ComcastがNBCを統合した場合のインパクトとは？
アメリカ最大手のケーブルTV運営会社Comcastが、現在General Electricの参加にあるNBC Universalに触手を伸ばしているようです。CNBC（こちら）やNew York Times（こちら）が報じていますし、日本でも日経新聞が記事にしています（こちら）。
これらの報道によると、GEからNBC Uを切り離し、それとComcastのコンテンツ部門（ケーブル・チャンネルのE NetworkやGolf Channelなど）を統合する新会社を設立し、ComcastとGEがそれぞれ新会社の51%と49%のオーナーシップを持つというのが計画の骨子だそうです。これには、現在NBC Uの株式の20%を保有するフランスのVivendiの了承も必要になりますが、記事を見た感じではVivendiはNBC Uから手を引きたがっているようなので、あまり問題にはならないかもしれません*1。
Comcastは日本でいうJ-COMのようなケーブルTVの運営(MSO)を主たる業務にしているため、ディズニーやNews Corpなどコンテンツを前面に押し出したメディア・コングロマリットと比べると米国外ではあまり知名度が高くないように思います。でもここは、アメリカのメディア界ではかなりのプレゼンスを持つ会社です。ケーブルテレビで2400万、高速インターネットで1500万ほどのユーザーを抱え、年間の収入はおよそ350億ドルに上ります。そして、2004年にはDisneyに660億ドルという巨額の買収提案を持ちかける（失敗に終わりましたが）など、コンテンツ分野への関心を強く抱いてきた会社でもあります。
記事でも報じられているように、今回の計画もどのような方向に動いていくのかはまだわかりません。ただ、もし計画通りにComcastが実質的にNBC Uのコントロール権を持つ株主となるのであれば、それは、成功するか失敗するかは別にして非常に大きなインパクトを持つ統合になるのではないかと思います。特に、テレビ番組などのネット配信が進む中で今せめぎ合いが続いている、ウェブ上の動画コンテンツを課金モデルにするか広告付きの無料モデルにするかという論争の行く末に対する影響は注目に値します。
以前このブログでも書いたように（こちらやこちら）、アメリカのケーブルテレビ業界はネット上でテレビ番組などのいわゆるプレミアム動画が無料配信されることに強い抵抗感を持っています。それが普及すると、毎月50ドルとか80ドルとかを払ってくれているユーザーがケーブルテレビを解約してしまうのではないかと心配しているからです。これはComcastのようなケーブル・オペレーターだけに言えることではありません。オペレーターから配分を受けるユーザー利用料が大事な収入源になっているケーブル・ネットワークも、ネット上で無料配信が普及することにはあまり良い顔をしていないのです。
それで、ケーブルテレビ側は無料配信にいろいろな対策を講じてきました。例えば、Huluが流していたケーブル・ネットワークの番組が突然ラインナップからなくなってしまったというようなことがありました。また、Time Warnerを中心に進められている「TV Everywhere」計画（関連エントリ）は、「お金を払ってケーブルテレビに加入している人だけを対象にネット上でも動画コンテンツを無料で提供しましょう」という、ケーブルテレビの加入者数を減らすことなくネット配信を取り込む試みだといえます。
こうしたことを考えると、プレミアム動画の無料ネット配信を推し進めるHuluの親会社のひとつであるNBC U*2のコントロール権を、もし「顧客を囲い込んで利用料を支払ってもらう」というビジネスモデルに立脚するComcastが握ることになると、動画のネット配信ビジネスはどのような方向に進んでいくのだろうというのが非常に気になるところです。最近はYoutubeも徐々にテレビ番組などの配信権を獲得していて、無料ネット配信の一角を担う存在になりつつあるので、その環境自体がごろっと変わってしまうようなことはないかもしれません。でも、ケーブルテレビと地上波ネットワーク（＋映画スタジオ）の統合という点に注目が集まりがちな今回の話は、実はデジタル配信の世界に大きな影響を与えかねないのだということは気に留めておいた方が良いかもしれません。
＜追記 10/6＞
10/5付けのLA Timesに、このエントリと同じ視点からComcastの動きを読み解く記事が出ていました。
"Will Hulu make you pay to watch?"
記事では、Peter Cherinという幹部の離脱によりHuluの内部でも一部コンテンツを有料化することに対する支持者が増えてきたという見方も紹介されています(Huluはこの件に関してコメントを控えているとのこと）。興味のある方は是非ご覧になってください。
