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2009-05-24

貴重な情報ソースから見る「企業が学生に求める能力」

支援部門にいると組織に動いてもらわなければいけないときに提案書に相当するものを作る必要が出てくる。組織上位層と価値観を共有するためには、プレゼンテーションの資料に次のような内容を入れておくとよいというのもだんだんわかってきた。
  1. お金の話し(○○をやらないと損失が大きい、△△をやると利益が上がる)
  2. 他社、世の中のトレンドの話し(××社はこんなことやっている、世の中では**が常識)
  3. お客さんの話し(ユーザーがこのような不満を持っているから解決する必要がある)
  4. 現場の話し(開発の現場では、○○のようなことが起こっており、△△をしないと開発期間が縮まらない)
  5. 品質の話し(○○の指標でソフトウェアの品質が低下している。△△をして品質を向上する必要がある)
そんなこんなで、コンサルタントを生業にしている人たちが日頃どんな情報にアンテナを張り、上記のような話しをサッとプレゼン資料に盛り込めるようにしているのか何となく分かってきた。

人や組織を動かすとき、説得に使う情報はかなり重要だ。ソフトウェアのことを詳しく知らない人が財布と権限を握っているケースはハードウェアを扱う組込み系の企業には多い。この人たちを動かしていくには、ソフトウェアのことを相手が分かることばで説明し、かつ、相手の価値観に合わせて「それを今、実行することが必要である」と考えてもらわなければいけない。

そのために必要な情報ソースはいろいろあるが、今回は google でも引っかかりにくいが、かなり役に立ちそうなネタもとを見つけたので紹介しようと思う。

それは、社団法人 日本機械工業連合会(JMF: 日機連)のWEBサイトだ。ソフトウェアとは全く関係ないようでいて、実はそんなことはない。

日機連は、毎年度調査事業を行っており調査事情の報告はPDFで公開されている。工業会の調査報告など対した内容ではないだろうと思うかもしれないが、日機連の調査報告書は価値が高いことに最近気がついた。

その理由は、(推測によると)スポンサーに競輪とオートレースがあることが大きいと踏んでいる。要するに潤沢な資金を持つスポンサーが社会貢献のために日機連を通じて調査事業の費用を肩代わりしているのだ。そして、日機連が窓口になっていろいろなテーマについてさまざまな専門家を集めて200ページ以上の報告書を作成する。

報告書の作成にはその道のプロが仕事を請け負うことが多いが、調査をするのは各種の専門家であり、一般的な講演等では表に出てこない資料が報告書に載ったりすることもある。

試しに、日機連の調査報告書のページで平成15~18年度の報告書について「ソフトウェア」というキーワードで検索をかけてみた。

そこで、まずビビっときたのは『平成1 8 年度サービスロボット運用時の安全確保のためのガイドライン策定に関する調査研究報告書 』だ。普通企業は、ノウハウが少しでも含まれているような資料は一般にプレゼンテーションすることはあっても資料として公開することはめったにない。特許で権利が保護されているといっても、真似されたことを証明するのは困難だからである。

しかし、この報告書では National 屋外用自律走行型掃除ロボット SuiPPI の安全確保の構造について説明された資料がかなりくわしく掲載されている。さらに、滅多に資料が公開されることのない TOYOTA の資料「医療用介助ロボットのロボット運用に向けた安全確保に関するもの」も掲載されている。本業に関するものではなく、未来の事業について企業間を越えてディスカッションした内容だから公開OKとなっているのだろう。(その他 ALSOKのガードロボの情報も載っている)

今回、話題にしたいのは、この報告書のことではなく、『17高度化-13 ものづくり中核人材育成に関する調査研究報告書』のほうだ。ものづくり中核人材育成だから、その中に組込みソフトエンジニアも含まれている。

企業が求めるビジネス基本能力

項目/グループ 大学卒 大学院卒 短期大学卒 専修・専門学校卒
熱意・意欲 71.7 64.0 68.6 66.4
専門知識/研究内容 14.2 34.6 6.3 18.4
協調性 29.6 23.7 43.0 38.4
創造性 15.5 18.5 6.6 8.8
一般教養・教養 5.6 3.3 16.5 10.4
表現力・プレゼンテーション能力 21.5 17.1 14.0 13.6
実務能力 2.1 2.4 19.0 16.0
課題発見力 7.7 10.4 9.1 10.4
問題解決力 15.5 18.5 10.7 10.4
判断力 2.6 1.9 3.3 4.0
(学業以外の)社会体験 1.7 0.5 2.5 0.0
コンピュータ活用能力 1.3 0.9 4.1 4.8
論理的思考力 27.5 29.4 11.6 15.2
行動力・実行力 49.8 40.3 34.7 38.4
国際コミュニケーション能力 7.7 4.7 1.7 0.8
常に新しい知識・能力を学ぼうとする力 16.7 17.1 16.5 16.8
その他 6.9 7.1 10.7 9.6
回答(社数) 233社 211社 121社 125社

