« September 2023 | Main | November 2023 »

October 30, 2023

購買頻度と小売業の在庫回転率

Dsc02059_20231030194001日頃、小売業向けのご支援をさせて頂いておりますが、
これから小売を始めたいという方からアドバイスを求められることがあります。

そんな時に必ずお話しをすることのひとつに

「購買頻度」

があります。

購買頻度とは、お客さんは、一般的にそのカテゴリー(品種)の商品を年に何回くらい買うものか?という話です。

 

アパレルであれば、一般的に

レディース服は6~8回くらいでしょうか?

メンズであれば4回くらいでしょうか?

靴はもっと頻度が低くて、2-3回くらい?

スーツのような紳士服はもっと少ないかも知れません。

 

小売業に従事されている方はお気づきかと思いますが、

この購買頻度って、そのカテゴリー(品種)の年間在庫回転率に近いということ。

 

お客さんあっての商売なので、無理に頻度を上げることはできません。

もっと売りたいなら、同じ人ではなく、購入客数を増やすことが必要になります。

 

つまり、購買頻度と在庫回転率は
事業の設計と損益とキャッシュフローに大きく影響を与える要素なのです。

 

そのため、こんなことがよくあります。

 

メンズ事業中心の企業がレディースに広げると
メンズよりもレディースの方がよく売れるので、儲かった実感が得られ
その後も上手く行くことが多いですが、

 

レディース事業がメンズカテゴリーに手を出すと
レディースほど高回転しないので、

いまひとつ上手く行かない。

 

スーツや重衣料専門だったお店が

より購買頻度の高いカジュアルを始めると売れる実感が得られますが、

カジュアル事業が

在庫の重い(金額の話ではなく、在庫回転の話)スーツを始めても、上手く行かない

などの事例です。

もちろん、全てが全てではありませんが、

小売ビジネスにおいては、「購買頻度」というキーワードを無視すると

上手くいかないことが多いのです。

これに則ったアパレル業界の成功事例の筆頭は

ユニクロかも知れません。

当初、紳士服事業を引き継いだ柳井さんは
カジュアルという紳士服より売れる金の鉱脈を掘り当てました。

その後、ユニセックスからレディースを強化し、

また、外に着るものから、インナーへ手を広げることで、

購買頻度と購買客層の裾野を広げ、大きな成長を果たしました。

 

ホームファッション業界ではニトリが好例でしょう。

引っ越しの時くらいしか買い換えない家具に


シーズン性やコーディネートの要素を取り入れ、

カバーをシーズンごと、気分にあわせて着替えてもらう提案をし、

更に購買頻度の高い、消耗品である、電球や乾電池なども取り扱うことで、

来店頻度・購買頻度を戦略的に高めています。

 

単価は高くても、購買頻度の低い、家具だけにこだわっていたら・・・

今のニトリはなかったことでしょう。

 

このようにユニクロとニトリは購買頻度を理解し、

上手く事業に取り入れたことが事業の基礎にあると言っても

過言ではありません。

製造業の方は、ものづくりに自信があるので、

どうしても良い商品をつくれば売れると思いがちですが・・・

小売業に携わるなら、

まず、購買頻度とい顧客行動を想像し、

顧客最適で考えるところから始めたいものです。

それが「顧客の立場になって考えること」の第一歩です。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【アパレル流通企業のビジネスモデルが丸わかり】

「図解 アパレルゲームチェンジャー

 ~流通業界の常識を変革する10のビジネスモデル」(日経BP社)

Amazonでのご購入はこちらから 

図解 アパレルゲームチェンジャー

| |

October 23, 2023

ユニクロは賃上げにより中国小売業界の新たな人材開発の常識作れるか

Uq-china最近

店は客のためにあり、店員と共に栄え、店主と共に滅びる

というタイトルの本が出版され、ずいぶん前にこの本のタイトルと同じ題でアップした
ブログエントリーに再びアクセスが集まっています。

過去のエントリー 店は客のためにあり、店員と共に栄え、店主と共に滅びる

小売業に携わる方なら、聞いたことのあるであろう、このフレーズ

ホントに小売業の本質を、こんな短い言葉で表せるなんて

いつ読んでも、身が引き締まる言葉です。

先週、ユニクロが中国の販売員給与を最大4割引き上げることを決定し、
正社員、パートの給与アップを10月から実施しているというニュースを目にしました。

成熟期も後半に入っていると思われる国内事業は現状維持?
(と言っても原価や人件費が上がる中でのコスパの維持は並み大抵のことではありませんが・・・)

