件数で見るか、率で見るか
今年の自殺統計が出ていたが、もっぱら話題は30代。
2008年の自殺者3万2249人のうち、30代が前年比1.7%増の4850人で、統計の残る1978年以降最多となったことが14日、警察庁のまとめで分かった。20代も過去5番目に多かった。
警察庁は14日、08年中に自殺した3万2249人の年代別や原因・動機別などの統計を公表した。30代が4850人と統計を取り始めた78年以降最多となるなど、若い世代が増えたのが特徴だ。一方、50代は長年自殺者が最も多い年代で今回も最多だったが、11年ぶりに7千人を割った。70代以上も減少傾向だ。
元の資料はこちら。動機のカウントの方法については以前から議論があるようだが、ともあれ年々資料が詳しくなっているような気がする。IT化の恩恵で、必要以上に表に手間をかけられるようになったということだろうか。
メディアの論調は30代の自殺が増え、高齢者の自殺が減少したことを伝えているが、押さえておかなければならないのは、それでも自殺の多くを占めるのは高齢者であり、さらに言えば病気を苦にした老人の自殺が多いということだ。
自殺件数を積み上げグラフで見ると50代、60代以上の層がいかに厚いかということが分かる。とはいえ報道されているとおり、50代の自殺が減少しているのも事実だ。
こちらは自殺件数を折れ線グラフで示したもの。朝日では70代以上も減少傾向と報じているが、こうして見ると去年から今年にかけては減少しているが、減少傾向といえるかどうかは微妙だ。また50代の自殺の減少トレンドは2003年から始まっているが、団塊の世代が60代に突入したことで、今後この数字にどういう影響が出るかは微妙だ。世代別の経年変化を見る際には、その世代ごとの人口のばらつきが存在していることを無視できない。
というわけで、年ごとの自殺率を計算してみたのが上のグラフだ。警察資料では2007年からのものしかないが、そこでの計算方法に従い、隔年の10月1日時点での世代別の人口を調べ、自殺者数を乗じた比率として算出してある。これを見ると、40代、50代、60代以降の自殺率が2003年以降低下している一方、20代、30代の自殺率は2001、2年以降上昇傾向にあることが分かる。以前として高齢層の方が自殺率は高いものの、2003年で25ポイントあった50代と20代の自殺率の差は、2008年では15ポイントを切っている。
ここから近視眼的な世代論を導くことは可能だろう。逆に、もともと自殺というのは若者の現象だったのが、1980年代を通じてその比率が逆転したのだという言い返しもできる。70年代の後半には若者と中高年の自殺件数は同じくらいだったのだが、中高年の自殺が80年代に増え続けたのに対して、80年代には20代が、90年代前半には30代の自殺者数が低下した。そう考えると、いまの40、50代というのは、単に自殺者の少ないコーホートなのではないかという意地悪な言い方もできるだろう。
しかし、そんなことよりも重要なのは、現在の不景気がどのような影響を及ぼすかということだ。自殺者数が一気に増えて3万人を突破した1998年とは、前年に拓銀・山一の破綻があり、平成不況の悪影響がもっとも色濃く出た年の翌年だった。そう考えるならば、景気に影響を受けた自殺者数の増加は、むしろ2009年に目立って生じる可能性が高い。98年の自殺件数で目立って増えたのは実は中高年だったわけだが、今回はどこに出るのか。言われているとおり30代を中心とした増加ならこれは世代問題だし、全般的に生じるのであればむしろ景気や日本の社会環境の問題だ。
また動機の面で言っても、色々調査手法が変動しているので比較しにくいところなのだが、若年世代の場合メンタルな問題での自殺が目立つことを見ても、自殺に対するケアのあり方を考える必要がありそうだ。ロスジェネ世代の論客が言うように、金銭的な保証さえあればメンタル面もケアされるのか、職と金に縛り付けられたことでより一層追い込まれていくことになるのかが不明だからだ。雑にもデリケートにも扱える問題だけに、慎重な見方をする必要があるのではないか。