このデータ以外にも興味深い情報がたくさん載っているレポートなのだが、まずは是非これを見ていただきたい。企業が学生に求めているものは、「熱意・意欲」「行動力・実行力」「協調性」であり、次いで「論理的思考力」「表現力・プレゼンテーション能力」「常に新しい知識・能力を学ぼうとする力」「問題解決能力」「創造性」だということが分かる。

どこをどう見ても、小・中・高・大という長い14年の教育の中で子供がテストで評価されてきたものではない。本ブログサイト人気の記事『問題解決能力(Problem Solving Skill):自ら考え行動する力』は、おそらく学校では授業で教えていないが、少なくともコンピュータ活用能力よりは期待されている。

先日、NHKのクローズアップ現代で超氷河期と呼ばれる就職最前線で、企業がどのように学生をテストしているのかを紹介していた。テストとか面接とかそんなもんではない。今や、学生は面接で聞かれたときにどう答えると印象がよくなるのかをあらかじめシミュレーションしている。自分に能力があってもなくても、上記のようなことを期待されているのは分かっているから、その期待に添うことができるという回答をきちんと用意している。

そして、企業側も学生がそんな準備をしてきていることを知っているので、面接の受け答えを最重要視はしない。何をやらせるのかというと、例えば営業職ならば、商品の売り込みのロールプレイングをやらせるのだ。「実際に売ってみろ」と突き放し、「現場で問題が起こったとらどう行動するのか」を見るのだ。企業は人材を育成する時間と費用をセーブしたいと考えており、すぐに使える即戦力を欲しがっている。需要より供給の方が大きいから、応募してきた学生の中から、上記の表の能力を潜在的に持っている学生を選ぼうとしているのだ。

学生の方はたまったものではないだろう。テストでよい成績を取り、偏差値で評価されてきた評価指標とはまったく異なる土俵で勝負させらるのだ。

上記の表が示しているのは、画一的に教えられている勉強とは別に、自分で好きなものを見つけ、熱意意欲を持って探求し、問題が起これば課題を発見し、論理的思考力を使って問題を解決し、プレゼンテーション能力を活かして、協調性を持って創造力を使う訓練をしておけということだ。

こんなことができるスーパースチューデントは滅多にいないから、会社に入ってからも、これができるように訓練しておく必要がある。

組織内ではだれもそれが必要なんだよと面と向かって教えてくれないが、全体を見渡せる人が潤沢な資金を使って調査すると、実は組織がどんな人材を求めているのかがわかったりするのだ。

2009-02-01

組込みソフトエンジニアのパーソナルキャリアパス

サンデープロジェクトで派遣労働についての過去と未来をディスカッションしていた。日本では戦後、GHQが労働者の賃金をピンハネしていた元締めの存在を解体させるために、労働基準法で派遣労働を禁じ健全な雇用を目指したのだそうだ。しかし、その後、1960年代後半に欧米で一般的になっていた労働者派遣型の人材派遣企業が日本に進出してきて(最初に進出したのはマンパワー)、「派遣」ということばを使わずに、「請負」という形でテンポラリな労働が社会にグレーな形で浸透していった。これが元祖、偽装請負ということなのだろう。

その後、1970年から1980年代にかけて、労働者の派遣を禁止している労働者基準法と現実がかけ離れてきたために、労働者派遣法の制定が進められる。当時の議論として、専門家の間でも労働者の権利を重視するのか、仕事の選択性を重視するのかで微妙に意見が違っていたという。

また、労働組合サイドの強い反対もあり、まとまりそうのなかった状況で、情報処理技術者がメーカーの中で育てることが難しく、実際多くのソフトウェアエンジニアを外部に頼っている状況を適法にしたいという電気業界の強い要望をきっかけにして1985年に労働者派遣法が制定された。労働者派遣法が制定されるきっかけが組込みソフトエンジニアの派遣労働だったというのは驚きだ。このときはコンピュータ(IT=情報技術)関係職種のように、専門性が強く、かつ一時的に人材が必要となる13の業種に派遣が限定されていたが、その後、1999年の改正により禁止業種以外は派遣が可能になってしまい、派遣労働が専門職だけのものではなくなった。

