遺体は、衣服を剥がれさらしものに…!遺骨が物語る「イングランド王が受けた屈辱」と「深まる謎」

歴史をいまに伝えるのは、書き言葉や話し言葉に限ったものではない。DNAという分子に刻まれた「遺伝子」もまた、私たち人類がたどった過去の時間を記録している——。

『王家の遺伝子』はじめにより)

2012年9月5日、ロンドン・オリンピックが閉幕して間もないイギリスから衝撃的なニュースが飛び出し、瞬く間に世界へと伝わりました。イングランド中部の都市レスターのとある駐車場から、15世紀のイングランド王「リチャード3世」のものと思われる遺骨が発掘されたのです。

遺骨からはDNAが抽出され、詳細な鑑定がおこなわれました。果たして、この遺骨はほんとうにリチャード3世のものなのか? 530年前の人骨の正体を見破った手法と、「勝者の歴史」が覆い隠した「王家の真実」を追います。

前半では、遺骨発見の経緯と、実在したリチャード3世と、その時代について見てみました。後編では、発見された遺骨からの鑑定方法についてご説明します。

*本記事は、『王家の遺伝子——DNAが解き明かした世界史の謎』から、その内容を一部再編集・再構成してお届けします。

駐車場から掘り起こされた人骨

いよいよ「駐車場の王様」に隠されていた謎に迫ることにしよう。

レスター市の公営駐車場から掘り起こされた骨には、大きな特徴があった。

上顎骨に1センチメートルの穴があいていたのである。また、骨盤にも外傷があり、前回の記事で述べたように頭蓋骨にも複数の傷があった。全身の傷は、計11ヵ所にのぼっており、ボズワースの戦いの激しさがしのばれる。

【写真】ボズワーズの戦いを描いた19世紀の絵ボズワーズの戦いでのリチャード3世とヘンリー・テューダー(リッチモンド伯)を描いた19世紀の絵 photo by getttyimages

通常であれば、これらの傷が致命傷になったのではないかと推測するところだが、上顎骨の傷は脳に届いていなかった。血管が多く集まる骨盤付近も急所ではあるが、戦死したリチャード3世は、鎧(よろい)を装着していたはずなので、この傷は、死後に鎧を脱がせてからつけられたものではないかと考えられた。

当時の戦争では、致命傷は外傷部以外のところである可能性も高く、斬られたことによる出血多量で絶命することも大いにありうる。

状況証拠から、おそらくは後頭部を剣で一撃されたのが致命傷になったのではないかと推測されている。その傷は、頭蓋骨を貫き、脳内の数センチメートル程度までおよんでいるからである。

【写真】レスター大学が発表した頭骨の写真発掘・鑑定にあたったレスター大学が発表した頭骨の写真 photo by gettyimages

だが、さらなる謎が残されている。

これほどの傷を負うからには、リチャード3世は兜(かぶと)を脱いでいたはずだが、激しい戦いのさなかになぜ、兜を外したのか? 自ら脱いだのか、あるいは脱がされたのか? あるいは間隙を突かれたのか?

手足に防御創がないことから、頭部を除けば鎧で覆(おお)われていたことは間違いなさそうだ。科学の光を当ててもなお残る、歴史の謎である。

「馬をくれ、馬を! 馬のかわりにわが王国をくれてやる!」

シェイクスピア劇のクライマックスは、この名台詞を発したリチャード3世が最後の戦いに挑むシーンが描かれている。1955年の映画『リチャード三世』におけるローレンス・オリヴィエは、確かに兜をかぶっていなかった。果たしてその真相は?

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