一方、今後の事業拡大の伸びしろは特に
成長期真っ只中の中国本土、そして成長期に突入した東南アジアにかかっているでしょう。

先日同社が公開した地域別損益によれば、中国事業も東南アジア事業も日本よりも利益率が高いので、
出店拡大や更に販売効率を高めるためには、支払い余力のある人件費アップがユニクロの海外での成長に欠かせない人材集めの切り札のひとつだと思われます。

今回の報道に引用されている

「ユニクロでの仕事は時給が安い上に、清掃業務などもしなければならない」

という中国でアルバイト経験のある学生のSNS投稿が中国国内で話題を呼んだ

というくだりを読んで思ったのですが・・・

 

そもそも、中国で大卒採用で、例え小売企業であっても、

入社した社員が店頭に立ちたがらないというのは、多くの中国企業の本部研修をさせて頂いて、感じていることです。

かの地では、本部で働く人と店頭で働く人は別ものである、と考えているところが多いんです。

 

ましてや小売業が基本中の基本とする「クレンリネス」への参加は自分の仕事ではない、

ありえないと考える人も少なからずいることは想像に難くありません。

 

ユニクロやZARAのようなグローバルチェーンが上手く行っている理由のベースにあるのは、

言うまでもなく「店頭起点」です。

お客様が頂点にいて、お客様の近くでお買い物の手助けをする店舗スタッフをいかに本部が支援するかが徹底しているわけですが、

多くの中国のアパレル企業は本部員は偉くて、店舗スタッフは言われた通りに売るのが仕事って感じなんです。

僕の研修は、ベストプラクティスとして、ユニクロやZARAなどの成長企業の取り組みを題材にして考えてもらうことが多いのですが、

そんな方々がユニクロやZARAの表層的なオペレーションを見習ったところで、彼らのようになれるわけがないわけで・・・

彼らと我々の何が違うんだ?と言われても、店頭起点か否か、と問題提起しても、それを「店頭データを重視すること」と勘違いされることすらあります。

グローバルトップのZARAにしても、ユニクロにしても、H&Mにしても、

それらの企業の幹部たちは店頭販売経験を経て、本部の仕事をしているのが常識です。

特にZARAは、インナープロモーション(内部昇格)と言って、

世界各国の店舗で働いて、お客様のことを熟知したスタッフがスペイン本部に招聘され、

幹部職になるような昇格を理想的な形と考えているんです。

また、中途採用の社員も人事だろうが、ITだろうが、まずは、期限なしで店舗に放り込まれ、

本人が小売業(お客様のために働くこと)を楽しみ始めたころに、

本部においでと、声がかかって本部業務に携わるそうです。

そうしたら、本部に行っても、どうしたらお客様のためになるか、

店舗の仕事のしやすさを考えて本部業務をするから、

目的にかなった、誰もが納得する、ムダのない仕事ができるんですよね。

一方、店舗勤務を命じられ、その間、これは俺の、私の仕事じゃないって腐って止めてしまう人は、

どんなに優秀でもそれまでだと考えるところがあるようです。

なぜなら、そんな方が小売業の本部の仕事をしても、お客様のためになる仕事ができるかどうかわからないからです。

 

ちょっと話がそれますが・・・

国内でいろいろなプロジェクトにかかわっていると、

本部の方々に多いのですが、お客様のため、というより、自分たちの評価のために、部署を守るために、

責任を押し付け合っているケースが少なくなかったりします。

それって部分最適というか、部署最適?いずれにしてもお客様最適ではありません。

そんな時の魔法の言葉があって、「どちらの方がお客様にとっていいですかね~」と聞くんです。

店頭経験者の多い会社のいいところは、その言葉を聞くと「はっ」と思い出すんでしょうね。

歩み寄って最善案を考え始めます。

そんなメンバーのいる会社のプロジェクトは話が通じやすくて、比較的スムーズに進むのでありがたいです。

さて、話を戻して・・・

ユニクロの中国でのチャレンジはそんな中国の小売業の世界で、

店頭を経験した上で、お客様最適視点で、店舗を、事業を、運営できる経営者候補を

どれだけ増やせるかにかかっていると言えます。

もう既に中国内での市場シェアもナンバー1規模なので、

そんな、お客様最適で考える小売業のプロを育てる、

業界「新常識」を中国で広げることもできるのではないか、と期待します。

給与も伴うことで、仕事の常識、キャリアの常識を是非、変えて頂きたいです。

【参考書】

アパレルビジネスにおいて、真逆のアプローチを採る2社を比較することで

SPA(アパレル製造小売業)というビジネスモデルを理解する入門書

「ユニクロ対ZARA」 文庫版

Kindleでお読み頂けます。
https://amzn.to/3Pdsaq3

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

関連エントリー 世界アパレル専門店売上高ランキング2022 トップ10

| |

October 16, 2023

ユニクロのファーストリテイリング2023年8月期も過去最高益。連結年商5兆円、10兆円達成への道筋は?