ただし、使用者サイドの企業が派遣を終了すると、派遣会社との契約も切れるという現在社会問題になっている登録型の派遣は1985年の時点で常用雇用型とともに法制化されていた。番組では、この登録型派遣のルールは法制化の直前に滑り込ませたものだと語られていた。

1985年当時は、常用雇用型も登録型もどっちにしろ派遣できるのは13業種に限られていたから問題は広がらなかったが、1999年の労働者派遣法の改定で一般労働にも派遣が可能になったため、登録型でかつ仕事がなくなると即職を失うという労働者が増えてしまった。

さて、番組の中で常用雇用型の派遣で成功している会社の例としてメイテックが紹介されていた。メイテックといえばバブル時代にディスコで入社式を行ったりしていたが、当時の関口社長は1996年に電撃解雇され、その後はいたってまじめな技術系の会社になった。2004年の SESSAMEのワークショップでメイテックのキャリアサポートセンターの方の講演をレポートにまとめたからよく覚えている。

メイテックは常用雇用型のソフトウェア技術者の派遣を積極的に行っており、技術者の教育にもかなり力を入れている。また、技術者のスキルの評価もシステマティックにやっているので技術力の高い人ほど単価も高い。別な見方をすると頑張って技術を磨かないと給料は上がらないような仕組みになっているのだろう。

組込みソフトウェアの外部委託の市場は1980年代からあったわけだから、今ではかなり大きいと推測される。仕事の外部委託の仕方は二種類あって、一つは派遣労働者として受け入れる方法、もう一つは請負契約で仕事を発注する方法だ。組込みソフトの仕事の場合は派遣でも常用雇用型の方が多いと思う。メーカーのソフトウェアエンジニアもそうだが、それに輪を掛けて派遣や請負開発のソフトウェアエンジニアの技術力が評価されることは少ない。評価されないどころか、技術を磨いて開発効率や品質向上を達成すると、できた余裕に新たな仕事が突っ込まれる。派遣でも請負でも結局は働いた時間に対してしかサラリーが支払われない。これでは技術力が上がれば上がるほど、余裕が生まれる、クリエイティブな仕事ができるという状況が生まれない。そんなことでは、誰もソフトウェアエンジニアになりたいと思わなくなる。

情報処理系の派遣労働者や受託開発会社に所属する技術者はもともとソフトウェアという専門技術を持った人ということだから、今マスコミで話題になっている人たちようにいきなり職を失うようなことは少ないと思うが、景気の影響を受けて仕事が少なくなるリスクは常に抱えていると思われる。

そうなると、そのリスクを少しでも減らすには自分の技術力を高めるしかない。適性に評価されるかどうかは別にして、厳しい状況の中で生き残っていくためには自分の能力が組織に貢献する根拠としてソフトウェア技術を身につけ、その技術がどのようにソフトウェア開発に役立つのかを説明できるようにしておく必要がある。組織に評価されようとされまいと、自分の身を守るため、新しい道を探すために、自分の能力をアピールしなければいけないときは必ず来る。競争相手は日本の中だけとは限らない。

自分の技術を高めるため、パーソナルなキャリアパスを考えるには、目標の設定と目標を達成するための自己投資が必要になる。これらを所属組織のシステムにゆだねるという方法もあるが、必ずしもエンジニアのキャリアパスを計画し、必要な技術を教育してくれる会社は多くないので、基本的には自分のキャリアパスは自分で設計しなければいけないと考えた方がよいだろう。

そのときに大事なのは、自分という個人商店に対してどれくらい自己投資するのか、したのか、投資した結果はどうだったのかを振り返ることだと思う。

自己投資の方法は一つは金額で考える方法がある。例えば、税込み年収の1%を自己投資に使う場合、年収が700万円だとしたら、7万円ぶん自己投資しようということだ。例えば、自分の勉強のために買った本や雑誌の領収書を集めて、テレビで確定申告しようというCMが流れてきたら、確定申告するつもりで、昨年のぶんの自己投資額の合計を計算して、修得した技術や知識の棚卸しをしてみる。

自己投資は必ずしもお金だけではない。勉強に使った時間も投資だ。面倒くさいかもしれないが、勉強に使った時間を記録しておき、1年間の総計に時給(例えば、一時間千円)をかけると投資額に換算できる。

資料だって、IPA SEC(情報処理機構 ソフトウェアエンジニアリングセンター)などのWEBサイトをくまなく眺めてみれば、タダで勉強のネタは手に入る。もちろん、SESSAMEのWEBサイトを活用するのもよい。

自己投資する先はどんなキャリアを目指すかにもよるが、ETSS(組込みスキル標準)のスキルカテゴリから見れば「技術要素」「開発技術」「管理技術」に分けられる。「技術要素」と言っているのはものづくりする際のその業界、その製品群に特化した技術のことで、これは何を作るのかによって異なるからどんな技術が必要なのかは自分、もしくは自組織で考えるしかない。「開発技術」や「管理技術」はETSSにも定義があるが、あまり毒されることなく身の丈にあった役に立つと思われる技術を自分は今後どのようなキャリアを積んでいくだろうかと考えながら選択する。

勉強の方法としてお勧めしたいのが、ブログにやったことを書き残すという方法である。学校での勉強を思い出してもらえばわかると思うが、学んだことはノートに書く、できれば自分の理解に合わせて書き直してみるとよく覚えることができる。これは人間の脳の記憶方式と関係している。ところが、大人になってから書き写して記憶を深めるという機会は極端に減ってしまう。だから、ブログに勉強したことを書くのは学習効果を高めるのに役立つのだ。記録に残すということは、後でその記録からデータを拾い出して、学習の実績として示すこともできるということだ。自分の名前や組織名を伏せて、キャリアパスを宣言し、身につけた技術や、自己投資の記録をブログに付けてみるのもよいだろう。もしかしたら、共感した人が応援のメッセージを送ってくれるかもしれない。
 

2008-12-20

ソフトウェアエンジニアが自分の成果を表現する必要性について

2008年も終わりに近づいている。2008年の年初にこのような金融危機からくる景気の急速な減速が起こるとは予想もしていなかった。

この事態に一時的に職を失った人もいると思うので軽々なことは言えないが、毎日流れる不況のニュースを聞いていて技術者にとって仕事とはなんだろうかといろいろ考えを巡らせたのでその内容を書きたいと思う。

ソフトウェア技術者として仕事をしているのであれば、個人の価値と組織の価値をできるだけオーバーラップさせ、かつ、大変だけれども楽しいと思える仕事をしたいと思っているし、このブログでそう書いてきたつもりだ。実際にエンジニアとして仕事をしてきた自分自身の22年間を振り返ると多くの時間がそうであったと思うし、それなりの満足感もある。

過去を振り返ったときに満足感を得るためには、その時その時に流されてしまってはいけない。ここぞというときにはこだわりを持って踏ん張らなければならない。逆風に立ち向かうシーンが必ずあるはずだ。しかし、皆いろいろな人間関係や社会状況の中で仕事をしているわけで、いつでも逆風に立ち向かうことができるとは限らない。自分自身が弱っているときや、自分の周りの環境が安定していないときは一時的に壁の陰に退避しなけれいけないときもある。

今のような異常な経済状況はまさに退避をしなければいけない時かもしれない。だから、こんな状況のときに言うのではなく、安定した社会環境のときに言えばよいのだけれど、普段からソフトウェア技術者はこうしているべきであるということをあえて書いておきたいと思う。自分の体力がみなぎっているとき、周りの環境が安定したときにこれから書くことを思い出していただきたい。

ソフトウェアエンジニアが他のエンジニアよりも不利な点は、成果が見えにくいことだ。組込みソフトの場合は最終的には製品ができあがるので、製品の外側に現れる機能や性能でソフトウェアエンジニアの成果を推し量ることもできるが、ソフトウェアはユーザーインタフェースに関わるところ以外の役目もたくさんある。それらの裏方のソフトウェア開発に携わったエンジニアの成果は見えづらいし、メーカーがソフトウェアを外部に発注している場合、協力会社が自分たちの成果が最終製品に搭載されていることを公に言えない場合もある。

ソフトウェア技術者のスキルレベルをITSSやETSSといったスキルスタンダードで表すこともできるようになったが、ETSSの場合は技術要素の部分は自分たちのドメインに必要な技術を自分たちで定義して測ることになっており、それができていない組織は数多くあるので、実際にはそのエンジニアの実力を表現しきれていないこともある。