Uq-singapoleユニクロを展開するファーストリテイリングの2023年8月期決算発表がありました。
売上高は 2兆7665億円  
営業利益は 3810億円 と過去最高益
営業利益率は 13.8%
 
今期24年8月期は3兆円を超える計画です。

23年8月期はまだ世界3位の年商規模ですが、
順当に行けば、2年後にはH&Mの売上を抜き世界2位になりそうです。

柳井社長(会長)は
ユニクロ海外事業の旗艦店の出店で年商5兆円までの道筋見えた
そこまで行けば、2倍の10兆円にすることは難しくないともおっしゃいます。

ファストリとしては期限を設定していませんが、

例えば

国内ユニクロ事業は横ばい
海外ユニクロ事業は年率15%成長
GU含むユニクロ以外の事業も同様の年率で

連結で年率12-13%の成長するとすると

6年後の2029年には   年商5兆円 (ZARAのインディテックスは今期中に5兆円に到達見込みです)
12年後の2035年には 年商10兆円

になる見込みです(筆者試算)。

関連エントリー 世界アパレル専門店売上高ランキング2022 トップ10

GUはどの国でも競合が多いので、やはり海外ユニクロ事業の成長がカギ

今回のファストリ決算発表の目玉は、

ユニクロの地域別の売上高と営業利益をはっきりと開示したことでしょうか。

              売上高(前比)/営業利益(前比)/営業利益率/売構成比
日本             8904億円(9.9%)  /1178億円(9.2%)/13.2%/ 38.5%
グレーターチャイナ     6202億円(15.2%)/1043億円(25.0%)/16.8%/26.9% 
韓国・東南ア・インド・豪州 4498億円(46.1%)/782億円(36.4%)/17.4%/19.4%
欧州             1913億円(49.1%)/ 273億円(82.5%)/14.3%/8.3%
北米             1639億円(43.7%)/ 211億円(91.9%)/12.9%/7.1%