成果が見えないということは、その技術者を評価する指標がないということだ。「彼は優秀だ」とか、「○○についての技術がある」などといった評価は、一緒に仕事をしている仲間や上司なら分かるが、いったんその環境を離れてしまうと、技術力や成果といったソフトウェア技術者にとっての鎧はすべてはがされ丸裸になってしまう。

そういったときのために一般的には資格というものがあるのだが、こと組込みソフトの場合は資格はある程度の指標にはなっても、「この人材を採るか採らないか」の決定的な判断には使えないと思う。

そういう意味で、ソフトウェア技術者がしておかなければいけないことは、自分がこの一年でどんな仕事をしたのかを記録して蓄積しておくことだと思う。10年選手ならば、これまでの10年分の成果が何かをいつでも説明できるようにしておくのだ。

成果が見えにくいからこそ成果を一目で見えるようにしておくことがソフトウェアエンジニアとしての鎧になる。この一年でどんな仕事をしたのか、どんな技術を習得したのかを実績のリストに記録する。毎年開催されるソフトウェア系のシンポジウムに投稿して採用された論文を成果として追記しておくのもよいだろう。

ソフトウェアエンジニアの成果が見えにくいというのはみな同じ条件だ。だから、同じ成果を持っているエンジニアが複数いた場合、これまでの成果をどれくらい分かりやすく表現できるかどうかで鎧のグレードが変わってくる。

組織に所属していても常に自分は個人商店なんだと思っている。だから、ウチの商店で扱う商品や他の店にはない特長や、他の店よりも優れているところは聞かれればいつでも説明できるようにしているつもりだ。そういう意味では、まったく転職する気がない技術者であっても、毎年年末に業務履歴を中心とした履歴書を書いてみるのは、自分の技術の棚卸しにもつながるのでよいことだと思う。

反省しないエンジニアは成長しないし、どんな業界でもプロフェッショナルは自分がした仕事が顧客を満足させているかどうか常に自問自答している。

ただし、冒頭にも書いたようにこのようなことを考えていいのは、自分自身の体調が万全であり、周りの環境が安定しているときだ。もしも、自分の周りで嵐が吹き荒れている人は、嵐が去るのをじっとまって晴れ間が現れたときに、自分自身の成果をどのように表現できるか考えて欲しい。
 

2008-01-05

問題解決能力(Problem Solving Skills):自ら考え行動する力

正月休みに『世界一やさしい問題解決の授業』(渡辺健介著)という本を読んだ。

いつものように、まえがきを紹介したいと思う。

世界一やさしい問題解決の授業のまえがきより】

 みなさんの将来の夢は何ですか? 今どのような悩みがありますか? 壁に直面したとき、自分の力で乗り越え、人生を切り開いていけるという自信はありますか? それとも、あきらめてしまいそうですか?
 この本で紹介する「考え抜く技術」、そして「考え抜き、行動する癖」を身につければ、たとえば苦手な教科を克服する、部活でよい成績を残す、文化祭を盛り上げるといった、日常生活で直面するさまざまな問題を解決できるようになります。そして、自分自身の才能と情熱が許すかぎり、夢を実現する可能性を最大限まで高めることができるようになります。
 つまり、自ら責任が持てる人生、後悔しない人生を生きることができるようになるのです。
 どんなに大きく複雑に見える問題でも、いくつかの小さな問題に分解すれば解けるのです。一度そのことに気がつけば自信がつくし、前向きになるし、精神的にも余裕ができます。そして、自ら考え、決断をし、行動することの楽しさを知り、人生を切り開くために必要な癖が身につくのです。
 この本を紹介する問題解決の手法は、ぼくがかつて働いていたマッキンゼーという経営コンサルティング会社で活用されているものを基にしています。マッキンゼーは企業の社長さんや政府・非営利団体のリーダーの方々にアドバイスする会社で、日本や世界を代表する企業の戦略を立てるときにも、この手法が使われています。それだけでなく、これは個人の問題を解決するためにも必ず役に立ちます。ぼくは22歳でこの思考法と出会い、そのとき、「これが『考える』ということなのか! なぜこれをもっと早く教えてくれなかったんだろう」と強く思いました。そして、なるべく多くの人にこの思考法を伝えられればと思い、この本を書くことにしたのです。
 この本では、最低限必要なものに絞って、シンプルに紹介してきます。
 1限目では、自分で問題を解決することのできる人を「問題解決キッズ」と名づけ、それはどのような人なのか、問題解決の流れはどのようなものなのかを、ひととおり説明します。
 2限目では、中学生バンド「キノコLovers」がより多くの人にコンサートに来てもらうためにはどうすればよいかを、問題解決の手法を使って解く例を紹介します。
 3限目では、CGアニメの映画監督になることを夢見るタローくんが、まずパソコンを手に入れるために具体的な目標を立て、達成する方法を考え出す例を紹介します。
 問題解決能力を身につけることは、けっして、人の感情がわからない「冷たい論理的な人」になるということでも、口が達者で自分のことしか考えない「個人主義で身勝手な人」になるわけでも、日本人的なよさを失い「欧米的な考えをする人」になることでもありません。
 自分の力で考え抜き、行動をする人になる、自分の力で人生を切り開く人になるということなのです。
 さあ、一緒に問題解決の思考法を楽しく学びましょう!
 みなさんも一歩踏み出す力がきっと身につくはずです!

【引用終わり】

この本、ダイヤモンド社から1200円(+税)で2007年6月に出版されているのだが、4ヶ月でなんと13刷りまで増刷されている。まえがきからも分かるように、子供もターゲットの中に含まれている点が幅広い層から支持されているのだと思う。

著者の渡辺健介氏は、デルタスタジオをいう会社を作って、この問題解決の授業を実際に子供達に教える活動も行っている。

さて、冒頭に掲げた絵はこの本の中での子供達の分類を表している。子供になぞらえているが実際には大人の世界で考えた方がよりリアリティがある。

【「図1-1 問題解決キッズは最短距離でゴールにたどり着く」より】

「どうせどうせ」子ちゃん
  • 考えないし行動もとらないので、ゴールにはたどり着かない。
  • やってみないから何も学ばないし、自信もつかない。
  • グチを言って日々過ごす。
「評論家」くん
  • 何が問題か、だれが悪いか、何をすべきかは言えるが、自分では行動しない。
  • リスクや結果に対する責任をとらない。
「気合いでゴー」くん
  • わき目もふらずに前進あるのみ! へこたれずにがんばるが、ムダが多く、ゴールに最短距離でたどり着けない。
  • 行動した結果から学ばないので、進化するスピードが遅い。
「問題解決キッズ」
  • 適度に考えて、行動して方向修正して・・・を繰り返し、最短距離でゴールにたどり着く。
  • 実行の結果から毎回何かを学び、進化していく。
【引用終わり】

みなさんの周りにも「どうせどうせ」子ちゃんや「評論家」くん、「気合いでゴー」くんがいるのではないだろうか。自分は「問題解決キッズ」だと自負している人でも、一時的に「どうせどうせ」子ちゃんや「評論家」くん、「気合いでゴー」くんになることはある。しかし、いかに「問題解決キッズ」が少ないことか。子供の世界でも、あらかじめ答えのある問題しか解かせていないせいか「問題解決キッズ」は少ない。

渡辺氏は、「問題解決キッズ」は他の3人と「進化するスピード」がまったく異なると主張している。スタート地点では、全員100の力があると仮定し、「考え抜き、行動する癖」がある人とない人の進化のスピードをシミュレーションしている。

Aさんの進化のスピードが毎月1%、Bさんは5%、Cさんは10%で進化するとすると、3年後にはAさんとCさんでは22倍、BさんとCさんでも5倍の差が付く計算になる。10年、20年と人生を積み重ねていけば、その差は果てしなく広がる。「考え抜き、行動する癖」を身につけているか否かがその差になる。

さて、この本では問題解決の流れを 次のような工程で説明している。

【問題解決の流れ】
  1. 現状の理解
  2. 原因の特定
  3. 打ち手の決定
  4. 実行
この順列はプロジェクトマネジメントで提唱される P(Plan)→D(Do)→C(Check)→A(Action)の流れにも似ているが、PDCAのP(Plan)の部分がより詳細に、「現状の理解」「原因の特定」「打ち手の決定」と分解されている点に注目すべきだと思う。

別な言い方をすれば、問題解決のためには分析の工程がポイントであり、十分に分析しないでPDCAのサイクルを回してしまうと問題解決に時間がかかる可能性がある。PDCA回しているのに「気合いでゴー」くんになってしまう危険性もあると思う。

世界一やさしい問題解決の授業』では、問題解決のためのツールとして
  • 分解の木
  • はい、いいえの木
  • 課題分析シート
  • 仮説の木
  • 意志決定ツール
などを紹介して分析工程の充実を図っている。日本にも品質管理の世界ではQC7つ道具とか新QC7つ道具といった分析ツールが使われており、課題解決の際に重宝している。でも、このような分析ツールは実際にどれだけ使われているだろうか。自分の実感としては、日本では特に「考え抜き、行動する癖」が欠落し、問題を分析する機会が減っているように思う。