連結調整合計        2兆3275億円(27%)/ 3447億円(46%)/14.8%

※前比の%は全て+で伸び率を表す

市場の大きい欧米が期待されますが・・・競合も激しいので・・・

やはりカギは中国市場と東南アジアの伸びしろでしょう。

中国と東南アジアは利益率が高いですね。

日本よりも単価を高く設定して売っていることもあるでしょう。

いよいよ1000店舗を超える中国本土では、

店舗の純増数をキープしながら、スクラップ&ビルドに取り組むようです。

そして、中国市場でのシェア拡大のために、より大衆価格へ価格調整をする(こなれた値段にする)というカードも残っています。

日本においては、数字を見る限り、成熟期も後期に入っている感がありますが・・・

グローバル企業は、ある市場は成熟期に入っても、他の市場で成長すればいいわけで

特に人口の多い、人口が増えるアジア(インド含む)市場での成長に期待をしたいところです。 

アパレルビジネスにおいて、真逆のアプローチを採る2社を比較することで

SPA(アパレル製造小売業)というビジネスモデルを理解する入門書

「ユニクロ対ZARA」 文庫版

Kindleでお読み頂けます。
https://amzn.to/3Pdsaq3

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

関連エントリー 世界アパレル専門店売上高ランキング2022 トップ10

| |

October 09, 2023

平均単価が上がることと値上げが支持されていることとは全く別の話

Photo_2023100917200110月4日の繊研新聞に

しまむらが

客単価を上げへ もう一格上のPB発売

という見出しで

鈴木社長のインタビュー記事が掲載されていました。

従来のプライスポイント(最多価格帯)よりも1000円高いPBクロッシープレミアムが良く売れているという話。

同社は上半期、客数ほぼ変わらず、平均単価が上がり、セット率は下がったものの、客単価アップ で既存店の売上伸ばすことに成功し

更に単価の高いPB 商品開発の実験に意欲的 という話です。

原価高騰の折

各社、上がる仕入れ原価に対し、いかに販売単価を上げるかに頭を悩ませるとことですが、

売上が増えているからと言って

「値上げが支持されてる」

というような報道を最近、目にすることが多く、その都度、違和感を覚えています。

ユニクロについても「値上げ」が上手くいっているというような報道がありますが

それは一部の商品、値上げをしないと許さない?株主対策であって

確かに定価を上げている商品もあるようですが

店頭に行けば


秋までは1990円

冬は2990円

というのプライスポイント(同社最多価格帯)を

期間限定価格含めてその価格を作って
しっかりアピールして

来店客には値上げした、高くなったようには
感じられないように工夫しているのが実情です。

しまむらも同様で

店頭では圧倒的に1900円未満

つまり1790、1490の商品が目立ち

そして990、790など1000円未満の商品も多数あり

高くなった感を感じさせない売場です。

つまり

買い上げ客数をある程度維持するための
従来のプライスポイントの商品はしっかり揃え

来店客には高くなった感を覚えさせず

一方、

プライスポイントに対して相対的に品質を高めたものを
高いプライスラインを設けて提案することで

あっここにもいい商品はあるんだなと思ってもらい

「高いものも売れる」という

将来に向けての次のチャレンジをしていたり

あるいは

原価が上がっても
定価は据え置いた商品を前面に見せ

むしろ値下げを押さえることで
最終利益を確保しているわけで

決して

クオリティが同じものを
原価が上がった分
そのまま販売価格転嫁しているわけではないので

誤解をしないで欲しいと思います。

平均単価が高くなったところを見て

「値上げが支持されている」

と思ってしまってはとても危険な話です。

今に限らず、過去にも同じようなことが
何度かありましたからね。

ちなみに
天候、気温関係なく

単価を意図的に上げたことで

それ以上の客数減

例えば10%以上減ったなら・・・

それは明らかに客離れだと
深刻に思った方がいいと思います。

覚悟して

ビジネスモデルを変えたり
リブランディングするなら
話は別ですが、

同じビジネス構造での二桁以上の客数減は
確実にボディブローのように効いてきて
半年もすれば経営にインパクトをもたらすでしょう。

報道されていることを表面だけでとらえず
各社の工夫を読み取って実践に活かしたいものです。

 

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【アパレル企業のビジネスモデルが丸わかり】

「図解 アパレルゲームチェンジャー

 ~流通業界の常識を変革する10のビジネスモデル」(日経BP社)

Amazonでのご購入はこちらから 

図解 アパレルゲームチェンジャー

| |

October 02, 2023

越境ECの拡大、国内産業保護と消費者利益

20230520_100956日経新聞に経産省が発表した越境EC急拡大のデータと今後の問題点に関する記事が掲載されていました。

EC輸入急増、3年で小口宅配2.4倍 免税で競争ゆがみも

記事によれば、越境ECによる小口宅配(個人輸入)が3年で2.4倍

米国と中国からだけでも22年度 3954億円相当で前年比6%増

内訳は衣料品34%、美容品21% 娯楽・教育16%

日本では 輸入額1万6666円以下であれば消費税も関税も無税
アメリカでは 800ドルまで無税と聞いています。

ですから、トランプ氏が大統領だった時に中国からの輸入品にかけた
アパレルであれば25%の制裁的な関税が、

オバマ氏の時に採択された個人が輸入してしまえば800ドル
(今の為替なら10万円以上、一人でそんな買う人は稀では?)
まで無税で輸入できてしまうというわけで・・・。

SHEIN(シーイン)やTemu(ティーム―)の越境ECの売上がアメリカで急増している背景には、

そんな政府間の駆け引きや複数の業者が介在することで膨らむコストに対し、消費者視点で、生産者と消費者を直接つなぐチャレンジもあるわけです。

そこに気づいてビジネスを急拡大させるところは、ある意味、商売人として、商魂たくましいですよね。

記事によれば、欧州のいくつかの国では、国内市場の競争をゆがめるとして、
21年に免税枠を廃止されたとのこと。

アメリカや日本でも議論が始まっているようですが、どうなんでしょうか。

国内産業保護か、消費者保護か、という議論になるのでしょうか?

もともとの主旨はなんだったんでしょうかね。

まあ、各国で摩擦が起こるということは越境ECが一定規模を超えて社会問題というか国際問題のひとつになったことは間違い無さそうです。

しかし、こういった、政府が作ったルールに対して、それを不正ではなく、上手く活用したからと言って、

「アンフェア」だと言う論調は、ちょいと違和感を感じます。

筆者も時折、アメリカやイギリスから個人輸入してますんで、まずは「消費者のミカタ」です。

いずれにせよ、実態をつかんで、どれだけ影響があるのか、消費者にも納得のできる結論を出して欲しいところですが・・・

特に日本においては、ルールを変えるのには、しばらく時間はかかるでしょうね。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【アパレル企業のビジネスモデルが丸わかり】「図解 アパレルゲームチェンジャー」(日経BP)
 第2章では、産直越境ECによるサプライチェーンとリードタイムの究極ショートカットを行ったSHEINのチャレンジについて解説しています。

Amazonでのご購入はこちらから 

図解 アパレルゲームチェンジャー

| |

« September 2023 | Main | November 2023 »