さて、実際の問題解決の方法論については『世界一やさしい問題解決の授業』を読んでいただくとして、この本で紹介されている。中学生バンド「キノコLovers」がより多くの人にコンサートに来てもらうためにはどうすればよいかの問題解決の手法と、CGアニメの映画監督になることを夢見るタローくんが、まずパソコンを手に入れるために具体的な目標を立て、達成する方法を考え出す例を読んだ感想を書きたいと思う。

まずは正直にいってげっそりしてしまった。なぜかというと、題材は子供向けではあるが、実際にやっていることはプロのイベント屋さんがやっているマーケティングや、ファイナンシャルプランナーの理論であり行動なので、何しろ「重い」。

自分が中学生になったつもりで問題解決の手法を実行することを想像してしまうと「重い」し、途中でくじけそうな気がしてしまう。

そう考えると、問題解決のための手法はこの本を参考にして身につけたとして、一番大事なのは問題解決の意志、モチベーションを問題が解決するまで高く持ち続けることができるかどうかだと思った。

だからこそ、この本の問題解決の例題が「キノコLoversがより多くの人にコンサートに来てもらうため」であり「CGアニメの映画監督になることを夢見るタローくんがパソコンを手に入れる」なのだ。当事者にとって何としても達成したい目標があるからこそ、問題解決の手法を使って行動する活力が沸いてくる。

自分はイマイチ、キノコLoversやタローくんに感情移入しきれなかったため、げっそりしてしまったが、自分自身の達成したい目標が課題なら気分はまた違う。

組込みソフトエンジニアにとって、問題解決の実現する活力(モチベーション)をどこに持って行くのかが実は難しい。

例えば、サラリーアップのような目標は問題解決を実現するモチベーションにはなりにくい。問題を解決しなくても、上司にゴマをすることで目標を達成できてしまうかもしれない。

組込み製品開発における問題は品質、コスト、納期、制約条件のクリアなどさまざまだが、組織としての最終目標は製品を完成させて製品が市場に受け入れられること、もっとストレートに言えば商品が売れることだ。

でも、商品が売れることに個人のモチベーションを重ねるのはどうかと感じる。そこで、提案したいのが顧客満足を問題解決を実現する活力(モチベーション)とするという考え方だ。

提供した商品をお客さんに満足してもらうこと目標に掲げ、問題解決を実現する活力になれば、商品開発で発生するさまざまな課題を問題解決のツールを使いながら乗り越えることができるし、エンジニア自身がみるみる進化する。商品の品質は顧客満足であるという考え方があるように、顧客満足を高めることは組織の目的にも合致する。顧客満足を高めることを個人の目標にできれば、組織の目標にもなるので都合がよい。

実際、自分自身はこのことがETSSで定義されるような技術的なスキルよりも大事だと考えている。それがこの記事のタイトルにした問題解決能力(Problem Solving Skill)だ。問題解決を実現する活力(モチベーション)を保ちながら、問題解決能力(Problem Solving Skill)を高めることができれば、エンジニア個人も進化するし、商品開発も成功に近づく。極端に言えば、問題解決能力(Problem Solving Skill)が高ければ、技術的スキルは最初なくても、当然必要であることに気がつくためいずれ身につく。

もう一つ、エンジニアの考え方として大事なのは「貢献」だと思う。自分は何にどのような貢献ができるのかと考える。例えば、組織に対して、社会に対して、家族に対して、コミュニティに対して。

貢献という視点は、所属する範囲の中の自分を意識し、その役割を意識することにつながる。だから、自分がやりたいことをやるのではなく、何が貢献できるのかという視点で考え、行動すると、成果は必ず評価されるはずだ。

これを機会にみなさんにも、問題解決能力(Problem Solving Skill)と問題解決を実現する活力(モチベーション)、貢献の視点、この3つについて考えていただきたい。 

P.S.

世界一やさしい問題解決の授業』の著者、渡辺健介氏は、あとがきで、次のように述べている。

【あとがきより引用】

 問題解決能力に似たクリティカル・シンキングは、英米の一部の学校で、国語や歴史などの授業を通じて教えられています。次世代リーダーを育てるために、まず感情を揺さぶるような刺激を与えて問題意識を持たせたうえで、「問題の本質は何なのか」「自分だったらどうするのか」を問いかけることで、リーダーとしての責任感や意志決定能力をみにつけさせ、個人の価値観を結晶化させるのです。
 私自身、中学校二年生からアメリカで教育を受けたのですが、最も衝撃的だったのがグチニッチハイスクールでの米国史の授業でした。
 たとえば、公民権運動を取り上げる際には、黒人差別の映像-子供も女性も圧力ホースで吹き飛ばされ、警察犬にかみつかれる様子-を、あらゆる人種が混在するクラスメイト全員で見るのです。生々しい感情や体験を目の前につきつけられました。さらに、キング牧師の自伝はもちろん、弾圧する側だったKKK(クー・クラック・クラン)の資料や、関連する小説を読み、多様な視点で考えることを求められました。

【引用終わり】

日本の教育や生活の中で圧倒的に不足しているのが、このような感情を揺さぶるような刺激を受けて問題を考えることのように思う。テレビの中では議論は交わされているが、視聴者はそれをただ見ているだけ。ただ、米英の教育をまねすることがいいのか、そうすると日本人のアドバンテージが失われてしまうのかどうかはまだよく分からない。

ただ一つだけ言えるのは、問題解決能力の低い人間を寄せ集めても、物事はちっとも先に進まないということだ。
 

2007-03-30

ETSSで測れないもの

ETSS(組込みスキル標準:Embedded Technology Skill Standards)が話題になっていて、技術者が自分のスキルをチェックしようという動きが出てきたのは歓迎すべきことであるが、ETSS では測れないものもあるのではないかという考えがずっと頭を離れないでいた。

ヒューマンスキル以外で
ETSSで測れないものもっと大事なものがあるというのが今回のブログの話題だ。

さて、ソフトウェアに限らず組込み製品の定例ミーティングを横で聞いていると「技術的な話がまったくされていない」という印象を持つことがある。

話だけ聞いていると人のつながりと業務ドメインの知識だけ語っているように聞こえるのだ。悪い言い方をするとえせエンジニアのディスカッションのように見えることがある。

このような
人のつながりと業務ドメインの知識だけでメシを食っているえせエンジニアになるのは簡単で、ある特定の市場に対して同じような製品を作り続け、深く考えずにただ流されていけばよい。

このような人は、
  1. 問題が起こったら動き出す。
  2. 言われたら直す。
という行動パターンを取る人種であり、深く考えない。別な言い方をするとミーティングのときだけしか考えない。ミーティングが終わるとどんなにリスクのある案件であってもすっかり忘れる。精神衛生上はよいと思うが、エンジニアであるとはちょっと言い難い。

では、このような人に足らないものは何だろうか? ここにないのはPDCA(Plan → Do → Chaeck → Action)を回すカイゼン力である。カイゼン力がないと、仕事を効率化できない。また、再発防止もできない。プロジェクトは決して楽にならない。(誰かにしわ寄せがいくだけ)

そう考えると、組込みソフトエンジニアに必要なのは技術力の修得も大事だが、それ以上に大事なのは現状をカイゼンする能力である。

組込みでカイゼンが有効なのは、やはり同じ市場、同じ顧客に向けて、同じような製品を投入し続けるからだろう。一発勝負の商品は少ないだけに、今回の経験を活かして次回につなげる施策が打ちやすい。

組込みでカイゼンを上手くやるには、優先度付けが重要になる。カイゼンしたいことがいっぱいあっても、時間や工数の制約から全部いっぺんにカイゼンするのは難しい。長期的視点に立って一番大事なところ、一番効果の高いところ、一番やりやすいところはどこなのか、うまく当たりを付けて優先度の高いところからカイゼンすることが大事だ。

カイゼンするには技術力だけではなく、人にネゴしたり、説き伏せたりすることも必要になるので、知識や技術的なスキルだけが高くてもダメだ。

そう考えると、現状の ETSS ではカイゼン力は測れないと思う。テストの点数だけよくて、カイゼン力がゼロの技術者は長い目で見るとプロジェクトにとってそれほど有効ではない存在になってしまう。

プロジェクトメンバーの全員が高いカイゼン力を持っている必要はないと思うが、逆にカイゼン力の高い技術者は高く評価されて欲しいと切に思う。

なぜなら、カイゼン力の高い技術者がプロセスを最適化し、技術の規範を構築し、開発効率を高めてくれるからである。

カイゼン力のない集団は、同じ過ちを何回も何回も繰り返す。

みなさんはカイゼン力高めてますか?